第三十五話 『丁か半かは知らんがとりあえずチャーハンは美味い』


 私立綾媛りょうえん女子学園。

 日本中の秀才を集めに集めたその巨大学園の中には、どう考えても教育の役に立ちそうにない娯楽施設が数多く存在する。


 松下・隼志はやしの二人に連れられて晴が向かったのは、一年Q組の教室がある校舎の北側に位置する区画――――俗に生徒から『止まり木』と呼ばれるレジャーエリアであった。

 どうやら例の冊子によると当学はほぼ北1:3南の割合で、学舎と研究施設が集中する南側エリアと、娯楽施設群が集まる北側エリアに分かれているらしい。


 ――――つーか、やっぱ広すぎだろこの学園。


 そんなJC三人組の後ろをこっそり尾行している樋田の口から、「ふわぁ」と気怠そうなあくびが漏れる。


 下駄箱を出てからもう十分くらいはテクテク歩いているというのに、一向に目的地が見えてくる気配はない。晴達の通う校舎は学園のほぼ中央に位置するため、二人の言う『止まり木』に着くまではまだまだ大分距離があるのである。



 ――――ああん? なにしてんだコイツ。



 そうしてえっちらおっちらと歩んでいく道すがら、樋田は晴がなにやら奇怪な行動をとっていることにふと気付く。


 彼女は一見松下達と仲睦まじそうに話しているが、時折二人の目を盗んでは、そこらの壁やら柱やらに何か魔法陣のようなものを指で描いているのだ。

 その怪しげな光の文様は描かれた直後こそ鈍く光っているものの、数秒もするとすぐに壁の中へ溶け込むようにして見えなくなってしまう。


『オイ、何してんだそれ?』


 そう訝しげに問う樋田に対し、晴は魔法陣を描く指を止めもせずに答える。


『ああ、これは目星をつけた場所に『顕理鏡セケル』の探知術式を仕掛けているのだ。まだ見ぬ敵が何かしらの術式を使えば、そこには必ず『天骸アストラ』の霊的痕迹が残るからな。それでこちらが先に向こうの尻尾を掴めれば万々歳であろう? ただ単純に監視カメラとしての役割も期待できることであるし』


 なるほどな、と樋田は物言わず首肯する。


 確かにありとあらゆる『天骸アストラ』の観測・解析・再現を可能とする晴の『顕理鏡セケル』は、こういった事前の索敵には正にもってこいの術式であろう。


 しかしそうして幼女が一生懸命説明してくれたにも関わらず、樋田はどちらかと言うとその言葉のの方に興味があるのであって。


『……へぇ、監視カメラね。なあ晴、三百円やるからそれ女子更衣室とかにも仕込んでおいて――――ぶべらぁッ!?』


 ちょっぴり欲望を露わにしてみたら、予想通り金玉にキツいご褒美をいただいてしまった。是非も無しである。

 しかしいくら樋田の姿が見えないとはいえ、晴がそんな激しいツッコミを行えば、当然周囲からは奇異の視線をいただいてしまう。

 そりゃあ『天骸アストラ』を感知出来ない一般人には、晴がいきなり虚空に向けて美しい蹴りを放ったようにしか見えないのだから是非も無しである。

 実際車椅子カチューシャの隼志紗織はやしさおりは、そんな晴のことをちょっと引いた感じの目で見ていた。


「う〜ん、どうしたの晴ちゃん……?」

「いや、違うんだこれは。実はそこにトウキョウイキリインキャゴミムシという淫らな害虫が飛んでいてな」

「はいそこの御二方、おしゃべりは一旦そこまでにしてくださいね。こっからはその、割と地獄なんで……」


 そんな松下の弱々しい声に顔を上げてみれば、ようやく目的のレジャーエリアが視界の向こうに見えてくる。

 南北の境界には朝見たような巨大な赤煉瓦門がそびえ立っており、その麓では晴達と同じく北側へ遊びに来た多くの女学生でごった返していた。

 三人は満員電車じみた人混みをワサワサ掻き分け、なんとか『止まり木』の中へと足を踏み入れる。あとは皆それぞれの目的地へ向けて拡散するので、ぎゅうぎゅう詰めの人口密度もすぐに解消された。


「ほぉ」


 そこで晴もようやくあたりを見渡す余裕が出来たのだろう。

 彼女はうつむきがちだった頭をスッと上げると、その先の素晴らしい光景に目を輝かせて言う。


「うむ、なるほどこれは中々壮観なものだな……心ウキウキワクワクってやつだなッ!!」


 そう言って年甲斐もなくぴょんぴょん跳ねる晴の姿に樋田の心もまたぴょんぴょんする――――と、そんなことよりも、まず関心を持つべきは目の前の『止まり木』のぶっ飛び具合の方だ。


 なるほどこいつぁすげぇや。

 いくら大企業の道楽とはいえ、金遣いの荒さが凄まじすぎてヤバい。事前にふざけた学園だとは聞いていたが、正直まさかここまでとは思っていなかった。


 カラオケやちょっとしたショッピングモールぐらいならまだ余裕で想像の範疇だとしても、この『止まり木』内には何とゲーセンや大学生用の居酒屋まであるから最早驚くを通り越し、呆れるを飛び越えて、ははっ……と乾いた笑いまでこみ上げてくるレベルである。


「ははっ、そう言ってもらえるならこの学園もバカみたいに金をつぎ込んだ甲斐があるってモンでしょう。さあて時間は有限ですし、最適コースでどんどん回っていきますよ」

「オーケー、ジャストドーイット!!」


 松下は隼志の車椅子を押しつつ、ついでにあれも面白そうこれも楽しそうとめっちゃ目移りしてる晴の手も引いて、『止まり木』の中をワチャワチャと進んでいく。

 そうしてしばらくはキャーキャーワイワイな歓声道中が続いたのだが、やがて何かに気付いたのか隼志紗織はやしさおりの顔がにわかに曇りだした。


「ねえ希子きこ。こっちの方ってもしかして……?」

「えべっへ、なんのことすかね? 松下的には全くもって理解不能なんですが……」


 そんな控えめながらも問い詰めるような隼志の物言いに、松下の目は泳ぎに泳ぎまくって最早太平洋を横断するレベルである。

 樋田もそれでなんとなく彼女の企みを察した。このモジャモジャ女、恐らくはロクでもない場所に晴を連れていくつもりなのだろう。


 しかし、ここまで来てしまった以上、今更文句を言っても手遅れだ。

 松下は不意にとある建物の前でピタリと立ち止まると、こちらをクルリと振り返り「してやったり」とでも言いたげに笑って言う。


「だって折角綾媛りょうえん受かったのにここ来ないとか勿体なさすぎじゃないですか〜?」

「でも私達まだ未成年だし、まだこういう場所はあんまり良くないと思う……」

「オイ松下。なんだこのよく分からんアダルティックな建物は? おっパブか、それともセクキャバなのか?」


 そんな謎の店を前に可愛らしく小首を傾げる晴に対し、樋田の方は既になんとなくその正体を悟っていた。


 扉の向こうに広がる空間は無駄に薄暗く、ここからでも酒とタバコのキツイ匂いがツンと鼻をつく。

 そしてとにかく雑音がうるさかった。

 左を見ればコインがジャラジャラジャラジャラ、右を見ればカードがペラペラペラペラ――――と、どう見ても賭博場です。本当にありがとうございました。


 確かに娯楽施設が山程あるとは聞いていたが、まさか学園の中にカジノなんて作っちゃうかねえと、樋田はそこに教育の敗北を悟らずにはいられない。


「いやいや大丈夫ですって大丈夫大丈夫。つーかいつも普通に勝ってるじゃないですか。紗織は松下を信じてくれればそれでいいんですよ。今日も必ず倍にして返してみせますから」


 樋田がそんなことを考えている傍らでは、まだ松下と隼志がグチグチと揉め続けていた。

 こんなことにお金を使うなんてダメだと諭す車椅子カチューシャに対し、身振り手振り口車でこれをなんとか乗り切ろうと計るふわふわジト目の構図である。


 このモジャモジャとはまだ出会ってから三十分ほどしか経ってないが、既になんとなくコイツの人間性とやらを把握出来たような気がする。

 恐らく彼女はそのうち「なんかデカイこと(適当)して楽させてやるよ」とか言い出すタイプのダメ人間なのだろう。(具体的に何かするとは言っていない)


 晴も大概なクズだと思っていたが、松下も松下でかなりヤバイ。むしろ百四十五歳の人外だからしょうがないねとなる晴とは違い、まだ十三歳で普通のJCなのにここまで堕ちてるコイツの方がヤバイと言える。


「……まあ、いいか。うん、希子なら大丈夫だよね。分かった、信じる」

「ありがとうございます。それでこそ紗織です。さすが十年以上松下の親友やってるだけのことはありますね」


 しかし結局最後は松下に早口で適当なことをまくしたてられ、常識の最後の砦隼志紗織は呆気なく陥落してしまった。

 そうして無事相棒の許可を取り付けたふわふわジト目は、まさに水を得た魚のようにテンションを上げていく。


「さあて、そうと決まれば付いて来てください筆坂さん。あなたにも大人の遊びってヤツを教えてやろうじゃないですか」

「くははっ、よかろう。だが勘違いするなよ。ワタシは普通にこういうの得意だからな。その……めちゃくちゃ得意だからなッ!!」


 こういうときだけは無駄に仲良くなる貧乳チビどもに、隼志は疲れたとでも言いたげに、しかしほんの少し楽しそうにハアと溜息をつく。


 そして彼女もまた二人に車椅子を押されるがまま、自然とカジノの中へと放り込まれることとなった。

 一番ハト派なのに先頭に立たせられるとか、今の隼志の立ち位置は完全にフライデー事件時のそのまんま東である。


「……フッ、キコよ。キサマ随分と嫌われているようではないか?」


 隣の松下を流し目で見ながら、晴は心底楽しそうに口元を歪めて言う。そうしてカジノ内に足を踏み入れた彼女達を出迎えたのは、まるで突き刺すような敵意の視線であったのだ。


 具体的には先程まで和気藹々と賭け事をしていたはずのお姉さん方が、いきなりこちらをギロリと睨み付けてきたのである。

 確かにこんな女子大生か精々女子高生までしかいないアダルトな空間に、つい何ヶ月か前までランドセル背負ってた中坊がやってくるのは場違いと言われても仕方がないだろう。


「ハッ、本当厚化粧なだけあって顔だけはうるさい雌豚共ですね。何か言いたいことがあるなら口で言えってんですよ」

「ほぉ、その歳にしては随分と肝が座っているではないか。俄然キサマに興味が湧いてきたぞ」

「ねぇ、私帰っていいかな……?」


 しかしそれだけの敵意に晒されながらも、当の松下は場慣れしているのかなんとも涼しい顔であった。

 隣の晴も当然この程度の恫喝で怯むわけもなく、物珍しそうに辺りをキョロキョロと見渡している。

 一番前に突き出されている隼志だけが一人でなんか「うびゃあ」となっていた。


「しかし、カジノといっても何かいっぱいあってよく分からんな」

「まっ、初心者なら仕方ないですよ初心者なら。まァまずは松下がやるのを黙って見ててください。技は目で見て盗むものですからね」


 そんなイキり上手の松下さんに連れられて向かったのは賭博場の隅の方、乱雑にゴザだけが引かれた侘しい一角であった。

 ゴザの上では大学生くらい(ソースは乳)のお姉さん八人組が、これまた何か賭け事をしているようであった。

 一団の中心には湯呑みじみた壺と二つのサイコロが置かれおり、参加者それぞれの前には縦横に並べられた無数の木札のようなものが見える。


『ハッ、今時丁半博打とか粋なこったな』

『ん、なんだそれ?』

『……おばあちゃんの癖にそこらへんはガバガバなんだな。まあ概して言うならあのカップの中でサイコロ振って、それが偶数か奇数か当てるだけの簡単なゲームだよ』


「はーいどうも先輩方お久しぶりです。松下の松下による松下のための松下的松下系美少女の松下ですよー」


 そうして樋田が適当に説明しているうちに、松下(ゲシュタルト崩壊)はいつの間にかお姉さん方に堂々と話しかけていた。

 しかし八人のゴザガールズは彼女を見た途端、露骨にその赤い顔を歪ませてしまう。しかも結構マジで嫌な感じであった。


「テメェまた来やがったな今月はもう来んなって言っただろ松下コノヤロウッ!!」

「今日こそはイカサマ見破ってやるからな、覚悟しとけよこのアバズレがッ!!」


 そのとても女性が発しているとは思えない罵声から鑑みるに、どうやら松下さんの評判はこのカジノの中でも最悪なようである。

 一体このモジャモジャ何をしたんですかねえ……と樋田は思わず白目にならずにはいられない。ちなみに紗織ちゃんは相も変わらずビクビクしているし、晴もこれまた当然のように呆気からんと耳糞をほじくっていた。


「ふん、そんなイカサマイカサマほざくんなら、一度くらいちゃんと証拠出してみてくださいよ。口からでまかせで因縁つけるとか、頭中世で時代止まってるんじゃないすかあ?」

「言ったなテメェ。なら今日が年貢の納め時だ。オラとっとと座れ」

「ハイハイ。では、そのとーりに」


 そんな荒っぽい宣戦布告に従うがまま、松下は一人のお姉さんと代わって座に入ると、早速懐の十万円を複数の木札に変えてもらう。

 続いて参加者が一人一人サイコロを振って回しているのを眺めながら、隣で晴が不意に口を開いた。


『ヘイSiri、事細かくルールを教えてくれ』


『はあ、クソめんどクセェ……まあ、ほとんどさっき言った通りだよ。まずはあの壺の中でサイコロ振って、そのあと出目の予想が丁なら木札を横に、半なら縦に置いて賭ける。で、丁と半にかける人数が同じになったら、進行役が頃合いを見てご開帳するって寸法だ……とカセイは懇切丁寧に説明します』


『ほぉ、なるほど。結構利便性高いんだなオマエ』


『利便性とか表現が完全にモノ扱いじゃねえか……』


 何はともあれそうして樋田の説明が終わった頃には、ゴザの上でも賭けの準備が整ったようであった。


「はい、壺」

「はい、壺をかぶります」


 進行役のハキハキとした声に従い、壺を持った女がそれをサイコロの上に被せる。そしてそのままガサガサと三度ほどかき混ぜると、次は丁か半かの募集がかかった。


「ドッチモドッチモ」


 さて。

 なんか無駄に自信満々だったけど松下は一体何をする気なのかなと、樋田はチラリとそちらの方に視線をやってみる。

 しかし彼女は別段迷っている様子はなく、かと言って何かイカサマをしているような素振りもない。


 ただ松下希子は精神を集中するように目をつぶり、眉間にしわを寄せているだけであった。やがて彼女はおもむろに瞳を開くと、手元の木札をバンと叩きつけて言う。


「丁」


 ヤダこの幼女態度悪すぎ――と、樋田はそんな松下の姿に教育の敗北を(中略)。どうやら他の五人は皆松下の出方を伺っていたようで、彼女が賭けてしまえば残りも流れるように続いていく。


「松下が丁なら半」

「ここで丁に賭けるやつは女じゃない、半」

「ならウチも半だ! オラどうだ三人に勝てるわけないだろ!」


 そんな酔っ払い三人組の妄言はさておき、比較的酔っていない残りの二人が丁に賭けたので、これで勝負は成立である。

 全員の予想さえ出揃ってしまえば、その時点で駆け引きは終了。あとは壺をカパッと開けるのみである。



「勝負!」



 かくして壺は開かれた。

 今この場にいる全員の視線が壺役の手元にジロッと注がれる。果たして出た目の方はと言うと――――。



「……グサンの丁」



 進行役がボソリとそう言うと、半に賭けていた三人が悔しそうに頭を掻き毟る。当然半側に置かれていた木札は、松下を含む丁に賭けた者達に割り振られていった。


「まぁ、最初はこんなもんだろ。オラさっさと次だ次」

「ははっ、懲りない方々すね〜。何度やったって松下の勝利は揺るぎないんですが……揺るぎないんですがッ!?」


 丁半博打の進行自体が単純なこともあり、その後は割とトントン拍子で勝負は進んでいった。丁から始まった銭賭け合戦は、そのあと丁半半半丁半丁丁半丁丁と続いていく。


 しかしこれが驚いたことに、松下はそのなかで一度も予想を外さないのである。彼女は毎度毎度丁半を的確に的中させ、手持ちの木札を残りの五人から瞬く間に奪いとっていく。


 そうして松下以外の木札が見るからに減っていき、場にどんよりとした厭戦気分が漂い始めた頃、遂に酔っ払い三人組の方が「終いにしよう」と音を上げた。残り二人も仕方がないとそれに首肯する。

 対して見事一人勝ちした松下はその場にガバッと立ち上がると、


「ははっ、今日も献上金ありがとうございました。皆様が汗水流して頑張って稼いだお賃金は、ありがたく松下達の生活費に充てがわせてもらいます。なので〜、来月までにはまたきっちりお金貯めてきてくださいねセ・ン・パ・イ☆」


 そうあからさまにお姉さん方を煽り倒し、スカートの端をつまんでちょこんと頭を下げてみる。

 直後なんとか怒りを堪えていた女子大生達の堪忍袋が、イエローストーンばりの大爆発を引き起こしたのはまさに必然のことであった。


「くそおおおおおおお、テメェも買収されたのか! ふざけんじゃねぇタンポン引っこ抜くぞオラァ!」


 死ぬほど酔っ払っているせいもあってか、負けた女子大生達は一斉に進行役と壺役に摑みかかっていく。

 嗚呼なんと醜い光景か、やはり人間は滅ばせねばならぬ――――と一人ラスボステンションになっていると、野蛮な取っ組み合いをすり抜けて松下が場から戻ってきた。


 彼女は既にちゃっかり換金も済ませており、最初の宣言通りその金額はほぼ倍になっている。

 松下のそんな鮮やかなお手並みを前に、初めは反対していた隼志もキラキラと目を輝かしていた。


「スゴイ希子ッ!! これだけあれば久しぶりにおばさん達に仕送りが出来そうッ!!」


「ほらほら、だーから松下の言った通りじゃないですかァ。まぁ松下は紗織のためなら不可能を可能に変えられる女ですからね。控えめに言ってこれぐらいは朝飯前だと言えます。まあ今は昼飯前なんですがッ!!」


「……うん、ありがとう。やっぱり希子は凄いよ」


 そんなゆりゆららららゆるゆりなやりとりが終わるのを確かめ次第、傍らで晴がほぉと感心したような声を漏らした。


「凄いな。素直に感心したんだが、何かタネはあるのか?」

「へ? まあぶっちゃけると普通にイカサマっすよ。またモチロンそこらへんは企業秘密ですが」


 彼女が言うには基本このカジノは悪魔の証明を防ぐため、手口が立証出来ないイカサマを糾弾することは出来ないらしい。

 ただし、そのぶんきっちり暴かれた際のペナルティは相当なものであるらしいが。


 まあ何はともあれ中坊のくせによくやるヤツである。先程はダメ人間と評してしまったが、意外とこういう人間が将来大物になったりするのかもしれない。憎まれっ子世に憚るの立証case1である。


「っとまあ、大体こんな感じです。どうです、筆坂さんも働かずに得る金の旨味に取り憑かれてみては?」

「くはっ、キサマ中々にワタシのツボを押さえた言い回しを知っているではないか……うむ、そうだな。それではまずあそこに殴り込んでみようか」


 そう言って晴がビシリと指差したのは、賭博場の中でも再奥に位置するひっそりとしたエリアであった。

 そこにはラスベガスとかにしか無さそうなガチのポーカーテーブルを囲む形で、知性と品格を伴ったお嬢様らしき方々が座していらっしゃっているのが見える。


 えっ、あそこ賭け金とかヤバそじゃね――――と、樋田が松下の方を振り返ってみると、案の定彼女は勝利の余韻に満ちていた顔を、まるで病人のように真っ青にしていた。


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