45.絨毯と問題への導入
エイベルさんに猫耳と尻尾の最終動作確認をされた後、問題はねーだろうけど何か変な動きしたら早めに言えよ、直してやっから、とアフターケアの約束までしてくれた。エイベルさん素敵すぎない?間延び口調の頑固者なのかと思ったら手先器用で気配り上手とか、モテるんでない?イケメンだし。どうなのテクト?モテないの?何でだ!ええい誰も褒めないなら私が褒める!私が侍る!!
すごいすごいありがとう魔導技師なエイベルさんって素敵!と足元をうろちょろしながら褒め称えてたら、乱暴に頭を撫でられて中断された。照れてらっしゃるな!さっきはVサインするくらいにやにやしてたのに!まったく、エイベルさんも可愛いところがあるじゃないですか!この調子でモテろ!!
<僕はエイベルの気持ちわかるよ……ルイは素直すぎていけない>
ええー!何で?多少余計なお世話的思惑があったにせよ、ちゃんと感謝の気持ちを伝えただけなのに!と思ってたら足に尻尾アタックされた。解せぬ。
照れてそっぽ向いちゃったエイベルさんの代わりに、シアニスさんが魔導技師についてちょこっと教えてくれた。
魔力を流しても反応しないごく普通のアイテムに、魔法を基にした魔導構成を彫り込み魔導具にする技術を持った彫り師の事を、魔導技師って呼ぶんだって。魔力を流すだけで魔導具のオンオフスイッチを入れれるようにするのも魔導技師特有の技術だから、知識や技術がない人が例え同じ構成を彫ったって魔導具にはならないそうだ。ただ変な模様がついたアイテムになってしまうんだね。魔導技師は、魔導具作りの専門家なんだ。
魔導技師ってやっぱりすごい人じゃん!ますますエイベルさんが今冒険者やってるのが謎だね!魔導技師でも十分稼げそうなのになぁ。あ、テクト、教えようか?って顔は止めてください。さっきも言ったけど、そういうのはいつか私が自分で聞き出すから!ちょっと疑問が尽きないだけだから!
あ、疑問って所で思い出した!
「そういえば、他の皆さんは来ないんですか?」
「後から来ますよ。そうですね……ルイが優秀なお陰で時間も出来ましたし、私達の不手際で問題が起こってしまった事を報告しましょう」
ぴっ!思わず背筋がぴんっと立つ。え、え、ほんと?
「わ、私ゆーしゅーですか!?」
「すぐに耳と尻尾を動かせるようになっただけでなく、まるで生きてるように見せるまで習得してしまったからな。間違いなく優秀だ」
正直者なルウェンさんに大きく頷かれたら、そんな!によによしてしまう!!
わー!わー!優秀だって!嬉しい!私、魔導具のオンオフは出来てたから生活に不安はなかったけど、細かい調節もやれば出来るって事がわかって嬉しいよ!私こんなことも出来たんだね、知らなかった。魔力がどういうものか感じないから今までよくわかんなかったけど、えへへ。褒められちゃったよテクト。
<問題が起こった、っていう部分に関して何か言うことは?>
そこは聞いてから考えます!
っていうのもまだ会うのは2回目だけど、皆さんが信頼できる人達だっていうのは接しててわかるし。テクトのテレパスで良い人達だって太鼓判も貰ってる。だからそんなに不安はないよ。
私っていう大問題を既に背負わせてるわけだしね。
<なるほど。まあ問題を起こしても放らずに、対応策を考えて実行してくるあたり、さすが彼らという所かな>
テクト的に激怒する内容じゃないんだね。うん、じゃあその問題を聞こうじゃないですか。立ちっぱなしなんだから、絨毯に座ります?まだ座り心地を試してないけど。
「長くなる話なら、皆さんこっちに座ってください。あ、くつ脱いでくださいね!」
「お、さっきから気になってたんだよなーこれ。家の中でもねーのに大判の絨毯が敷いてあるって、なかなかに衝撃だぜ」
「ああ。まずはポンチョだと思って言わなかったが、目にした時は驚いた」
鎧も含む皆さんは脱ぐのに手間取ってるけど、私は靴だけだしテクトは素足だから、洗浄魔法かけてささっと絨毯に足を乗せる。ううーん!やっぱりクッションマットを間に入れて正解だね!絨毯の柔らかさは足の裏に心地よいし、加えて石レンガの固さがまったく感じない。断熱シートで冷たさもシャットアウト!素敵な憩いのスペースが出来上がってしまった……衝動買いだったけど、いい買い物したね!後悔はしてない!テクトも、満更でもないって顔してるし、衝動に身を任せるってのもたまにはいいね!私大体思ったらすぐ行動しちゃうけどね!
「テクトにも怒られたんですけど、いっしょに座るならこれくらい大きくないとなーって思って。つい買っちゃいました」
「え、これ私達と使うために買ったんですか?」
「はい」
「今日、俺達が来るからか?」
「はい!お茶会とか、楽しみにしてました!」
「……おいこれいくらかかった?」
「言いませーん!!ぜったい!!言いませーん!!」
両腕を重ねて大きく×印を見せる。私の口は堅いぞ!!
これテクトにテレパスしてもらわなくてもわかる!子どもにこんな高いもの買わせるなんて大人としてダメだろ、俺達と使うつもりなら俺達が買うべきものじゃないか的な、そんな感じだ!
<……うんまあ、大体合ってる>
テクトが呆れつつ頷いた。
そうでしょそうでしょ!でもこれは私が買ったんだもーん!お金の話はポーションの分だけで十分だもーん!
「私のお金で何を買っても、私の自由です!皆さんには、かんけーありません!」
「あらまあ、確かにルイの言う通りですね」
「ちっ。賢いなーお前は」
「ルイの負担にはなってないか?無計画に使ってはいないか?食事が取れなくなるような生活になりそうになったら俺達に言うんだぞ」
「ちゃーんと考えてますって。っていうかあれだけのお金、簡単に使い切れませんし。それに安定した生活をするために、宝玉を売りたいって言い出したんですよ」
無計画どころか一軒家を手に入れましたよルウェンさん。安心してください、ぬくぬくと羽毛布団に包まって快眠でした!!皆さんには言えないけど!!
冒険者の性とはいえ、大金(ほとんど装備)を幼女に渡した事を気にされたら話が進まんのですよ!私は賢い幼女!家計簿はつけてないけど貯金分はしっかり確保するタイプです!!
衝動買いはしばらく止めなよ、っていうテクトの痛い視線は見ないことにして。
「じゅーたんの事はいいですから、皆さんの話!」
「……そうですね。ルイ」
「はい?」
「とても座り心地がよくて、寛ぐのに最適な場所ですね。ありがとうございます」
「はい!!」
ふんわり綺麗に微笑んだシアニスさんはやっぱり聖母属性だと思う。一瞬にしてマイナスイオン出てきた。目の錯覚じゃないと思う。
お金の心配よりも喜んで欲しい。そんな私の気持ちを汲んでか、絨毯にちょこんと座ったシアニスさんは背後でまだ納得行ってない男達を手招きしている。動作は優雅だけど、「はよしろ」感が半端ないです裏ボスぅ。
まあ、ルウェンさんもエイベルさんも絨毯に一歩足をつけた瞬間、ダンジョン内でこんな極上の絨毯で寛いでいいのか……?いいんだろ、もう知らん。とぼそぼそ喋って大人しく座ったんだけども。
2人がもだもだしてるうちに南部鉄器に水を入れて、魔導具コンロにかけておく。お茶の準備だ。
若い男女だけでなく子どもでさえ鉄分不足になると言われた現代、簡単に鉄分を取る手段としてお婆ちゃんが取っていたのが南部鉄器でお茶を飲む、という方法だった。毎日の食事から取るのも大変だし、お茶にして飲むなら簡単だって愛用してたんだよね。鉄瓶はやかんとかより重たいけど、沸かしたお湯はとてもまろやかで美味しいし。冷まして白湯としてもよく飲んでたから、貧血とは無縁だったなあ。まあ箱庭の湧き水はカルキが入ってないからそもそも味がまろやか。もはや幼女の健康的生活のために、お手軽鉄分摂取方法として習慣づけてるんだけどね。鉄は錆びやすいって?ちゃんと乾かしてから片付ければ無縁ですよ。
鉄瓶に火が直接当たらないように弱火でじっくり温めるから、他の皆さんが来る前にしかけておかなくちゃって思ったんだよね。お待たせしましたシアニスさん。
「素敵な鉄瓶ですね」
「はい!」
お婆ちゃんが愛用してた鉄瓶がカタログブックのページに真っ先に出てきたから、同じの買ったよね。さすが、使い勝手がよかったよ。
家や学校はショックだったけど、こういう道具は寧ろ嬉しいみたい、と自分を分析してみた。たぶん、家を見ると帰りたくなって、道具を見ると楽しい思い出が蘇るからだと思う。楽しい気分の方がメンタル的にもいいしホームシックになっても仕方ないので、今後とも家や建物は日本産除外の方向で検索する所存です。
そんなわけで、この柚子型鉄瓶を褒められると嬉しい私がいるのだ。うへへ。可愛いんだよこのずんぐりした形。
「お湯が沸くまでにセラス達が着けばいいのですが……ルイ。実はポンチョは元々、あなたとテクトがお揃いになるように買ったものなんです」
あ、だからベージュなんだ。
あれ?もう一度耳に触る。猫の三角耳だ。するっと撫でて、違和感のない布地に首を傾げた。
「でもテクトとのとは違う耳ですよ?」
「元はウサギの耳だった。エイベルが1日で付け替えてくれたんだ」
「え、すごい。エイベルさん何でも出来そう」
「うん、エイベルはすごいんだ。何故かいつもそれを言うと怒るんだが」
「うるせーうるせー。元はと言えばうちの女性陣が揃って裁縫できないのが悪りーだろ……何でもかんでも俺に任せやがって」
「料理は出来るようになりました!」
ぷうっと拗ねた顔をしたシアニスさんは控えめに言って可愛いので、しばらくそのままの状態をお願いするとして。
エイベルさん多才すぎない?工作も家庭科もプロ並に出来るって器用だねぇ。じーっと見てたらまた乱暴に頭を撫でられた。髪の毛はぐちゃぐちゃになるけど、首はぐきってならないから上手に手加減されてるなぁ。
「こほんっ。話が逸れましたね。ポンチョを買ったところで、ギルドマスターに遭遇してしまいまして」
「ギルドマスター?」
「このダンジョンがある街は知っているか?」
首を振ると、ではそこから説明しよう。とルウェンさんが続けた。
「街の名前はラースフィッタ。この街にダンジョンは1つしかない」
「つまり、ここですね」
「ああ。ダンジョンの名前は知っているのか?」
「ヘルラース、です」
多少スペルは違う気がするけど、語感的に生き地獄って聞こえるんだよね。めっちゃ怖いよ名付け親。カメレオンフィッシャーといい、恐ろしい名前を付ける人がいすぎじゃない?同一人物だとしても怖くない?
「そのヘルラースを主に管理しているのが、冒険者ギルドのラースフィッタ支部だ。冒険者ギルドはダンジョンの出入管理と受付整備、冒険者への任務斡旋などを主な仕事にしている。俺達がギルドマスターと呼んでいるのは、その支部のマスターだな」
正しくは支部長なんだね。でもギルドマスターって呼んでる、と。ふんふん。
「迂闊でした……子どもと接点がない私達が揃って子ども用の服を買っている、その現状をうまく誤魔化せず逃げてしまったのが最大のミスです」
「俺はボロを出さないよう黙っていろと言われてたから何も出来なかった……」
「お前は黙ってて正解だ。つーか、そもそも怪しまれてたからツケられてたんだろ」
「グランミノタウロスの報告をし終わった後も聞き出されそうになってましたしね……」
「あれ?ギルドマスターに私の事、言わなかったんですか?」
グランミノタウロスと上級ポーションの事はギルドに報告しなくてはいけないから、上級ポーションの瓶はこのまま貰っていくねって話は前にしてたんだけど。てっきりその時、遭遇した私の話もするんだろうなと思ってたのに。
「ルイの事を話してしまったら、そのままあなたが贔屓にしているお店の話もしなくてはなりませんから」
「あ」
そっか。一般の子どもがダンジョンに紛れ込んでいたらそれは保護の対象。何で保護しなかったのか?って話になったら、私の事情とか、そのライフラインである謎のお店の話もしなくちゃいけなくなる。
私はその店のことを、あの時、内緒にしてって言った。皆さんはそれにしっかり頷いてくれた。
ルウェンさん、エイベルさん、シアニスさんに視線を移していく。3人とも、嫌そうな顔なんて全然してない。むしろ笑ってさえいた。
「内緒、が約束ですしね」
シアニスさんが、愛しげに目を細めて私を見る。
こんな、こんな怪しい幼女の話をちゃんと受け入れて、約束を守って、ギルドマスターに嘘ついたって事?冒険者としての義務なのに。
私との約束を、守ってくれたの?
あ、やばい。ポンチョの時より涙腺にきた。鼻がつんってする。でも泣かない!まだ話終わってない!
目をごしごし擦っていると、テクトがぺちって軽く叩いてきた。
<泣いてる時にそういう事すると、人の目って腫れるんでしょ?止めときなよ。ハンカチ使って>
「ん」
ポケットから取り出したハンカチを目元に当てる。すん、すん、涙が止まってくれない。嬉しい、嬉しい。嬉しくて、どうしたらいいかわからない。
<大丈夫。ルイ、その涙は間違いじゃない。だから存分に泣けばいいよ>
言外に、彼らが言ってる事は事実だってテクトが教えてくれたから。
私の涙はとまらなくなってしまった。
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