そうだ、ディズn──その弐


 人間の体は、面倒な体だ。

 エネルギーを摂るために食物を取り入れるのに、その残りカスをわざわざ排出しなければならない。私のように取り入れた電力を使い切るように、人間もそうはならないものか。この考え方だと、人間、というよりも生物全般の話だが。

 現在、晋也もその排出作業に勤しんでいる。で、待っている。

 はて、今日、晋也ははたして楽しんでいるのだろうか。

 とは言ってもまだ来て大した時間は経っていないのだが。経っていないからこそ、ここからどう動くかで大きく変わる。

 ここは、周りの男女二人組を見習ってみよう。

 軽く見渡せばカップルは五万といる。が、その中の一組に目が留まった。

 普通の、二人。醜すぎず美しすぎず。見ていて鬱陶しいほどにくっつきもせず、しかし二人とも満面の笑みで、実に楽しそうだった。

 ここはあの二人を少し追ってみよう。


 しばらく歩くと、二人は足を止める。

 ポップコーンだ。

 持ち歩いていた専用の容器にそれを購入し、男がそれを持つ。そして二人で分け合って食べていた。

 なるほど、なるほど。

 晋也もああいうの、やってみたいのだろうか。しかしあれは私にはできない行為だ。真似事ならばできるが、体に入れても結局捨てるだけ。私に食物を入れるのは無駄だ。勿論、晋也がやりたいのなら付き合うのもやぶさかではない。


 少し歩き、二人がまた歩を止めたのはこれまたアトラクションでなく、特に何もない只の、道。何をするかと思えば、女がおもむろに取り出したスマートフォンのインカメラで写真を撮り始めた。

 着ぐるみがいるでもなく、特に何の変哲もない、道。なんの変哲もない、と言ってもここはテーマパークなのだが、しいて言えば背景に火山がある程度。しかしスマートフォンの角度から見てそれも写ってはいないだろう。おそらく二人の顔のみ。

 どうしてこんな場所で写真を撮るのか理解できなかったが、二人を追っているとその後も何回か同じことをしていた。着ぐるみがいればそれはそれで写真を撮っているのに。


 続いて。

 二人が寄ったのは、ショップ。

 といっても道に出ている小さいもの。お土産のお菓子等は売っていない小さなものだ。

 そこで購入したのは帽子。キャラクターを模した帽子を、それぞれ好みのものなのか別のものを購入し、それを被る。

 なるほど、これならできそうだ。後で晋也に提案してみようか。

 そしてやはり写真を撮る。それは必要なのか。


 そのあと。

 ようやく、二人はアトラクションに乗るようだ。

 では、ここは後ろに並んで、あれ。

 晋也、どこだっけ。

 そういえば、トイレを待っていたのだった。少し様子をうかがうつもりが、随分と遠くまで来てしまった。そろそろ来た道を戻──


「ねえねえ君、一人?」

「……?」


 ろうかと思った時。見知らぬ男に声を掛けられた。人違いか、はたまた勘違いかと自分を指さして首を傾げると、「そうそう」と、頷く男。三人の男と、一人の女、四人組。


「一人ならさ、一緒にまわらない?」

「ええと。」


 声をかけてくる男の後ろでは、その連れがひそひそと話している。

 「やば、めっちゃかわいい」とか、「一人とかありえないって!」とか。

 なるほど、これがナンパ、ですか。

 確かに私の容姿は綺麗に作られている。こうなるのも仕方ないだろう。しかし意外だ。ナンパとはもっとチャラついたというか、オラついた人間のする事という認識だったが、この男はなんと表すべきか、普通、平均的、だった。

 しかし私は男女二人組がどのような動きをするのか見たかっただけで。

 それにそろそろ晋也と合流しなければならないのだが。


「あの、」

「ね、ちょっとでもいいから!」


 ええと。

 どう対処すればいいのか。こんな何の接点もない人間だし、無視してもいいものか。

 接点?

 では、私と晋也にはそもそもどんな接点が?

 ええと、ええと。


 ええっと。


「ほら、この娘困ってるでしょ!ごめんね、あんまり可愛いから声かけちゃって。」

「ええと、し、晋也、晋也が。」

「ほら、やっぱり彼氏いるじゃん。」


 そうだ。私はもともと晋也に拾われただけ。ならば私と晋也の関係だって、この目の前にいる者たちと同じようなものなのではないか。


「し、晋也、ぁ…」

「ち、ちょっと!この娘泣いてない!?ご、ごめんね、いやだった?」


 わ、私は、何なのだ。

 晋也と、何なのだ。


 私は、私は──




「あ、いた!おーい、ミカー!!」

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