第十七話 『黄金の鳥籠』


 中世から近代にかけての西洋世界に、眠れぬ夜をもたらした砂漠の覇者、オスマントルコ。

 その君主たる皇帝スルターンの居住地であったトプカプ宮殿サライは、人類史上に存在したあらゆる宮殿の中で、最も血生臭い虐殺に塗れていたと伝えられる。


 異常なまでに大規模なハレムを有するオスマンの皇帝には、数十の兄弟がいることも決して珍しいことではない。

 宮殿内がそれほどまでに多くの皇位継承者で溢れていれば、時代ときの皇帝が兄弟による皇位の簒奪――――ひいては帝国の分裂を恐れたのは正に必定のことであったと言えよう。


 歴史を辿っても帝国史上初めて兄弟を殺めた三代ムラト一世以後、帝国には『兄弟殺しの習慣』が徐々に正当な処置として浸透していき、七代メフメト二世の代には皇帝即位後の兄弟皆殺しが、によって正式に定められることとなる。


 されど時代が近代へと進むにつれて、そのような残虐極まりない悪習を改めようとする動きが生じだすのは自然の理。そうして宗教指導者達の道義的疑問の下に生み出されたのが、俗に『黄金の鳥籠』と呼ばれる幽閉所カフェスの存在であった。


 これまでは皆殺しにしていた皇帝の近親者を、生涯に渡って監禁し、最低限その命だけは全うさせてやろうとする非常に先進的で、道徳的な人道的システム――――そんな虚無の牢獄の中で無駄に生命を浪費させられた者達の人生が、如何に酷く、そして惨憺たるものであったか。


 知識欲は三大欲求を遥かに凌駕する、人類種の根源たる欲望であるとする説も現在では存在する。その全てを絶たれる恐ろしさは、耳で聞き、書物で学び取っただけの言葉を羅列するだけでは、とても表し切れるものではないだろう。


 それでも私は彼――――否、彼等の事を知って欲しい。彼等が抱く世界への憎悪を忘れないで欲しい。歴史の中に埋められた彼等の悲劇を少しでも気にかけて欲しい。


 これは人間種が築いた時代の流れ、その悪意によって生み出された一人の怪物の物語である。





 ♢





 建物の高さは二階建てで、部屋の数は十二。窓にはその空間を世界から隔絶する為の頑丈な鉄格子。周囲には高い壁が隙間無く張り巡らされており、天の恵みたる太陽の光すらも、ここには碌に差込みはしない。

 後宮の最奥地にまるで隠すように建てられた小さな館。たったそれだけの空間が、かつての老人にとっての世界の全てであった。


 老人の名はアフメト二世。物心がついてからの四十三年間を虚無の中で過ごし、僅か四年前に第二十一代皇帝として即位したばかりの傀儡王である。


 時はルーミー西11111695年、所は豪華絢爛を極めた皇帝の寝室。その日、その場所で、彼は未だ切られてもいない生涯の幕を閉じようとしていた。


 病を帯びたこの身はまるで熱した鉄のように熱く、指の先も動かしたくない程の倦怠感が全身を蝕んでいる。

 視界は既に自分の掌すらボヤけてしまうほどに掠れてしまっており、足の先に至っては最早人間としてのあらゆる感覚が消え去ってしまっていた。


 その感覚は生物としての死というよりも、どちらかというと草木が萎びて枯れていくイメージに近い。自分の今の年齢など知る術は無いが、この命に明確な死が近づきつつある事は嫌でも理解出来た。


 まるで肉体が土に還る為の準備でもしてるかのように、体の各部位が日に日に機能を停止していく。

 ある日は立ち上がることが出来なくなり、またある日は固形物を食すことが出来なくなり、今日に至っては最早自分だけの力では水を飲むことすらも出来なくなってしまった。


「あっぁ……、ウぐぅおお……」


 例え思考することは出来ても、王に意味のある言葉を発することは出来ない。

 老人は生を受けてから今この瞬間まで、一切の教育を放棄されたまま生きてきた。つまりすらも、彼には口にすることが出来ないのである。


「ぅ……、ぎゅぐッ……あァアあアアアア……!!」


 そんな己の人生があまりにも悔しくて、それがあまりにも理不尽すぎて、嫌だ嫌だと言葉には出来ずとも魂が叫ぶ。その姿はまるで本能のままに泣き叫ぶ赤子のようであった。


 アフメト二世は皇帝でありながら、己が統べる国のことを、そしてそこに生きる民のことを、こうして牢獄の外に連れ出されるまで知りもしなかった。

 あの忌まわしき幽閉場と大理石のテラス、そしてそこから僅かに覗く金角湾とボスポラス海峡。それ以外の景色がこの世界に存在することも、彼は皇帝として即位する四年前まで認識すらしていなかったのである。


 言葉を理解出来ず、あらゆる知識を持たず、そして人としての幸福すらも知らないまま、王は今日まで生き続けてしまった。

 腹を満たすために飯を食い、湧き起こる性欲を発散するために女を貪る。そして朝になれば糞をし、夜になれば眠るだけの無味乾燥な四十三年間。

 そんな動物的な停滞の毎日は、王より確実に思考能力を奪い、その感情を破壊するには充分すぎるものであった。


 ただでさえ崩壊しかけていた王の精神が、現実となって迫り来る死を前にして、その内なる狂気の鋭さを更に増していく。



「――――グギギッ、グガガガガガガガガアッ!!」



 まるで獣のような呻き声を上げながら、老人は血が滲む程に硬く歯を食いしばる。両手の爪が割れる程に強く拳を握り締める。

 無念、後悔、そんな安易な言葉では、とてもこの苦しみを言い表すことはできない。


 己はこの国に君臨し得る者の末裔として産まれてきたはずなのに、こうして何も為さぬまま、誰の記憶にも残らぬまま、歴史の流れに埋もれて消えていくしかないのだ。


 仮にもっと早く即位出来ていれば、或いはこの『黄金の鳥籠』などという劣悪なシステムが存在しなければ――――民を潤わせ、異民族を鎮め、後世に名君と称されるような偉大な王になれた可能性だってあり得たというのに。


 だが、そんな泡沫の夢は最早叶わない。あまりにも己は世界を知るのが遅すぎた。この体は残酷にも既に朽ち果てようとしている。


 この皇帝などという名ばかりの称号に、何の意味も無いことは既に周知の事実である。老人が病を患った時点で、臣下達は皆早々にを考え出した。

 それはまるで「もうお前は用済みだ」と、言外に告げるような露骨な対応。その証拠とばかりに、こうして重病の王が一人で泣き叫んでいようとも、宮中の誰かが彼の下へと駆けつけてくることはない。


 例えここでアフメト二世が命を落とそうとも、王の死を嘆き悲しみ、その治世を懐かしむ者など、この世界にはたったの一人もいないのだろう。

 幽閉場上がりの皇帝など、所詮は頭のイカれた不良品でしかない。死んだならば死んだで、予備の皇族をまたあの地獄の中から補充してくれば良い。それで全てが済んでしまう話なのだ。


 考えたくない、認めたくはない。それでも脳が暴れる程に、王の思考は徐々に一つの疑問へと行き着いてしまう。それはあまりにも辛く、そして悲しい己の人生への評価点。それでも彼はその時、確かにそう思わざるを得なかった。


 何故己は態々この世界に生まれてきたのであろう、と。



「――――――――ググッ……、ウワア、ギャガアアアアアアアアアアアアッ!!」



 そうして、老人は発狂した。

 結局この世界に生を受けてからその最期まで、のまま、このアフメト二世は朽ちていくのだ。


 人の形をした空っぽのハリボテは、唾液を撒き散らし、理由の分からない涙を流し、辺りへ吐瀉物をぶち撒けながら、ただひたすらに泣き喚き続ける。


 己という存在がこの世に生きた証が何も無いことが堪らなく恐ろしい。己という存在が誰の記憶にも残らないことが心の底から寂しい。己という存在を賞賛する者がいないことが甚だ悲しい――――。


 そして何よりも憎かった。憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。あまりにもこのオスマン帝国が、この国の生み出した人を人とも思わぬシステムが憎くて憎くてたまらない。

 まるで気でも狂ったかのように、王は己の喉を乱暴に掻き毟る。例え皮膚が破れ、肉が裂け、純白のベッドが真っ赤な鮮血に染まろうとも、その両手が止まることはなかった。



 ――――何故、何も為さぬまま、こうして惨めに死んでいかねばならぬのだ。



 虚空より突如声がしたのは、王が狂気に飲み込まれかけていた丁度そんな時であった。


 声がした部屋の隅を振り返り、王は思わず息を呑む。

 その目に映った光景は正に奇々怪怪。何とそこでは人の形をした黒い影――――俗に言う亡霊のようなものが、朧げに宙を漂っていたのである。

 しかもその数はとても一つや二つで収まるようなものではない。


 ある者はベッドの下、そしてまたある者はカーテンの裏。この空間に存在するありとあらゆる暗がりから、黒い影達が次々とそのおぞましい姿を現していくのである。


「ギッ、ガッ……ウグッ……」


 言葉にならない呻きをあげながは、王の寝室を瞬く間に満たしていく亡霊の群れ。それは悲鳴をあげてもおかしくはないほどに恐ろしい光景だというのに、不思議とアフメト二世の精神は落ち着いていた。


 その理由は至極単純。彼等は己と同じ『黄金の鳥籠』の犠牲者であると、王がそう直感で理解したからであった。


 この忌々しくも合理的な皇位継承システムによって、その人生の全てを食い潰され、世界のほとんどを知りもしないまま土へと還っていった皇帝の予備品達。アフメト二世を含めて、黒影の中に言葉を知る者は一人もいない。

 それでも何故か心だけは、その胸に抱える世界への憎しみだけは通じ合っているような気がするのだ。


「ぎゅっ、ずっ……」


 まるで友を求めるかのように、少しずつこちらへと這い寄って来る無数の黒い影。

 途端にあらゆる感覚が王の体より消失し、心地よい眠気が意識を包み込んでいく。死を眠りに例える表現は古今東西に溢れているが、こうして己の体で味わってみると案外的を得ているような気もする。


 きっと己はこのままここで死ぬのだろう。もしかしたら彼等と同じ、この宮殿に巣食う怨念の一つとなるのかもしれない。


 だがそれも最早仕方がないことだ。この時代の、この国の、この身分に生まれて来てしまったのが、そもそもの間違いだったのだから。


 身を焼くようなこの世界への憎悪も、何も為すことが出来なかった己が人生への後悔も、皆諦めて大人しく墓の下へと持って行こう――――そう無理矢理に己を納得させ、アフメト二世は眠るようにゆっくりとその瞳を瞑る。されど、



「――――貴方は、本当にそれで良いのですか?」



 再び虚空より声がした。


 言語を知らないはずの王でも、何故かその者の言う言葉だけは理解出来る。

 男とも女ともつかない、されど何故か心が惹きつけられる蠱惑的な声に、消えかけていた王の意識はいつの間にか現世へと引き戻されていた。


 アフメト二世はゆっくりと声がした方――――月光を取り入れるための大窓の真下を振り返る。するといつの間に現れたのか、そこには『人間』としか言い表せないが佇んでいた。

 その者の姿は確かに王の瞳に映っているはずなのに、何故か靄でもかかったように上手く認識することが出来ないのである。



「……どこから入ってきた。この余をオスマン帝第二十一代皇帝アフメト二世と知って物を申しているのかッ!!」



 半ば衝動的に怒鳴り散らした直後、アフメト二世は慌てて己の口元を塞ぐ。

 王が驚いたのも無理はない。言語を知らないはずの自分の口から、何故か突然意味のある言葉が飛び出たのだから。


 思わず混乱する王の疑問に答える声は無い。『人間』はまるで子を諭す親のように、生温かい笑みをその顔に張り付けるばかりであった。


「卿は誰ぞ……?」


「フッ、まだその名を名乗るのですか。そのような名ばかりの称号には何の意味も無い。それは貴方自身も既に分かりきっていることだというのに――――」


「黙れッ、余の問いに疾く応えよッ!!」


 王の大喝を浴びた『人間』は、一瞬居心地が悪そうに眉をひそめる。しかし彼(彼女?)はすぐに柔和な笑みを取り戻すと、再び聴き心地の良い声を紡ぎ出していく。


「そうですね、私の名は『人類王じんるいおう』。今はそう名乗っておきましょうか」


「人類の王だとッ……? 何から何までふざけおって。道化師風情がこのアフメト二世に一体何の用だ」


 己は最早あの世へと旅立つ身なのだから、正直この者の正体などどうでもいい。それでも死が訪れるまでの暇つぶしにでもなればと、王は何の気なしに口を開いたつもりであった。



「――――貴方、自分の人生を後悔していませんか」



 されど、『人類王』の口から返ってきたのはあからさまな図星であった。

 あまりにも鋭く的確なその一言に、アフメト二世は思わず息を呑む。しかし本当に王を驚愕させたのは、その次の言葉の方であった。


「その苦しそうな顔、やはりそうでしたか……それでは単刀直入に申しましょう。不為王なさずのおうよ、貴方はその空虚な人生を気はありませんか?」


「卿は一体何を申している……」


「ですから、まだ諦めるのは早いと、私はそう申しているのです。既にこの人間界から不可能の三文字は消失しつつあります。誰も彼もが諦めることを強いられずに済む時代、全宇宙調和の水瓶座時代アクエリアン・エイジはもうすぐそこまで迫っているのです……ですから、まだ諦めてはなりません。貴方はこのような場所で朽ち果てていいような存在ではないのです。貴方がもう一度立ち上がると言うならば、この未だ不完全な世界に抗おうとするならば、私は貴方に全てを与えましょう」


 人生をやり直させる。


 そんな夢物語を至極当然のことのように言い切り、『人類王』は右手をこちらへと差し伸べてくる。

 その眼差しはまるで神が人に語りかけているかのように、清らかで真っ直ぐに心へと響くものであった。



 ――――何を、一体余は何を考えているのだ……。



 この者の言うことは、あまりにも都合が良すぎる。

 それでも、もし、仮に、目の前の『人類王』の言うことが本当であるとするならば。


 この空虚な人生のやり直し、それはなんと素晴らしく、そして心躍ることであろう。あり得るはずがないと頭では分かっていても、その蠱惑的で魅力的な甘言を、王はどうしても拒絶することが出来なかった。



「――――この人生をやり直せる……だと。戯れも大概にせよッ、やれるものならばやってみるがよいッ!!」



 途端に時が止まったかの様に室内が静まり返る。対する『人類王』はまるで老人の決意を賞賛するかのように、その顔に高潔な笑みを張り付けると、


「――――良い選択です。それでは貴方達の憎悪と後悔と執念に、ふさわしき形を」


 そう彼が謳う様に囁いた直後のことであった。


 アフメト二世の足下に突如として見覚えのない光の文様が出現し、続いて部屋の中を満たす無数の亡霊――――この宮殿に住まう全ての憎悪の塊が、一斉に王の体目掛けて殺到する。


 恐怖に悲鳴を上げ、慌てて身を翻す時間もなかった。

 まるで光の文様に導かれるかのように、亡霊の群れは次々に王の体の中へと溶けるように潜り込んでいく。



「――――ぐッ……、がはアアアアアアアアアッ!!」



 途端にどうしようもない圧迫感と、気を失いそうになるほどの目眩が王の体を襲う。それはまるで己という存在が一度破壊され、都合のいい形に歪められていくような奇妙な感覚であった。


 しかしそんなアイデンティティの崩壊の中にありながらも、アフメト二世の顔が苦痛に歪むことはない。続いて彼の精神を包み込んだのは、えも言われぬ圧倒的な解放感と全能感だ。

 熱も病魔も余計なものは全てどこかへと吹き飛び、代わりにドス黒い憎悪と可能性の力が瞬く間に全身を満たしていのである。


 そうしてそんな幻想的な変化を全て終えた頃、王の体は最早とても人間とは呼べない姿に豹変していた。


 病的なまでに白い肌に、漆黒の強膜と血色の虹彩。左肩からは猛禽類を思わせる強靭な黒の翼が生えており、頭上には地獄の炎を具現化したような赤黒い光が煌々と燃え盛っている。


「天使、か……?」


 思わずと言った具合に口をついた一言、しかし目の前の『人類王』は惜しいと言わんばかりに首を横に振る。


天に仕える者エンジェルだなんて、私達はそこまで殊勝な存在ではありません。天使は結局のところ全人類に隈なく行き渡らせるべき神の全知全能を、己の欲望を満たす為だけに用いる傲慢の権化――――精々が天を使いし者エンジェラーとでも呼ばれるのが不相応と言ったところでしょう」


 そう自虐的なことを言いながらも、心の底から愉快そうに笑う『人類王』。そんな彼(彼女?)の姿に、アフメト二世もつられて思わず口元を歪めてしまう。



「――――天を使いし者エンジェラーか、寧ろ良い響きだ」



 嗚呼、まさかこの空虚な人生において、心の底から笑う時が来るなど思ってもいなかった。

 先程まで指先を動かすのも辛かった老体には、既に身が弾けそうな程の活力がみなぎっている。この全身を包みこむ理解不可能の暴力がこの上なく愛おしい。 

 暴力とはそれ即ち権力の源泉である。己が喉から手が出る程に欲したものを、アフメト二世は遂に手に入れることに成功したのだ。



「もう一度、問いましょう。貴方は不可能が消失したこの世界に一体何を望む」



 その試すような『人類王』の言葉に、アフメト二世は最早答えを返さなかった。

 態々宣言するまでもない。そう言わんばかりにその口元を愉悦に歪めると、王は大窓の淵に力強く足をかける。

 荒々しく吹き荒れる外の風が、まるで己の旅立ちを祝福してくれているかのようで、何だか胸の奥が心地良い。


 結局王は皇帝に即位してからも、この宮殿から出たことは一度たりともなかった。自分は外の世界など微塵も知らぬまま、虚無の中で一人惨めに枯れていくだけなのだと――――王はつい先ほどまで確かにそう思っていたのである。


 だが、今はもう違う。

 新しく与えられたこの第二の生によって、アフメト二世の世界はこれから際限なく広がっていくであろう。


 まだ己は生きることが出来る、まだ知ることが出来る、まだやり直すことが出来る。そう頭で考えるだけで、枯れたはずの瞳から何か熱いものが微かに溢れ出していた。


「感謝する」


 これ以上は蛇足とばかりに、『人類王』も此度は何も言葉を口にしない。

 アフメト二世は最後にそれだけ呟くと、手にしたばかりの黒の隻翼を力強く広げ、未だ知らぬ世界へと果敢に飛び立っていった。



 ♢



 歴史上アフメト二世崩御の日として伝えられる一六九五年二月六日。その日、王は人間界から天界へと昇り、存在の格を人から天使へと昇華させた。


 全てはこの無知と無功で渇き切った心と身体を、溢れんばかりの名誉と礼賛で満たすため。過去の己から皇帝の座を簒奪し、歴史に名を残す名君として人生をやり直そうとする未練の奴隷――――その男の新たな尊名は、簒奪王ワスター=ウィル=フォルカート。

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