41.内装、完成する



「うあああああー……やっぱりお風呂は気持ちいーねぇ」


濃紺と水色のタイルに、お湯が落ちて流れていく。あったかいお湯から上る湯気がバスルーム内に充満する事無く、高い場所に小さく開いた窓から外へ逃げていった。湿気がこもると湯あたりしやすくなるからね、予防だ。

私の前でぷかぷか浮いてるテクトも、頬をほんのり赤くして目を細めてる。体中から力を抜いてるので、そうとう気持ちがいいみたい。


<湯に浸かる程度じゃ何も変わらないだろうって思ってたけど、これは……言いようのない気持ちよさだね……>

「でしょぉ……」


私は半月ぶりの、テクトは初めての湯船に浸かって、揃ってとろけている。ふああん、骨身に沁みるぅ。

テクトの言葉通り、まず真っ先にキッチンを据え終えた私は次にお風呂とトイレを作る事にした。清潔さは魔法のおかげで保たれてるけど、風呂は別。のんびりゆったり浸かりたい。日本人の性だね。

すでにタイル張りされていた小部屋に、トイレとお風呂のスペースを分ける間仕切りが欲しいなーって思ってたら案外簡単に設置できた。なんと、これまたカタログブックに相談したらできてしまったのだ。いやあすごいね、勇者の遺産。奥様これ2000年前に作られた魔導具なんですよ。この有能さ、信じられます?

バスルームを作りたいなーって言った直後、家屋のオプションを設置します、距離を取ってくださいって言われた。慌てて扉まで離れたら、家を置いた時みたいに小部屋が光って、いつの間にかカタログブックに載ってた画像そのままのバスルームが出来上がっててぼけっとしちゃったよね……後付もOKなのねカタログブック。家屋のオプションですので割安です、と3万ダル取られたけど。むしろ3万でいいの?って感じだ。だってついでに脱衣所もついたよ?足元冷たくないように、ご丁寧に木材敷かれてるし。すのこっぽいから下に水落ちてもいいんだよね?トイレ側はタイルのままだったけど、そこから素足になってくださいって事かな?至れり尽くせりかな?……壁はベージュの優しい色で、脱衣所からバスルームへ行く引き戸は白。足元の木材は下のタイルから冷気が這い上がるわけでもなく、なんとなくぬくもりがある感じ。全体的に清潔感があるなー。後でここに暖簾つけよう。お風呂屋さんみたいなやつでトイレと空間を分けるんだー。足元隠れるくらいながーいやつにしよー。あはははー。

軽く現実逃避してから、バスルームに世界産では一般的らしい陶器の浴槽を添えて、壁には明るすぎない壁掛けランプの魔導具、石鹸や桶を置く棚と温水冷水の調節が可能な魔導具シャワーと、浴槽に引っ掛けて湯を張る魔導具給湯器を付けた。これを引っ掛ける高さでお湯を張る位置を決めるらしい。丸い本体にスイッチと温度調整、その下から2本の管が伸びていて、1本の管からお湯が出てくるんだね。もう片方の管が浴槽内のお湯の高さと温度を感知して、ぬるくならないようにお湯を吸い取って暖め直し出して巡回すると……便利な給湯器だなぁ。普通にガス風呂じゃないの。これも過去、どこかの勇者が知識提供か自作かわからないけど、発明してくれたんだろうなぁ。ありがたやー。

テクト曰く、シャワーと給湯器には水と火の属性を含む魔導構成がされていて、周辺の魔力を吸い取って水分を大量生成、火属性で温度を調節するんだとか。箱庭なら魔力はふんだんに漂ってるから、水量に困る事がないそうだ。わざわざ浴槽内に水を入れなくていいって言うのは助かるね!たった2人で毎日バケツリレーとかきつすぎる。あ、でもシャワーがあった。どっちにせよバケツリレーはしなくてよかったんだね。

浴槽を設置した時に配管も無事ついたので、入浴後の排水も浴槽の栓を抜くだけで心配なし!排水先は箱庭の地面の中だから、水漏れで家が湿気たりカビたりする事もない。小さい幼女な私でも1人で入れるように浴槽の傍と中に踏み台を設置して、テクトと私用の小さなバスチェアを置けば、完全無敵なお風呂の完成です!所要時間?10分にも満たなかったよね。

その次はトイレだ。お風呂にほとんどスペースを取られたトイレだけど、子どもな私にはそんなに狭くはない。たぶん、成長して大人になっても窮屈さは感じないんじゃないかな?それくらいのスペースは余ってる。

そこに便座式トイレを設置。見た目はほんと洋式トイレ。日本の水洗トイレと違うのは、後ろのタンクの中に魔導構成がびっしり刻まれてる事かな!蓋がないから見えないけどね!

魔導具のトイレは前から使ってたから原理は知ってる。声を大にして言うのは恥ずかしいのであれだけど、トイレした後、流すボタンを押すと自動的に流して、すべて一瞬で燃焼して、洗浄魔法かけるんだよね。昔の農家の人が聞いたらめっちゃ怒りそうなくらいチリも残さない。女子力欠けてる自覚ある私でも、乙女心はありますので。是非跡形もなく残さない方向性でお願いします。

何で知ってるかって?箱庭貰った時一緒にダァヴ姉さんがくれたからだよ!持ち運びできるタイプの簡易トイレをね!!乙女の気持ちを察して!!言うの恥ずかしいじゃん!?幼女だけど恥ずかしいじゃん!!ダンジョンで暮らすのならば必要でしょう、差し上げますわって何気ない風にくれたダァヴ姉さんの気遣いマジお姉さま!!最初テクトが持ってた手鏡もダァヴ姉さんが、保護しに行く方が女性ならば必要でしょうって渡してくれたやつらしいね!!女性目線のサポート半端ないっす!!今度絶対盛大にお礼しよう!!

簡易トイレの魔導具は、見た目工事現場の簡易トイレなんだよね。中身は洋式トイレだけど。流す仕組みはこの据え置きとおんなじ。普段は小さな箱なんだけど、魔力込めながら上蓋を開けると工事現場でよく見る縦長の箱になるんだ。ちゃんと個室で出来るからありがたいです、乙女のメンタルは救われた。片付けようって思うとパタパタ閉じられていって両手に収まるサイズで戻ってきた後、自動で箱と手に洗浄魔法かけてくれるから、何の不安もなくアイテム袋に入れられるし……これ魔力込めるだけで一連の魔法がすべてかかるんだよ?魔導具便利すぎない?ほんとダァヴ姉さんにも魔導具トイレ開発した人にも足向けて寝れない。どこにいるかわからないから普通に寝るけど。大切なのは気持ちだよね、うん。

ペーパーホルダーとか細々した必要なものと、洗面台を設置して。キッチンも含め、水回りはすべて完成した。それで記念ついでにお風呂に入ったんだけど、これがまあ気持ちよくて。今度入浴剤とか、バスボムとか、入れてみようかな。ふへへ、毎日の楽しみが増えたねぇ。

ぷかぷかと目の前をゆっくり横切ってくテクトのお腹に、手で掬ったお湯をかけるとくすくす笑われた。いつもはふわふわの毛が、濡れてテクトの体に張り付いてる。いつもより小さく見えるなぁ。まあ、テクトって見た目の割りに軽いもんね。ほとんどが極上の毛なんだと思うと、納得の触り心地だ。


「テクトはぬれるの、いやじゃないんだね」

<んー……嫌とか好きとか、特に考える機会がなかったって言う方が正しいのかな?汚れる事だってほとんどなかったし、汚れてもダァヴに洗浄してもらってたし。こういう文化に触れる事がなかった>

「へー」


ダァヴ姉さんなら一瞬で終わらせるんだろうな。どんな汚れもスピード洗浄!あれ?これすごい宣伝文句だね?


<こうして浸かってる今は、何で知らなかったんだろうって勿体無い気分になってるよ。もっと早くに知ってたら、いい暇つぶしになったのに>

「そうだねぇ……」

<これ、お風呂。もし、ルイが寝てる時に入りたくなったら、使ってもいい?>

「好きにしていいよー。この家は私とテクトの家なんだから」


水道ガス代はかからない、沸かすのに必要なのは魔力だけ、ボタン1つ押せば数分で出来上がり。そんな好条件なお風呂、私だって好きな時間に好きなだけ入りたい。テクトも一日に何度だって入って良いんだよ。

住人が楽しく暮らすのが一番だ。


「入浴剤とか、お風呂用のおもちゃも買ってもいいし。ただし体を拭いたタオルは使用済みのカゴに入れといてね」

<やった!>


テクトが跳ねると同時に、盛大に飛んできたお湯が顔にかかる。わー!やられたー!!

目を丸くしてこっちを見てるテクトに、前髪からぼたぼたお湯を垂らしながらにんやりと笑ってみせる。ふふふ!やられたらやり返す!これがお風呂のお湯かけルール!!

両手いっぱいにお湯を掬って、ぼけっとしてるテクトの顔にぶちまけた。















キッチンは玄関から見て左側のところにした。家に入ってすぐの場所に冷蔵庫があるといいなーって思ったからだ。

キッチンは対面式、鍋からお湯を捨てたりするため食器洗いはしないけどシンクは深すぎず広め、据え置きコンロが必要ないからシンク以外は全部作業スペースワークトップのやつにした。ワークトップに向いて左側に窓があるから、端でコンロを使えばレンジフード代わりにはなるかな。普通に売ってたから、たぶん世間的にも間口が広いのがキッチンの当たり前なんだろう。魔導具は買うの大変だから、かまどが別にあったりするのかな?この世界の一般的なのがわからないからどうかしらないけど、うちはほとんど日本式な感じになっちゃった。見た目だけはね。

ちなみに水栓からは、この箱庭の湧き水が出てくる仕様だ。付近に豊富な水源を確認、そちらから水を引く事が可能ですがいかがなさいますか?とナビに聞かれたから是非お願いしますって頷いた。即決だったよね。わざわざ外に出なくても美味しい水が飲めるようになったわけだ。蛇口を捻ってコップに水を汲む。一口飲んで、ああー、幸せぇ。

下のキャビネット、収納スペースを使うつもりは今のところない。調理道具や食器が全部アイテム袋に入ってて便利なのもあるけど、私の身長が足りなくてキッチン全体をカバーするような大きい踏み台を準備したから、扉が開けられないっていうのが一番の理由だ。この下に食器を置くのは、私が踏み台を必要としなくなってからだね。長い目で見て丈夫そうなキッチン買ったからそこは我慢しよう。いい感じの石使ってるから触ると気持ち良いんだー、この作業スペース。

いやあ、調味料バスケットを作って数日も経たないうちに夢が叶っちゃうなんてねぇ。ふへへ、キッチン。私のキッチンだぁ。テクトにうわぁなにこいつ、みたいな顔をされたので表情を引き締める。

あ。そうそう、照明!照明もたくさん買ったんだよね!世界産のランプは油を燃やすタイプと、魔導具のタイプがあった。油系は危険が付き物なのでもちろん魔導具の方買ったけど、それがまあ魔力を込めるだけで付いたり消したり出来るんだって。私の場合、付けー!って念じたり消えろー!って念じたりすると出来ちゃう。やっぱり魔力の扱い方わかんないわー。ちゃんと使えてるからいいんだけどね。でも壁掛けや吊り下げランプをそこかしこにつけたから夜の闇はもう怖くないし、夕方だから急いで食べなきゃって焦らなくて良いね!でもテクトの目がいらなくなったわけじゃないんだよ!家の中は明るい方がほっとするじゃんそういう事です!外に出る時は助けてね!!

次はリビング。対面キッチンからすぐ傍、上からランプが照らす位置に低めのテーブルとイスを置いた。ここが食事をする場所だね。そしてリビングの大部分を占めるように、小上がりになるユニット畳を設置した。広さ6畳、高さは私が腰掛けて足をぶらぶらさせる程度あるかな。どうしても和室……というか、靴を脱いでくつろげるスペースが欲しくて、買っちゃった。ご飯後にここでゴロゴロ寝転ぶのも、またいいねぇ。大きいクッション置いてお昼寝も素敵。テクトの好きな食パンスクイーズもいっぱい置こうね。って言ったら尻尾がぶんぶんした。この正直者めー!可愛すぎだぞー!パン系クッション貢いじゃうからねー!

寝室には数少ない服を入れるクローゼットと、セミダブルのベッドを買った。私大きいベッドで大の字で寝てみたかったんだよねぇ。分厚いマットレスに飛び乗ったら軽く跳ねたのが楽しかったみたいで、テクトは上機嫌にぽんぽん跳んでた。トランポリンかな?私ももちろんやりました。楽しかった!幼女なら壊れる心配なくぽんぽん出来るね!

ハンモックはちょっと悩んだけど、寝室に置いた。テラスは屋根がかかってるから濡れる心配はないけど、雨が降ったら湿気でフレームが錆びちゃうかもしれないし。布はべとっとするだろうしね。テラスで昼寝したい時だけ出せば良いよ。

今はまだ自分が履いてる靴しかないけど、いつか増やすと思って玄関の右脇に靴をしまう棚を設置した。その上に花畑から摘んできた花を生けた花瓶を置く。ちょっとは華やかになったかな。しかし色んな種類を摘んできたけど、いい匂いがする花だなぁ。芳香剤いらずだね。

とりあえず、これで私達の家は完成した。生活してみて足りないって感じたものは、後で買い足せばいいかな。必要だと思うものだけ買ったけど、400万近くになってしまった。予定の300万軽く超えちゃったなぁ、魔導具いっぱい買ったからしょうがないけど。って言うかこれだけ揃えて400万で済んでるって事がすごいよ。1000万使うって難しいね……あと500万以上残ってるし、聖樹さんの根元貯金に半分当てたとしてもまだまだ余る。

ひええ、大金怖い。



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