43.ツンデレと尻尾
結局、朝食をゆっくり味わったテクトはもう一度神様の所に転移した。ぷんぷこしながら転移してったのに、私がベッド一式購入した頃に帰ってきたら大変すっきりした顔をしていたので、たぶん、神様は残念な感じになってる事だろう。ごめんね神様、あなたは確かに恩人だけど、今回はフォローできないなあ。乙女の秘密を覗こうとした罪は重い。例えそれが偶然だとしても、私が今現在幼女だとしても、超えちゃいけない一線てあるよね。元々が成人してただけに、羞恥心はそのまま顕在してるんですよね、これが。心の底から幼女には成りきれませんよ……
え?テクトはいいのかって?私の保護者だよ?一生連れ添う相棒だよ?つまり運命共同体だよ?問題ナッシング。
ベッドシーツやカバーを付ける作業は神様自身にやらせますからどうぞそのまま、ダンボールに入れたままくださいまし。ってダァヴ姉さんに回収された。神様……が、頑張れ!たぶん1人でやる事になるだろうけど、完成したら思う存分伸びて寝てみてね!奮発してキングサイズ買ったからゴロゴロし放題だよ!!だからダァヴ姉さんにちょっと冷たく対応されてもめげないでね!!
ダァヴ姉さん個人には、卓上ミラーをプレゼント!鏡のお礼に鏡をお返し、ってなんか年頃の女の子っぽくない?あれ?私の感性間違ってる?でもダァヴ姉さん喜んでくれたからいいよね?これならアイテムポケットから出すだけで使えるもんね!姿かたちは鳩でも中身は女性なんだから、身嗜みチェックの道具を贈るのは間違ってないはず!あの強力洗浄魔法の使い手ダァヴ姉さんだから汚れなんてそもそも付かないだろうけど、羽がぴょこんと飛び出してたら困るもんね!それからミニ座布団もお気に召したみたいだし、家用以外にダァヴ姉さんが持ち歩く用のも買おう!
よーし、次は食べ物だ!神様とダァヴ姉さんの胃を呻らせる料理を買いあさるぞー!カタログブックで色々買い物していると、ウッドデッキをこつこつ歩いていたダァヴ姉さんが聖樹さんを見上げて微笑んだ。どうしたの?
ベッドを購入する時に置き場がないって慌ててテラスに出たんだけど、ダァヴ姉さんはアイテムポケットに巨大ダンボールを回収してから家の周りを歩き始めたんだよね。ちっちゃな鳥さんのおみ足で。時々飛び乗った屋根や壁を嘴で突いたりしてたけど、新築に不安があるの?ナビがきっちり水平に建ててくれたから大丈夫だよ?生活してて微妙な傾きに気持ち悪くなるーなんて事もないし、魔導具のお陰で現代風に過ごせてるから日本での生活と違和感がほとんどない。いや本当、電気が魔力に変わったくらい?あと全体的に照明がランプだからモダンな感じに仕上がった所?魔導具最高だね!値段張ったけど。
「ダァヴ姉さん、どうしたの?」
<ふふ……いえ。ルイの生活が日々満たされているようで、安心しましたわ>
「うん?……うん」
満たされてる。うん、満たされてるね?毎日朝日を浴びて起きれるし、一緒に美味しくご飯食べてくれる相棒はいるし、水は美味しいし、癒し系聖母な聖樹さんは最近すごく萌える事に気付けたし、良心的な冒険者に出会えた上に明日会えるし!大変満たされてるね!!
でも何で今その話?
ダァヴ姉さんはテラスに置いたお洒落アンティークテーブルの上に飛び乗って、置いといたミニ座布団にちょこんと収まった。ふふふ、とお上品に笑う。
<ルイが作った温かみある内装に、聖樹の恩恵を満遍なく得る位置。地盤もしっかり固められているようですし、よい家ですわね。私も長く居座りたくなりますわ>
「ダァヴ姉さんならずっといていいんですよ!」
<あらまあ!>
<ダァヴ仕事あるでしょ。用事終わったら帰って>
私とダァヴ姉さんのテンション上がった所でテクトの冷静なツッコミである。うわーん、容赦なーい!
また色々言われるのが嫌なのかな?でもダァヴ姉さんが色々言うのはテクトや私を思っての事だし、ちゃんとできてる今はちゃんと褒めてくれたし。つまりこれは、あれだね?ツンデレだね?テクト、ダァヴ姉さんの事好きだもんね?絶対素直に言わないけど、かなり好きだもんね?大好きなお姉さんにツンデレする弟キャラだよね?私知ってる!だから今のテクトのツッコミは照れからくる帰れだから安心してねダァヴ姉さん!!ついでにさっき話せなかったテクトがいかに紳士的に成長したかの話をだね……!!
って思ってたらテクトの尻尾でべしべし攻撃が始まった。痛くないけどくすぐったい!!あ、鼻が!むずって!ふあっ、ふぁっ、はーっくしょん!!
「いやー、昨日は楽しかったねぇ」
<ダァヴにがみがみ言われないでよかったね>
「ふふふふ。まったく、テクトも素直じゃありませんなぁ」
<うーるーさーいー>
「でも楽しかったよ。神様のわがままも聞けたし」
<そう?そのせいで大変だったよ、色々と>
「恩返しの機会をもらえて、私はうれしかったよ?」
<別にいいのに。元々神様が悪いんだから>
「本当に悪いのはたくさんの人を巻き込んで勇者しょーかんした人達でしょ。神様のうっかりはもういいんだよ」
私に本当に謝るべきなのは怪しい宗教国家!戦争吹っかける悪い奴ら!ここ重要ですテストに出るよ!
「だからテクトも、もう神様にあんまり怒らないようにね」
<えー……>
ぶすくれたテクトの頭を撫でて、安全地帯の洗浄を続ける。
今日はルウェンさん達が来る日だから、安全地帯の飾り付けをしようと朝からダンジョンに来てるんだ。虫1匹来ないような階層だけど、まあ念のため洗浄魔法かけてる。ダァヴ姉さんがめっちゃくちゃ綺麗にしてくれたから、かるーく洗浄するくらいなんだけどね。
よしよし。洗浄一回りできたね。次は何しようかな。くつろぎスペースのでっかい敷布準備しようか。私が普段使ってるのは1人分の大きさだから、皆で座るには足りないんだよね。この前は1人ずつそれぞれの敷布を出してお茶タイムしたから、ちょっと距離が空いてたんだ。せっかくの休憩だっていうのに靴も脱げない、っていうのは何かやだ。窮屈な思いをしてる足も開放したい。こう考えるのって日本人だけかな?
カタログブックから大判の敷布買おうと思ったけど、いいのがないねぇ。厚手でお尻が冷たくならない加工されたやつがほしいんだけどなあ……1人2人用くらいならあるけど、さすがに大人6人用はない。あったとしても、ここに幼女と聖獣にティーセットプラスするから明らか狭いよね……世界産の敷布は外で食べる冒険者が多いからか、厚手で丈夫なのが多くて素敵な品揃えなんだけど、サイズがなぁ。ルウェンさん達も1人用持ってたし、大きなシートに全員で座って食卓を囲む文化があんまりないのかもしれない。大きいと片付けが大変、っていうのもあるのかな?日本産も大きさが足りない感じのしかない。8人用とかもあったけど……正直ディノさんが大きいからなぁ。うーむ。
よし、考え方を変えよう。別に敷布1枚ですべて解決しようとしなくていい。2枚重ねするとか、断熱シートの上に大きな絨毯を敷いてもいい!どうせ洗浄魔法で綺麗にしてから片付けるんだから、普通屋内で使うものを使ったっていいよね!これならお尻が冷たくならないし、腰にも優しい!よーし、そうと決まったら絨毯検索!ナビよろしく!!
<で、これは?>
「……調子乗って買っちゃった、じゅーたん達です……」
目の前に出てきた巨大ダンボールからこっちに振り返ったテクトの目は半眼だった。めっちゃ呆れられとる。ごめん。有意義な休憩タイムがほしいと思ったらもう、止まりませんでした。ご飯やお茶してる時に腰痛いとか少しでも思いたくないじゃん?床の冷たさが直通だとつらいじゃん?私は耐えられないので断熱シートとクッションマットシートと、8畳サイズの絨毯を買った。広げてみたらめっちゃでかかった。やっばいこれ思ったよりでかい。考えてみたらうちのユニット畳より2畳大きいんだ。サイズ的に1人部屋丸々使ってる規格の絨毯?うん……そりゃでかい。
<まあ神様のわがままより可愛いものだけど>
「だ、だよね!」
<今みたいに衝動買いしすぎるとお金なくなるよ?>
「ぐふっ」
この数日で私の金銭感覚おかしくなってきてるのは気付いてたけど、実際指摘されると胸が痛い!ごめんねテクト!今日でやめる!やめるし、もう300万は聖樹さんの根元貯金に入れてきたから許して!!お願いします!!
<そんなに慌てなくてもいいよ。お金に関しては僕が決めることじゃないから、僕が言ってるのは許す許さないの問題じゃないんだ。今は保護者として忠告しただけ>
「はぁい……以後気をつけます」
<じゃあほら、断熱シート?から敷いて重ねていくんでしょ?早くしないとルウェン達来るんじゃないの?>
「うん!」
断熱シートを並べてって、その上にクッションマットシートを敷く。さらに絨毯を丸めて、ずれないように端っこから開けば完成!安全地帯は小ホールくらいの広さだから、8畳絨毯敷いても全然余裕があるね!わーいすごーい……ごめん、ふざけたわけじゃないですテクト半眼止めて?
さっそく絨毯の上を歩いてみようかなー……と、靴を脱いだ足を乗せようとした時。
テクトがふと顔を上げて、片方の廊下を見た。どしたの?思わず靴に戻しちゃったよ、足。
<人の気配がする>
「え、もう?」
テクトの言う通り、本当にもう来ちゃった?
あっちは複雑な構造してる方の廊下だ!もしくは牛がいない方の廊下と言った方がわかりやすいかな。確かあっちに上に行く階段があるんだっけ。ルウェンさん達が言ってた。
転移の宝玉は、指定した階の上り階段前のスペースに転移する。時々モンスターがいる事もあるんだっけ。遭遇する事は少ないけど、安全地帯ほど安心なスペースじゃない。そういう時は保護の宝玉で安全地帯にぱっと転移できるといいんだね。同じ階層に安全地帯がないと困る代物だけど、安全にダンジョンを進むって言う点では間違いなく必須な宝玉なんだよねぇ。
突然そこに気配が出てきたって事は、転移の宝玉でこの階に来た人達だから、つまりルウェンさん達って事だよね!……だよね?
「知ってる気配?」
<……うん。でも、何でだろう。数が少ない>
「へ?」
知ってる気配ならルウェンさん達で間違いないんだろうけど、何で数が少ないんだろ。早めに来るにしたって、全員じゃない理由がわからないなあ。
と思ってたら、<あ、来る>とテクトが呟いた瞬間、安全地帯の一角に光が集まって弾けた。突然明るくなったから、慌てて目を瞑る。まぶしー!!
「よかった、ルイもテクトもいましたね!」
「よっしゃ急げ!」
「おはよう!すまないな、約束より早くなって」
目を開けると、光があったところにシアニスさん、エイベルさん、ルウェンさんがいた。あれ?3人だけ?
「おはようございます。皆さん早いですね」
「はよ!ちと色々あってな!悪ぃけどルイ、これかぶってくれ!」
「へ?」
私の挨拶に合わせて手を上げたテクトに萌える間もなく、エイベルさんに布をかぶせられた。え、突然何事!?目の前がベージュ一色なんですがエイベルさん!?
「テクトはこちらのリボンを首に巻いてよろしいですか?」
「ルイが今着ているポンチョの首元にあるものと同じリボンだ。似合うと思うんだが……そうか、着けてくれるか。似合ってるぞ」
「ええ、とても素敵ですよテクト」
え!?テクト今リボンつけてるの!?何それ見たい!!っていうかポンチョ?私今かぶってるこれポンチョなの!?首がまだ出ないけど!!
もぞもぞしてるとポンッと効果音がつきそうな感じに首が通った。ふう、やっと着れた!えーっと、ポンチョ?腕を通すところがあったから、そっちもきちんと通す。頭もふわふわ包まれてるから、フードもついてるポンチョなのかな?
「よーし、無事着れたな。サイズぴったりだ」
「選んだかいがありましたね。可愛いですよ、ルイ」
「うん、とても愛らしいな」
いやまじまじ見られても私はわからんのですが……えっと、何?急いでポンチョ着なきゃいけない理由は?
エイベルさんが私の後ろに手を回して、何か引っ張ってきた。ん、長い……綿が詰まった毛?みたいな?何これ?
エイベルさんが真剣な顔して私を見るので、思わずじーっと見返した。
「ルイ。今から俺が言う事をやってみてくれよ」
「へ。は、はあ」
「魔力の感じ方はわかるか?」
「全然わからないです」
魔法も魔導具も使えるんだけどね。魔力自体を感じたことは一度もないんですよ、これが。皆さんの魔法講座で教えてもらえないかなって思ってたんだよね。
それを今実践しろと?うん?今頭こんがらがってるからちょっと難しいよ?
「じゃーあれだ。いつも魔導具使ってる時と同じように考えてみろ。この尻尾が動くぞ」
「しっぽ?これしっぽなんです?」
「ルイが尻尾だと思えば尻尾になるぜ」
ますますわけがわからないよ!?エイベルさん無茶振りするね!?
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