33.普通の洗浄魔法と宝玉



<いや本当に、すごいよね。全員示し合わせたわけでもないのに同じ結論に達しちゃった>


テクトは面白そうにクスクス笑ってるけど、私はそれどころじゃない!!

うぐぐぐぐぐ!顔あっつい!!上げられないよー!!今更誤魔化そうも出来ない設定が盛り込まれてしまったよ!恥ずかしさ半端ないですよ!!貴族の庶子って何!?どこから来た貴族!?


<ルイの丁寧な話し方からかな。幼い割りにきちんと大人と話せるから、エルフの血を引いてるかと思ったら違うって否定したじゃない?じゃあ消去法で、って貴族だと思われてるみたい。貴族の子どもって普段から大人に囲まれる環境にいるの?>


そ、そっか……人族って断言したもんね私。嘘言ってないのにまさかここから誤解が生まれるとは思わなかったよ……

うーん……貴族の子ども、ねぇ。よく漫画や小説とかにあるのは、幼い頃から家庭教師が付けられて英才教育されてる場面だけど、これって大人に囲まれてる環境だよね。だから大人びてる感じに成長するって思われるのかな。一般のお宅の子は近所の同じ年頃の友達と駆け回ってるもんだし、親以外の大人と接する機会って貴族と比べてずっと少ないと思う。環境がかなり違うから口調に影響が出るって感じるのもわかるよ……うん。元一般5歳児だった私の周りに、敬語使う子なんていなかったわ。出来たとして幼稚園の先生に「せんせーおはようございます!」くらいだったわ。

私が丁寧に話してるせいで貴族に勘違いしてしまったのかぁ。20歳より年上っぽいからついつい敬語を使ったんだけど、それがまさかこんな事に……はあ。

所でしょし……えっと、庶民と貴族の子どもの事だよね?その庶子はどこから?


<……貴族の嫡子なら戦争から逃げるにしても、わざわざ受付の隙をついてダンジョンに籠るなんて事しないだろう、って。まあ正論だね。戦火よりモンスターに殺される確率が高すぎる>


うぐっ。そ、そりゃそうだ……私はテクトのお蔭で平気だけど、普通の貴族なら万が一でも潜るはずがない場所だよね。こうして言われると、幼女と妖精がダンジョンで暮らしてる異常性がよくわかるわ。それなのに戸惑う事無く受け入れてくれたこの人達の懐の広さすごい。


<それに、冒険者に対して偏見を持ってないから。片親が常識人市井の人だったんじゃないかって思われてるね>


ん?えっと……何?貴族って冒険者に何か偏った思考持ってるの?悪そうな貴族なら、冒険者とか一般市民関係なく、下民なぞ何の価値もないわーって言いそうだけど。いやこれもかなりひどい想像だけどさ……一般常識的に良くない関係?


<……すべての貴族かは知らないけど、この人達はあんまりいい人と出会ってないみたいだね。どれも気持ちのいい記憶はないよ>


あ、はい。わかった。私も絶対会いたくない人種ってのはよくわかった。聞かなくてもそれはわかるわ。

はあ。貴族の庶子、かぁ……そんな御大層な立場じゃないんだけどな。


<ルイ……これで彼らが、ルイがダンジョンに住む事を納得するなら、そのまま否定しなければいい話だ。君が嘘を吐いたわけじゃない。気に病む事はないよ>


そうだよね……ただただ、ダァヴ姉さんに申し訳なくなるのと、妙な設定が盛り込まれてしまって頭痛がしてくるだけで。ダンジョンから出ない理由をある意味明確に、そして出自を聞きづらくなった今は、とても私には有利なんだ。こう……すごく、とてもすごく!良心の呵責があるけれど!

と、とりあえず!深く気にしない事にしよう!!都合が悪いとこは幼女パワー全開で誤魔化すって決めたじゃん!!今も可愛い幼女パワーで誤魔化せてるよね、うん、よし話を洗浄に戻そう!!

微妙に重苦しくなった空気を吹っ飛ばす気持ちで、顔を上げる。


「私、のどかわいたー!だから、きれーに、しましょう!」

「ルイ……そうだね。早くお茶にしよう。ルイも頼むよ」

「うん!」


えーっと、人前では詠唱をつけないといけないんだっけ……詠唱知らないけど。テクトも知らないからどうしょうもないんだけどね。幼女らしく、腕振ってやりましょうか。魔法に対して無知だから詠唱知りませーんテキトーです、よー?

酸素系の洗剤でごしごし揉み洗い……よし!イケる!!


「きれいになーれ、きれいになーれ!」


私が手を振り上げると、水色の泡がふわふわ出てくる。一見シャボン玉だけど、虹色じゃないんだよね。一律で水色がかってる。服も皿も壁も、どんな汚れを落とす時も色が変わらないからこれでいいのか不安になるけど、ちゃんと汚れはなくなるからただ単に魔法だからだと思う。洗浄魔法が水属性だから水色、っていうのが一番しっくりくるかな。

泡が床を染めてる血へと落ちてく。ぱちっと弾けるたび、血が消えて綺麗な石畳が見えた。赤色の布地の水玉模様って感じだけど、血生臭い布はお断りしたいなぁ。ぱちぱちぱちっ、うん大部分は消えたかな?

泡が全部消えたからもう一度洗浄魔法を使おうとして、皆さんが口を開いたままこっちを凝視してる事に気付いた。んお、うん?な、何?私また何か仕出かした?


「嬢ちゃん……洗浄魔法は、毎日使ってんのか?」


んー。安全地帯はダァヴ姉さんが綺麗にして以来、虫さえ寄りつかないから使う機会はなかったけど、探索した先の小部屋は全部綺麗にしてるかな。お蔭さまで洗浄効率は上がったと思うの。泡は大きくなったし、数は増えたし、洗浄力も上がったし。確実にレベルアップしてる実感はあります!


「うん。ご飯食べる時、汚かったらやだからいつも……部屋だけじゃなくて、体や服にも使ってます。どこか変、でした?」

「いいえ……むしろすごく綺麗になってびっくりしてるわ」

「いやマジすげーわ。ルイ、お前これだけで一儲け出来るぞ」

「この若さでこの実力……毎日欠かさず使いこんでいるのなら、いずれは一瞬でそこら一帯洗浄しきるようになるんじゃないか?」

「ありえる……っていうか、俺より断然上手いよ……俺も毎日使ってるんだけどな……」

「オリバー、私達、今まで真剣に洗浄してなかったかもしれませんね……今度から宿屋の部屋も洗浄してみましょう」

「……そだね」


そ、そんな落ち込むほど!?私の洗浄魔法ってすごいの!?ダァヴ姉さんのしか見てなかったから、普通の人族ならこんなもんなのかなって思ってたけど……そっかあ。私ってすごいのかあ。えへへ。


「ほれ、見てみ。こっちがオリバーがやった方」


エイベルさんに指差された方を見ると、私のより一回り小さな泡の跡がぽつぽつと。自分がやった所と見比べて、たぶん半分くらい、床が見える面積が多いかなー……ははは。なんかごめんオリバーさん。

すっごい肩を落としてるオリバーさんの背中をぽんぽんしてるシアニスさんを、まともに見れない。ひええええ……お2人とも自信めっちゃ失ってらっしゃるぅ。

でもあれだよ!私魔法ってこれしか知らないし!!他に使う魔法なかったから必然的に洗浄ばっか使っちゃうって言うか、潔癖症って程じゃないけど結構こまめに使ってたから上達するのも納得と言いますか。わざわざ手を洗って拭かなくてもいいから便利ーって多用してたって言いいましょうか。

戦闘面に使用率が傾く皆さんに比べたら、そりゃ一点特化な私はしょうがないと思うんだよね。


「私、魔法これしか知らないから……えっと、皆さんは、戦わなくちゃいけないから、せんじょー魔法だけ使ってられないし……!」

「ルイは本当に優しい子ねぇ」


ってセラスさん頭撫で撫でしないでふへへへ力が抜けるぅ。

オリバーさんはディノさんに背中パアンッてされてたけど。よかった私の方に来たのセラスさんで。心の底からよかった。めっちゃくちゃ痛そう。


「おら、子どもに慰められてどうすんだよ。いい加減辛気くせぇ顔止めろや」

「うぐっ……いいよいいよ。今日からもっと真面目にやるよ」

「そうですね。では私も今日から、」

「シアニスは休め」

「シアニスは何もしなくていいの」

「シアニスは駄目だから」

「シアニスは却下だ」

「シアニスは座ってろよ」

「ええー」


意気込んで腕まくりしたシアニスさんの肩をルウェンさんとセラスさんが掴んだと思うと座らされて、オリバーさんとディノさんがお尻の下に丸めた毛布を差し込んで、エイベルさんがさらっと膝に毛布掛けた。わあおスムーズな流れ作業。

シアニスさん残念そうにしてるけど、重傷だったんだからね。お休みしてようね。

さて、もう1回洗浄魔法をかけてから、ちょっとだけ落ち込みが抜けないオリバーさんの裾を引っ張って見上げる。あのねオリバーさん、私ってばチート級の洗浄魔法と私の手探り魔法しか知らないから、実はじっくり見させてほしいんですよ。ごく普通の洗浄魔法。


「オリバーさんの魔法、見たいです」

「え」

「私、姉さんと私のせんじょー魔法しか知らないから、他の人の魔法、知りたいです」

「え゛」

「私こっちやったから、あとそっち、オリバーさんのが見たい、なぁ」

「……………………純真な目って怖い」


しばらくして、オリバーさんは顔を手で覆って呟いた。

なんかすみません、幼女で。














じっくり見させてもらったオリバーさんの洗浄魔法は、詠唱らしい詠唱はなくて私の魔法と同じだった。私がやってた時の変な詠唱には突っ込みされないなって思ってたけど、そこは本当よかった。詠唱って言われたって何を言ったらいいかわからないし。血消えてくれーお願いだからーってブツブツ言ってたのは、私がプレッシャーかけたからだよねきっと。たぶん。すまなかったと思ってます。

それとなく聞いてみると、洗浄魔法はとても簡易的な魔法のため詠唱はないに等しいそうだ。綺麗になーれって言ったりすると気持ち効果が上がってる?くらいで、結果にほとんど差はないらしい。複雑な魔力操作もなく、普段の掃除を思い浮かべれば簡単にできるため、水属性の適正があれば子どもでさえ覚えられるお手軽魔法なんだとか。マジか。そんな簡単な魔法だったの?

いやでもダァヴ姉さんの圧倒的効果を見ると、覚えるのは簡単で浅く広く使えるけれど、極めるのが大変な魔法なのかも。洗剤の威力を知ってる私だから血の洗浄も比較的簡単に可能だったけど、普段はここまで極めるのは大変なんだそうだ。冒険者も身綺麗にするだけで十分だから、それ以上レベルアップに費やす事もないそうで。だからベテランな皆さんの中でも、2人しかいなかったんだね。

もったいないね、すごく便利な魔法なのに。

セラスさんがいれてくれた紅茶をゆっくり飲んで、ふう、と人心地。美味しいわぁ。

落ち着いた所で、宝玉について聞いてみた。今ここだって思ったんだよう。さっき宝玉見せた時驚いてたのも気になるし。


「そういえば、宝玉ってあんまり拾わないものなんですか?」

「そうね。珍しいアイテムだわ」

「ポーションよりは見つかるが、なかなか出ねぇな。便利だから欲しいんだがなぁ」

「なるべく回収してギルドに売る奴もいるよね」


え、ギルドで買い取ってるの?


「特に脱出と転移は、深い所に潜る奴には必須のアイテムだからなー。在庫があれば売ってんだよ」

「ええー!」


マジか。マジか!ギルドで売買可能なんだ。じゃあ何でカタログブックだと駄目なんだろう。世界中のアイテムを売買できる、はずなのに。


「あら……ルイが行くお店では、宝玉を買い取ってくれないのですか?」

「うん。ダンジョンせんよーアイテムは、ダメなんです」


本当に、何でかわからないけど買ってくれないんだよねカタログブック!他は一切不満ないけど、これだけは困る!


「私、宝玉ばっかり拾うから、買ってほしいのに!」

「……ん?と言う事は、ルイは宝玉を、まだ持っているのか?」

「たーーーーくさん!あります!!」


そら嫌になるくらい!!宝玉ばっかりだったから!!


「あ、そうだ。皆さん宝玉ないって言ってたからあげますね。帰るのにひつよー、ですもんね」

「おいおい、ルイ。俺らはタダじゃ貰わねーよ」


リュックから4色の玉を取り出していると、エイベルさんが首を振る。ふっ、そうくると思ってましたよ!エイベルさんは本当、そういう所細かいし頑固なんだから!!

でも私は学習したからね!


「代わりに宝玉の正しいねだん、教えてください。じょーほーと交換です!」

「……ルイ、お前ホント賢いなー」

「もっとほめていいんですよ!」


って胸を張ってたら、肩に移動してきたテクトに頭を撫でられた。何でだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る