139.オムレツとあんかけ



 さて、リクエストは卵料理かぁ。何にしようかな。

 ざっと思いつくのはかに玉、トマトと卵の中華炒め、茶碗蒸し……でもこの3つは、あんかけ被り、トマト被り、蒸し料理を一から説明するのでパンクしそう、って理由で難しい。具材も多いしね。これから揚げ物という重労働をするのに、複雑な調理工程は目が回りそうだ。

 うーん、よし! オムレツにするか!

 必要なのは卵に牛乳、そして油。とてもシンプル。包丁もまな板もいらない! プレーンのオムレツを覚えちゃえばアレンジが可能になるし、形整えるのに失敗してもスクランブルエッグとして食べれるし! ほぼリスクなしで何度でも挑戦できるところは、次の課題になっていいのでは? かけるソースを個人で変えれるのも、好みが違う大人数な彼らにぴったりだし。


「副菜、オムレツにしましょうか」

「お、オムレツ!!」

「オムレツってあの……料理人が手首とんとんやってると何故かくるくる丸まっていくやつ!!」

「なんだって……!?」

「あんな難易度の高けぇやつを……!?」

「あれできんのルイ先生!?」

「う?」

「いやいやいやいや」


 そんなキラキラした目でこっちを見ないで!! クライヴさんなんて巨体にあるまじき可愛さで小首傾げてるんだが!? 尊敬の眼差しやめてください申し訳なさで頭抱えたくなっちゃう!!

 手首トントンってあれでしょ、調理場開放タイプのお店でシェフがパフォーマンスしてくれるやつでしょ! 憧れて私も挑戦した事あるけど、あれは無理! 本職だから可能な技だよ!?


「ああいうのは出来ないですよ。私が教えられるのは、フライ返しで整える方法くらいです」

「別の方法あんの!?」

「マジかよ盲点だったぜ……!!」

「すげぇ……黒焦げばっかだった俺達が、あんな綺麗な黄色作れるようになるのか?」

「進歩いちじるしいぜ……!!」

「調理レベル上がる日も近いんでは……?」

「う!」


 フライ返しでも目のきらめきが衰えずぅう……!! いや、私への感情より新たな期待の方に湧いてるから、方向転換できたよね? ならオッケーオッケー。


<ふふ、必死だね>

<しゃらーっぷ>


 くふくふ笑うテクトをジトっと見つめると、素知らぬ顔でアイテム袋から卵とフライパンを取り出した。切り替え早いね、どーもありがと!!

 そうだ、どう作るのか先に見せた方がいいよね。それを私達のお昼にしちゃおうか。チキンライスにオムレツをポンと置いて、即席オムライスとかどうよ。


<美味しそうじゃない。僕は構わないよ>


 じゃあ決定! テクト、鶏肉を一口大、玉ねぎをみじん切りにしといてくれる?


<いいよ。笑ったお詫びにチキンライスまで作っておいてあげるよ>


 さすがの気遣い、めっちゃ助かるー! ありがとう!! 私はオムレツに専念するね!!

 アレクさん達を振り返ると、私と同じように卵とフライパンを手にしてた。いいねぇ、言われる前に準備ができてると成長したなってしみじみ感じます。

 ついでにボウルと菜箸を出してもらおう。


「オムレツは1人分ずつ作るとわかりやすいので、まずは卵を4個ボウルに割り入れてください」


 Lサイズなら3個でいいんだけど。今日の手持ちはMサイズなので4個だ。


「ええーー。俺でかいオムレツ食いたいな。こんくらいの」


 フランさんが口を尖らせた。一般的な大人より小さい彼には、違和感のない拗ね方だなぁ。

 その両手は彼の胴体をゆうに超える距離を空けて立てられている。ほほう、お腹より大きいサイズのオムレツをご所望かー。

 仕草含めてとっても可愛いんだけど、今回は諦めてね。


「卵を増やすとまとまらなくなるので止めたほうがいいですよ。何とか形にしようと加熱を続けると焦げるし、全部固まっちゃうし、私は成功したことないです」


 食欲の権化である私ももちろん試した事あるよ。単純に卵増やせば出来るだろうという期待は、ものの見事に裏切られたのである。

 そんな私を見て、フランさんはいくつかの卵をすっとケースに戻した。


「よし! 卵4つ割るぞー!!」

「変わり身はやっ」

「だってルイ先生が成功してないのに俺が出来るわけないじゃーん」

「だよなぁ」

「まあまずは基本ができてから、だな?」


 モーリスさんに目配せされて、頷いた。

 卵を多くしなくても、かさを増す事は可能だ。かの有名な修道院のしゅわふわオムレツはめちゃくちゃ膨れるから、フランさんの理想に近いんじゃないかなと思う。

 ただ、最初からスフレオムレツはちょっと難易度高いかなぁと思うんだよね。白身の泡立てがめちゃくちゃ大変だし、壊れやすいからひっくり返すのも難しいし。

 大きいオムレツをいつか作るためにも、フランさんには是非、今日の基本を覚えてほしい。応用はそれからだ。

 皆がそれぞれ、自分のボウルに卵を割り入れたのを確認する。


「じゃ、作りましょうか」


 ボウルに殻が紛れてないか確認したら、少しの牛乳を注いで白身をよく切りながら混ぜる。

 ここで白身の塊が残らないようにするのが大切だ。雑にしちゃうと完成したオムレツから加熱しそこねた汁が出ちゃうからね。


「牛乳は多めに入れてもいいー?」

「あまりたくさん入れると、固まらなくなって扱いづらくなりますね。スクランブルエッグなら問題ないんですけど、今回はオムレツなので……」

「りょうかーい。私のオムレツが型崩れするのは牛乳入れすぎだったからかー」


 なるほどドロシーさんは牛乳が好き、と。

 オムレツじゃなくてオムライスだったらなぁ。牛乳多めのふわとろオムライス出来るけど……それはまた今度やろうか。


「私が今日教えるオムレツは、後でソースをかける予定ですが、塩コショウで食べたい人はここで入れてください」


 ほうほう、と塩コショウを振りかけていく人を見守って、卵の方は準備が完成した。勢いよくかけすぎる人はなし、大丈夫だね。

 ボウルの卵は一旦アイテム袋に避難していただいて、次の話を勧めよう。

 フライパンにサラダ油を入れる前に、作業を中断する。オムレツは短期決戦なので、先に工程を丸々見てもらおう。一緒に作り始めたら、目が足りない! ってなりそうだし。


「私は今回、先にサラダ油を入れて、フライパンが熱くなったらバターを追加する予定なんですけど……実はバター入れなくてもオムレツは作れます」


 だからバターナイフに山盛りバターすくうのはちょっと待ってねアレクさん。早め早めの行動を心掛けるのはいいんだけど、さすがにそれは多いです。


「そうなん!?」

「てっきりバターを大量に使うもんだと」

「いやー、くどくなりますね。それに焦げ付きやすいし」


 バターを加熱前から入れないのは、焦げて茶色くなるのを防ぐためでもある。強火だからすぐ色変わっちゃうしね。

 ちなみにバターが嫌な人は、最初のサラダ油をバター分増やしておくといい。匂いが苦手な人や、こってりよりあっさりがいい人だっているからね。

 油の種類はオリーブオイルもありだし、マヨもあり。ごま油もよし。ここらへんはちょっと癖がある代表達なので、人によるかな。

 何なら粉チーズを混ぜる人だっているし。そういう意味でも1人分ずつ調理するのは、理にかなっているんだよなぁ。

 ただ、どの油だろうと共通してるのは、普段の調理よりちょっと多めに入れる事。

 卵は油分と相性がいい。ふわふわになってくれるし、フライパンにくっつくのも防いでくれるし、いいことづくめだ。


「だからと言って入れ過ぎは油っこくなるので注意です」

「フランそれ入れ過ぎだってよ」

「しまったー!」


 頭を抱えたフランさんの前には、揚げ物するのかと言わんばかりになみなみと油が注がれたフライパン。張り切ってるのはわかるけど、それは別の皿に移しておきましょうか。後で魚揚げるのに使いますからねー。

 クリスさんが呆れた視線を、自分のフライパンに戻す。どうやら彼女はオリーブオイルを選んだらしい。薄緑がとろりと鍋肌を滑る。

 フランさんは私と同じくサラダ油+バターかな? さっきのバター、手元に置いてあるね。油戻せた? じゃあ先に手本を見せましょう。

 焼き上がりに盛る皿を手元に置いて、いざ加熱!! サラダ油が熱されているうちにフライパンをぐるりと回し広げて、ちょっと待つ。

 手をかざして熱いなと思ったら、フライパンに卵を混ぜていた箸の先をつける。なするように広げて卵がすぐに固まるようなら、適温だ。

 まずバターを入れる。じゅわっと音がして、白い塊が端から崩れ、溶けていく。香ばしい匂いがした。口内の涎も増した。

 バターを投入したら時間勝負だ。溶けきる前に卵液を一気に入れ、菜箸で大きくかき回す。スクランブルエッグを作る要領で、手早くだ。


「え、結構固まってるよ先生。まだ混ぜんの?」

「大丈夫です。目を離さないでくださいね」


 卵が半分ほど固まったら、卵の縁を菜箸で軽く剥がす。そうしたら、菜箸からフライ返しに持ち変えだ。

 フライパンの持ち手を正面から左側へ動かして、自分も右側に少し移動する。斜めの位置だ。これが個人的に、一番やりやすい。

 奥からフライ返しを差し込み、軽く底面を通す。そして手前側へと折り込んだ。よし、茶色くなってない! 上から見たら、ちょっとしゃくれてる貝の口だ。

 卵の端を内側にかき寄せて、さらにひっくり返す! よし、破れずオムレツの形になった!

 後は斜めに傾けて、開いてる所を焼き固める。中身が出ないようにするためだ。

 そしたらコンロの火を消し、近くに寄せてた皿へフライパンを近づけて、フライ返しで位置を調整しつつオムレツを滑らせる!

 ふかぁっと白い湯気を上げながら、真っ白い皿の上、黄色いオムレツが鎮座する。ふう、上手く焼けた!


「おおー!! すげぇ、オムレツだ!!」

「店で見た光景じゃん!!」

「黄色い! 焦げてない!!」

「強火だったのに!!」

「ルイ先生すげー!!」

「う!」


 おぅふ。皆さんと料理教室してると自己肯定感上がりそうでやばい。照れる。にまにましちゃう。落ち着け私……今日はまだ揚げ物っていう大仕事が残ってるんだからね!


「じゃあ皆さんやってみましょう!!」

「「…………」」

「わあ、急に黙るじゃんそっちー」


 口を引き結んで硬直しちゃったアレクさん達を、ドロシーさんがからかう。さっきまで生き生きしてたのに、こうも黙られるとちょっかいかけたくなるよね……ただまあ私は笑えないんだけども。

 たぶん私のせいなんだよなぁ。

 初めて会った時、強火で肉を焼いて黒焦げにしてしまった挙句、私にすごい怒られて。トラウマになってしまったと思う。事実、料理教室の最初の頃は私の前で火を使うの緊張してたし。

 今では平気そうに焼けるようになったけど……あの時、勢いに任せるべきじゃなかったなぁ。

 そう思い悩む私の肩を、パオラさんが軽く叩いた。はっと顔を上げると、あっち見て……とアレクさん達を指す。


「卵流し入れてたよな? こう、どしゃーって」

「う!」

「結構かき混ぜてたな」

「フライ返しでこうして……あれ、次どっちだった?」

「どっちも手前に向かってたはずだろ」

「後は表面を焼いて、なんかこう……つるんと」

「あれは野菜炒めを皿に盛るのと同じ感じでいんじゃね?」

「火力強いけど、短い時間で仕上げるから焦げねぇんだな。すげぇわ」


 フライパンを囲むように俯いてる彼らは、小声で話し合っていた。前向きに、どうやってたか思い出しながら、検討してくれてる。

 嬉しいなぁ……


「ルイも考え過ぎよ。大丈夫、打たれ弱い奴らじゃないから」

「……はい」

「……だいたい、最初のは全面的に彼らが悪い……」

「そうですよぉ。気に病むだけ無駄ですぅ」


 女性陣の皆さん、親しいからか長い付き合いだからか容赦ないな。

 いや、私も気にしすぎちゃ失礼だ。言っちゃった事は取り消せないしね。だからここで言うべきは……

 アレクさん達に近寄って、微笑んだ。


「形が上手く作れなくても問題なしです! 最初からスクランブルエッグ作る予定だったって言い張ってもいいんですよ」

「ルイ先生天才か?」

「主婦の知恵です」


 言わなきゃバレないんだからね、と微笑むお祖母ちゃんを思い出して笑みが深まった。













 皆がオムレツを作り終わった後、今度はソース作りになった。なお、一部の人は諸々の事情でスクランブルエッグに変更した事を、報告しておこう。

 オムレツを焼いたフライパンにそのまま、少量の油、しょうゆ、砂糖、ケチャップ、酒、それから焼きそばソースを入れる。ケチャップと酒は多めだ。ちょこっと煮詰めれば、即席デミグラスソースの出来上がり。

 普段なら焼きそばソースじゃなくて中農ソースにするんだけど、この地域、不思議な事に焼きそばは普及してるから焼きそばソースは皆知ってるんだよね。だから焼きそばソースで代用だ。


「このソースはハンバーグにも使えますよ。ハンバーグの肉汁を使う場合は油を入れない方がいいです」

「ちょぉ、待って、ハンバーグは聞いてない」

「別の料理で誘惑しないで……腹減ってきた……」

「あっはっは」


 私と一緒にいると飯テロに合う。もはや必定ですよ。


「ちなみにオムレツは焼いてる途中にチキンライスを入れて巻けばオムライスになりますし、甘辛く煮た肉や、チーズをたっぷり入れて具入りオムレツも美味しいですよ。かけるソースを変えれば味変できて楽しいですし、嫌じゃなければ何度も練習してみてください」

「やる……!! 俺、絶対オムレツ上手くなるよ先生!!」


 フランさんの瞳がやる気で燃えている。うんうん、彼の気持ちがしぼまなくてよかった。

 今回はデミグラスソースとケチャップしかかけるものがないけど、次はクリーム系も試してみてくださいね、と言うとクリスさん達がにんまりなさった。ええもう是非とも、色んな味を食べてみてほしい。

 オムレツを作り終わったら、アイテム袋に一時保存しておいて。

 次は大物、白身魚の揚げ物だ。

 底深い鍋に油をたっぷり注ぐ。サラダ油もいいけど、個人的にはこめ油が好き。あまり油っこく感じないというか、さらりとしてるというか……まあここにこめ油はないそうなので、サラダ油でやるけども。

 火を付けて、それぞれ1人、鍋に見張りを立てる。他の方々は切り身の準備だ。

 下味をつけてた切り身の汁気を拭いてから、合わせておいた粉を薄くまとわせて、余計な粉を振って落とす。粉はなるべく揚げる直前にまとわせておいた方がカラっと揚がるから、全部に付けるのはやめておこう。


「んんー。ルイ先生、これ結構熱くなったけど、いつ揚げんの?」

「そうですね……菜箸を入れてみましょう」


 木の箸の先を、油に沈める。沈めた所から細かい泡がじゅわわわっと出てくると、170度くらい。適温だ。


「オムレツの時も菜箸で温度を計ってたわね」

「便利ですねぇ」

「わかりやすい目安なもので、多用しちゃいますね。揚げ物ならパン粉をちょっと落としても判別しやすいです」

「なるほど」


 切り身の入れ方は、鍋肌からゆっくりと、油を跳ねさせないように滑らせて。温度が下がったら揚がらなくなるので、一度に入れる個数は3から4個。

 揚げてる途中、ちょいちょいいじってしまうと白身魚は特に崩れてしまうので、我慢の時間だ。気になって箸でつつくニックさんを、ラッセルさんが笑顔で羽交い絞めにした一幕があったけれども、おおむね皆我慢できた。

 片面がきつね色に揚がったら、ようやくひっくり返す。切り身同士がくっついていたら、なるべく引き剥がす。

 それから同じくらい待って、色が変わったら油を切りつつ取り上げて、準備しておいたバットに並べる。縦向きにするとよく油が切れるので、サクサク感が増します。


「きつね色ってどんなんだ……?」

「色で見分けがつかない場合は、箸で触ってみるといいですよ。表面がカリッとして硬くなると、だいたい食べ頃です。それでも不安な時は、一度取り上げてから切って中身を見てみてください。今日は白身だからわかりづらいけど、肉だったら色が変わってればいいですし」

「ほほう」


 そうこう話していたら、第一陣が揚げ終わる。んんんー、いい匂い!!

 揚げ油にびくびくしてたアレクさん達も、初めて揚がった白身魚に涎を押さえられないのか、じゅるり、ごくん、などと呑み込む音が聞こえてくる。ふふふ、揚げ物の魅力にハマってしまったようですな。

 その後も順調に揚げ調理を続ける。うん、油はちょっと跳ねたりするけど、爆発するような音もなし。これなら大丈夫だろう。

 揚げ物をこなした人達だけ呼んで、あんかけ作りを始める。

 甘酢あんはフライパンに……あ、いやこの人達の作る量半端ないから、鍋になるな。鍋にごま油を熱し、生姜とにんにくを入れて香りを立たせる。そしたらきのこ、人参を追加して炒め、火が通ってきたらピーマンを加える。油を絡ませながら炒めたら、合わせ調味料を入れて煮立たせて……甘酢あんはお酢が入ってるから、真上に顔を出すのは厳禁ですよアレクさん。

 そうしたら水溶き片栗粉を混ぜながら入れ、固まらないように素早く丁寧にかき回してとろみをつける。

 ちなみに片栗粉はしっかり火を通さないと、後々水気が出てくるので注意です。


「じゃあとろみがついてからもしばらく煮るのね」

「早めに火から下ろしちゃ駄目なんですねぇ」

「火力が強ければすぐ終わりますけどね。それが出来るのはシェフだけですよ」


 家庭料理に超速中華は真似できないのよ……あの火力扱うの無理です。

 気を取り直して、生姜あんも作る。

 こちらは先に鍋へ調味料をすべて入れて、煮立たせる。そうしたら人参、玉ねぎ、きのこを加えて、しんなりしたら片栗粉で同じようにとろみをつけて完成だ。

 しんなりするまで待っている間に、そういえば、と思い出した。


「だし汁って売ってるものなんですね」


 これ魚料理に使える? ってワクワクした様子のアレクさん達に渡された、抱えるほどの大きな瓶。だし汁と大々的に書かれてたそれに、たぷんと薄黄色の液体が入っていた。

 匂い嗅いだらすぐわかったよね。昆布とかつお節の出汁だった。

 おかげさまでたっぷりあんかけに使えたわけだけど。世間では顆粒じゃなくて液体で売ってるんだなってびっくりした。


「ああ。街の料理店から買えるのよ。だし汁以外にもコンソメとか、鶏だしとかも買えるわ」

「え、すごい!」


 鶏だしあるんなら、今日使えばよかったなぁ。甘酢あんと合うよって、後で言っておこう。

 しかし液体状態で出汁を売る、か……私も真似してみようかな。和風だしでも色んな種類あるし。テクトが出汁好きで結構種類揃えてるんだよなぁ。新たな事業展開もありでは?

 なんてケットシーらしく考えていると、クリスさんはくすりと笑った。


「アレク達、喜んでいたでしょう。調理スキルがついたって」

「え? ああはい」


 あの時はすごい騒いでたなぁ。とても嬉しそうで……


「実はね、料理店の方も売る相手を選ぶのよ。最低でも調理スキルがついてない奴に売る出汁はないの」

「……はい?」

「つまり、初めての出汁買いなのよ。あの人達」


 そら歓喜喝采して大騒ぎますわ。私も諸手を挙げて大喜びしますよ。

 ちらりと、楽しそうに料理するアレクさん達を見る。つまみ食いしようとして怒られたり、ちょっと跳ねた油から逃げたり。元気いっぱいだ。


「……料理教室してよかったなぁ」




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