第1章 はじまりのまち編
01 内なる世界
結局一斗は色々悩んだ結果、もう一度彼女に会うために指定してきた現地にいってみることにした。
マイと会った日の翌朝、新幹線のぞみ号に乗って新横浜駅から名古屋駅まで直行。
名古屋駅でJRから名鉄本線に乗り換えて、各駅停車の電車に乗り
「ふ〜、ようやく着いたか。この場所で本当にいいんだよな……」
謎の少女マイの話をいきなり信じることはできないが、現地に行ってみてわかったことがある。
(あいつは絶対に
山崎川にかかっている橋の一つで、すぐ近くには名鉄の鉄橋と呼続という無人駅がある。
平安時代に藤原師長という人が保元の乱の敗者として流罪になり、この地にたどり着いた。近くには師長小橋の他に師長橋や師長が生前住んでいた場所に稲荷神社などがある。また、師長はこの地に流された後出家して
そういった歴史的背景のある建築物は残ってはいるが、地元住民からしたら普通の橋。でも、優からすると、他の人にはない思い入れがある。
なぜなら、記憶喪失だと判明した当初、警察に何度かこの場所に連れてこられたことがあるからだ。
優にとってはまったく見覚えのなかった場所だけれども、以前若い男女が通り魔に襲われて、そのうちの一人が犠牲になって命を落としたという話をこの後すぐに知った。
「時間通りのはずだが……やっぱりでまかせ――」
「ではないですよ、一斗さん♪」
「!?」
声があった方を振り向いてみたら、マイが昨日と同じ服装で、笑顔でほほ笑んでいた。
昨日と同じ服装を着ていて、明らかに場違いな感じがするのだが。その服装のままでここまでやって来たのだろうか?
「来てくれたんですね。では、早速――」
「いや、まてまて! 少しくらい話はできないのか? いきなりやり直しができるって言われても、こっちは全然ピンっときてねぇーからな」
やり直しがしたいという気持ちはもちろん今でもある。
俺のことをコケにした奴らに復讐したいし……でも、やり直しがもし本当にできるんなら、そのことをしたいだけにやり直しをするのか……。
「そう、ですね。わかりました。で、あなたは私に何がききたいですか?」
「あ、あぁ」
真っ直ぐ見つめてくるマイの瞳に、なぜか目を合わすことができず目線を川の方にそらしてしまった。
「や、やり直しができるって言ってたけど、あれってどういう意味だ? 過去に戻れるってことか?」
「え〜っと……やり直しと言っても、これまであなたが歩んできた時間を遡るわけではないわ。これから、
「別の……世界?」
「ええ、そうです。
(望んだ通りの世界? 世界の運命が大きく左右されるだと? 突然何言ってるんだこいつ)
いきなり話が飛んだ気がして、マイの言っていることがまったく理解できん。
「……具体的にはどんな世界なんだ? まさか魔法とか使えるようなファンタジーな世界じゃあーー」
「はい、ファンタジーな世界ですよ♪ きっとあなたにとっての常識では考えられないような事態が次々起こるでしょう。でも、そんな世界だからこそ得るものも……これ以上話すと余計な先入観を持ってしまうので、ここまでとしましょう。それと、あなたをあの世界に送るにあたって
「条件……だと? 何か俺にやらせる気か? 魔王を倒すとかよ」
ありきたりな展開を想像して、彼女の話がなんだかアホくさく感じ、投げやりに質問を返した。
「いいえ、あなたに何かをやらせるつもりは毛頭ありません。条件というのは、あなたはこれから立川優ではなく、世渡一斗と名乗っていただきますわ。その条件が飲めるのでしたら、やり直すチャンスを与えましょう。どうしますか?」
「与えましょうって、随分上から目線だな……わかった、その条件は飲もう。で、おれはこれからどうすればいいんだ?」
「そうですね……では、その場で少し待っていてください。準備をしますので」
そう言うと、マイはローブの中に手を入れて――何か取り出した。
(短い刃のない……柄!?)
そう。
マイの取り出したものは刃のない柄のみ。
不思議がる一斗をマイはしてやったりな表情で見つめ、一振りしたら、長さ20cmくらいの刃が柄から突如出現した。
刃はエメラルド色に光っていて、形はまるで――
ドックン!!
(なんだ!? あの刃を見た瞬間から、動悸が止まらねぇ……まさか、あの刃――)
サクッ
「えっ!?」
いつの間にか目の前からあいつがいなくなり、気が付いたら至近距離にいた。
(しかも…ナイフで俺を刺してる!?)
状況が飲み込めなくて、声も出ない。
驚いたことに痛みはまったくないがーー体の中から何かが湧き上がっているのを感じる。
マイが刺したナイフは一斗のみぞおちを刺しており、そこを中心に五芒星の魔法陣が展開された。五芒星の各頂点にある星々には鎖が絡まっており、まるで厳重に
魔法陣は点滅を繰り返しながら、次第にその速度が上がっていく。
速度が上がるに合わせて光はだんだん周囲に広がっていき、一斗だけではなくマイも包み込み始めた。
「さぁ、あなたの内なる世界に行きましょう。エルドラドへ――」
薄れゆく意識の中でマイの言葉がきこえたような気がした。
一斗は自分自身が光に包まれていることを感じながら、しだいに意識が遠のいていく。
そして、光がおさまるころには、橋の上には誰もいなくなっていた。
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