05 違和感の正体
「そういえば、一斗とこうやって二人で歩くのって久しぶりだね」
「久しぶり? 二人で歩いたのは初めてじゃないか?」
「そ、そうかな? あははは、なんか久しぶりな気がしちゃったわ。だって、いつもティスティに付きっきりなんだもの、一斗」
「んなこといってもなぁ……修行をいつも手伝ってくれてるし、ハルク親方の姪でもあるだろ?」
「ふ〜ん、本当にそれだけ〜?」
ジト〜っとした目で見上げてくるマイ。そのことになぜか嬉しさを感じる一方、照れていることを悟られたくないから目線をすぐにそらす一斗だった。
もちろんそのことはマイにはバレバレである。
「で、でもよ! 買い出しは疲れるだろうし、お前がティスティの代わりを申し出てくれてよかったよ。あいつ働きすぎる傾向があるみたいだからよ」
「はぁ〜。本気でそう思っているあなたのことを想うのは大変なことよね、ティスティ」
「ん、なんか言ったか?」
「ううん、な〜んも! それより買い物をパパ〜っと済ましちゃいましょう♪ さぁ、早く早く」
そう言って、マイに手を引かれてまち中を連れ回される一斗であった。
そもそもなんで二人でまちに来たのかと言うと、話は今朝に遡る。
ティスティの出会い以降、建設現場にはハルク、一斗だけではなく、マイやティスティも出入りするようになった。
そんなある日、ハルクから買い出しを頼まれた一斗とティスティだったが、マイが一斗と一緒に行きたいと駄々をこねたため、ティスティが譲る形になり今に至る。
さっきからマイに連れ回されっぱなしな一斗ではあったが、ハルクが最後に呟いた一言が耳から離れないでいた。
「まちの様子を気にかけてくんねーか。いや、何もなければいいんだが……」
買い物自体は面倒だからマイに振ってやろうと思っていたが、その一言が何故か引っかかったから今回の件を引き受ける気になった。
しかもーー
(建設以外のことで親方からの頼み事はこれまでねーしな。しかも、親方はいつも同じ時間帯になると、どこかで何かをしているっぽい。きっとそれと繋がっているのかも……)
「ねぇ、一斗」
「やっぱり後をつけたほうがよかったか?」
「おーい、か〜ず〜と〜!」
「いや、俺にも関わることならきっと言ってくれるはずだ。待つしかねーか」
どすっ!
「い、いってーな! なにしやがるんだ!」
いきなり体当たりしてぶっ飛ばされた一斗はマイに抗議するのだったが……
「……わたし、ずっと一斗に声かけてたんだよ♪」
見た目が満面な笑顔のはず……だが。
「ごめんなさい」
としか一斗は言葉が出なかった。
「よろしい。そういえば、以前一斗がティスティに仕掛けたっていう技ってなんだったの?」
「なんだったのって……お前が描いてくれたやつに書いてあった技だぞ?」
「だって、マイの中にあるのではなく、
そんなもんなのか、と思い一斗はあのときの話をした。
ティスティに仕掛けた技の名前は〈氣伝波〉と名付けられている。〈氣伝波〉は、力のレベルをコントロールし、氣を体中にめぐらせる〈発〉。そして、溜めた氣を遠くに放つ〈散〉の組み合わせバージョン。
まず〈発〉で体内の氣を限りなく無に近づけ、その発でめぐらせていた氣を〈散〉で飛ばし相手を無力化する。飛ばすというよりも、波を立てて遠くに伝えていくイメージ。
力んでいる相手であればあるほど影響は大きく、急速に力を失うからふらっと気を失う場合もある。
今回一斗はこの〈氣伝波〉のことを何も知らないティスティに使った。しかも、ご丁寧に
「一斗、次々に技を覚えていくね! えらいえらい。もうすぐ書いてある内容は全部覚えるじゃないの?」
「まぁ、な」
「……さっきから一斗、ずっと心ここにあらずな感じがするけど、どうしたの?」
一斗の雰囲気から何かを察したのか、マイは心配そうに声をかけた。
「あぁ、ちょっとな。親方の一言がずっと引っかかっててよ……そうしたら、なんかよくわからんがまちを歩いていたら違和感がするんだよ。
こう何か気付かないうちに大事なものがなくなったことに気付いたときの喪失感のようなーー」
「……普段の一斗には限りなく似合わない台詞だね」
「うっせ〜。でもな……お前はなんか感じないか?」
「う〜ん、どうだろう? 最近よくまちには行くけど、活気のなさは以前からのような気がするし」
(本当にマイは何も感じていないのか……やっぱり気のせいなのか? それとも……)
ずっと引っかかった感じが抜けないまま、買い出しを再開した。
「ありがとうな、マイちゃん♪ 荷物はちゃんと一斗が持ってくれたか?」
「はい♪ 一斗は普段はこんなぶっきらぼうですが、根は優しいので」
「ぶっきらぼうは余計だっつーの!」
「あははは、ごめんごめん! じゃあ食料は保管庫にしまってきますねー」
そう言ってダッシュでその場で去るマイを一斗とハルクは呆然と見送り、しばらくして二人は同時に顔を見あせて笑うのだった。
「買い出しありがとな、一斗」
「いつも世話になってるんだから、気にするなよ。それより……」
「例の件だな。どうだった? なにかわかったか?」
「それがーー」
一斗は買い出しの最中に感じたことを、事細かにハルクに伝えた。
最初は一斗の方を向き、腕を組んで話を聴いていたハルクだったが、話終わる頃には目をつぶって顔を見上げていた。
「そう、か。やっぱり
「あの現象? 親方はこの違和感の正体がわかんのか?」
「……おそらく、な。これまでは信じられなくて誰にも話せなかったけど、感じる力の強い一斗がそう感じるのなら間違いなさそうだ。
夕方作業が終わったら、俺の家に来てくれねーか……出来ればお前一人で」
「……わかった」
一言一言振り絞るに語っているハルクから動揺している気を感じて、何かがまちで起きていることを察する一斗であった。
トントン
「親方いるか?」
「あぁ、鍵はかかってねーから入んな」
「へぇ〜、ここが親方の家なんだ。初めてきたなぁ」
家の中に入った一斗はざっと部屋を見渡した。リビングと台所はあるが、あとはすべて資料やら大工道具なのかよくわからないものが所狭しと部屋中に陳列している。
「まぁ、実際この中に入れたのはお前が初めてだからな。他のやつらには見せれない資料や道具があるし」
「見せれない資料や道具? それが今回の件と関係あんのか?」
「そうだ。まずはこれを見てくれねーか」
ハルクはそう言って紙を一枚取り出した。その紙に描かれているのはーー
「アイルクーダ……なのか」
「そうだ。昨日この古代道具で投影したものなんだが、ちなみにこっちが一ヶ月前。そして、こっちが三年前」
新たに二枚紙を受け取った一斗は、再び違和感がした。
「さっきの紙を見たあとに一ヶ月前のやつを見てみると、なんか違和感があんな。なんなんだ、この違和感は……!?」
「わかったか、違和感の正体が」
信じられないが、何度見返してそうとしか言えないことがある。
一斗はそのことがわかってしまった。
「一ヶ月前まで
記憶を必死に辿ってみると、頭の中ではその場所には確か建物が立っていたはずーー
(一体何が起きているんだ? だって、あの建物のすぐ近くでマイと再会したはずなのに)
信じられない顔で一斗は受け取った紙を、黙ったまま何度も何度も見返した。
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