85.おじいちゃんズのこぼれ話
「約束が得られて人心地ついた、俺も食おう」
と呟いたコウレンさんがティラミスを一口、満足げに含んだ。隣ではすでにスプーンを咥えていたアルファさんが、花咲かせそうな勢いで緩んだ顔してる。美味しいんだねぇ、よかったねぇ。
「うん、美味い!土産にいくつか買って帰るか。久々の日本産菓子だ。奴らも諸手を挙げて喜ぶだろうよ」
「えーっと……奴らって、誰です?」
「城勤めの魔族達だ。勇者は昔、城に出入りしておってな。その頃に色々と相伴に預かっていたので、昔の味を恋しく思っておるのさ」
「カタログブックと日本からの転生者が揃わないと、日本産のものは食べれないからね」
それはつまり、その城勤めの人達も2000年生きてるってことかぁ……昔食べたものが恋しくなるっていうのはよーくわかるけど、年数の規模が段違いだね。さすが魔族。
っていうか城があるんだね。魔王城的な奴かな?ゲームのとは違って、おどろおどろしい感じは一切なさそうだなぁ。この3人見てると、そんな気がしてくる。
「お城があるんですね」
「ああ。世間的にはあまり知られてないが、一応国だし。魔族って大体暇だからなぁ、作ってみた」
「城作りはしばらく楽しめたよね。また作ってみようか」
「だなあ。すぐ終わらせては面白くないから、まずは土地選びからになるだろうが」
「今の城は300人くらいしか入らないし、いっそもっと大きなもの作る?」
「それはいいな!楽しみだ!」
そんな、休日は暇だからプラモデル組み立ててみました、趣味はDIYです、みたいなテンションで会話されても……え?300人収容できる城?すでにとんでもなくでかいのでは?さらに大きいの作る算段してるのこの人達?え?正気?
いやいやいや、落ち着け私。相手は魔族だ。2000年も軽く生きちゃうけど、人と近い種族だ。年数の規模も違ければ、作るものの規模も違うんだろう。きっと、うん。ちょっと……ちょっと?規格外な事が多い、んだよね?
と思っていると、グロースさんがカンペにさらさらと何か書き始めた。ん?何?
『この2人は軽く言うけど、建材こだわってるから実際作り始めて完成するまで100年かかったと言われてる。暇つぶしを100年続けられるほど、のんびりした種族なんだよ魔族は。
時間の感覚もあやふやで世間ずれしてる奴らに合わせて考えたらキリないから、そんな事があったんだ、くらいの心構えで聞けばいい。“しばらく”も“すぐ”もあまり変わらないし、50年100年くらいは軽く誤差あると思って。
じじい達の言う事だから気にしすぎないように』
「あ、はい……え?誤差でかくないです?」
私の疑問に、グロースさんは一瞬視線を彷徨わせて。
コウレンさんとアルファさんに向き直る。
『2人とも、俺の年齢言える?』
「んー……いくつだったか。3000はいってなかったと思ったがなぁ」
「えー……にせん……2200?あれ?これルニラムの方だっけ?」
『俺はまだ2015歳だよ、じじいども』
「まだ、の使い方間違えてると思いますグロースさん」
お二方の年数認識がおかしい事は察した。グロースさんも常識的な顔してちょっとぶっ飛んでたね。知ってた。
なるほど、本当に100年くらい誤差っちゃうんだな。よくわかりました。誤差の規模もはんぱねぇっす。
じとーっと見てくるグロースさんへ笑いかけるコウレンさんとアルファさん。めっちゃ失礼な発言されててもあんまり気にしてなさそ、
「優しさに見せかけてグロースが辛辣で伯父さん結構ショックなんだが」
「やっぱり俺達世間ずれしてるのか……国に引きこもりすぎるのも良くないね」
いや気にしてたわ。笑いながら気にしてるわ。怒ってないだけでショック受けてたのね。
「まあ気にしても仕方がない、すぐには治らんからな。気を遣わず話せる異種族は久しぶりでな、勝手がまだわからんようだ。ルイはあまり深く考えずに俺達の話を聞いてくれ!」
「いや人の話はちゃんと聞きますよ」
「そうか、偉いな」
「数字関係はあんまり信用できないなっていう前提は出来ましたけど」
「これは手厳しい!」
たはー!と擬音がつきそうなくらい陽気に笑うコウレンさんと、垂れ目を優しく細めてこっちに向けるアルファさん。いや、結構失礼な事言ったんだけど、私が相手でも怒らないんだなぁ。本当におおらかな人達だ。
『これでも魔族をまとめる魔王なんだけど、威厳がないって小言ぶつけられるくらいはのんびりしてるよ』
「へえ……へええええ!?」
え!?待って!?王?キング?魔族の?魔王?私の見間違い?あ、グロースさん手早いもうカンペ放ってティラミスに戻った!!ちょ、あ、カンペ!カンペくださいグロースさん!!
見かねたテクトがカンペを拾って渡してくれる。ふぁ!?な、何度見ても、瞬きしても、魔王って書いてある!!うそぉ!?え!?偉い人ってガチのトップって意味だったの!?私てっきり幹部的な地位の人だとばっかり……!!
コウレンさんとアルファさんを見る。きょとんとした顔をして、ああああイケメンめぇえええええ!可愛いなあもう!って違う!!
「……ま、魔王、さん?さま?」
「いかにも俺が現魔王だ」
と、満面の笑みでコウレンさんがピースする。
視線をアルファさんに向けると、同じく指を2本立てた。
「俺は魔王の足、兼雑用係だね」
「わ、わたし、さっき、すごく失礼な事……」
「そうか?まあ気にするな!ルイは最初から丁寧に対応してくれるだろう?ちょっとくだけた所など、気を許してくれたかと少々ワクワクしたくらいだ。失礼なぞ一切ないよ」
「俺もコウレンもそんな偉いわけじゃないしね。魔王って言ったってほとんど形式上みたいなものだし。かしこまられたら逆に困るな。ルイとの会話は楽しい」
つい、テクトの方を見る。え?この人達本気?私かなり、ほんと、近所のお兄さんにするみたいな対応しちゃったよ?大丈夫?怒ってない?
テクトが呆れたように肩を落として、私の手をぺちぺち叩く。
<大丈夫だよ、全部彼らの本心だから。他愛のない会話を楽しみたいばっかりに、魔王の事は黙ってたみたいだし……グロースが暴露しちゃったけど>
「まったくテクト様の言う通り。グロース、何故バラした」
『城を暇潰しで建てるような一般人、魔族にだっていない。年ボケだって他の人はそんなに酷くないし。
俺はむしろ、他の魔族の名誉を守った』
「むう」
「他の人だって、普通に家建てたりするじゃない」
『家と城を一緒にするな、規格外じじいども』
どうやらこの2人が特に規格外ってだけらしい。自由人グロースさんに言われるって相当だな。いや、うん。失礼じゃないなら、さっきのまま話せるようにするけど……出来るかなぁあああ。
「王様自ら、来られる?来る?……が、外出?なされる?」
「ほらもー。ルイが混乱してるじゃないか。伯父さんとても悲しいんだが」
『ルイ、深呼吸。何なら質問しまくって後は簡単な受け答えをすればいい』
そんな気楽に言わないでくださいよぉおお!!
っていうかグロースさん、あなた甥って事は王様の血縁者じゃん!!立派に偉い人じゃん!!俺関係ありませんみたいな顔してティラミスどんどん胃に流し込みおってー!!
「それもありだなぁ。ルイも落ち着いて整理する時間が必要だろう?どうだ?色々気になる事があるんじゃないか?なんたって謎多き魔族だからな!」
「え?しつもん?」
「そう、質問。何でもどうぞ」
質問、気になる事?え?整理?
クエスチョンマークが乱舞する私の前で、質問を待っているのかキラキラと目を光らせて待つイケメン2人。え、待ってんの?私が喋るのを?は?何で?
「ま、魔王、様?」
「何だ寂しいなぁ。コウレンさんと呼んでくれ。親しみを込めてコウレンおじさんでも構わんよ」
「怒らないです?なんか、罪に……あっ、不敬罪とかならない?」
「俺がいいと言ってるんだ。まったく問題ない!」
「俺も呼び捨てでいいよ。様とか付けられたらムズムズする」
あっ……それはわかります。ドリアードに様付けされた時は非常に居心地が悪かった。
さすがにおじさんは無理!だけど、2人とも、嫌そうじゃないし。テクトも大丈夫だって言ってたし……そっか。さっきのままでいいのか……いや無理だよ緊張しちゃうよぉおおおお!ええええええええ?いいの?王様でしょ?魔族の王様略して魔王。一般人が気安く話しかけちゃっていいの?
ううううううううう!期待の視線が痛い!!わかりましたよぉさっきのままで頑張りますよぉ!!
「ええーっと、コウレンさ……んは魔王なのに、興味本位でここまで来ちゃって、いいんです?仕事とか……」
「ああ。今日の仕事は終えてきた!」
「皆で分割してやってるから、そんなに忙しくないんだよね。午後はだいたい暇」
『どこの国よりも仕事が少ないと部下達の間ではもっぱらの噂』
「へ、へえ……」
「他には?何か聞きたい事はないか?ん?」
コウレンさんがワクワクした顔で覗き込んでくる。お、おっう。近いな……魔王様がとてもフレンドリーで私はちょっと困惑してるよ。
聞きたい事、聞きたい事かあ……んー……
「そういえば、魔族って普段どういう風に生活してるんですか?えーっと、グロースさんからは、角があって魔法が得意な謎に包まれた種族、みたいな事は聞いてるんですけど……こうして人に紛れて生活してるグロースさんもいるわけですし、お2人は角隠してないですし……それに話を聞いてると、お2人とも遠くから来られたっぽいのに、グロースさんとどうやって連絡取ってるんです?この世界はケータイ……えっと、電化製品はないんですよね?遠距離でも会話できる便利な魔法とかあるんですか?」
1つ口に出せば次から次へと、思わずいっぱい質問してしまったけど、3人とも目を瞬かせるだけで気分を害した様子はない。お、おっけー?せーふ?ほっ。
「おお。随分と質問されてしまったな。謎多き魔族の実態に迫る、みたいな感じで楽しいぞ!」
「何だグロース、教えてなかったの?」
『話す前に彼女が懇意にしてる冒険者来たから。
そういえば当たり障りのない所しか話してなかった』
ああー。あの時以来、のんびり話す場はなかったですもんね。っていうかどら焼きに話題が移ってましたもんね……うん、食べ物なら仕方がない。今回は疑問爆発しちゃってすみません。
コウレンさんは2つ目のティラミスを持ち上げて、スプーンを立てた。
「魔族はな、世界に4つある大陸のうちの1つ、北方にある大陸に住んでいる。そこは外海が絶えず荒れ狂っており、ひとたび侵入した船あらば悉くを沈める“魔の海”に囲まれた、まあまあ小さい大陸だ。空を長時間飛ぶか、転移装置を使わなければ出入りが叶わぬ大陸だな。外の国とは一切交流が出来ん。ようするに引きこもりの大陸だ!」
またとんでもないスケールの引きこもりが出てきたぁあああああ!!待って?外海が常に荒れ狂ってて?うっかりその海域に侵入しちゃった船は沈められちゃうの?え?あっぶな!!なんて大陸だ!!
「何でか、ずっと荒れてるんだよね。あの海域。不思議だよね」
『大陸の形とか海流の向きとか、きっと色々ある。知らないけど』
自然って怖いなあ……不思議が満載な魔族に不思議って言われちゃうんだもんなぁ……
「ずっと昔からそこに住んでたんですか?」
「いいや?元々はこの国と同じ大陸に住んでいたぞ?地図を忘れたので説明はしづらいが、紙はあるか?」
「ノートでよければありますけど」
「ノートか!懐かしいなぁ!どれどれ出してみろ」
日本ではどこにでも売ってる普通のノートを出すと、魔族3人組は感慨深げに手を伸ばして触れた。
「よく勇者が、魔道具の設計図に関して書き込んでおったなぁ」
「ああでもないこうでもないってね」
『ノートの方がはかどる気がする!って言ってた』
ああー……それは学生さんだった頃の経験からかなぁ。私も日記とその日の売り上げ内訳はノートに書いてますけど、背筋伸びてやる気が起きますよ。書きやすいし。
「いいか。この世界は大陸が4つあるのだが、1番大きいのは今我々がいる大陸だ。北側を上とすると、逆三角形の形だな」
コウレンさんはペンを持つと、迷いなくノートに書き込んでいく。1ページに堂々と大きな逆三角形が書かれた。ふむふむ。
「現在大きな戦争をしておるのは、この大陸の国だな。海を挟んで小競り合いを起こしている所もあるが、まあ大本はここだ」
とんとん、と中心あたりの場所をペン先でノックする。
「後は両側面の近い場所にまあまあ大きな大陸が2つあって」
逆三角形の左右に二等辺三角形みたいな細長い大陸がくっつく。
そして残った上の方に、丸が描かれた。
「この丸が、北方の大陸。魔族のみが住む引きこもりの土地だ」
「すごい親近感がわきます」
「はっはっは、そうか!いつか遊びに来るといい!」
出来上がった世界地図を見る。大まかな形らしい。んんー?何だろう、これ。どっかで見た事あるような……あ!
こ、これ男子トイレのマークだ。胴が逆三角形で、横の大陸が肩から腕、そんで丸いのが頭!すごい!ほとんど一致してる!えええー、大陸の話が出たら絶対連想しちゃうじゃん。トイレ連想するじゃん……!!
トイレの想像を振り払ってると、コウレンさんがペンをささっと走らせた。逆三角形の左端に小さな点を付ける。
「そしてここに、魔族の出張村があるのだ」
「出張村、ですか?」
「うむ。そうだなあ、どこから話すかな。色々あったと一言で片づけるには説明が足らんし……」
「魔族が長生き過ぎて強すぎる話からじゃない?」
「えっと、それって魔力が尽きなければって話ですか?」
「そうだよ。魔族は不老不死みたいなものだ。妖精族でも1000歳以上生きるのは少数だしね」
その少数の中に、精霊が入ってるのかな。ドリアードかなり長生きっぽかったし。
「この世界の魔法とスキルは、熟練度が高ければ高いほど、強力になる。魔族は長く生き過ぎるが故に、魔法もスキルも強力になり、そして他の種族より明らかに強くなってしまう」
私はふと、ダァヴ姉さんの一瞬で安全地帯すべてを綺麗にしちゃった洗浄魔法を思い出した。
私の洗浄魔法のレベルはB。かなり高いと冒険者の皆さんに言われたけれど、それでも安全地帯をぐるりと回りながら掃いて拭いてを想像しつつ何度も洗浄魔法をかけ直さないと、ダァヴ姉さんと同じようなクオリティは出せない。十分すごいと言われるレベルBで、天と地ほどの差があるんだ。
これが長い年数をかけた熟練度の違いってやつかな。なるほど、洗浄魔法でもわかりやすいこの差が、攻撃魔法やスキルに出てしまったら……あ、目の前の3人はテクト並みかそれ以上生きてるんだった。これ強いですわ。やばい強いですわ。
「寿命が短い種族には到底至れぬ領域だ。しかもそれは勇者ではなく、ごく普通に種族の1つとして生活していた……まあ近隣の国は気が気でないよな!」
「へ?」
「2000年よりずっと昔の話だが、知性を持ったモンスターが群れをなしている、襲われる前に退治してしまえ、という理由で戦争を仕掛けられた事がある」
ここで暮らしていた時だ。とコウレンさんが逆三角の左端を丸で囲った。
はいー?今何て?
「いやいやいや、モンスターと全然違うじゃないですか。皆さん、小娘相手でも気さくに話してくれますし。こんなにも気を遣ってくれる人達を、よりにもよってモンスター?わけわからないんですけど?」
「ははは、うん。わけがわからんよな!だが実際、当時あったほとんどの国が共同戦線を張り、魔族を根絶やしにしようと侵略してきたのだ」
「人って得体の知れない生き物は怖いものだからね……いや本当、手加減が大変だった」
「下手に手を出しては火に油を注ぐからなぁ。そも戦いたくもなかったし。幻見せて帰ってもらったり、道を潰して進めなくさせたり、俺達相当怖いから逃げた方がいいよーとパフォーマンスしたり、まあ色々やった。結果的には、その土地に住めなくなってしまったので誰もいなかった北方の大陸へと移ったんだがな」
「えええー……」
しかもコウレンさんとアルファさんは当事者ですか。そうですか長生きさんだものね。規格外じじいやばいな……
それ、土地を奪われたって事だよね?勝手に戦争仕掛けられた上に、住み慣れた場所を奪われてるんだよね?そんな朗らかに言う事かな……
「移住してみたらその土地がやけに住み心地が良くてな!もっと早くに移るべきだったと笑い合ったものだ」
「前はかなり深い森だったからね。食べ物には困らなかったけど、虫が邪魔で。北の大地はいいよ。空っ風が吹いて気持ち良い」
「めっちゃポジティブー!?」
「はは、まあなあ。森のアリの巣に手を出したあげく『これもモンスターの罠かー!』なんて叫んでる奴がいたら笑うだろう?戦争中はそういうのが日常茶飯事でな。俺は真面目な顔を崩さないようにするのがやっとだった」
「移住したのだって、当時の魔王が『もうめんどくせー!隕石落とそうぜ隕石!!』って言い出して、モンスターの群れは突如飛来した隕石に潰されましたっていう体で住居群潰したからだし」
「城も移住したからこそ、建てられたしな」
『魔族の歴史の中でも笑える分類の話だよ。魔族の子どもは寝物語として嗜んでる』
「わらえ……笑えるかなぁ、これ……」
どう見ても悪者扱いされてる上に、悪者に天罰くだったぞ我々の勝利だー!と思われてそう……住居潰したのその時の魔王さんらしいけど。
ご本人達が気にしてないって言うなら、いいのかな?……いいのか……まあいいのかあ……
たぶん、力量差がありすぎたんだろう。子どもと大人の喧嘩、みたいな……とんでもない規模の喧嘩だね?いいの?その解釈でいいの?あ、テクトが頷いてる。そっかあ……じゃあそういう事にしておこう。私は笑い話には出来なさそうだけど。
「まあそういう理由で北方の大陸に移った魔族なんだが、ほとぼりが冷めた頃を見計らって、元の住居跡へ数人派遣したのだ」
「それが今の出張村、ですか?」
「うむ。住居跡の壊れた物を治し、整え、徐々に人口を増やし、現在は細々と村を営んでいる。強力過ぎる力を見せないよう注意を払うという約束事を前提に、無害で少し不思議な種族としてな。新たに俗世間へ溶け込む計画を立ち上げ、おおよそ3000年、今のところは成功している」
「それって……不自由っていうか、すごく大変ですよね?ずっと我慢して生活しなくちゃいけないって、大変だと思います」
「そうでもないよ。バレない所では皆、全力出してるし。俺の場合、北の大陸からこの街まで雲の上をぶっ飛んできたから気分がいい」
「事も無げに言わないでくださいよぉ」
雲の上って、ほとんど酸素ないじゃん。どれくらいの距離を飛んだか知らないけど、生身ではご遠慮したい。飛行機か何かですか。
そもそも。
「……怖くなかったですか?元々住んでた場所を、たくさんの人に襲われて、追い出されて……また世間に紛れようなんて」
「そりゃあ、敵意を向けられて楽しい思いはしないな。大変悲しかった。悲しかったが……魔族というのはな、ちょっと寂しがり屋なのだ」
コウレンさんがふっと微笑む。のんびりお茶を飲んでるけど、ティラミスのカップが空なのが見えてるんですよ。もう3つ目食べちゃったんですね。アルファさんがグロースさんのティラミスを取ろうとして、足蹴りされてるし。めっちゃイケメンなのになんか残念なんだよなぁこの人達……!シリアスの雰囲気がすぐしぼむ……!
「長く生きてるからこそ、強すぎて嫌厭されるからこそ、人恋しくなる。普通の人のと繋がりを、ごく普通の会話を、求めてしまうのだ。多少の不自由は仕方あるまい?まあ、二度と争いなどは起こしたくないのでな。戦争には不干渉を貫いている。
力を持つ者だからこそ、絶対に手を出してはならんものがあるのだ」
ふと、隣を見た。テクトがほうじ茶をすすってる。ふわっと尻尾が揺れた。
「こっちの大陸では控えてる分、北の大陸に戻ったら全力で遊びまわってる人達を実際に見ればルイも気が晴れると思うんだけどな……ちょっと見に行く?運んであげるよ?」
「私、世間が平和になるまでダンジョンから一歩も出ないって決めてますから!!」
ジェットコースターは好きだけど、それ以上は未体験ゾーンだからハッキリ言って怖い!!
と言ったらアルファさんがショボンとしてしまった。か、かわいい……じゃない、今笑ったな!私があわあわしだしたら笑ったなアルファさん!
くっそー!騙されませんよー!!
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