第2話-5
答えは決まっていた………のかもしれない。
なぜかこの場に及んで、美紀はオカシクも笑っていた。
「今さらだけど………私、ここで亡くなった子ともっと仲よくなりたかった。変な秘密を共有しただけじゃなくて、愛していた、んだと思う」
美紀は、軽く宗助に頷いた。
「だからというワケじゃないけど、偏差値上げてでも同じ学校に行きたかった。それなのに、彼女は一人で死んじゃって……」
宗助はそれ以上、詮索することはしなかった。
触れなくても、美紀の心を読むことはそう容易いことであった。
「わかった。だが、最低限補佐はする。もう一つ―――」
宗助は一度、目を瞑って、
「ユキという子との大事な記憶だけ思っているんだ」
そういうと宗助は長い髪をかきあげて、改めて美紀へと向き合った。
「幸助、準備をするんだ」
「………判った」
幸助も、祈願するように眉間に皺を寄せ、
その手、『刀』を表す印が刻まれる。
「美紀さん、今から鞍馬寺、鞍馬天狗の教えに則り、依座による除霊を行います。二人は俺と同じ言葉を繰り返してください」
美紀はもう一度頷くと―――除霊は始まった。
「死して輪廻の輪に戻れないユキという名の者に申す。あなたを助けるために来ました。生の
その言葉を何度も三人は繰り返した。
その声以外は、ただ静寂な時間だけが過ぎていく。じりじりとしたほんの一間さえ落ち着けない空気の中で目の前の宗助がずっと美紀のすぐ横の闇を眺めている……ようだった。しばらく、その状態が続く。
が―――美紀の周りの声は、急に失われた。
「な、なんなのよ!?」
いきなりの裏切りに、美紀の反発の意を示した。
その時―――既に変化は始まっていた。
普通なら不可視である闇の向こう側、風に舞う洗濯物のような微妙な思念体。言葉や呪いでしかない思念を、美紀は感じていた。
「オメェ、ジッとしてろよ………」
咄嗟に振り返ろうとした美紀を宗助は見抜いたように、阻止した。
だが次の瞬間、彼女の目の前には宗助と幸助の声や姿は消えていく。
そして―――
「ここは………」
今までの駅のホーム。ただ、今までいた場所とはあきらかに違う。
モノクローム、誰かの記憶の破片のようにただ、決まった彩飾だけが鮮やかに彩る。それが万華鏡なのか、それは夏によく舞う極彩色の蝶のようにも見える。その輝きがモノクロの世界で一寸も留まることなく変化している。
なにか笑い声がした。
それは、楽しげに笑う女子の声。なんの柵も不和もない、この世の地獄を知らない屈託もない純粋な声。鈍く高い不協和音。
「……ユキ」
美紀は少女の屈託のない笑い声を知っている。
美紀はホームへ見渡した。
この日がいつの出来事の繰り返しなのか、理解できる。
ユキの自宅は隣町――中学校が地元にあった美紀と違い、ユキは毎日この列車に揺られながら帰宅していた。それにユキの手に掲げられた黒の筒。卒業式を終えてすぐのことだろう。そうなると………
美紀の心拍数があがっていく。なぜならあの日、こうなる少し前までの、ユキの笑い声をすぐ側で聴いていたのだから。
そして、彼女があのレールへ飛び込んだのは、このあとすぐのことだった。
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