変化
今日も退屈な授業を切り抜け、自転車をとばして速攻で帰って来たのだが、昨日の事もあってなんだか玄関の扉がいやに重く感じた。
いやね、嬉しいよ。嬉しいんだけど、気まずいじゃん。
扉の前で小さく深呼吸。よし、オーケー。
俺が意を決して玄関を開けると。
「おかえり。」
「うわっ!…た、ただいま。」
目の前に、さながら旅館の女将さんの如く正座で待ち構えていたミカが、丁寧に座礼をした。どうやら俺が帰るのを待っていたらしい。
てかまじ、ビビらせんなよ。めっちゃびっくりしたわ。
「…ええと、いつからそこに?」
「約一時間。」
「そ、そっすか…。」
なんだろう、そんなにも退屈だったのだろうか。まあ、こいつにとって暇つぶしになる事なぞ全く分からない。
俺のように漫画読んだりゲームをするよりも、座ってるだけの方が楽なものなのかもしれないな。
「お荷物、お持ちしようか?」
「いやいいって。…なんだよそのいい加減な敬語は。」
それから手洗いやら着替えやらを済ませた後。リビングで特に何かするでもなくソファーに座っていたのだが。
「ええと…ミカさん?」
「どうしたの。」
「どうしたの。じゃないよ。お前がどうしたんだよ。」
隣に座るミカが、じーっと俺の顔を見て逸らさない。
ちらと目を合わせても、スマホを見たり、ちょっと指の関節を鳴らしてみても、彼女は一心不乱にこちらを見ていた。
「晋也。今日は何もしないの?」
なんだ、俺が何か行動するのを待っていたのか?
確かに俺はミカを連れ込んでから連日、何かしらやったりどこかしら連れて行ったりしていた。でもなあ、ちょっと疲れたから今日は家でゆっくりしたいんだ。
「別になんにも予定はないけど…。まあ、映画でも見ようかと。」
「そう。ではそうしよう。」
なんだか乗り気ですねミカさん。映画とか漫画とか、そういった人間の創作物に興味があるのだろうか。
ミカも退屈なのだろうか、だが最近の遊びラッシュで疲れたから今日は疲れないイベントで。
我が家、と言っても俺一人だったが、某月額制のビデオオンデマンドに加入している。それを利用しようという考えなのだが、「なんか希望は?」と聞いてもミカは首を横に振るのみだから、ここは完全に俺の趣味で海外のアクション映画を選択する。
「これは?」
「ああ、これはストリートレースで稼いでる主人公が闇金てか汚い金をかっさらうカーアクションなんだけどさ、最新作とかは見たんだけど第一作を実は見てなかったから、それ。」
人気シリーズの最新作は話題になったときに見たり、地上波放送の時に見たりしたけど実は最初の作品を見てない、というのがちょいちょいあったりする。もしくは見たのが昔過ぎて忘れてたりとか。
おそらく映画なんて記憶には一切無いミカがいるいまならちょうどいい。レンチンするタイプのポップコーンを用意してここはその第一作をつけることにした。
『──…───……』
「あの、ミカさん。」
「はい。」
「これは。」
「はい。」
映画をつけてちょうど二時間にちょっとたりないくらい経ち。物語も佳境に入った。
…んですが、まあ映画つけてすぐからずっとなんですが。
隣に座るミカが、俺の右腕にぴったりと抱きついて離れない。
やはりこいつ、昨日からおかしいですね。
「あの、一体全体どういうおつもりで?」
俺は恐る恐るミカに問うと、彼女は俺の腕に抱きついたまますがるようなこちらを見て。
「…いやだった?」
「いやじゃないです。」
その上目遣いはやめてください。キュン死してしまいます。
さすがに、キスシーンでまでこの体制を維持されるのは気まずかった。
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