第2話-4
深夜過ぎ、いつもなら鉄柱で降りていて出入りのできないはずの改札口が開いたまま。だが、それが自然であるように、御剣兄弟は平然と改札口を潜ってその先にあるホームへ向かう。
その行動に、一般人として生きてきた美紀は戸惑いを隠せない。ただでさえ、警察に見つかれば職務質問は免れない『中学生時代の
その服装姿が今回の除霊には適した方法だと、宗助はいう。
儀式を行い穢れを祓うためには、その穢れの主体である呪縛霊に帰属する過去の副葬品が必要となるのだ。その記憶が強ければ強いほど除霊は有利になる。
中学時代の親友、そして三年間共に過ごしていた馴染みのある学生服であれば、呪縛霊とて鮮明にその記憶を導き出せるに違いない。
そう、本来であるならばそれでうまくいく、はずなのだ。
「大丈夫、すぐに終わる」
気後れするような美紀に、幸助は気遣いの言葉を掛ける。
あたりまえだが、ターミナルから伸びるエスカレーター、エレベータといった移動手段は稼働していない。下り側のホームに辿りつくには、階段を登りきる必要がある。
暗闇を照らすライトの
美紀とユキは、同じ高校への進学を決めていた。だが本当は、それまでのふたりの関係はあまり芳しくなかった。だけど、その時間を埋めるように、高校生活ではユキとの日々を大事にしたかった。
下り側駅のホーム、宗助が椅子に潜られた萎れた花束を照らす。
「今朝は確か、ここであってるよな」
「ええ」
短命な花束を凝視することで、美紀はどうにか迷いを
だが、そのような猶予は無用と言わんばかりに、その間はなくにしもあらず、宗助の白装束が美紀へと翻った。
「それじゃ、
サングラス越しに、美紀を見やる。
「なによ?」
「ここで死んだ子と仲がよかったんだよな? 彼女のことを救いたいか? それとも、スベテ俺らに任せていいのか?」
ある予感が、幸助を貫いた。
「兄貴、なにいい出すんだ」
その横槍は反れて、宗助は決定権を美紀へと委ねるように、言葉をつなぐ。
「今回は、修験道でよく行われる
その聞きなれないワード、美紀の思考が鈍る。
「東北の恐山のイタコを知っているか?
幸助が、さらに説明を加えた。
「だが、それは美紀さんにはあまりに危険だ、兄貴」
宗助はいい返す。
「人を
その理由、誰もが心から渇望するような、美紀への『ある提案』を宗助は始めた。
「オメェはここ、ホームにいる少女の気持ちを知りたいんじゃネェか⁉」
その言葉の意味の通り、美紀はそれがどういうことだが模索を始める。
その結論………あることを尋ねていた。
「ユキが死ぬ瞬間に考えていたことを―――知ることができる?」
「ああそうだ」
宗助は応える。
「だが、同時に、除霊する側もその痛みに耐えなければならない。当然だが、その時にホームの少女が受けた心理的、物理的の激痛を受けることになる」
「………それって」
突如となく、美紀の妄想が広がる。
ユキの気持ちを理解している、つもりだった。少女を自殺まで追い詰めた原因さえも………そして、あのユキを跡形もなく散らかした圧倒的破壊。その感覚に耐えれるだけの覚悟があるのか―――美紀は壮大な意識の中を彷徨った。
心理的、物理的激痛というワードには、平坦ながら脅し以上の効力を含まれていた。おそらく、死を伴う間際の精神、痛みに耐えることができるのか、どうか、ということは理解できているつもりだった。
だがそれは、
あまりにも単純で軽率な、思考だった。
「バカいうな‼ 宗助の考えは全く判らん」
反対するかのように、幸助は未だに言葉を繋ぐ。
だが、占い師の甘い罠に乗せられるように、美紀から湧き出した、心のずっと底に眠らされていた欲よりも深い渇望に逆らうことができない。
それを助長するように、占い師は言葉を繋げる。
「依坐というのは単に、憑依させて除霊するんじゃねぇべ‼」
その言葉は、より一層に美紀を虜にする。
「呪縛霊になってしまった穢れの原因を知り、その痛みを知る。同情という形で成仏という
「原因を………知ることができる?」
それが示す意味に、美紀の心臓が苦しいほどの鼓動を衝いた。
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