第3話-4
宗助は、幸助から教えてもらった 駅の改札口を出ると、あたりの雑居ビルに並行して、いくつもの大きな看板が目立つ。その中の『目指せ合格!』といった、あまりにありきたりなキャッチコピーを眺めていると、最近になって必要以上にそういった教育の場が増えたような気がした。
彼は怪訝に、その看板を見やる。
ただ、そんな鈍い顔をさせられたのには、他に理由がある。
「んなもんあったら、どの生徒が地元の子なのかもわかったもんじゃねぇか」
思わず、宗助の本音を吐き出した。
思えば、東武東上線と日本旅客鉄道のふたつが交差する 駅は、一歩間違えればド田舎に含まれる埼玉としては、それなりに栄えている地域といえる。その中枢駅に受験生が
駅周辺には、見たことのない校章を胸元へ掲げる生徒たちが多数。おそらくこの地域だけではない中高生たちが受験対策のため、この有数である進学塾へと集まっているのかもしれない。それは、一種の新興宗教に願いを乞う大人のように。
実際に、誰もがCMでもみたことのある進学塾の中には、裏で政治家やスポーツ界、出版業界だけでなく、あらゆる分野を一纏めに踏破する宗教団体は存在する。
いや、それを一括りに宗教は
人や資金を集めるには、そういったカリスマ性が必要なのもまた、事実である。
仕方がなく、スマホでこの地域の子と思われる学校を検索。
あった。
ふと目の前を見やると、ちょうどその制服を着用した女子生徒を発見した。なにやら、男を誘うような短いスカートにボサボサセミロング。それに、中学生なのにもう脱色しきったブラウンに染めている。
ホームページに記載された『清く正しい青春時代』というキャッチコピーとは裏腹に、この中学校の治安の悪さが一発で
それはともかく、思わず口がニヤリと動く。お目当ての記憶を
宗助は、彼女たちふたりに後ろから訪ねていた。
「ねぇ、君たち」
自然に話しかけたつもりだったが、
「……なんですか?」
当然、不審者を見るような
……ったく、昔はそう言った困った人間が訪ねてきたら、助けてやるのが常識だったというのに、今じゃ話しかける奴ら全員が顔面性器の妖精でもみるかのようだ。そもそも趣味じゃねぇと、宗助は思ったが、すぐに顔色を整えた。
それ以上、思案に更けていても仕方がない。
「人探しをしてるんだ。女の子で
女子学生の、片方の
人間は、既に認知されたワードを聞いたとき、その表情は判る人間からすれば不自然にも明確に、表へと露呈する。宗助にはそういった嘘や隠し事は不可能だと、彼女たちは知る由もない。
それは、プロの占い師なら誰もが利用する心理学の作法だ。
「いや、知らない………」
女性はめんどくさそうな人を見るような態度で、そう応える。
「ああ、ありがとね」
宗助はなにげなく手を差し向けた。
そう、どんなに面倒だとか嫌だと思っていても……手を差し出されて握手をしないような日本人はこの世にはいない。
手を触れた瞬間、感謝の意で人は大賞の相手に笑顔を見せるのが一般的だが―――宗助がみせる笑顔はそういった類ではない。
そのニヤリとした笑顔、占い師がみせる相手の過去を暴いた時の表情だとは、少女たちは知る由もない。
「すまないね、おっさん」
握手が交わされたあと、中学生たちは早々と離れていく。
にしてもだ。
高校の
やはり、サングラスをかけた高校生は流行りではないのだろうか?
そんな疑問が生まれはしたものの、それはさておき―――その代償として得られたモノがある。
「あそこね」
それは、東武東上線と交差して伸びる日本有数の鉄道機関に属する日本旅行機関の先を抜けた―――どこまで続いているか未知である商店街。
宗助は、その方角を見やる。
彼にとって、さきほどの少女の手の温度から、少女の脳裏に浮かんだユキが住んでいた自宅がある方角を読み取ることはとても容易いことだ。
人の中には、生まれながらに感情に敏感な性質を持つ者がいる。大抵の人間は、そういった他人の感情を理解できないようにできている。なぜなら、それは同時に痛みや憎しみを知ることになるからだ。
人々はそのことを『テレパシー』と呼称するが、
ただ、霊能者が要する読心術にも代価はある。
改めて、宗助は今の時代に生まれてきたことを恨む他ない。
マスコミやテレビなどといった不に対する言霊が多くなった時代、この透視を強める度に宗助の中には言霊に乗った穢れが絡み付く。
その能力を持つ者は、若いうちに死を選ぶものが多い。それは、このようなオカルト的認知は社会では認められない。彼らは、他人から認められない穢れや怨念に立ち向かう術もなく、最後には自ら自殺する。
かくして、宗助は幼い頃から、あらゆる死の誘惑に耐えながら生きてきた。
今でも、その暗闇の中を歩くような感覚は消えることはない。
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