一話

第1話-2


 耳障りな汽笛の音がホームに鳴り響くと同時、列車はレールの上を滑走し始める。

 そして、巨体が引き摺る轟音が聞こえなくなったホームには、しっぽを巻いたまま動けない美紀と、怪しい男だけが残されていた。


 美紀は、愕然と狼狽えていた。

 生まれてこの方、目視もくしだけで自身の正体を見破った男に恐怖を覚えた。言うなれば、人狼ゲームで占い師が狩猟銃でも担いで来たような衝撃………。


 そして、男の風貌である。

 占い師の図体は鬼のようにデカく、世の高校生からすれば平均的といえる美紀の身長とでは、チワワとゴールデンレトリバーほどの差がある。そして、乱れる長髪にだらしない制服、似合わないサングラス―――その違いに、美紀の手足が震えていた。


 そんな小犬こいぬを追い打ちを掛けるように、男の口元から罵声がとどろく。


「おい……、次の電車が来るの何時だと思っているんだ、アホンダラッ!」


 迫力はなくにしもあらず……。

 キレているとは知りつつも、美紀は食い下がるワケにはいかなかった。


「し、知らないわよぉ! こんな、レディーの前でこんなふしだらで出鱈目でたらめ言うサイテーオトコォ!!」


「はぁ、あくまでしらを切るつもりか? 別にお前が、女装して学校に行ってようと俺には関係ないね。言うなれば、可愛ければどちらでもいいンだよ⁉」


 美紀、思わぬ誉め言葉に紅潮。


「ほ、ホントウか……? いや、じゃない‼ 


「わかった、わかったから……。もうどうでもよくなってきた」


「――はァ⁉」

 ちっともよくない。


 男は涙で化粧が落ちかけている美紀を横目にホームから電車の滑走路へと降りた。そのまま、それが自然かのように次の駅へと向かう線路を歩き始める。


 ただ、もう一度だけ、男は占い師のように―――ボヤくように呟いた。

「もし、ここに存在する『けがれ』を祓って欲しいなら、俺らの学校でアンタの同学年にいる御剣幸助―――奴に頼めよ⁉」


 そう、穢れというワードが胸に突き刺さる。

 そして、指名した男性の名前に、響動どよめきを隠せなくなる。


「御剣………幸助くんに?」

 彼の名前………『御剣 幸助』は、彼女も知っている。

 そりゃ、美紀が今まで虫けらどもに近い男たちをフるにフりまっくっていたのも彼―――御剣幸助からの告白を受けるためなのだから。


 だけど、なぜ御剣に………美紀はその疑問を男に向けていた。しかし、男は二度と振り向きもせずに、軽くあいさつ代わりに片手を振るだけだった。



 男が見えなくなった後、美紀は改めて穢れを祓う対象について考えさせられた。


 おそらくだが、美紀はこの駅のホームに存在するだろうの正体を知っている―――気がした。それは、およそ一か月前にさかのぼる。


 美紀の親友はこの場所から、ちょうど花束が飾られた椅子あたりで砕け散った。


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