34.宝玉の話とお別れ



宝玉の値段の話をする前に、宝玉がどれくらい貴重なのか、皆さんの経緯を含めて教えてもらうことになった。

今回皆さんはダンジョンに潜る前に宝玉が手に入らなかったので、元々長く居座るつもりだったらしい。食料を主に買い込んで、それでも一気に消化しないよう倒したモンスターを解体して食べたりとか、そう遣り繰りして1ヶ月くらいは滞在する予定だったんだって。ダンジョンってそんなに長期間潜れるものなんだね……そしてやっぱり食べるんですねモンスター。うわあ。

ダンゴムシは固すぎて無理だよね?サイクロプス、は食べたくないめっちゃ人型だ……オークあたりなら、なんとかまあ、納得できなくはない、かな?オークって豚肉っぽいのかな。見た目二足歩行の凶悪面で凶暴なだけの豚だし……臭い消してからだよね?ね?


「どうした、ルイ。顔が青いな」

「えと……モンスター、くさいです……食べるの?」

「まーな。でも臭いって洗浄魔法で汚れと一緒に消えるだろ。それで何とかなるんだよなー」

「臭い程度なら、俺達の洗浄魔法でも何とかなるからな」


そう言って頷くのは、シアニスさんとオリバーさん以外の人達。あ、血を洗浄できなくても臭いと汚れはどうにかできるんだね。そういえば私もオークの臭いが移った時に全力で無臭化したじゃん。忘れてたわぁ。

洗浄魔法の幅広い効果範囲に驚きを隠せないよ。床やら食器やら無機物にかけるだけじゃなくて、モンスターにかける発想はなかった。今度オーク地帯に行ったら……やってみようか。うん。

っていうか、皆水属性の適正を持ってるって改めて考えたらすごい事だと思った。全部の属性を持っている人は少ないけど、複数の属性を持つのは誰でも当たり前らしいし珍しくはないんだろうけど、パーティメンバー5人全員が水属性持ちな割合は十分すごい事だよね。


「ルイは食べた事ないの?オークとか特に美味しいよ、脂身とか甘いし」


やっぱりオークかぁああ!そしてモンスターの中でも美味しい分類なんだねぇ!うん、美味しいよね!!そこはわかる!!


「んー……食べたこと、ないですねぇ……」


私捕食される側だしなぁ。食べる側に立てないんだよね、メンタル的に。何か苦手意識が抜けないっていうか……デフォルメのイラストでさえ怖いもん。

そもそも手に入れる機会もないし。一般的な食卓に普及してるなら、カタログブックにもありそうだけど豚肉のページは開かないからなぁ。


<肉類は、ずっと鶏肉しか食べてないほどだもんね>


うん、そうなんです。あははー……ごめんテクト。色々なものを食べさせてあげたい気持ちはあるけど、肉はちょっと待ってね。

 

「無理強いする気はないから一度だけ言うけど、食べてみると印象変わるわよ」


私、最初は食わず嫌いしてたわ。だってあいつら臭いんだもの。

そう言ってにこやかに一刀両断するセラスさん。容赦ないよね。気持ちわかるけど。あいつらはホント臭い。

うん、まあ、機会があったら、一口くらい食べてみようかなー、とは言わないけど曖昧に頷いておいた。いつか、いつかね。とりあえず普通の豚肉からリハビリ始めときます。


「どこまで話しましたっけ……ああ、そうです。宝玉を探しつつ、アイテムが充実しているうちに未踏の階層へ行ってみる事にした話ですね」

「うん」


皆さんはヘルラースに来たのは最近で、それまでは違うダンジョンで経験を積んでいたんだって。自分達の今の実力を確かめるために、この深いダンジョンを攻略してみようと考えて来たんだね。100階まで難なく行けたからしばらくそこで稼いで準備を整えて、今回もう少し進んでみようと決めたらしい。宝玉を集めるのと、未知の階層へ降りるからこそ大量の食料を準備してたんだね。

通常日数かければ数個は手に入る宝玉は、運が悪ければ全然出てこない。唯一残っていた1回分の転移の宝玉を使ってダンジョン入口から100階に移動、そこから歩き進めて108階まで順調に下ってきた皆さんは、不運にも一切宝玉を手に入れる事が出来なかったそうだ。私なんて……!私なんて毎日宝玉三昧だっていうのに!!

8階層降りても宝玉は見つからなかったけど戦闘にはまだ余裕があるから、この階層を探索しつつほんの少しでも危険と感じた時点で上の階に戻ろうかって話し合ったんだって。それがこの安全地帯で昼頃にやってたって言うんだから、うまい具合にすれ違ったんだなぁ私達。

上層に戻ったら安全地帯を拠点に日を越しながら宝玉を探すんだね。1日経てば宝箱がリセットされるダンジョン機能を利用するから、宝玉じゃなくても副産物が美味しいねぇ。宝玉を手に入れれば命の危険に晒されても一瞬で回避出来るから、危険な階層に行く時の保険になる。宝玉を十分手に入れられたら色々補充してから再度下層へ挑戦するつもりだったんだね。

それがまあ、危険を感じさせる間もなく現れたグランミノタウロスのせいで計画おじゃんになったわけですね。牛怖い。

っていうかグランミノタウロスが出るまでは簡単とはいかないまでも、余裕を持ってモンスター倒せてたんだから、この階層の中でもあの牛が圧倒的に強すぎるのがよくわかる。別格だって言ってたもんね。オークジェネラルも余裕で倒せるとか、さすがベテランな皆さんだわ。


「でも宝玉って、見つかる人はかなりの頻度で見つけるらしいね」

「だから中級ポーション程高くないんだけど……私達とは相性が悪いのかしらね?」

「かもなぁ。今までのだってほとんど買ってたもんな」

「ちゅーきゅーポーションよりは、安いんですね」

「そうですね。使用できる回数によるのですが、ギルドでの販売価格は5万から23万ですよ」


宝玉には使用できる回数がある。1回しか使えないのもあるし、10回も使えるのだってある。基本価格が5万ダルで、回数が1回増えるごとに2万増えるんだね。わあお高ーい。

びっくりなのは4色の宝玉が、効果違うのに同じ値段だって事。私的にはわかりやすくて大変助かります。


「なるほどー」

「値段を聞くって事は、ルイは宝玉を売りに出す予定なの?」

「はい!ダンジョンの中で会えたぼうけんしゃの皆さんに、売れたらいいなって思ってます!」


売れない宝玉がめっちゃ溜まってるからね!どこかで有効活用したいんだよ!!


「あくまでダンジョンの外には出ないのね」

「外は危なくて、ダメだから……」

「まあルイが怪我なくここで過ごせるならいいんだけどよー。こっちも十分危ねーってのは理解してるよな?」

「はい!」


もっちろん!テクトのお蔭で平気だけどね!


「子どもってのはたくましいねぇ。こんな場所でも平気で生きてるってすげぇわ」

「ああ。子どもが元気なのはいい事だな」


ディノさん、ルウェンさん、言い方がめっちゃおっさんくさ……何も言わない事にしよう。うん。


<いや考えた時点で僕にバレてるから>


ですよねー。











紅茶を飲み終わった後、皆さんはダンジョンの外へ帰る事になった。

シアニスさんの貧血も気にかかるし、宝玉は4色全部譲ったしね!10回のやつ渡そうとしたらそれは情報量と釣り合わないって拒否られたよ。考えてみたら23万×4で92万だわ。これは拒否られるわ。

仕方ないから3回のを押し付けた……何か機会があったら10回分のやつ押しつけてやろ。まだまだいっぱいアイテム袋に入ってるし。

私とテクト、皆さんがとが向かい合ってる。お別れの時間だ。


「ルイ、本当に外には出ないのね?」

「うん」


皆さん各々が心配した表情をしてるけど、私はダンジョンで暮らすって決めたんだ。

そりゃあ怖い目に遭った時は、外で生活した方がいいのかなーってちょっとだけ思った事、あるよ。でも私の存在が戦争してる国にバレたら保護者のテクトに今よりどんと迷惑がかかるし、バレなくても常に疑心暗鬼で出歩くとか精神的にきつい。テクトの目とテレパスを頼りにすればいいってダァヴ姉さん言ってたけど、歩いてる時常に大勢の人に対して警戒してたら、私とのんびり話してられないしテクトの負担がやばすぎる。隠蔽常にしてたら安心かもだけど、人がいるのにスルーされるって私幽霊ですかって、たぶん違う意味でも精神崩壊する。

外への不安に比べたら、ダンジョンに引きこもってる方が全然いい。テクトのお陰でそれほど怖くなくなってきたし、最近は毎日2時間かけての散歩な気分で出掛けてるし。モンスターに慣れてきたって言うか、そういう心構えじゃないと宝玉無双で泣きたくなる。

何より、テクトとのんびりご飯食べて暮らせるのがいいよね。好き。


<ふふ、そうだね。僕も、ルイとゆっくりご飯を食べる時間が、好きだよ>


うん。だから私は外には行きたくない。

でも寂しいから遊びに来てほしいと思うのは、やっぱりわがままだよねぇ。


「ぜったい、また来てくれますか?」

「もちろんですよ。5日後、必ず」


約束したのは5日後。シアニスさんの体調を考えて、ゆっくり休養を挟んでからまた来てくださいって事になった。5日じゃ足りない気もしたけど、シアニスさんご本人がそれがいいって言い張るし、皆さんが却下しなかったから大丈夫なんだろう。

ルウェンさんが私の前に膝をついた。


「ルイ、証としてこれを預ける」


そう言って私に差し出したのは、ルウェンさんの片手剣だった。おおおおうえええい!?唐突だね何で!?


「もっと軽いのにしなさいよ。短刀とかあるでしょ」

「だが最も信用を示せるのは、普段使っている剣を預ける事だろう。ルイ、これは必ずここに帰ってくるという約束だ」

「約束、ですか?」

「5日後、俺達がここに帰ってきたら返してくれ」


あ、ただの口約束じゃなくて、これを返す約束を取り付ける事で安心して待っていてくれって言いたい、のかな?

まあそういう事だね、大きさを配慮できないのは彼らしいけど、と呟いたテクト。


<受けとりなよ。それで納得してくれるなら、ルイにとっては悪い話じゃないでしょ?>


そうだねぇ。まあ、うん。

でも出来るなら、道具を使って約束を取り付けなくても大丈夫な関係になりたいなー、とは思ってるけどね。とてもいい人達だから、これからも仲良くしてほしい。

ルウェンさんから片手剣を受け取って、というかそのままアイテム袋に入れてもらってたら、エイベルさんが目の前にしゃがんだ。


「ルイ、ちょっとそのままなー……おし、もういいぞ」


エイベルさんが私の頭に何か通したと思ったら、布紐の先に丸い水晶がついたネックレスをかけられてた。

平べったい透明な中に、赤と青が混ざった光が見える。一瞬ダァヴ姉さんから貰った涙の形のトップに似てるかと思ったけど、あっちは白かったし色は混ざってなかったから、違うよね。


「これは外の時間を大まかに教えてくれる魔水晶だ。今は赤と青だから、外は夕暮れだな」


時刻魔水晶と言って、時計代わりに大体の時間を教えてくれる水晶なんだって。早朝は白、朝は黄色、昼は橙色、夕方赤で夜は青、夜中は黒に変化しながら光るそうだ。

時計が普及してないこの世界では一般人も持ち歩くお手軽道具なんだけど、特にダンジョンに潜る冒険者が必ず持ってるんだとか。ダンジョンにいると日付感覚っていうか、時間もわからなくなるもんね。私も箱庭と時計がなかったら夜に起きて昼に寝る生活になってても気付かなかっただろうなぁ。探索だって体力切れで毎日爆睡晒す事になってたかもしれないし。

自分の体内時計に従うのもありかもしれないけど、見える目安は感覚を正しく保ってくれる。休憩をきちんと入れていかないと、ダンジョン探索は長く続けられない。安全地帯まで、と思っててもすぐ着けるわけじゃなし、1日歩き通しじゃなにも出来ないまま倒れてしまう。悪くてモンスターの餌食だ……うん、目安大事だね。


「これが5回黄色と橙色になったら、俺達また来るからな」

「うん」


ぽんっと頭に手が乗っかる。そのまま撫でられて、思わず目を閉じた。うううーん、エイベルさんの撫で技術もなかなか……!


「それやるから、ちゃんと待ってろよ」


あ、さらっとプレゼントされた。



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