70.冒険者増えてる



「ああー、つーかれだぁあああ……あぁ?」

「う?」

「急に止まんなよクレイヴ。お前でっけーんだから前見えねぇわ」

「どしたん?」

「え、いや、なんつーか。何て言ったらいいんだか……俺の目が霞んでなければ、ケットシーがクリス女史に叱られてる」

「はー?なんて?」

「クリス女史ってあのクリス?」

「待て意味が分からん」

「おう遅かったなお前ら。もう飯時過ぎてんぞ」

「ディノいたのか!何だよ揃いも揃って、もっと先に行ってると思ったわ」

「こっちにゃ色々事情があんだよ。お前らはどうした、迷子かよ」

「迷わねぇよ!地図書いてんだからよぉ!」

「俺らはあれだ、選んだ道が宝多くて目移りしたっつぅかさあ……」

「モンスターに囲まれて絶体絶命を体感してただけだよ!なんとか返り討ちにしたけどな!!」

「ああー!俺の心がポッキリ折れた!今ぜってー折れた!!ボキッてなった!!」

「フランー!!折角ニックがちょっとした見栄張ったんだから黙っててやれよー!!」

「えー?」

「んな状況を笑って言えんだからフランは相変わらずだな。お前らはそいつ殴っても許されるだろ」

「殴って暴露癖が治るんならボッコボコにしてやるわ。で、なんだあれ。お宅のシアニスとセラスが関わってんの?それともあいつらが意気投合してやってんの?ケットシーにいちゃもんつけるとかついにクリス女史も思い切ったな」

「いや、クリスはただのお節介だ。逆に俺らが全員関わってんだよ」

「「は?」」

「まあ話してやるから座れや。飯準備しながらでいいからよ」
















クリスさんと一緒に相場の紙を確認したら、ほうじ茶は市場では2000ダルくらいらしい。でもそれは一般的なお安い茶葉での話で、私が扱ってるものなら3000から4000で設定しても問題ない、とクリスさんに太鼓判押されてしまった。マジっすか。これ、私がよく飲むお手頃価格な茶葉なんですけども。


「というか、元値が1000で売価が1500って、あなた達の取り分500しかないじゃないの。もっと多めに値段設定しなさいよ。仕入れから何からあなた達がやってるんでしょ?」

「いやー……宝玉でたくさん稼げそうだからこっちは別にいいかなって思っちゃて……」

「宝玉に限って言えば、販売額は一律固定、販売した半分の金額は冒険者ギルドに上納しないとでしょ。それのどこが稼げるってのよ。ポーション仕入れたらすぐ消える金額でしょ」


クリスさんの言う通り、宝玉はダンジョン専門のアイテムだから、商業ギルドじゃなくて冒険者ギルドに売上金を渡さないといけないんだよね。ダンジョンに関しては全部冒険者ギルドに一任されてるからなんだって。

売り上げの50%も取られるとか理不尽だって?私も最初はちょっと思ったけどねぇ。でもこれ、他の冒険者さんも条件同じなんだ。

冒険者ギルドでも宝玉は売り出してるわけだけど、あれは冒険者が手に入れて余った宝玉をギルドに売るから時々売り棚に並ぶ程度で、毎日あるわけじゃないらしい。その冒険者から引き取る時も、宝玉の販売価格の半分なんだって。宝玉は一律で値段は決まっているから、買取価格も変動しない。つまり商人も冒険者も、それにギルドも、手に入るお金は同じって事だ。それでも万単位のお金が動くわけだからかなりの収入になるんだけど。

不思議なのはポーションは運送代かけていいのに、宝玉はだめって所だよね。法律で決まってるのかな?


「全部拾い物だから売れるだけ儲けもの、みたいな?だから他はあんまり高め設定しなくてもいいかなっていうか、とりあえず外より高めに付けないと他の商人に怒られるって言われてるので、それだけは守ろうかなとは思ってます。ぼったくりはしない主義です」


それにカタログブックはすべての商品を元値で仕入れられるから、販売価格80万の中級ポーション売ろうと思えば30万とプラス運送代がそのまま利益になるんだよね。中級ポーションだけでこの利益ですよ怖い。普通の商人はどういう商売してるんだろう。たぶん元値から色んな要素や労力を加味して80万設定でもほどほど稼げるんだろうけど、私達は労せず丸々お得しちゃうわけだから思わず震えるよね。恐怖で。

数日前に1000万持ってた奴のくせにメンタル弱すぎ、と自分でも思うけど……そんな簡単に慣れないからね?現代で言えば、30万あったら高性能な冷蔵庫が1つ、安いので妥協すれば2、3個買えちゃうんだよ?冷蔵庫そんなにいらないけどかなりの金額だよね?ポーション持つ手も振るえそうだよね!

仕入れですでに他の商人さんより安く済むわけだから、それほど切迫してないのも悪いのかな。私がのんびりしてるから心配かけてる気がするけど、大金に慣れるまでもうちょっと待ってほしい本音もある。いや、いつかは皆さんに中級ポーション売りまくるような商人になりたいとは思うけどね?


「……はーーーーーーー。シアニス!儲ける気がないケットシーの説得方法はないの?」

「彼女は安定した暮らしができるだけ稼げればいいそうですから、深く考えると自分があくどい商人になった気分になりますよ。後は純粋に、冒険者の役に立ちたいのだそうです」

「は?そんな純朴なケットシー存在するの?してるわ。目の前にいたわ。はー眩しい。私はどうせ汚れた大人よ」

「セルフノリツッコミお疲れクリス……本人の前で言わなかったら尚更よかった……」

「ごめんなさいね口が勝手に動いたものだから!」

「気にしてないですよー。自分が常識外れなのはわかってますし」


むっすーとしたクリスさんに首を振りつつ、パオラさんの方に顔を向けると、その背後に人が増えてた。え?あれ?さっきまでルウェンさん達がくつろいでた光景だったはずなんだけどな?男の人がめっちゃいる。増えてる。いつの間に?いち、にい……6人、かな?

大きい人やケモ耳の人や小さい人が入り混じっているけど、共通してるのは6人揃ってディノさんとエイベルさんを拝んでるって事だ。え、何事?


「お願いしますそのスープを恵んでください!!俺もエイベル達の飯食いたい!!」

「ずるいよー!クリス達が先に来たってだけだよね!!ここらへんの冒険者の情報だったら俺らだって持ってるよー!!」

「情報は早い方がいいに決まってんだろ寝ぼけてんのか」

「ぐぬうううううう!!せめて!!せめて一口!!」

「タダで貰おうってのはなー。よくねーよな?」

「くっそー!払う!!いくらでも払うから恵んでくれー!!」

「腹減ったよひもじいよ。何でいい匂いが残ってる空間で自分らのまずい飯食わなきゃなんねぇの寂しいじゃん!胃的な意味で寂しいじゃん!!」

「アレク達は新しい情報持ってないの?些細な事でも教えてくれれば2人も許してくれると思うよ」

「マジか!?」

「オリバーの優しさが身に染みるわ。そこのでけぇ2人は優しさが足りねぇからモテねぇんだなよくわかる」

「ニックはポトフがいらないらしいな」

「ワー、フタリトモ、モテモテェ。オレ、ヨーク、シッテルー」

「わざとらしすぎる、1点」

「採点厳しいな!!」


随分と、騒が……元気な方々だなぁ。いやでもシアニスさんも言ってたよね。薄暗いダンジョンの中で元気を失わないって大事な事だよ。うん。

ディノさん達と仲良さそうだから、話しかけてもいいかな?テクト的にはどう?


<うん、いいと思うよ。クリス達と同じ、ごく普通の冒険者だ>


テクトのお墨付きをもらえれば問題ないね!ただ、今は取り込み中だから話しかけには行けそうにないなぁ。


<今は昼ご飯の余りを貰えるかどうかって話をしてるだけだから気にしなくていいのに。あ、ルイがクリスと話し合っている間に、ルイと僕の事や、108階の事は説明し終わってるよ>


あ、そうなの?それはありがたい。

私の意識が男性陣の方に向かってると気付いたのか、クリスさんが肩を落として紙を渡してきた。相場が書かれてる紙だ。


「まあ今は、あなたの思うようにやるといいわ。私達はおかしいと思ったら言わせてもらうけどね」

「はい、いつでも教えてください!あ、教えてもらっただけ、サービスしますよ!」

「……ああー、もう、シアニスー!!」

「はいはい」


クリスさんがシアニスさんに抱き着きながら、何あの子可愛いー!!素直過ぎてこっちが照れるー!!なんて叫んでいたとは当事者しか知らず。

私はというと2人とも仲いいなぁと思いながら、パオラさんとドロシーさん、エリンさんに手を引かれ背中を押されて、男性陣の方に向かって行ってた。


「うちのクリスがごめんねー。お節介始まると興奮しちゃうっていうかー」

「私が商人らしくないのでイライラさせてしまうのもわかってます。ただ、性格は変えづらいというか、手間をかけて申し訳ないというか」

「そんなの気にしなくていいんですよぉ。勝手にぷんぷんしてるのはクリスなんですしぃ」

「それより、あいつらも紹介しよう……ルイは料理も扱う予定だと聞いたから、かなりいい顧客になると思うよ……」

「それは助かります!」


ルウェンさん達にも是非と言われてるしね。カタログブックを開く時間がもらえれば、すぐにでも売れるけど……お茶っぱの値段設定で怒られてるからなぁ。相場の紙にも料理の値段は書かれてなかったし、後で料理の値段を聞いたり情報を集める必要があるねぇ。私とテクトじゃ適当な値段がわからないからなぁ。元値にちょっと足しただけじゃ怒られるし。


「やっほー!あんた達今日もまずい飯食べてるー?」

「ドロシーてめぇ事実でも言っていい事と悪い事があるんだぞ!!例え事実でも!!」

「いや事実ってわかってんじゃん。そんな強調するほど」

「悲しい現実……!俺達はどうしてこんなにも飯がまずいのか」

「まず強火を止めればいいと思う……」

「えー。でも強火にしねぇと腹壊すだろ?」

「じっくり焼けるのを待つ気がないあたり、壊滅的に才能ないんだと思いますぅ」


なんかこの一瞬で恐ろしい話を聞いてしまった気がする。

え、私の聞き間違えじゃなければ、常に強火で調理してるって事?じっくりコトコトとは無縁って事?いつでもファイアー!!って事?しかも腹壊すって言った?それナマモノの話だよね?肉や魚の中に火が通るまで強火って事は外側はどうなってるの?やばくない?

首を傾げてた私は、一瞬焦げ臭さを感じて、視線が向いてしまった。見てしまった。

6人の中でもひと際大きな人が、そのずんぐりした手に程よくフィットするフライパンに、ブロック肉をさらに何個も重ねました、みたいな肉塊を乗せてるのを。その側面がすでに、真っ黒に焦げてしまっているのを。

そのフライパンの下にあるコンロが、ごうごうと燃え盛っているのを。


「ひいいいいいいいいい!!や、やめ!止めてくださいそれ食材に対するボートクですよ!!あ、すでに手遅れの匂いっ!!やめっ、あああああああああああもうフライパンもまっくろぉおおおお!!やだやだ!!美味しそうなお肉に対して何てヒドイ事をするんですか!!あんまりだ!!うわああああああん!!」

「う、う?」


私が駆け寄って太い腕をぽかぽか叩くと、大きな人は困惑した顔で首を傾げた。

図体がめっちゃでっかい割に仕草が可愛い人ですね、じゃなくって!!


「もう火から降ろして!!これ以上お肉に無体を強いるのは止めてください!!そんな無茶な使い方したらフライパンだってすぐ駄目になっちゃうんですからね!!道具も大切に扱ってくださいあなたのお腹を満たす食事を作る道具ですよ大事にして!?」

「うー」

「ごめんなさい私の言い方が悪かったですよね降ろしてじゃなくて消してって言えばよかったですねそのまま床に置かないでフライパンほんっとうに壊れるってばあああああ!!」

「……ルイの怒りのポイントが食べ物に傾いてる件について何か一言」

「食べる事が本当に好きなんだな!」

「さすがルウェン、笑顔で言い切った」




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