32.鑑定は正確に
それからしばらくして、私の目の前に、めっちゃ重そうな鎧とか豪華な剣とか銀貨や半金貨が山積みに連なった。わあお……よくもまあ、これだけ入ってたよね。安全地帯の一角を占領するほどの量だよ。アイテム袋半端ないっす。アイテム袋って容量多ければ多いほど、高価なんじゃなかったっけ……それを1人1個ずつ持ってるとか、やっぱりすごいなこの人達。
聞けば100階から潜って集めたものなんだとか。それなのに宝玉が1個も無いってどういう事なの?私はあれだけ宝玉フィーバーだったのに!この歴然とした差!!108階で拾った鎧とかありましたよ!?どういう事なのダンジョンさん!!私にも普通のアイテムを恵んでください!!
<それに関しては本当にわけがわからないよね……何かにとり憑かれてるんじゃないかって神様に相談しに行きたいくらい>
ああテクトがめっちゃ遠い目をしてなさる!本当に何でだろうね!
「いい感じに高そうな装備を集めてみたが、考えたら俺ら、鑑定スキル持ってる奴いねぇんだよな。値段わっかんねぇわ」
「いつもギルドの鑑定士に任せてるからね……んー、普段なら、だいたいこれくらいで500万はいってると思うんだけど。そっちの見た事ない装備に関してはわからないよね」
500万……1回ダンジョンに潜って宝箱漁るだけで500万……いっぱい稼ぐ人の年収だよねこれ。準備にもお金かかるけど、それだけのリターンがあるんだなぁダンジョン探索って。危険もそれだけ多いけどね!!
オリバーさんが困った表情で大きな一山の隣、小さな山を見る。見た事ないものなら予測も出来ないよねぇ。
「金貨がもっとあればよかったのだけど、宝箱になかったから仕方ないわね」
「半金貨がたくさんあっただけでも十分ですよ」
「一度戻って鑑定してもらうべきだろうか」
「まあわからんでもいいんじゃねーの……足らねーより、超えたら超えたで」
エイベルさんぼそっと呟いてるけど、実はまだ諦めてなかったんだね?うん、私はきっちりいただきますよ。1010万分をね!!
ふふふふ、私には何たってカタログブックがある!バッグから分厚い本を取り出してたら、不思議そうな顔をして皆さんに見られたけど問題ない!
表紙にまんま「カタログブック」って書いてあるけど、これ日本語だから私以外の人には読めないって、テクトが確認済みだもん。理解できない文字が、鑑定専門魔導具って風味を出してくれてると思う。
「かんてーしてくれる本なら、持ってます」
「魔導具、なのよね?表紙の文字は……読めないわ。シアニスは?」
「わかりません。しかし、魔力は感じますね。魔導具ですよ」
「これは古語か?……歴史学者ではないから詳しくは知らないが、一見古文書の部類に見えるな」
「でも、かんてーできますよ」
目の前で鑑定作業を見られてても大丈夫なのも確認済みなんですよねこれが。
本の上に浮かび上がる電子板っぽいのは、“売買モード”にならない限り覗き込まれても問題ない。“鑑定士モード”だと、画面にこの世界の文字の説明と金額が出てくるんだよね。だから見られても問題なし。ナビのアナウンスも一緒に流れるけど、これは私に直接話すから日本語のままでもオッケーなんだよね。どうせ聞かれないからどっちでも構わないっていうか。
カタログブック自体に今は使用者制限がかかってるから、私以外にはもう反応しないし。試しにテクトに本を開けてもらった事あったけど、うんともすんとも言わなかった。ただの真っ白い本だったよね。
だからカタログブックで鑑定する分には、見られても全然平気なのである!うっかり売っちゃわなければ勝手に消えたりしないから、普通に鑑定の魔導具に見えるんだよね。
毎回思うけど製作者さんはこうなる事を予見して作ったのかな?天才かな?
「その魔導具は物の価値まで調べられるのか?」
「教えてくれます。えーっと……かんてー、してみますね」
試しに下級ポーションを調べてみようか。アイテム袋からポーションを出して、開いたカタログブックに置く。一瞬後、頭の中にナビの声が響いた。
―――下級ポーション。即時効果のある回復薬。多少の怪我や体力の回復する。品質良好。
ついでにぱっと出てきた画面に目を見張った皆さんだけど、現れた説明と数字にほう、と頷いた。
「本から微妙に浮いてんな……何だこれ」
「さあ。魔導具職人じゃねーからわっかんねーな」
「魔導板っぽい?ステータスを調べる時の奴に似てるよね」
「それも不思議ではありますが、これは……品質までわかるのですね。一見して劣化しているとわからないものも分別できるなんて素晴らしいです」
「1万ダル……下級ポーションの最低価格ね。便利な魔導具だわ」
「運送費はかけられないんだな。アイテムそのものの価値を示しているのか」
「うん。だから、セラスさんが2万って言った時、びっくりしました」
「ナヘルザークでは一律2万なのよ。国が管理しているからね。他の国ではもっと高かったりするわ」
ほええー。一律って事は、都会で買っても地方で買っても2万って事だよね?地方の場合運送にかなり人件費かかると思うんだけど、この国って冒険者に太っ腹だなぁ。地方にもダンジョンがあるからこの処置なのかな?
っていうか他の国もっと高いの?どれだけぼったくるの?下級ポーションで万越えてるんだよ?やばくない?まあ飲んですぐ効果が出て傷が一瞬で消えるんだから、それだけ高いのも納得できるんだけど……ゲームだとお手頃価格だからなぁ。
この世界ではポーション自体、貴重な部類のアイテムなのかな。
「ポーションって、高いんですね」
「薬草や錠剤と比べて即時効果……すぐに回復するからね。ポーションって回復効果が高められた魔力が溶け込んでるんだけど、その魔力のこもった薬液を飲む事ですぐ体中に魔力が行き渡ってー……んー、わかる?」
「わかります」
つまり薬で言う、シロップって事だよね。シロップとか粉薬ってすぐ胃で溶けるから効果が出やすいって言うし。魔力が身近にあるこの世界だからこそ、ポーションで魔力を摂取して傷が一瞬で治ったりするんだなぁ。さすがファンタジー。
「でもポーションって、保存方法が厳しいのよ。ちょっとでも蓋が緩んでると魔力が抜けて品質が落ちるの。中級ポーションの魔力が抜けて、下級に落ちてしまった事もあるのよ」
「ええー!」
「そのために特殊な入れ物がドワーフ達の手で作られたわけなんだなー。この上級ポーションの瓶とフタ、よーく見てみ?加工しづらいガラスにさえ繊細な技巧を凝らすドワーフの匠な技が細部まで行き渡っててな。ああー、下級で一人前、中級でベテラン、上級はもう神業だ……」
「エイベルの言ってる事は難しいから放っておけよ。とりあえず、ポーションの入れ物は全部密封できるようになってんだ」
「わかりました!」
エイベルさんはドワーフのファンなのかな?陶酔した顔で空になった上級ポーションの瓶見てるけど、うん、深く触れないようにしよう。
「入れ物もそうなんですが、ポーション自体作れる人は限られています。ナヘルザークは国でポーションを作るための機関を設立し、下級ポーションの量産に取り組んでまして、体制が整っているため2万で済んでいるんですよ」
「ほえー……中級は作らないんですか?」
「作れる奴がいないわけじゃないんだがなぁ。ま、早々簡単にゃ出来ねぇ代物だ。だから50万以上に跳ね上がんだよな」
一気に高くなった!?中級もやっばい!!でも下級より回復力は高いから、ベテランの人は必ず1個は持って行くんだってね。
つまり今回皆さんはそれを1個ずつ消費しちゃったってわけなんですが……うわ、グランミノタウロス怖い。
「だが2万も、新人には十分懐が痛い。冒険者は下級ポーションを買えるようになって一人前と言うんだ。それまでは痛みを和らげ自然治癒の効果を上げる薬草を使う。薬草のままなら安いからな」
「ひえー……そっかぁ。ポーションが高い理由がわかりました」
「ルイが通ってる店はこの値段で取引してんのか?」
あ、そっか。普通だったらこの値段にダンジョンから持ってきたっていう諸費が加味されたりするのかな。ポーションの運送費みたいに。
でもまあ、うん。その誤差を考えるのもこんがらがりそうだし。そういう事にしよう。
「はい。買うのも、売るのも、このかんてーの本の通りに取引します。この本も、その人からもらって……私にしか使えないようになってるんです。あ、これも、そのぉ……」
「もちろん、内緒ですね」
「うん!」
「それ儲けてんの……?」
「ほんと子どもに特化してんなそこの店……どうなってんだ」
「会った事ない人に対して言うのはよしましょう。どんな事情があるかなんて知らないんだから」
「まあな」
うん、実在しない店なんだけどね!カタログブックのナビは私にも丁寧にしてくれるからある意味子ども特化!!
「鑑定できるなら問題ないな。これらの値段を調べてみてくれないか?」
「はい!あ、でも本に乗せないとわからないから……」
「もちろん手伝うわ。男どもがね」
「セラスてめーピンピンしてんだろうが手伝えや!」
「嫌よ」
ツンッと澄ました顔でそっぽを向くセラスさん。あらま、そんな表情も美人だわ……
結局、セラスさんはシアニスさんに水や薬を飲ませたり着替えさせたりして、ディノさん達を手伝う事はなかったのであった。あ!ルウェンさん肩の傷治ってないんだから重い物はダメ!!却下!!
「ではこれで、1010万ですね」
私の目の前に再び築かれた山を見て、ああすごいわぁ。と呟いた。装備や硬貨で出来てるいけど壮観だね、と囁くテクトにまったくだと頷いた。
果たして、積まれた装備とお金で1010万は足りた。寧ろいくつか残ったくらいだよ。ダンジョンの100階って、本当はすごいんだなぁ……こんなお高いものがたーくさぁん、ふふふ……私が探索した時は出なかったのになぁ。
ギルドとかに出せばもっと高く売れるはずだけど、皆さんカタログブックの鑑定に合わせてくれたなぁ。私が不安そうにしていると、「アイテム袋を持ってない新人冒険者を目当てに、いらないアイテムを安く買い取る奴もいるんだよ」「ダンジョン内では荷物を軽くするため、アイテムを捨てる事もあるからな。金になるならば、と仕方なく売る人は多い」「そいつらの商売に比べたら断然、良心的よ。ちゃんと目安があるんだから」「だからまあ、気にすんな!」なんて言われてしまった。顔に出てたのかな?バレバレかな?私駄目じゃない?
皆さんに手伝ってもらってアイテム袋に全て入れた後、ほっと一息ついた。これでポーションの話は終わりで良いよね?もう私びた一文貰わないよ!
「お茶が飲みたいわ。ちょっと休憩しましょう」
「じゃあ、洗浄しよう。さすがに鉄臭い所で一服できないよね」
「おうオリバー頑張れ」
「ファイトー」
「私の代わりに働いてくれるのね、ありがとうオリバー」
「すみません、私が万全であれば……」
「シアニスは休んでいろ。倒れたら命に係わる」
「お前ら本当!こういう時ばっかり人任せにして!!あとシアニスは休んでてマジで!!」
ふむ?洗浄魔法が出来るの、シアニスさんとオリバーさんだけって事?外でお風呂に入れない冒険者には嬉しい魔法だから、皆覚えてると思ったんだけどなぁ。
<……いや、全員覚えてるよ。ただ突出して上手なのが2人なだけで、他は土埃や汚れを落とす程度しか扱えないみたい>
なるほど。血までは洗浄できないレベルなんだね。
あれ?でも私、段階踏んで綺麗に出来たけど……これって転生者だから?かな?想像力大事って言ってたもんね。そこらへんも聞ければいいなぁ。
とにもかくにも、オリバーさんだけにやらせるわけにはいかない!
「私!私せんじょーまほう、できます!!」
やっと私自身が役立つ時が来ましたな!お任せくださいよ!最近は赤黒い染みを消す作業に慣れて、はいはい酸素系酸素系って目を逸らさず洗浄できるようになったんだよ!精神的に成長したと思うの!
オリバーさんがぱあっと表情を明るくした。やだ可愛い。狐男子可愛い。
「すごいねルイ!血も綺麗に出来るの?」
「はい!おまかせあれ、です!」
「助かるよー!一応綺麗には出来るんだけど、あんまり得意じゃなくて」
「あ、もしかしてこの安全地帯が妙に綺麗だったのって、ルイが洗浄してくれたから?」
「ううん、ここは姉さんが……」
<ルイ。ダァヴの事は黙っておかないと>
「あ」
し、しまった!ダァヴ姉さんの事は内緒だった。うっかり口滑っちゃった……!や、やべ!!
「お姉さん、いるの?」
「いる、というか……今は、いないというか……」
なんて言ったらいいかなぁああ!!ダァヴ姉さんは確かに姉さんなんだけど、でも聖獣で今はいないし、さっき最初からテクトと一緒だったって言っちゃったしなぁあああ!うーん!
うんうん悩んでいると、ディノさんがセラスさんの肩を掴んだ。ん?
「セラス、深くは聞かない事にしようぜ」
「……そうね。言いたくなかったら、いいのよルイ」
「いいの?」
え、本当に?じゃあ黙ってるけど……急にどうしたの?
一瞬後、テクトが無表情に吹き出した。え、何事?肩震えてるけど大丈夫?
<な、なんか、ルイが戦争をしている国の貴族の庶子で、戦火から逃れるために「姉さん」とここまで逃げてきて、この安全地帯を綺麗にした後「姉さん」は死んでしまったって……そんな一連の流れがこの人達の頭の中に出来上がってるんだけど>
何ですとーーー!?待って!?ダァヴ姉さん勝手に殺さないで!?っていうか何でそんな想像しちゃった!?
<そのアイテム袋も「姉さん」の遺品で、頑なに外に出たがらないのは戦争に巻き込まれないようにっていう遺言だとか……あ、ごめん今僕が俯いてるのにつられてルイも俯いてるから、泣くの我慢してるって誤解されてる!>
テクトさんこれ以上の設定はいらないよ私ー!?ああでも顔上げられない恥ずかしくなってきたごめんなさい皆さんんんん!!もう自棄だぁあああああああ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます