47.問題とお話
「あのー……皆さん?」
私、何か変な事した?お茶の入れ方おかしかったかな?でもお婆ちゃんはいつもこうやってたし、不味くなる入れ方ではないはずなんだけど……はっ!それとも、このテーブルが駄目だった?この前皆さんが普通に敷布の上に座ってお茶してたから、てっきり世間では座卓も通用するのかなって思ってたけど、もしかしてティーカップ出した時点でテーブルチェアセットの方が正しかった!?あまりにも場違いだった!?確かに日本茶は湯飲みで飲んだ方が雰囲気出るしほっこりするけど、ティーカップじゃダメとかないよね!?私普段はマグカップでごくごく飲んでたよ!?情緒なくてごめん!!
<……あー、うん。そうじゃない。ルイのせいじゃないから深く気にしないで。あとこのテーブルで問題はない>
いいの?テクトが言うなら気にしないけど……と、とりあえずお茶配ろうか。
きょときょとと目を彷徨わせつつティーカップを運ぼうとしたら、シアニスさんがテーブルの傍に寄ってきて手伝ってくれた。シアニスさんだけ動じてないのは何か理由があるのかな?
<そのほうじ茶含む日本茶は、過去の勇者が広めたんだろうね。世間的に貧富関係なく普及してるけど……急須で正しく入れられるのは習い事として嗜んだ貴族か、過去の勇者が興した里出身の人くらいしかいないみたいだよ。茶道って呼ばれてるね>
は?さどう?ほわっつ?
<ティーカップなのは問題ないね。凝視されてたのは入れ方だよ。一般的に広まってるやり方は、この前みたいに紅茶用の大きなポットでやるんだ。お湯の温度も適温じゃないし、日本茶はその入れ方だと渋みが強くてあまり美味しくないから、好まれないらしいね。ほうじ茶は渋くないからよく飲まれてるみたいだ。だからこそ驚かれてるみたいだよ。ただのケットシーがほうじ茶を、正しい手順で入れてるってね。シアニスは鉄瓶の時点で察してたみたいだから、驚かなかったけど。以上、猫耳ルイがちょこちょこと動いて可愛いと思っていた人達以外の思考ね>
え。私が普段からやってるお茶の入れ方が、貴族の習い事?マジで?本家家元的な、そんなご大層な茶道じゃないけど……茶道って呼ぶの?ふっつーにお茶入れたのが?これ勇者の影響?ポットが一般的なお家にある時点で紅茶の茶葉は広まってるわけだから、お茶の葉自体はこの世界に元々あるんだね。紅茶だろうと日本茶だろうとお茶の葉は同じだから、カタログブックがなくても簡単に広めやすいよねー。あはは……じゃなくて!
ケットシーだと思ってるって時点で、これダリルさんとグロースさんのどっちかって事だね?めっちゃ驚かれたのは察した。そして正しい方法を知ってる人達は貴族と関係があるの?シアニスさんも?シアニスさん貴族嫌いじゃなかったっけ?たしかテクトが、皆さん一様に貴族にいい思い出ない的な事言ってなかった?
テクトを見ると、小さく肩をすくめられた。
<教えてもいいけど……エイベルの時も、自分から聞き出すって言ってたよね>
はい言いました!おっけーわかった!私自身がいつか聞けばいいタイプの話なんだね!込み入った事は気長に待つわ!!
「ルイ、配り終わりましたよ?ぼうっとして、どうしました?」
「あ、いや……」
シアニスさんに顔を覗き込まれた。ひえ、タイムリーですよ!
テーブルを見れば、均等に並べられてるティーカップ。私がボケッとしてるうちに全部やらせてしまった……!ありがとうシアニスさん!
「お菓子、なにがいいかなーって……思って」
「あらまあ。ほうじ茶はクセが少ないから、ほとんどのお菓子と合って悩みますよね。私はドライフルーツが好きです」
「あ、わかります!ベリー系の、さんみが強いお菓子も合いますよね!」
「それならちょうど、こちらにベリー系のドライフルーツを練り込んだクッキーがありますよ。こちらをお茶請けにしましょう。お皿を出しますね」
腰のベルトに下げたポーチ型のアイテム袋から、てきぱきと皿を出してクッキーを広げるシアニスさん。
こんな優しい笑顔の慈母属性な女の人が、いい記憶のない貴族と何かあったのか……なんて、あまり考えたくないけど。きっと苦労したんだろう。
とりあえず思うのは……
<ルウェン早く告白して幸せにしてやれ?>
それ!!です!!
皆がシアニスさんの事情?過去?知ってるかはわからないけど、2人が早くくっつけって思う気持ちはよーーーくわかった!!
はー……うん、落ち着こうか。皆さんテーブル囲んで座ったしね。お茶を一口、二口……はぁああああ。美味しいなぁ。
私が飲み始めると同時にお茶を口に含んだ皆さんの顔が、ふんわり緩んでいく。そうそうこれだよ。私が朝、見たいなーって思ったのはこの顔なんだよ。よかった、当初の目的を思い出せて。
「うん、美味しいわねぇ」
「あー……うめぇ」
「ほっとするな」
「まさかダンジョン内でほうじ茶を飲めるなんてねぇ」
「クッキーおいしい!です!」
「これバニラの店のやつ?」
「ええ」
「バニラなら間違いねーわ。こりゃうめー」
「いやあありがたいねぇ。まさかこんな歓迎を受けるとは思わなかったよ」
「…………(さくさくごくごく)」
「で、何故ギルドマスター達が来たんです?」
初めてダァヴ姉さんが来た時に貰ったクッキーはカンパンみたいだったのに。シアニスさんが出してくれたクッキーは、硬くもパサパサもしてなかった。しっとりサクッて美味しい!ドライフルーツも噛めば噛むほど甘みがじんわりと口の中に広がってたまりませんなぁ。テクトが<あれはルイの体調を考えて栄養素が多い保存食を食べさせたんだってダァヴが言ってたよ>って教えてくれてうんうん頷いてたら、シアニスさんが突然切り出してきた。お茶を噴かなかった私を誰か褒めて!!
テクトに慰められるように太ももぽんぽんしてもらって、真正面でお茶を飲むギルドマスターを見る。隣に座ってるグロースさんはクッキー食べてはお茶を傾け、クッキー食べてお茶を……あ、お代わりいります?いいですよ、お湯が沸いたら入れますからちょっと待ってくださいね。
で、えっと、何だっけ。何でギルドマスターが来たのかって話だったっけ。
ダリルさんは「グロース君が悪いねぇ。美味しいものが好きなんだよ、彼は」と言ってから、皆さんを見回した。
「君らが怪しい行動をするからさ。何を隠してるか知りたくて、ついてきちゃった」
いや、初老のおじさんが茶目っ気たっぷりに「ついてきちゃった」って……か、可愛い?可愛いのかな?ちょっと拍子抜けはした、かな?もっと攻めた感じに来ると思ったから。
シアニスさんが頬に手を当てて、首を傾げた。うん、こっちは文句なしに可愛い!
「怪しい?さて……何かしましたか?」
「子ども服買ったり、過去の受付記録を閲覧したり、怪しい以外の何があるのかな?」
「ああ、その事ですか。先程も言いましたが、彼女が上級ポーションを売ってくださったからこそ、私達は皆で帰還できたのです。そのお礼をするのは当然でしょう?可愛らしいポンチョがあったら、是非着て欲しいと思うのもまた道理。テクトとお揃いで、とても愛らしいでしょう?」
「最高ね、私達の見立てに間違いはなかったわ!後でリボンも付け替えましょうよ。
」
「確かに可愛らしいねぇ……一瞬、人族の子どもがダンジョンに紛れ込んだかな、と思うくらいには驚いたよ」
おおっと。ふっかけてきましたね!しかし心構えが出来てた私は動じませんよ!
にっこり笑って尻尾を振ってみせた。女は度胸!
「記録に関しては、彼女がどうやってここに辿り着いたのか知りたくて」
「ほう?」
「ルイは、外の世界を知りませんでした。自身がケットシーだとは知ってましたが、獣人族やエルフを始めて見たと言ってましたよ。多種多様の種族が常に行き交うナヘルザークにいてそれはありえるのでしょうか?」
「相当な箱入りじゃなきゃ、ありえないだろうね」
ほう。ナヘルザークは種族差別はしない主義なのかな?大変平和でいいねぇ。
いつか戦争がなくなって、本当に平和になったら……まあ本当にいつになるかわからないけどね。
「その事から、ルイはダンジョンから出た事がないのでは、と思いました」
「……これはまた唐突だねぇ」
「そうでしょうか?そういえば直接聞いた事はありませんでしたね、ルイは外へ出た事がありますか?」
「ないです」
一歩も。
「……ふむ、では物心付く前の彼女はどうやって、いつここに来たのか、推測したのかな?」
「受付記録を確認しましたが、過去、ケットシーがダンジョンに入った記録はずいぶん昔にありました。女性のケットシーが1人、入ったまま出てこなかったという記録です……つまり、その女性が、ルイの親である可能性を考えました」
え、なんと!驚いてほうじ茶を飲み込んじゃったよ!
いたの?ケットシー入っちゃったの!?ここに生まれちゃった私はともかく、何で入っちゃったのこんな危険な所に!!昔だからわからないけど!!
「ルイにも確認をとりましたが……おそらく間違いはないでしょう。その女性はトラップで深層へワープしてしまい、身重では外へ出るに出れず、その場でルイを生み、育て、そして……」
そこでシアニスさんが目を伏せた。あ、こ、これもしかしてお母さん死んじゃった設定?
テクトの目線が頷いたので、私も俯いておく。ちゃんと庇ってもらってるんだから、手伝わないと。
「じゃあ、ルイの目が少し赤いのは……」
「すまない!俺達が泣かせてしまった!」
ルウェンさんが突然頭を下げた。これは本気で思ってたから、我慢できなくて言っちゃったんだろう。
ただ、今このタイミングで言うのはバッチリだったんじゃないかな?ダリルさんの目が疑い100%感じから、少し緩んだ気がする。
「でも小さな彼女がここで生活していたという事は、宝玉を手に入れて外に出る機会があったって事だよね?何故出てこなかったのかな?」
「わかりません。でも、外には出ちゃダメって言われてます」
故人を利用する感じでちょっと申し訳ないけど、それは事実だからね。ダァヴ姉さんにもお勧めしないって言われたから嘘じゃないよ!
「ルイが知らないと言うので想像に過ぎませんが……受付記録には彼女の母が、身重の体でダンジョンへ入った理由が書いてありませんでした。ここまで深い階層へ潜る予定はなかったかもしれませんが、ダンジョンから出ないつもりで入ったのではないでしょうか」
「……なるほどねぇ……」
ダリルさんはお茶を一口飲んで、私に向き直った。
真正面から、彼の視線を受け止める。次は私が話す番なんだね。わかりました頑張りましょう!折角皆さんが私を外に出さないように考えてくれたんだから、私がミスらないようにしなくちゃ!
「言葉はお母さんが教えてくれたのかな?」
「あ、はい!あと、せんじょー魔法も!」
「……この安全地帯が妙に綺麗なのは、君がやったのかな?」
「はい!……ほとんどお母さんが、ですけど」
正しくは姉さんです、とは言わない!
「このほうじ茶はどこから手に入れたのかな?そのアイテム袋の中に入ってたのかな?どれだけの年月ここにいるかは知らないけど、アイテム袋は無限じゃないんだ。食料は尽きるだろう?ダンジョンの宝箱に食料が入ってないのは、長い間ここに住んでる君なら知ってるだろうから、教えて欲しいな」
お、ちょっと皮肉ってます?ふふふ、心構えしっかりなケットシールイに抜かりはありませんよ!
「内緒の仕入れ先があるんです。だから毎日3食しっかり食べてますよ。あ、内緒ですよ!お母さんも、商売人は簡単に仕入れルートを人に話さないんだって言ってました!」
「……その仕入れ先で暮らせばいいじゃないか。ここは危険だろう?」
「このダンジョンで暮らす約束ですから」
外は出た事がなくても仕入れ先には出た事があるだろう、って言いたいんだねきっと。
こんな弱そうなケットシーが、1人と1匹で危険なダンジョンの深層で暮らしてるなんて、管理してる側からしたらいい気分じゃないと思う。安全な場所に行ってほしい気持ちはもっともだけど、私はむしろこの場所の方が安全なんですよね。メンタル的な意味で。
「こんな場所に住んでどうするつもりだい?」
「そうですね……前まではどうしようかなって思ってました。テクトと2人でのんびり暮らすのも好きです。でも、皆さんに会って思ったんです。私が持っているもので、冒険者の人達を助けることができるんだって。誰かの役に立てるんだって」
これは本心だから、言わせて欲しい。皆さんにも言いたいんだ。
「とても嬉しかったです。だから、私、商売を始めようって思いました。お店作ったんです。言いましたよね、最近お店始めましたって。このじゅーたんすべてが、私のお店です。ここでは、ずっと気を張ってがんばってる冒険者の皆さんには、心から休んで欲しい」
絨毯の事は成り行きだった。でも、寛いで欲しいって気持ちは間違いじゃない。
「ギルドマスターさんは、休めませんでしたか?私のもてなしは、お気に召さなかったでしょうか」
「……とても美味しいお茶を入れて貰って、気に入らないなんて客は舌がどうにかしてる。そうか、もう決めたんだね」
「はい!
見た目詐欺は事実だからね!!
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