133.幼女、オプション買いを多用する
翌日。清々しいほどの青空の下、私は家にいる全員に声をかけて外に出た。芝生の上にいつもの絨毯を敷いて、ミチを除く皆に座ってもらう。
今日もミチは元気に跳び回ってるようだ。朝の
さてと立ち上がって、ぐるりと見回す。テクトは
え、待って、かわいい。どっから見ても大好きな友達に抱き着いて上機嫌なお子さんじゃん。リトジアは嫌そう……な顔はしてない。困っているか戸惑っている感じで、拒否反応は出てないみたい。よろしい、2人とも可愛いすぎるの罪で私の心のアルバムが増えました。ご馳走様です。
私以外に触られても大丈夫になってきたなぁ。キースくんの押しの強さが功を奏してか、リトジアのリハビリがどんどん進んでく。悪くなさそうだから、良かった。
<ルイ、気がそぞろになるのはわからないでもないけど、本題>
おっけー相棒、にまにましてないで現実に戻ります。
「あのね皆、私から一つ提案があるんだ」
「ルイがそのように真剣な顔をしているという事は……キッチン関係の事ですか? それとも本日の夕食の話?」
「……え!? もっと重要な話じゃないの? 改まった様子で集まって欲しいって言うから、てっきり……」
<リトジアも学んだねぇ。ヒュー、ルイがこういった真面目な顔をする時は、大体が生活関係の話だよ。深刻な話なんてほとんどない>
「2人とも私の性格把握しすぎなんだよなぁー!」
キッチンも関わってくる話だけれど! 食欲方面に気持ちが傾いちゃうのも否定しないけど!! 新入りの方々に先んじてバラされちゃうっていうのは、ちょっと恥ずかしいぞー!
「あのねヒューさん。私ってば欲が食に振り切れてるタイプの幼女だから、あんまり深刻に考えないでね」
そっかって肩の力が抜けて行くヒューさんに、ごめんねって思いながら口を開く。
深刻には考えないでほしいけど、まず間違いなく、これからショックを与えまくるからさ。快適な生活のために許してください。
「実はさ、このままじゃ手狭だから、家を大きくしようと思うんだ」
本当はグロースさんが健康診断してくれた次の日には言うつもりだったんだけど、予期せぬ悩みの種が発生しちゃったからなぁ。私の問題が解決するまでって、保留にしちゃってたんだよね。まあ保留期間で買いたいものがどんどん増えちゃったけど。
「あ……それは僕らのせい、だよね」
色々と金を出させた上にさらに出させるなんて、と表情が物語ってるヒューさんに首を振る。いやいや、違いますって。せいではないよ。
「ちょうどいいきっかけだなぁとは思ったけど、迷惑じゃないよ。元々、お金が貯まったら増やそうかなって考えてたから」
いつかは食品を長期熟成させるための冷暗所とか、雨が降った時でも悠々と遊べるプレイルームを作ってもいいなー、なんて妄想広げてたんだよね。
なんたって家屋購入のオプションには、部屋を増やす項目があったから。ああでもないこうでもないと想像を掻き立てる種は、ヒューさん達が来る前から蒔かれていたわけです。
ありがたい事に雑貨店の収入はルウェンさん達への味噌授業でさらに上がったし、魔族の方々からの臨時収入もあった(あの人達、冒険者と同じ価格設定で大量買いするから儲けが爆上がりするんだよね)。大きな買い物をしても大丈夫なくらい箱庭の改装費は貯まってるんだ……
だから聖樹さん、根元貯金の袋を地表に押し上げなくても大丈夫だよ! 箱庭改造費はもちろん、2人を養うお金は手元に充分あるから!! それ表に出されると、通帳を皆に見せびらかしてるみたいで私すっごく恥ずかしいなぁ! っていうか普段はお願いしなきゃ根っこの隙間から出さないのに、今日はぐいぐい来るじゃん!? ヒューさん効果か!?
聖樹さんの根が、ずももっと
ああもう、ヒューさん来て聖樹さんめっちゃアクティブになったなぁ。ここで正式に暮らせるって決まったから、嬉しくてテンション高いのかな? 元気そうで何よりだけども、ただ何というか……穏やか聖母感じゃなく、押せ押せ年上女房みを感じ始めて来たのは、私の溢れんばかりの想像力が見せてるんだろうか。
いやいや、妄想は程々にしなきゃ。
リトジアだけが聖樹さんの根元に気付いたらしいけど、そっと視線を逸らしてた。うん、ツッコミ入れない事にしようね。話が進まなくなりそうだからね。
あわあわしてるヒューさんの鼻先に、指を突き付ける。背後は気にしないでこっち見てくださーい。お願いしまーす。
「いいですか、ヒューさん!」
「は、はい!」
「箱庭は広い! キースくんは毎日元気に駆け回ってます!」
「そ、そうだね」
「でもそれは、ありがたい事に晴天続きだったからです! 雨が降ったら、体調を崩すかもしれないから外に出す事は出来ません!」
「……それは、確かに!」
ハッと気づいたヒューさんはキースくんを見て、何かわからないけどおじたんがこっち見てるーって感じでニコッと返され、表情を緩めた。
よし、こっちのペースに巻き込めてきてるぞ! この調子で行こう!
「雨が降っている間、キースくんは駆け回りたい欲求を持て余します! ではあの狭い家でどう発散します? 出来ないでしょう!」
「む、難しいね……!!」
「むー!」
キースくんがノリノリで片腕を上げる。周囲のテンションに合わせてくれるなんて、ありがたい可愛さ!!
「さらにさらに! 私は保存食いっぱい作りたいんです! ヒューさんの故郷にもあったでしょ冷暗所! 漬物とか、瓶詰とか保存する涼しい所!」
「は……あ、あったよ! それぞれの家の、地下とか……!」
「地下タイプかー! いいなぁ、地中って温度湿度一定だからいいって話聞いた事あるぞー! めっちゃワクワクして来た!!」
鍾乳洞や洞窟でワインを保存する、みたいな感じだよねきっと。地中保存やった事ないから、見てみたいなぁ。
実家は倉庫があったから、そこにまとめて入れてたな。ずらりと並ぶ漬物ツボや、蓋付きバケツの壮観さよ。あれ全部が食べ物なんだなぁって、よだれ飲み込みながら眺めてたっけ。独り暮らしの時は冷暗所がなくて、冷蔵庫にみっちみち入れてたよ。そんなに大きくない冷蔵庫に無茶させてた自信はある。
何となく想像が出来てきたのか、ヒューさんの表情がちょっと明るくなってきた。よぉし、今だ!!
「ってわけで、私は家の増築を推奨します!!」
「異議なしです」
<僕も構わないよ>
「そう、そうか……必要な事、なんだね?」
「うん! とっても!」
「じゃあ、その、僕はいいと、思う…………早く、早く稼げるように、なろう……」
儚げに頷いたヒューさんが、ゆっくり息を吐き出した後、胸を抑えながら呟いた……自分がまだ働けてないから、役立たずだと思っているから、申し訳なくなるんだろうなぁ。幼女になりたての頃は私もそうだったから、ちょびっと気持ちがわかります。
自分で稼げるようになればいい方向に改善すると期待して、早く健康体にしてダンジョン連れて行こう。宝箱の中身で呑気に一喜一憂できる日が来るといいなぁ。
とにもかくにも、私達は家を増築する事になったのである。
じゃあやろうかってカタログブックを取り出した私を、ヒューさんは不思議そうな顔をして見てきた。
「そういえば、どうやって増築するの? テクトの力なら、家を建てるのも、簡単に出来そうだけど……」
そういえばヒューさんには、この家の成り立ちを詳しく話してなかったっけ。リトジアは一緒に買い物するうちに伝えてた気がするけど……
テクトを振り返ると、照れくさそうに頬をかいてた。
<ああー、うん。そう思ってもらえるのは嬉しいよ。でも僕ね、力持ちではあるけど建築の知識がないんだ。むしろ小屋を一人で建てた事があるヒューの方がすごいからね>
「え、ヒューさん小屋建てた経験あるの!? すご!」
「あ、いや。僕なんて、全然…ほんの小さい、雨風をしのげる程度のものを、必要だから作っただけで……それに、村の人達に色々と、教えてもらってやったから……」
「どんな大きさでも建てれたらすごいよ! 私達なんて、何したらいいかわからなくて、とりあえず地面に木の棒突き刺してたもん」
<懐かしいね>
「突き刺さ……地面に穴開けて?」
「ううん。そこらへんの地面へ無造作に、ドゴッと」
「……テクトの腕力ってすごいよね」
自分を運ばれた経験があるヒューさんは、どこか遠くを見ながらしみじみと言った。あの小さな体に運ばれちゃうと、その顔しちゃうよねー。
「でもそれから次へ進めなくて、結局カタログブックに頼っちゃったんだ」
「その魔導具に?」
「うん。ナビ、私が買った
──かしこまりました。
皆に見えるようにテーブルにカタログブックを広げると、魔導板が出てくる。映っているのは部屋の内装、水場、床板や配管の変更に、増築の部分もある。目次みたいだから、わかりやすい!
「ほら、ヒューさん。この画面見てね。色んな部屋があるから、好みのやつを選んでいいよ!」
「え、ええ?? へや、って……選ぶ、ものなの?」
「このカタログブックに関してはそうだねぇ。家具は別で買って自力で並べるよ」
「……先に聞かせてほしいんだけど」
「うん」
「……部屋を買ったら、どう、なるの?」
「んー、部屋だけで買った事がないからなぁ。この家は浮かんで届いたよ、目の前に」
「浮かんで?」
「浮かんで」
こくりと神妙な顔で頷き合った後、ヒューさんは一度、聖樹さんと家を見て、ぶんぶん飛んでるミチを見て、それから私とカタログブックを見た。信じがたいものを目撃したような、そんな顔だ。
私も増築に関しては、項目が存在してるってだけで妄想がたぎってたからなぁ。実際にカタログブックに頼んだ事ないから。ドキドキしてるよ。大丈夫、何事も経験ですよヒューさん!
「ナビに聞いてみようか。ナビ、家の増築をしたいんだけど、どう買えばいいのか、買った後はどうするのか、教えてくれる?」
──かしこまりました。
落ち着いた声と共に、ぶぅんっと、新しい魔導板が現れた。え、2枚目?
──こちらの魔導板に表示されますのが、家屋の設計図です。間取りに間違いがないか、ご確認ください。
新しく出てきた魔導板を覗き込むと、我が家を上から見た図があった。おお、すごい。マジで設計図だ。キースくんがちょんちょんとつつくけど、反応はない。
「うん、この通りだね」
──増築のオプションをご利用の場合、既存の部屋を一区画として、自由に変更が可能です。サイズの変更、任意の場所や角度へ移動させる事が出来ます。魔導板に触れて、お好きなように変更してください。最終確認の後、図のままに施工します。
「それはつまり……部屋の大きさを変えたり、部屋と部屋の間に新しくスペースを作り出して、増築出来るって事?」
──その通りです。
「家の中にある家具は?」
──マスターの任意の場所へ移動いたします。
<へぇ、便利なものだ>
「ね、ナビってめっちゃ天才。部屋を買ったらどういう風に家にくっつけるのかな」
──建造物に付随する各種パターンからお選びいただいた一室はご購入後、任意の位置へ転送、微調整を行い融合施工ののち、扉を取り付けます。
「そうなると外装も綺麗に整えてくれるの? つぎはぎな感じにならない?」
──違和感のないものへ調整いたします。
「元の家と屋根の高さが違っても?」
──お任せください。
頼もしい一言、さすがカタログブック様だぁあ! 毎度ありがとうございまぁす!!
ヒューさんに言われたまま説明すると、口を開いたまま固まってしまった。ショックでフリーズするのはまだ早いですよー。わからんでもないけど。
「ほらほら、ヒューさん。自室はどんなものがいい? 壁や床の濃淡選べるよ。木の匂いに拘りとかある? 家具も選ばなきゃだから、今日は忙しくなるね!」
「え、え、あ、ぼ、僕は、そんな、選ぶなんて……」
「じゃあキースくんに選んでもらう? 好み分かれるかもしれないけど」
「きー?」
「そう。今は皆で一緒の部屋に寝てるけど、一応、女の子と男の子だからね。自室を男女で分けようかなって……言っても難しいかな。んー、ヒューさんとどんなお部屋に住みたい?」
「んー、んー、きー、きーね。おふとん、すきだから、おふとんのおへや、すみたい!」
「ん゛ん゛っ! それはもう、もちろん! キースくんの好きなお布団、お部屋に入れようね!!」
「わーい!!」
キースくんの満点笑顔! 眩しい!!
っはー!! たまらんわ! この萌えの波動!! HPが限界突破して回復してる気がする!!
「リトジアはどんな部屋にしたい? リトジアの好きなもの、部屋に置こうよ」
「あ、はい……私と同じ部屋で、まだ寝てくださるのですね」
「一人寝は寂しいんだぞぉ。私は泣く自信があります」
「……はい、私も寂しく思います」
<僕のベッドはルイのベッドの隣に置くからね>
「オッケー、了解!」
リトジアは私と同じ部屋で、と。ここでチラッとヒューさんを見ると、肩を跳ねさせた。あ、ごめん。びっくりさせたね。
「ヒューさんは、そうだなぁ。ここだけは譲れない! って所、ある?」
「僕、は……」
もう一度聞いたら、口ごもってしまった。葬式の件で自己主張してくれるようになったと思ったけど、さすがに今日は畳みかけすぎだったかな……
反省して視線を逸らすと、ヒューさんから、呟きくらい小さな声が漏れた。
「……聖樹、の、傍が、いい……です……」
「うん! もちろん、いいよ!」
私も聖樹さんの枝下で寝たいから、部屋の位置は慎重に決めなきゃ! 二部屋分くらい、聖樹さんの枝は広いから余裕だね!
聖樹さんモテモテだなぁ。そう思いながら見上げると、ざざっと早い葉音がした。
「出来たねぇ」
「出来ましたねぇ」
<前より随分と大きくなったものだね>
「おっきぃー!」
「…………はぁ」
ナビが施工完了を告げた後、皆で家の前に立つ。
見上げる高さは、平屋のままだからあまり変わらない。ただ横幅が大分変わった。でっかいプレイルーム突っ込んだからなぁ。その分の幅は増えるよね。
顎が落ちたまま閉まらなくなったヒューさんの手を引いて、玄関前のアプローチを登る。キースくんが玄関ドアに飛び掛かって、ガチャリ、扉が開いた。
「わ」
思わず声が出た。家の素材は変わってないし、空間が広くなっただけだろうと軽く見てたけど、全然違う。鼻を抜ける木の香りを深く吸い込んで、吐いた。空気が違うねぇ。“私達の家”だったものが、“新築の家”っぽい匂いになってる。
<早く入ろう>
「うん」
入ってすぐ、玄関口は広めにとった。人数が増えたから、出入りで混んだら困るものね。入ってすぐ左側のキッチンは作業スペースが広くなったくらいで、ほとんど変わりはない。
玄関から右側には靴箱と、その奥には前になかった扉。あそこは私の聖地、冷暗室だ。キッチンの向かい側にあると便利だなぁって思って置かせてもらった。
窓のない、ひんやりとした室内は、これこれこういう部屋が欲しいってナビに頼んだら二つ返事で用意してくれた。カタログブックには頭上がりません……ふふふ、保存食いっぱい作ろーっと。
玄関で靴から愛用のつっかけサンダルに履き替える。家の中では楽な格好で、がコンセプトである。スリッパも悪くないけど、サンダルならすぐ外に出れるもんね。
キースくんは新しいサンダルが嬉しいのか、喜んではいてくれた。可愛いねぇ。まあ、すでに足の裏が固くなってきた彼は、外を駆け回るのもほとんど裸足なわけだけど。毎度獣人のポテンシャルに驚かされるなぁ。
ヒューさんはボーっとしてるので、テクトが軽く足を持ち上げて私が履き替えさせた。家が浮いてる現実が受け入れがたかったんだねぇ。頑張って呑み込んでくださいね。
少し歩いて、左側。ダイニングだ。大きなテーブルがある。皆で囲めるように、買い替えたものだ。これから、ここでいっぱい、色んなご飯食べるんだ。ふひ、今日は何を食べようかなぁ。
中央に建築上必要な、大きい柱。その右側にリビング。ずっとお世話になっていたユニット畳を、一区画にすっぽり納めてみた。ダイニングより狭いのは仕方ない。お隣に位置する冷暗室がスペース取ってるからなぁ。
ユニット畳の奥に、寝室にあった神棚と仏壇を移動した。北西を背後に、ダイニングを向いてる。男女で寝室分けるって言ってるのに、皆が毎日お祈りする場所が女子部屋にあったら問題だよなあって思って移したんだよね。
ここなら私達が楽しく過ごしてるのが、良く見えると思うんだよ……魂はもう、みんな神様の下に向かってるって知ってるけど。思うだけなら自由だからね。
リビングとダイニングの先、左側には扉が二つ。手前の扉は壁側、テラスへ通じてる。前の家と同じで、聖樹さんの所にすぐ出れる扉だ。
奥まった方にあるのはトイレへの扉。今回の増築でトイレも増やした。人数増えたらね、必要だよねトイレ。
ダイニングと近くて入りづらいかもしれないけど、ナビに頼んで防音の利いた壁にしてもらったから。まあ、問題ないでしょう。
さて右側には何があるかというと。
「きゃー!!」
キースくんが歓声を上げながら、サンダルを脱ぎ捨てて広いスペースを駆け回る。艶々の床板は、素足で踏めばきゅっと音がする。
プレイルームは広さも高さもしっかりとった。外から見れば、平屋の屋根からプレイルームの部分だけぴょこんと頭が出る事になる。ユニット畳のリビングから家の端まで、長方形のスペースはキースくんの遊び場だ。箱庭の出口側に作ったから光が入りづらくはあるんだけど、屋根を高くして南側に窓を付けたから、意外と明るい。
さて、高さを取ったのは採光のためだけじゃない。走り回るだけじゃ面白くないだろうと思って、室内ならではの遊びを用意してみたのだ。
「ねえちゃ、これ、なにー?」
「ここを掴んで登ると、上まで行けるんだよ」
早速興味を持ったらしいキースくんに呼ばれて、駆け寄る。プレイルームの端に太いロープがぶら下がってる。そのロープは等間隔で丸い金具がついてて、トンネルになっているのである。
そうつまり、室内アスレチックだ。上に新しく取ったスペースに転倒防止用の頑丈なネットを張り巡らして、そこへ登り降り出来るトンネルを取り付けた簡易的なもの。一部には床も張ったから、そこを秘密基地にしてもいいと思う。
ド素人が想像するアスレチックだけど、キースくんは大分ワクワクしていらっしゃるらしい。やったぜ。
ちなみにキースくんの運動神経ならいけるだろうと思って、奥側の壁にはボルダリングの壁も取り付けてみた。壁下にはマットレス完備。ふふ、私も体力向上のために使ってみようかなって思ってる。
きゃいきゃいと声を上げて登っていくキースくん。うーん、動きに安定感がありますな。これなら大丈夫そうだ。
「私がキースを見てますから、内覧を進めてください」
「リトジアいいの?」
「はい。ちょうど、呼ばれてしまいましたし」
「りぃー! りぃ、こっち!!」
満点笑顔でロープの間から手を振るキースくんを一瞥して、リトジアは頷いた。うん、じゃあ任せよう。
「じゃあ、ヒューさん行きましょうね」
「……ふあ」
いまだ放心状態なヒューさんを引いて、プレイルームから出る。トイレの扉を通り過ぎて、この家に初めて出来た廊下に入る。
「ヒューさん、この廊下には3つ扉があるけど。手前が女子部屋。その次が男子部屋。一番奥が洗面台とトイレとお風呂だよ」
水場はタイルや壁は変えてない。広さだけ確保した。扉を開けて真正面に洗面台と鏡がお出迎え、左側にトイレ、その奥に脱衣所とお風呂がある。あ、お金に余裕があったから、お風呂場に換気扇の魔導具追加したんだった。それは大きな変化だよね。カビなぞ生やさんからな絶対に。
「……あ、へ、部屋」
「うん」
ふっと意識が戻ってきたらしい。ヒューさんが覚束ない足取りで男子部屋を開ける。
私も続いて入ると、ヒューさんが部屋の反対側にある扉に手を掛けてた。置かれてるベッドには目もくれない、本当に最優先が聖樹さんだよねぇ。
「そこはテラスに続く扉だよ。どっちの寝室にもついてるから、間違えて女子部屋に入らないように気を付けて」
カチャリ。ヒューさんは無言でテラスへの出て、聖樹さんを見上げた。深く呼吸をして、振り返る。
ぼんやりしてた表情は、嬉しさが溢れるものに変わっていた。
「……本当に、聖樹の傍に……僕の我が儘を聞いてくれて、ありがとう」
「それくらい、何でも言っていいんだよ」
家族の願いはなるべく叶えたいからね!
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