二話
第2話-1
ほんの少し前、ハルという男の子がいた。
家庭の事情―――といえば簡単かもしれない。自身の
だからというか、
学校に到着して一日中―――授業中も、登下校も、体育の授業でさえ他の生徒と区別するかのよう、ハルは制服を着用し続けた。彼は、この学園内にひとりだけ特別な束縛が施された存在だった。
そんなある日のことだ。
授業間際に、ハルは体調不良を訴えた。保健室に運ばれた少年の身体は、異常なまでに汗にムれてしまっていた。体温計は、結果を視ずとも知れたことだった。
事情が許された保健室の女子医はひとり、少年をカーテンの中へと導いた。
もしもだ。
ハルの正体が暴露するような愚行があったとなれば、保険室の女子医は職を失う可能性を意味してもいた。それを知りつつ、ハルの上着を脱がしたのは、彼女の医者としての『人間愛』そのものの行動だといえる。
だが、そんな愛情が、ハル自身の障害を誇張していたのは言うまでもない。
思えば、高熱で倒れた原因も、夏だというのに冬と同じ制服を着用する理由も、少年にとっては悲惨な人生ソノモノに違いなかった。
〈―――なんで、私だけ〉
トイレに行く際も必ず個室を利用し、そのことについてバカな男たちは後ろ
周りの生徒たちからはかなり
だが、予測不可能の偶然が訪れる。
突如、レールを滑走する物音と同時に、小高い
何者かが訪れた予感に、ハルは驚きを隠せないでいた。だが、ソレが分かっとてここには来れまい、そう高を潜っていた。
だから、それは偶然中の偶然………
突如となく、変調子の鼻唄がとまる。
その異変に自然と瞼をひらくと、ハルは事態の恐ろしさに驚愕、気づいてしまった。
妖精のようにふんわりとした風貌、爛漫な少女を、ハルはよく知っている。
その少女―――ユキは、ハルを見つけてしまった。
中途半端に開かれたカーテンの隙間、ベッドの上ではだけた
完全の油断だった―――ハルの思考は停止する。見られたとしても、違う学年、クラスの人間だったらどれだけよかったか………
しかも、学園中でもユキを知らない者は少ない。薄幸漂う妖美に白く整った素肌は誰をも魅了し続け、視る者すべてを
ハルは、そんなユキのことが好きにはなれなかった。
誰かに望まれ、異性としての生格を超越した少女に、妬みにも似た自己嫌悪を抱えていたからだ。
そして、この事態は―――
〈もし、彼女に秘密がバレてしまったら、学園中に広まりかねない〉
心の秒針が停止する。だが、そんなハルの思考とは別に―――ユキの
今思えば―――少女からしてもこの出来事は、探し求めた最愛の相手との出逢いに等しかった………のかもしれない。
理由を知らされないまま、彼女はカーテンで内側、外から誰も見えないところまで
そして、
そのユキの片手が、自身のスカートを捲り上げた。ハルにその下半身を露出させると逆の手でふんどし様になっていた下着の紐を引っ張ると―――するんッと衣類が下に落ちた。
ハルにとって、瞬きのできないぐらい、高熱なんかどうでもいいと思えるほどの衝撃を受けた。
誰かが支えないと倒れてしまうんじゃないかと思うほど華奢な少女の下半身には信じられないことに、小さながら男のアレが付属していた。
「………私も、私も同じだからぁ!」
ユキは、恥ずかしい気持ちを押し潰すような大きな声が響き渡る。
それを見た瞬間だった。
ハルの心の中には、一種の救いが訪れた。自身と同じ悩みを持つ人間こそが、彼女にとっても生きる望みを与えてくれた。
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