120.幼女と冒険者の事情
「皆さんが話したい事って、街で噂の救世主について、ですよね」
私が切り出すとわかっていたのか、ルウェンさん達はしっかりと頷いた。
「ああ。先日街へ戻った時に、随分と騒ぎになっていてな。俺達なりに情報を集めた結果、奴隷達の救出に2人が関わってると判断した」
「でも、ダンジョンを出ないあなた達がどうやって外部へ知らせたのか。大量の配給をどうやって届けたのか……数少ない手段のうち、可能性があるとすればグロースだけれど、日付が合わないのよね」
「まだ聞きたい事があります。奴隷を保護して引き取った方がいると、療養中の方々が仰っていた。きっとあなた達であると、私達は推測しました」
「俺らは、この一連の顛末を知りてぇと思ってる。おめぇら視点のな」
ですよね。深く頷いた。
面と向かって言われて、改めて感じる。皆さんの視線が厳しいながらも、こう……嫌悪感が含まれてないと、目に見えてわかる。っていうかもう、ルウェンさんが「心配している」と表情で語ってくれるから。場違いだとはわかってるけど、ひどく安心する。
<うん、まあそれくらいの後押しはいいかな。正解。みんな、僕らの事を案じているよ>
穏やかな声で、背中を押される。そうかあ。
こんなダンジョンの奥地で、こんなにも素晴らしい人達に出会えた。私はその幸運に、何度でも感謝しないといけないなぁ。
「皆さんの推測通り、私は今回の件に関わっています。ただ、この流れを説明するには……皆さんを私の事情に巻き込む事になります。私の人生という荷物を、この世の中で生きる上で本来なら背負わなくていいものを、負わなくちゃならなくなる。それでも構いませんか? 続きを、聞きますか?」
テクトの確認を取るっていうズルをした私から、せめてもの誠意を示したい。私達の事情へ深く踏み込み過ぎる前に、制止しなくちゃ駄目だと思う。
何も知らないまま底なし沼にドボンするようなものだよね。当事者である私が、見てみぬふりはしちゃいけない。
テーブルを囲んだルウェンさん達一人ひとりに、視線を向ける。誰も私の言葉に怯む人はいなくて、目線も逸らされはしなかった。
むしろ、肩を竦めて呆れられてる?
「もーずぶずぶに足突っ込んでんのに何言ってんだ?」
「そうね、それって今更よね」
「ええ。あれだけ関わっていて、今それを言われても……」
「謝らなきゃいけないのはむしろこっちというか……」
「だなぁ。ギルド騙すなんて取り返しつかねぇ事させちまったしよ」
「ええー……」
いや私結構、真剣な雰囲気出して言ったんだけどなぁ。めっちゃ和やかに壊されてしまった。うそやん……こちとら人生観ぶち壊すくらいやばい案件なのになぁ。
ふと何も言わなかったルウェンさんを見ると、大きく頷かれた。
「俺は今、ものすごく、言いたい事を我慢してる。ルイとテクトに謝らなきゃいけない事があるけど、今はルイの話が先だから。これ以上口を開いたら話してしまいそうだから黙ってる」
「いやルウェンさんそういう事じゃなくて。さっき私、今から付き合い方を考え直してって言ったんですけど」
「…………」
「もう本当に喋る気がない!!」
これだからルウェンさんはさー!! 頑固っていうか、融通きかないっていうか!!
「これでもルウェンとしては成長しているんですよ。前まで物理的に止めないと何でもかんでも喋っていましたから」
「そうですねぇ足をぎゅっとされてましたもんね!!」
青あざになってたのを私は忘れてないからな!
ああもう、気付いたらいつものノリに戻ってる! これが戦い慣れた冒険者の会話術……!?
<ただ単にルイが流されやすいだけだと思う>
テクトの冷静なツッコミ! 私は否定できない!
だぁああ、もうこれ以上流されないからね! 私話すからね!? さあ呼吸整えてー!
「本当に、いいんですね? 後戻りは出来ませんよ」
「構いません」
口を引き締めて動かないルウェンさんの代わりか、シアニスさんが言った。皆さんの目に真剣さが戻ってくる。
ふう。よし、私の呼吸も落ち着いてきた。動悸? 安全地帯に来た時からずっと激しいわ。いい加減、胸が痛くなってきたよ……
それから私は、この安全地帯にテレポート罠でヒューさん達が来てしまった事。お節介を発動して食事を提供した事。色々と話をした結果、彼らの保護を決めた事。奴隷の人達が誰か一人でも“逃げた”扱いされると体罰が発生すると知り、事件解決が急がれた事を話した。
皆さんは相槌を打つくらいで、たどたどしい私の話を大人しく聞いてくれる。さっきまで騒がしかったのが嘘みたいに、静かだ。
「1日も待っていられなくなって、私は、とある方に手紙を託しました。冒険者ギルドに届けて欲しいと」
その方は、と言って、ひとつ息を吸った。ずっと秘密にしてた事を話すって、なんか力が入るよね。
でも言うって決めたから。今日は誠実に。何も隠さなくていい日だから。
「……空間を自由に渡れる聖獣」
せいじゅう、と呟く声が聞えた。何故か皆さん揃ってルウェンさんを振り返り、そして私へ向き直る。え、何、今の一瞬。
こほん、とシアニスさんが空気を戻すように咳払いをする。
「歴史書に記してある通りだとすれば、聖獣は常に勇者の傍にあるそうです……ルイ。やはりあなたは、歴代の勇者と同じ異世界からやってきた人、なのですね」
シアニスさんの柔らかな声で紡がれた言葉は、私の耳から入り込んで、ゆっくりとその意味を噛み砕き、理解した時。
責めるような口調じゃない事に、ほっと肩の力が抜けた。
「そうです。私は、異世界から転生してきました。でも勇者じゃありません。勇者のような偉業は、私には出来ません」
「ええ、あなたの力で、歴代の勇者のように戦乱や災厄を治める事は難しいでしょう。むしろ命の危機が多い」
自慢じゃないけど生まれつき戦闘能力ゼロですからね! ファンタジー転生の割には、あまりにポンコツ!
「じゃあテクトも妖精じゃなくて……」
「聖獣です。テクト、改めて挨拶を」
私が小さな背中を軽く押すと、テクトはひょこりとテーブルに乗った。右手を上げて、にこりと笑う。
<やあ、改めまして。聖獣カーバンクルさ。こうして皆の思考に直接僕の声を送るのは初めてだね。これは聖獣のスキル、テレパスだよ>
「うおっ! 頭に直接響いてるみてー!」
「不思議です……思考で会話が成立できるなんて」
「聖獣ってすごいのね」
「こりゃ便利だわ」
ん? あれ、何かあんまり驚いてる様子がない……いや、テレパスには驚いてる、よね。うん、やっぱり皆さんどこか楽しそうだな?
私の事はともかく、テクトの暴露は大騒動が起こると思ってたのに。聖獣が実在してるなんてー! って感じで。
困惑している私に気付いたのか、オリバーさんが複雑そうに微笑んで話しかけてきた。
「後でまとめて話すつもりではあるんだけど……ルイが異世界人だっていうのは、随分前から俺達の間ではわかってて」
「はい」
テクトに確認取った所だから、しっかり存じてます……いや待てよ。正確にどこまでバレてるかは聞いてない。私があの時考えてたのは、今回の案件で私と皆さんの間に亀裂が入るかどうか。私が異世界人かバレているか、だったから……あれ、テクトの事はそもそも気付かれてないと思って考えてなかった?
クエスチョンマークが飛び出し始めた私を前に、オリバーさんはルウェンさんを指差した。え、何でまたルウェンさん?
「その時、じゃあテクトは聖獣なんだろうなって言いだしたの、ルウェンなんだ」
「なんですと?」
ルウェンさんに勢いよく振り返る。ずっと真一文字に口を閉ざしている彼は、視線を感じたのか私を見て、何でかわからないけど親指を立てて頷いた。いやマジで何なんですかちゃんと喋ってぇえ!! あなたに黙られるとすごい調子狂うわ!!
「ルウェンは喋る気がないから俺が話すよ。彼の故郷ではね、子ども達の寝物語として、勇者と聖獣の話が伝わってたらしくて」
「ほう」
ヒューさんとこの精霊の話みたい。寝物語に地域性があるのは、どの世界でもおんなじだなぁ。
「それが世間一般で語られてる勇者と聖獣の関係とは真逆なんだ」
「はい?」
「俺達が伝説として知ってたのは、争いや天災を治め、知識を広めてたくさんの人々を救い偉業を成し遂げた優れた偉人と、その偉人を支えた神聖な生物……まあつまり、英雄視しているのが普通なんだよ」
「まあ、それは確かに。事実すごい事してますし」
「でもルウェンの街では、別側面の方が根強く残ってるらしくて」
「べつそくめん」
「勇者は異世界の知識を使って農業や食文化を発展させて、月に一度は宴会を開き」
「えんかい」
え、味噌や豆大福だけじゃなくてお祭り騒ぎの文化も継承してるの?
「聖獣は愉快な隣人として勇者を手伝ったり人々と楽しく踊り明かしたりしてたらしい」
「……めっちゃ親しみ湧きますね?」
「そうだね……でもテクトがモンスターを楽し気におちょくってる姿を見てたから納得したよ。勝手に神聖化するものじゃないなって」
あっ。すでに親しみ湧く行動はとってた……テクトの愉快な隣人成分出てた……
横目で確認すると、オリバーさんを除く5人がワクワクした表情でテクトを囲んでいた。時々、「きゃー!」やら「バレてた!」やら、「それはそっと胸にしまっておいてください」やら賑やかな声が聞こえる。どうやら人生初めての脳内会話を楽しんでるらしい。
「皆が楽しそうにテクトのテレパスを体験してるのは、ルウェンの故郷では“嘘を吐くと聖獣に悟られて、神様に知られてしまうよ”っていうのが常套句だったからだね。つまり予測の範囲内って事」
「聖獣に詳しすぎませんかルウェンさんの故郷……」
ダァヴさんやテクトの話じゃ、聖獣なんて眉唾ものみたいな……伝説上の生き物だから長生きしてる者くらいしか気付かない、というはずだったんだけど。おかしいなー? 勇者が興した街だから?
っていうかルウェンさんが生真面目で正直者なのって、聖獣がテレパスしまくった歴史が染み付いているからでは……さすがに深読みしすぎかな。
「聖獣については他にも色々あって」
「まだ続きあります!?」
もう結構お腹いっぱいなんだけどなぁ!?
明らかにウゲッて顔をしてる私に、オリバーさんはこれで終わりだから。と囁いた。
「街に勇者と同じ知識を持った子がごく稀に誕生すると、人の賑わいに紛れて聖獣が顔を見に来る、っていう話も伝わってたんだって。聖獣かはわからないけど、過去に動物と会話する子どもがいた事もあったらしいよ。前世の記憶持ちって言うんだったかな」
頻繁に顔出してるじゃん伝説ぅ……!
「そういう下地があってルウェンの頭の中では、異世界の人は勇者であろうとなかろうと聖獣と常に一緒だろう、っていう考えが出来上がっていた」
「あー……それで、ルウェンさんの発言に繋がるんですね」
「うん」
「っていうか、今思ったんですけど。勇者が異世界人だっていうのは一般常識なんですか?」
「世間一般がどうかは、詳しく知らないなぁ。セラス達が言うにはおとぎ話程度には伝わってるらしいけど、俺は歴史書を漁って初めて知ったよ……ちなみにルウェンは当たり前のように頷いてた」
だからぁ! ルウェンさんの故郷、色々隠す気ないよね!? 開けっ広げすぎない!? ギルドに関わった勇者はあんなにも隠匿してたのになぁ!!
思わず頭を抱えてしばらく。テクトのテレパス体験コーナーも終わったらしく、皆さんは再びテーブルを囲んだ。
ああー、もう話そうとしてた事ほとんど飛んだわ……私の深刻な気持ちも吹っ飛んだからオッケーという事にしよう。そうしよう。
「どこまで話しましたっけ……」
「聖獣に手紙を託したって所までね。テクトから聞いたけれど、聖獣ってそれぞれ司るものが違うのね! テクトの結界はとても素晴らしいと思うわ!」
セラスさんが明るい表情で仰る……うん、楽しんでいただけたのなら何よりです……
「私が頼んだのは、白い鳩のダァヴさんという方なんです。世界中を飛び回るのがお仕事なので、転移のスキルを持っているんですよ。それでお願いしたんです」
「なるほど。司るもの以外にも、覚えているスキルが違うのですね」
<聖獣にも個性があるからね>
そうだね! みんなチートって共通点はあるけどね!
「ダァヴさんにはアイテム袋みたいなスキルがあって、お粥とかの配給はそれに収納して、手紙と一緒にギルドに届けてもらいました」
「はー。便利なもんだ」
「それをグロースが受け取ったと……あいつも関係者って考えていいんだな?」
「えーっと……」
グロースさんはそもそも魔族が送り込んだ偵察部隊というか、世間の情勢を知るための調査員というか。私の保護者は後付けなんだよなぁ。
魔族の内情に関わる話だし、これ言っていいのかな……テクトさーん!
<いいんじゃない? どこまで言っていいかわからないなら、詳しい説明は丸投げすればいいと思うよ……彼らは問い詰める事が増えたなぁって意気込んでるけど>
何を問うつもりなんですかぁもぉお! 知らなーい!
頭抱える案件はもう十分なんですよ!!
「グロースさんは、えー……保護者といいますか。私が平和に生きれるように、見守っててくれる人です」
「へえ。つまり関係者なのね?」
「そう、ですね」
セラスさんもディノさんも急に圧が強くなるじゃん……!! 何なの私が知らないうちにグロースさんと何があったの……!!
とにかく! ぺちん、と手を叩く。視線が集まった所で頭を下げた。隣のテクトも続けて下げた。
「皆さんの記憶や心を勝手に読んだり、騙したりしてごめんなさい!」
<ごめんね。ルイの安全のために、という名目でずっと覗き見ていた。でも安心して。個人の過去とかはルイに一切話してないよ>
「あら、まあ……配慮していただきありがとうございます。では、次は私達が謝る番ですね」
「へ?」
突然の話に顔を上げると、やっと言えるとばかりにルウェンさんが身を乗り出した。めっちゃ生き生きしていらっしゃる。
「俺達から2人へ、謝らせてほしい事がある」
「皆さんが、私達に?」
え、謝る事? 最初からずっと隠し事ばかりの私が謝るならまだしも、皆さんが? 私達、何かされたっけ……?
ぼんやりと考え込んでいると、流れるような動作で6人全員に頭を下げられた。あまりに揃った動きだったもので、びくっと体が震える。
「俺達はルイとテクトの秘密を暴こうと、動向を調査していた! すまなかった!」
「お、おお……いや、私達が怪しいのは事実ですし。調査はされてるんだろうなぁって思ってました」
異世界人だって突き止められてたし。気付いてるよね? みたいな雰囲気も伝わってきてたし。っていうかオリバーさんにさっき言われたし。
今になって謝られるとは思ってなかったので、きょとんとしてしまう。
「怒れや! 親し気なフリして監視してたんだぞ、不快だろーが!」
「むしろダンジョン内に見た目幼女と自称妖精がたった2人でいて、どういう事情か聞き出そうにも黙ってしまう……こっそり身元調べない人います?」
「ド正論かましやがって否定できねぇ!!」
「でも歴史書を調べたって聞きましたよ。かける労力が半端ない」
「そうですね、過去1000年ほど遡りました」
「熱量が半端ない。私には無理です」
「出身地を割り出そうと思って、意図的に話題を振った事もありますよ」
「そうなんです? 全然気付かなかった……すごいですねぇ」
「あなたはもう! そうやってポヤポヤ笑いながら私達を許しちゃ駄目よ!!」
「むしろテクトの力を使って会話を選んでいた私を簡単に許しちゃ駄目ですよ皆さん」
「ああ言えばこう言う!」
「実は俺、スキルの影響で感情や嘘を察せられるんだけど! ルイとテクトに何度も使った! ごめん!」
「待ってそれは初耳」
感情や嘘を察せられるって言った? 聞き間違いじゃない?
私がオリバーさんをじっと見つめてるのに気付いて、彼は顔を上げた。申し訳なさそうに眉が下がってる。おまけにケモ耳もぺたんこ。
「えーと、もう随分と昔の話だけどね。気配察知スキルのレベルが上がったら、人の感情が薄っすらわかるようになったんだよ。嘘を見抜けるのは、そのおまけみたいなもので……」
「ひょ」
聖獣のテレパスと同じくらいすごい事では? 読心ほどの正確性がなくても大体の感情がわかるんでしょ? チートを許された種族じゃないのにすごすぎない?
「あ、でも絶対に見抜けるわけじゃないよ。たとえば、どんな状況下でも感情の起伏が変わらない相手だと、嘘以前に感情もわかりづらかったりするし」
「……つまり?」
「ルイは素直だから……その、まあ、筒抜けだったよ」
マジかぁあああ!! 思わず頭を抱えて唸る。私の気持ち全部筒抜けって事は、色々と取り繕ってたの全部バレてたの? ひえええええ!!
いや待て私、この情報は初耳だよ!? テクトから聞いてない!
ちらっと視線を向けると、素知らぬ顔で口笛吹いてた。どこの漫画の影響ですかそれはぁああ!!
<僕も最初は気付かなかったんだけどね。ほら、聖獣の目って大まかにしかステータスわからないから、聴覚が優れてて気配察知が得意な人なんだなって思ってた。あるいは空気を読むのが得意な人>
ああー! いるよねー、そういう人! わかる、気配り上手さんでしょ! なるほどそりゃあ勘違いもするね、私もオリバーさんはそうだと思ってたからね!
でも何度かテレパスしてれば気付きそうな事じゃないかな!
<感情を読み取れるってわかったのは、結構最近だよ>
はーん、だんまりする流れに組み込まれてしまった情報かー! そりゃ感情もろバレだから色々隠しても意味なかったみたいだよとか言われたら、私、皆さんの目の前で唐突に爆発する自信あるよ! 羞恥で!! だから黙っててくれてむしろありがとうかもしれん!!
今も正直言えば、顔は熱いです!! このままずっと顔面隠していたい!!
<いついかなる時も僕にすべて読まれてるのに? それに比べたら感情の変化くらいマシじゃない?>
全然マシじゃないよ! テクトのチートはもう慣れたから平気だし、むしろ会話するつもりで思考垂れ流してる自覚あるもん! どっちかっていうとこれは、胸張って騙せてるぞーって喜んでた自分に恥を感じてるんです!!
「……俺のスキルを知っても、嫌がらないんだね。ルイは」
ぽつり。とオリバーさんの声が落ちてきた。腕の隙間から視線を向けると、ぴるぴる動く耳が見える。顔を見れば、何とも言い難い表情のオリバーさんが、頬をかいてた。
「今も、君の感情を勝手に読み取っているんだよ。怒っていい」
え、怒ると思われてた? 嫌悪感出して避けるとか? 前世だったらびっくりしてしばらく考えさせてくださいって、一旦期間を設ける所だけど。今の私はファンタジーに慣れたスーパー幼女だよ? 問題ありませんねぇ。
だって今までの行動が信頼に足る方々からのカミングアウト。しかも誠心誠意の謝罪付き。落ち着いて考えれば、そりゃ黙ってるよねーって思う。だって初対面で「君の感情わかるので嘘つかないでね」って言える? 無理でしょ。内緒にするよね普通。
だから私達だって内緒にしてたんだもの。
「えーっと。そう、ですね。怒りは感じてないですし、嫌だとはまったく思ってないです。むしろオリバーさんの察しの良さに納得したと言いますか、テクトで慣れてるから違和感ないというか……今は鼻高々だった自分をへし折って穴に埋まりたい気分です」
「ほらルイのそういうとこー。お前マジでルウェンとどっこいどっこいだからな、自覚してっか?」
「は? 真正のド天然と一緒にしないでください! 私にルウェンさんほどの正直さがあったらケットシーって偽れてませんよ!!」
「その発言がなぁ。まあ、いいのか。おめぇらしいわ」
「俺は天然じゃないぞ! 正直すぎてしまうのは認めるが!」
「ルウェンはちょっと黙ってましょうか」
シアニスさんが話の区切りをつけるためか咳払いをする。視線が、私としっかり嚙み合った。
「オリバーのスキルで、私達はルイの嘘を知りました。そして同時に、あなたが嘘を吐く時は、必ず罪悪感を抱いている事も。ルイの嘘は本意ではない、何かしらの理由がある。私達は、あなた達を調べる事にしました」
「それで、私が異世界から来たとわかったんですね」
「はい。とある書に、勇者ではない人が異世界の知識によって、劣勢だった戦況を覆したという一文がありました。あなたは自身が戦争に悪用される事を恐れ、外に出ないと主張している……どうでしょう。合っていますか?」
「正解です」
すごい。私達、会って2ヵ月と経ってないのに。ここまでバレるなんて……ルウェンさん達って、本当にすごいんだなぁ。
ん? 彼らが気付いたって事は、これいつかはダリルさん達にもバレるって事なのでは? やばくない?
私の焦りを感じたのか、オリバーさんが首を振った。
「大丈夫。俺達がここまで調べられたのも、ほとんどルウェンの故郷のお蔭だから。じゃなかったら
「そうですね。先程の戦争の話も、あまりに劇的な勝利だったため後世の方が書き加えた話だと世間では評されてますし」
「じゃあ、だいじょうぶ、ですかね……」
後は、皆さんが内緒にしてくれると確約してくれれば。
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