84.魔族とお話
※一度投稿しましたが大事なことを何度も間違えたので、改修しました。
改修前に読んでくださった方、ハートをくださった方、コメントをくださった方、申し訳ありません。
変なところを指摘してくださった方々ありがとうございます。
私が意味不明な事を叫ぶのはいつもの事、みたいに思い始めたのか。ドリアードは気にした風もなく、「濡れますので」と大きな葉っぱを渡してくれた。ううーん、早くも順応されとる。
「ありがとう、使うね」
葉っぱを頭上に向けると漏れもなく雨は遮られた。うん、茎も太くて覆う面積も広い。ほんと傘みたい。結構な勢いを持った雨が叩きつけてくるのにへたれないんだもん。がっしりしてるなぁ。頼もしい。
ひとしきり雨音を楽しんでたら、ドリアードが首を傾げた。
「そういえば、テクト様はご一緒ではないのですか?」
「あ」
ドリアードに癒されて忘れちゃってた。いやあ、さっきは本当にパニックってたっていうか……うん。見知らぬ人に突然距離を詰められた上に親し気に話しかけられるわ触られるわ人の質問には答えてくれないわ。パニックにもなりますわ。
「帰ってきて早々ごめんね、ドリアード。実はお客様が来ててさ、テクトには相手をしてもらってるの」
「……すぐそこに……箱庭の外に、いらっしゃるんですか?」
「うん。あ!でも大丈夫、私の事情を聖獣経由で知ってる人達だから。何か私に会いに来たみたいで、怖い人達じゃないよ。そこはテクトが確認済み」
パニックにはさせられたけどね!グロースさんがクッキーモンスターしてた時を思い出せば、何となく片鱗は見えてたような気もするけど!!
不安そうに見上げてくるドリアードへなるべく柔らかい声をかけると、彼女は目を瞬かせた。
「聖獣様から……もしや、その方々は魔族ですか?」
「知ってるの?」
「はい、ダァヴ様からルイの現状と共に聞き及んでいます……そうですか。魔族の方々が……」
ドリアードが俯く。一瞬、嫌な思いをさせたかなと思ったけど、どうも雰囲気が違うっぽい。
なんていうか、恐怖に震えるって感じじゃなくて、何かを思い出そうとぼんやり声に出しましたって感じ。だから、これは……考え事してる?
もしかしてドリアード、魔族は平気なのかな。朝の時より緊張してない。
「魔族は苦手?」
「いえ、あまり交流した事がないのでそこまでの感情は……ただ、以前森へ訪れた魔族の方は動けぬ私に対して、とても好意的に話しかけてくださいました」
「会った事あるんだ!」
「猟師に気に入られて連れてきてもらったようです。世界中を旅して回って探しものをしているのだと。立ち寄った村でモンスターを狩って酒を呑み交わしていたら、彼らと仲良くなってしまったと言ってましたね。もう500年も前の話ですが」
「わあお」
ごひゃくねん……随分と昔だ。いやまあ、2000年生きてるテクトよりは身近な年数だけど……想像できないなぁ。
ドリアードが微笑んだ。
「つい、思い出してしまいました……ルイ。私は家で待っていますので」
「ドリアード……うん、わかった。行ってくるね。ぱぱーっとおもてなしして、早く帰ってくるから!!」
「ふふ、はい。お待ちしてます」
ドリアードに手を振って、私は壁を押した。フキは持ったままだ。せっかくドリアードが作ってくれたんだもん。テクトに見せたいし、帰る時にすぐ差したいしね。
ダンジョンに戻ると、テーブルの向かいにイケメンが3人並んで、美味しそうに固焼きせんべいを頬張っていた。バリバリといい音がしますね!私も食べたい!!
左から真っ黒な髪のイケメン、濃紺の髪のイケメン、銀髪のイケメンだ。うん、イケメンばっかりで目の保養だね!繊細な顔の割りに大口開けてバリボリせんべい食べる姿はとても好感が持てます!!よろしい!もう一袋出しましょうか!!今度は黒豆せんべいね!!
私の心の声を受けてテクトが黒豆せんべいを出すと、3人揃って嬉しそうに手を伸ばした。何よう、さっきの自由人は鳴りを潜めてお子様感出たじゃないの。そんな事したってね!私が許しちゃうだけですからね!!プリンも食べる!?
振り返ったテクトがフキを見て目を細め、そして私を軽く睨んできた。うひゃあ、視線が痛い!
<それはあげすぎ>
「えへっ……お待たせしました皆さん」
「いやいや、急に押し掛けたのは俺達だしな。さっきはすまんかった。久しぶりの転生者に興奮してしまってな」
「同じくごめんね。グロースから連絡来て、飛んできたばっかなんだよ。急いてた」
『ありがたくお茶とせんべいは食べてる』
私が話しかけると居住まいを正して目線を合わせてくれた黒髪さんと濃紺さんに比べて、グロースさんよ……やっぱりあなたが突出して自由人なのか。そうだね人の話聞きながらお菓子もさもさ食べてた人だものね。知ってた。
「テクトにも止められたのでお茶菓子はもう終わりですよグロースさん」
『わかった。
言い値で買うからもっと出して』
「ええー……」
「グロースお前なあ……」
「え、いつもこんな感じなのこいつ?大丈夫?ちゃんと見守ってもらってる?」
「色々と助言はもらってます、よ……?」
まだ数回しか会ってないから見守られてる実感は湧かないけども。気を遣われてるのは、まあわかる。
お茶が一番の目当てなんだろうなぁとは思う。けど、この人がくれた言葉に私は救われたんだし。
「お前がいいと言うなら構わんが……もし嫌だったら気にせず言えよ。保護監督者変えるからな」
なんて黒髪の人が笑顔で言うけれど、え、いやこれそんな気軽な感じで言うような事じゃないよね?あ、でも偉い人だってテクトも言ってたし……人事みたいな仕事もしてるのかな。
いや待って?幼女を見守る人事って何だ……?
「自己紹介がまだだったな。俺はコウレン。魔法が結構得意な魔族だ!」
「俺はアルファルド。長いから気軽にアルとかアルファって呼んで。物理が大分得意な魔族だよ」
黒髪のイケメンはコウレンさん。切れ長の真っ赤な瞳に、全体的に細そうな印象。角は尖った耳のすぐ上から真横に伸びて、カーブを描いて空を向いている。服装はゆったりしてるけど、ローブと軽装が組み合わさったみたいな感じで案外動きやすそうだ。セラスさんみたいな魔法と遠距離で戦うタイプかな?って思ってたけどやっぱり魔法系だった。いえぇい。
そういえばグロースさんと濃紺の人は、人と同じ丸い耳だけど、この人は尖ってるなぁ。魔族って角が大事だから、耳は親からの遺伝とか?魔族って不思議。
濃紺のイケメンはアルファルドさん。墨みたいに黒い垂れ目で、大きすぎず細すぎずな体からゆるーっと力を抜いてる印象。角は耳より少し上から頭に沿うように伸びて、ほんのり上を向いてる。武器はアイテム袋に入れてるみたいでわからないけど、袖をまくった腕はがっしりとした筋肉が見えるので前衛なのも納得だ。服装も動きやすさ重視って感じ。系統的にはオリバーさんやニックさん、モーリスさんみたいに素早いタイプに見える。アルさん、アルファさん……うん、アルファさんだな。アルさんって言うとなんか害虫駆除の薬品みたいになる。呼ぶたびに吹き出しそうになる。それはよくない。
所で、結構とか大分とかテキトーすぎませんか……強いのは何となくわかるけども。
「私はルイ、こっちはテクトです。テクトはカーバングルっていう聖獣で……知ってますよね?」
「ああ、魔族と交流がある聖獣様から聞いてる。俺達もテクト様と呼んでもよろしいか?」
<構わないよ……様付けが増えた>
テクトの声に2人とも満足げに頷いてらっしゃるので、おそらく最後のは私にだけテレパスしたんだろう。今まで冒険者の人達には呼び捨てだったのに、最近はどんどん様付けされちゃってるね。慣れないんだろうなぁ。頑張って取り除いてみてね!
テクトに再び睨みつけられた所で、コウレンさんとアルファさんに聞いてみた。
「私に会いに来たって言ってましたけど、どうしてですか?グロースさんの話だと、見つけ次第そのままグロースさんが見守る、みたいな話だったと思うんですが」
「まあ端的に言えば、グロースをたった数分で落としたという転生者と、カタログブックを見に来た」
「もっとわかりやすく言えば、興味本位ってやつだね」
「わあドストレート」
思わず声に出しちゃうくらい明け透けな物言いに、むしろ爽やかささえ感じられるというね。これも魔族の不思議かな?不思議が増えたな……
コウレンさんもアルファさんも、私とテクトを見てにこやかに微笑んだ。
「よい関係を築けているようで安心した。勇者でない者が聖獣様の加護を受けて無事でいられるかと、ほんの少しは心配していたのだが。杞憂だったな」
「ありがたい事に、ずっと守られてます」
<楽しい思いをさせてもらってるね>
「うむ。素直で大変よろしい。なるほど、これはグロースもすぐ懐く」
「2人とも笑顔が晴れやかだ。やっぱり実際目で見て確認する方がいいね。超速で飛んできたかいがあった」
『今日はコウレン伯父さん落とした?』
黒豆せんべいをくわえながら、グロースさんがカンペを出す。
は?落とす?
アルファさんがぐっと親指を立てた。
「ぎりぎり落とさなかったよ」
「うるさいわ、こののんびり顔のスピード狂め。例え遥か上空から落ちようが俺は死なんがな、風の微調整は大変面倒だ。気をつけろよ」
「そもそも俺を常日頃足にしてる奴がいとも簡単に落ちる方が、意味わかんないな」
「自分の事を棚上げして言うのがそれか」
「??すみません何の話??」
超速だとかスピード狂だとか……遥か上空?足?おじさん?
3人は顔を見合わせて「言ってなかったか?」「言ってない……気がしてきた」『言ってない。魔族としか言ってない』と口々に交わしてから、私に向き直った。
「魔族と一口で言っても、実は様々な種がいてな」
「妖精族にエルフやドワーフ、獣人族に
「な、なるほど」
『俺は吸血鬼。
と言っても、血よりご飯やお菓子の方が好きなんだけど』
「それはよくわかります」
今までの食欲見れば疑いようがない。吸血鬼って言われても全然、恐怖が湧いてこないのがその証拠だ。
っていうか吸血鬼ってもっと怖いもんだと……グロースさん全然怖くないじゃん……ゲームで敵対してた吸血鬼もびっくりなフレンドリーさだよグロースさん。
「即答だと!?グロースお前、数日で把握されすぎでは?伯父さんびっくりなんだが」
「グロースさんと親せきなんですか」
「ああ。グロースの母親が俺の妹でな」
「有名だったよ。奔放なコウレンとそれに輪をかけて自由なグロース。年が離れてるのに意気投合してそこら中に迷惑をかけて……妹が可哀想だった」
「わあ……想像できそう」
さっきその自由さにパニックさせられた身としては、その妹さんに同情しちゃうよ。
ん?って事は、皆さん、あれか。3人揃って2000年以上生きてるのか。
見た目はこんなにも若々しい青年なのに……全部足したら6000年。果てない数字が出てきたね。年齢って何だったっけ。
ここまでトンデモ年齢の人達を前にすると、私の“元”20歳なんて、大したことないなぁ。
「俺の話はいいだろう。ああ何だったか……種の話だったな。アルは今こうして人の形をしているが、それはスキルを使って変化しているからで……本来は数人乗せても悠々と飛べるほど大きい古竜、ドラゴンなんだ」
「ドラゴン」
思わずオウム返しする。ドラゴンって……あのドラゴン?鋭い牙がずらーっと並んでて、二足歩行で、大きな体で、背中に爬虫類の羽があって、大体のゲームで強敵として出てくる。あの。
アルファさんを見ると、ピースしてた。何で?
「ドラゴンのままじゃ街中歩けないし、住居にも入れないから。ドラゴンは皆、変化できて一人前」
「あまりにも便利なんで、ついつい乗せてもらって国を飛び出してしまうんだよな。もう少し外出への魅力を減らしてもらえんか」
「俺の心持ちではどうしょうもないから無理」
飛んできたってそのまんまの意味だったのかああああああ!?
え?じゃあ超速って言ってたのは、つまり、すんごい速度で飛んできたって事?ドラゴンってどんくらいの速さで飛ぶの?ヘリ?飛行機?戦闘機?ロケット?どれにしても背中に乗ってたら圧力と風圧で死にそうですね!しかも結構な確率で落ちると?死ぬね!!
私、紐なしバンジーは良くないと思います!!
「あー、あー。ごほんっ。まああれだ。ドラゴンと友人になると大変便利だよ、という話だ」
「死にかけるのに!?」
「そんなのコウレンだけだよ。他の人が乗った時は、ちゃんと魔力で保護しながら飛ぶし」
「それくらいの丁寧さ、俺にもっと向けろよ。足にした分、給料割り増しで払ってるだろ」
「わざわざ俺がしなくても、コウレンは自分で出来るでしょ?無駄なサービスはしないよ」
<……まったく。それで?カタログブックを見に来た理由は?>
テクトがコップを置く。たんっと良い音がした。
それまで騒いでいたコウレンさんもアルファさんも、さっきまでの空気が嘘のように姿勢を正した。
テクトさんのお話修正力よ……つよ。
「実はな、カタログブックを是非見せたい奴がいる。その前に俺達が確認しに来たのだ。それが俺達の知る魔道具かどうかをな」
「見せてもらえる?出来れば、目の前で買い物もしてくれると嬉しい」
「いいですけど……テクト、何買おうか」
<ここで奪われると疑わないあたりね。うん、僕が信頼されてるからこそだってわかってるから注意も出来ない…………ああ、どうせグロースが食べるって言いだして買い取るんだ。お菓子でも買えばいいんじゃないかな>
「ナイスアイディア!」
何か酸っぱい顔をする人達はどうしたの?気にしなくていいの?わかった。
アイテム袋からカタログブックを取り出して、開く。ナビにティラミスを頼むと、画面に色々出てきたので食べたいなあと思ったものを選んだ。しょっぱいもの食べたら甘いものだよね。抹茶ティラミスもいいなあ。黒豆が乗ってるのが可愛くて素朴美味しいやつ。ほろ苦い抹茶の濃い風味に負けないマスカルポーネチーズの香り。滑らかな舌触り。
うん、これにしよう。後は王道のティラミスと……ヨーグルトのヘルシーティラミス。全部カップタイプだから、複数個買う事にして。
「はい、購入」
―――商品を転送します。
ナビの声が聞こえたかと思うと、座る私の隣に持ち手付きのケーキ箱が複数現れた。今日はティラミスだけだったから、段ボールじゃなかったな。ケーキ=この箱!っていう私の記憶に準じてるんだろうけど。
早速箱を開けてティラミスをグロースさんに渡すと、ほんのり口端を釣り上げてスプーンを取った。カンペ書いてる暇ないよね。どうぞどうぞ、しっかり味わってください。
コウレンさんとアルファさんはもはやツッコミ入れるのも疲れるのか、カタログブックとケーキ箱に目線を向けてる。
「買い方が同じだ。昔見た通り」
「うむ。意匠も、俺の記憶間違いでなければ同じようだ……ここにいたか。カタログブック」
「じゃあ今度来る時はルニラムも連れてこよう。ちょうど休みも近いし」
「ルニラムさん、という人がカタログブックを見せたい人なんですか?」
「ああ。自ら多忙になる事を望む、変な奴なんだがな。そいつがカタログブックを作った勇者の子なのだ」
「え」
カタログブックを作った人、勇者さんの子ども……!いるの?生きてるの?直系の子孫とかじゃなくて、お子さんが!!
「あれは母の形見。もしルニラムが来たら見せてやってくれないか」
「勇者さんの子どもが……生きてらっしゃるんですか」
「ああ。魔族と勇者のハーフだが、角を持って生まれた時点であいつは魔族。長命である事を宿命づけられた者だ……だからと言って落ち込む奴ではないがな!」
え、すごい会いたい。お礼が言いたい。勇者さんの代わりとか失礼だと思うけど、お礼を言わせてほしい。
私がダンジョンで暮らしていける要因でもあるんだから!
<まさか所有権をかざして返せ、とは言わないよね?カタログブックはルイの生命線、安全に暮らすために必要なものだよ……それにダンジョンに落ちていたものは、それを拾ったものに権利がある>
え!あ!そっか!そうだね、返さなきゃいけない場合もあるよねー!
やっばいどうしよ、返したくない。ナビとも離れたくない。
不安をにじませて見上げると、コウレンさんは朗らかに手を振った。
「そこは大丈夫だ、返せなどとは口が裂けても言わん。そもあいつが随分と昔に、話をして気に入った勇者へ是非とも活用しろと渡したその時に、国外へ流出しているわけだしな。紆余曲折を経たとはいえ、現在も正しく活用されてるとわかればむしろ親子ともども満足するだろうよ」
<……ならいいよ。ルイは?>
「もちろん、私もいいよ!むしろカタログブックの関係者にはお礼が言いたいくらいで、今も健康的に暮らしていけるのはカタログブックがあったからだし」
「そう言ってもらえるならば、あいつも喜ぶ……ただ見て、触れさせ、聞かせてやってほしい。カタログブックが話すだろう?ナビゲーションだったか。あれは奴の母の声でな……両親がなくなってもう長い。声くらい聞きたくなるのが子の道理だろう」
そう言ったコウレンさんの表情は、ちょっとお爺ちゃんに似ていた。昔を懐かしむ、優しいお爺ちゃんの顔。
ほんの少し、家が懐かしくなった。
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