44.とある妖精は商売がお好き
「ちょっと、え、ちょっと待ってください!何でポンチョ?他の皆さんは?ていうか、えっと、しっぽ?」
皆さんが予定より早く来たのはまだいいよ。むしろ嬉しいと思ったよ。でもいきなりポンチョかぶせられたり尻尾に魔力使う?みたいな無茶振りはわけがわからないです!!はい、着ぐるみパジャマのお尻にくっついてるぺらぺら尻尾は実は動くんだよ。きみが尻尾って思えば動くよ、やってみようねー!って言われて素直に実行する子どもはどれだけいるかな!?純真無垢過ぎかな!?可愛いね!!
でも私は純正の幼女じゃないから頭がこんがらがりますよ!!
クエスチョンマークを浮かべまくってる私に気付いたのか、シアニスさんが気遣わしげに私の目の前にしゃがみ込み肩へ手を添えた。ちなみに、エイベルさんは容赦なく押しのけられました。さすが裏ボス、強い。
「ルイ、ごめんなさい。突然の事で驚いたでしょう。あなた達が可愛くて、少々興奮してしまいました」
うん、テクトのリボン着けた姿に萌えてたね?絶対可愛いでしょ?私もじっくり見たいな?このパニックが治まったらだけど。
「ですが、あなたは宝玉を冒険者に売りたいと言ってましたね」
「はい」
宝玉だけしか拾わないからね、何故か!
「しかしあなたはダンジョンから出たくない。ですね?」
「はい」
「テクトも同意見ですか?」
<そうだね。ルイの意見が変わらない限りは>
テクトの言葉はシアニスさん達には伝えられないけど、気持ちの確認はできる。こくん、と大きく頷いて見せた。
「ルイ、私達はあなた達の気持ちを尊重……大切に受け止めて、無理やり外へ連れて行く事はしません。もしも危険が迫った場合は、その限りではありませんが」
「きけん……テクトがいるし、宝玉があるから大丈夫ですよ」
<モンスターや罠に遅れをとるような僕じゃないしね>
私も万が一であってほしいです。そう言って、シアニスさんは困ったように微笑んだ。
「ですがルイ。あなたは賢いけれど、幼い子どもです。私達以外の冒険者の前に出て宝玉を売ろうとするという事は、有無を言わさず外へ保護される可能性が高いのですよ。どう誤魔化すかは考えていましたか?」
「あ」
し、しまったー!!何を売るかしか考えてなかった!!宝玉以外にも食べ物とか、装備とか、皆さんに聞いて売れそうなものを考えてみようって思ってたけど……そうだよ!私の姿じゃどう考えても保護の対象じゃん!!
「特にナヘルザークの冒険者はお人好しが多いって言われるしなー。人の子どもがいるって見た途端に、話も聞かず連れてかれるぞ」
「え、え、で、でも皆さんはちゃんと、私の話、聞いてくれましたよね!?」
「俺達はその場でしばらく休まなければならなかったし、ルイの事情を知る必要があったからな。だが、大体の人は安全な外へ出てからゆっくり聞けばいい、と思う場合が多いだろうと思う」
「そんなぁ、困ります!」
外には宗教国家のスパイがいるんだよ!?どこに隠れてるかわからないんだよ!?そんな街でゆっくり私の裏事情諸々隠して話をしなくちゃならないとか恐怖でしかない!!勘弁してください!!
「そこで」
慌てる私を落ち着かせるように、肩にあったシアニスさんの手がぷにぷにほっぺを優しく撫でる。ふおっ、シアニスさんの手って戦う人だから女性にしてはちょっと硬いけど、すごくすべすべぇ。気持ちいいぃ……ああー、体が緩んでくぅ。
「このポンチョです」
「ひゃい?」
ん?ここでポンチョの謎を教えてくれるの?
「要はあなたが保護対象じゃなくなればいいんです。見た目がそのまま年齢だと察せられなければいい」
「人族だと、見た目のままだって思われるから……」
「外見年齢詐欺が通常な妖精族だと思われればいいんですよ」
ほう……つまり見た目幼女だけど中身は立派な大人なのよ!っていうのを装えばいいんだ。それがまかり通るのが妖精族なんだね。何だ、今の私の現状そのままじゃん。見た目幼女だけど中身は大人!
え、そんなのできるの?私、まじりっけなしの人族だよ?転生したのに平凡の中の平凡よ?
「ポンチョに魔導構成を施し、耳と尻尾があなたの意思で動くようにしました」
「あ、さっきエイベルさんが言ってたやつ……」
「俺が魔導構成彫り込んだんだぜー」
このポンチョ、耳もついてるの?フード部分についてるのかな?手を伸ばしてみると、フードのもこもこからぴょこんと何か出てる。これが耳?まじまじ触りながら正面を見上げると、エイベルさんがにんまり口角吊り上げてVサインする。
え、エイベルさんそんなのできたの?
「エイベルは元々、優秀な魔導技師だったんだ。魔導具が壊れた時は彼に頼めば、すぐに直してくれるぞ」
「だから、息を吐くように人たらしをするなっつってんだろ。まあ、ある程度の魔導具なら直せるけどよー」
「ふふ。エイベルはああ言っていますが、アイテム袋の故障も直せるんですよ」
「ええええ、すごい!」
シアニスさんがこしょっと耳元に囁く。なんと!アイテム袋の魔導構成って、かなり複雑なんでしょ?あんなにすごい機能なんだもん。便利であればあるほど複雑じゃなかったっけ?
例えばシャワーの魔導具は、水を作る構成とそれを一定の温度に保つ火の構成を彫るだけで済むんだよね。シャワーヘッドの中で作られる水の量によって噴出する水圧が変わるから、強弱は水量を調節すればいいだけ。案外単純構造なんだって。
まあ、あんまり強くするとめちゃくちゃ痛い雨が降ってくるみたいになるんだけどね。ホースのないタイプのシャワーしかなかったから埋め込み式なんだけど、高いところから落ちてくる水圧の強いお湯は結構痛い。シャワーヘッドが丸くて広いのを選んだから、満遍なく浴びれるし水量を適度に調節しないとね。そこは手動だけど贅沢は言えないねぇ。
つまり、シャワーは2属性の単純構成だけど、アイテム袋は複数の属性を掛け合わせてさらに細かい構成を彫り込まないと作れない魔導具だった。気がする?勇者特有の無属性が必要なくて、一般の人でも作れるからまだ手に入る値段で済んでるんだっけ?
<そうだよ。まあ、普通なら入りきらない許容量を小さな入れ物に入れられるからね。早々簡単には出来ないよ。主に闇属性の素養と、一人前以上の技師技能と経験が揃わないと無理だろうし。彼はかなりの腕前なんじゃない?>
テクトの補足に、やっぱりと思う。優秀な人なのに、何で今冒険者してるんだろう?
それはまあ、いつか聞こう。言いたくないかもしれないし。だから説明しなくて良いよテクト。
今はポンチョの話だ。
このポンチョはただ被るタイプじゃなくて、袖部分もしっかり作られてるからリュックが背負えるタイプのポンチョだね。私がずっとリュックを背負ってたのを覚えててくれたんだ。ありがたいなあ。体を頑張って捻れば、太ももまで覆うベージュ色のポンチョの下から、真っ白い尻尾が出てる。ちょうどお尻から伸びてるみたいに見える。うん、動けば確かに尻尾っぽい。
ふとテクトを見る。シアニスさんの足元からひょっこりこっちを見上げていたから、すぐ見つかった。首に細身な濃紺のリボンが巻かれていて、大変可愛い。似合うわぁ。シンプルなリボンだからこそ、愛嬌たっぷりなテクトの魅力を引き出してる感じ。そういえばさっき私の首元のリボンと同じものだって言ってたっけ。自分を見下ろしてみれば、確かに濃紺のリボンがフード部分をぐるりと一周してある。お、お揃い!お揃いだ!!デザート皿以来だね!!
って思った瞬間、テクトが満更じゃない顔で尻尾をぱたぱたし始めたのを見て、ああなるほどあんな感じかと納得した。
ぱたぱた。ぱたぱた……んー……お?足元に風を感じる。
「シアニスさん、これ動いてます?」
「ええ、上手に動いてますよ!すごいですルイ。もう動かせるようになったんですね」
「お、マジか。うまく出来るもんだなー」
「うん。テクトと並ぶと愛らしさが増すな」
テクトと手を繋いで一緒に尻尾フリフリしてみると、3人は満足げに頷いた。自分で見れないと実感が湧かないけど、うまくいってる、らしい?どうかなテクト。
<ちゃんと振れてるよ。大丈夫。でも横に振るだけじゃなくて、持ち上げてゆらゆら揺らすと生き物らしさが増すんじゃない?>
なるほど。確かに、テクトの尻尾だって表情があるもんね。今までのテクトの真似、してみようか。上機嫌な時のテクト、神様に怒ってる時のテクト、食パンを食べてる時のテクト、低反発枕に埋もれてるテクト、悠々と絵描きをするテクト……
と思ってたら足に柔らかい感触が当たったり離れたり。テクトが照れたようにふわふわ尻尾を叩きつけてくる。あらやだ可愛い。
ルウェンさん達を覗えば、何故かぱちぱち拍手してた。
「すごい、まるで猫のように感情豊かな揺れ方ですよ」
「いいねいいねー。ルイくらい上手く扱ってもらえると、作ったかいあるわ」
「ほんとですか?」
「ああ。生きてるものの動きが出来てるぞ。後は耳だな」
そっか。耳もあったっけ。耳はどんな形なんだろう?
「耳は猫にしてみました。すみません、少々時間がなかったもので勝手に決めてしまいましたけど……動きそうですか?」
「ルイは猫知ってっかー?」
「知ってますよ、大丈夫です!」
何で猫なんだろ?とりあえず耳、動かしてみようか。ぴょこぴょこさせたり、音がする方に向けたりするといいんだよね。猫を飼った事はないけど、テレビでよく耳を動かしてる猫を見た事あるし。あんな感じだよね。
んんー……ぴょこぴょこ……どうだろ?出来てる?
<出来てる。ちゃんと動いてるよ>
「ああ……可愛いですよルイ!」
「これは、うん。可愛いと可愛いは合わせると可愛いになるんだな」
「ルウェン大丈夫かー?お前ちょっと自分で何を言ったかわかってる?」
「わかってるさ。ルイは可愛い」
「ですね!」
「駄目だこいつら」
エイベルさんが片手で顔を覆って肩を落としてるけど大丈夫?
「大丈夫大丈夫、ちょっと仲間のボケ具合に頭痛がしただけだかんな」
「何言ってるんですか、まだボケる歳ではありませんよ私達」
「まったくだ」
「そーですねー!くっそう!いいかルイ、お前は猫耳をフードの中に隠してる設定だ!フードの中に魔導構成を彫った三角耳が入ってっからな!」
「はい!」
エイベルさんの説明は、こうだ。
魔導構成は闇属性。闇属性は手の届かない場所でも魔力を通して物を動かす事が出来る魔法があるんだって。何それ便利。自分に触れてるものか目に見える範囲のみ、らしいけどね。その魔法をフードの中にある三角耳と尻尾の芯に彫って、私の魔力を通す事で思う通りに動くようにしたそうだ。単純な作りだから、必要魔力も少ないんだそうで。幼女の体に優しいね!重さもほとんどないし、大き目のフードのお陰で私の本来の耳も隠れてくれる。
これで完璧な猫耳幼女の完成である。わあお。後で手鏡見よう。
「妖精っぽいですか?」
くるっと回ってぴょこぴょこふりふり。どうだ!妖精族になりきれてる?
小首を傾げていたら、3人とテクトから太鼓判を貰った。やっほーい!
「そういえば、どうして猫耳なんですか?」
「この前他のダンジョンでも妖精が出張雑貨店やってるって言ってただろ?」
「はい」
「調べたところ、その妖精はケットシーだと言う事がわかりました」
「ケットシー?」
って、二足歩行出来る猫の妖精?ぱっと思い浮かぶのは赤い靴を履いた猫だなぁ。あとラッパ持ってる猫。
「ルイは会った事ねーのかな?ケットシーって小柄な奴が多くてよー、普通の猫にも変化できんだけど、街中に出てくるのはほとんど今のルイみたいな格好してんだ」
ほう!じゃあ擬人化タイプの妖精さんなんだ!
でも獣人族に猫系いないのかな?間違えたりしないの?
「じゅーじん族にも、猫いないんですか?」
「
「へぇえー。会ってみたいです!」
「確か100階近くに潜っている冒険者の中にいたはずだから、ルイが宝玉を売りに行けばすぐ会えるな」
マジか!俄然やる気が漲ってきますよ!楽しみだなぁ。
「そんでこれが猫耳を選んだ一番の理由なんだがな。ケットシーってのは商売が好きなんだよ。森から出て街に来る奴は皆、何かしらの商売をしに出てくるんだぜ。そんで全員もれなく、年齢不詳だ。見た目子どもでも中身が100歳超えてる奴だっていんだぜ。今のルイにぴったりな妖精だろ?」
「ほ、本当だ!私にぴったりです!!」
ケットシーって結構身近な妖精族なんだねぇ。そっかそっか。私もケットシーとして、ダンジョン内で商売をすればいいんだね!この猫耳尻尾付きポンチョで!!年齢不詳の妖精として!!
髪の毛が黒いから、白黒のケットシーのフリをすればいいのかな?近所の野良猫がちょうど白黒だったなぁ。近くに寄っても逃げないいい子だった……あんな感じか!
「そのポンチョは先日のお礼の1つとして、気が早いですけど開店祝いとして、プレゼントしますね」
「え、いいんですか!?」
「いいのいいの。俺らが払えてない分をこうやってちょこちょこ返す事にしたから。情報だけじゃなくて物も返すからなー」
「だから深く気にせず貰ってくれ」
わ、わ、嬉しい!嬉しいなぁ。私のこれからを考えてくれるだけじゃなくて、こんな素敵なポンチョをプレゼントされるなんて……!
ちょ、ちょっと涙出そう。心配されそうだからこらえるけど!!
<よかったねぇ、ルイ>
目を細めて私を見るテクトに、大きく頷く。
ん!本当に、素敵な人達に出会えてよかった!!
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