29.幼女の事情
ふおおおおお!どうする!?私の状況、どうやって説明する!?正直にダンジョンの中に転生しちゃったんですよー、なんて話すつもりはないけど、ダンジョン内にいておかしくないだけの理由が必要だよね!?宝玉売りたい一心で冒険者来い!って思ってたけど、そっちまで気が回ってなかった!!
でもとりあえず大事な事確認しよう!テクトの声には心の中で答える、これね!オーク地帯を越える時と同じ、テクトへの返事は心でやるんだ。聖獣だってバレる要素はなるべく人に見せないようにしなきゃ。これが一番大事だからね!
ふー……お、落ち着けた?私話せそう?目線を合わせるように座ってこっちを見る5人を、チラッと盗み見する。それぞれ真剣そうな顔で視線を逸らしてくれそうにない!じっくりゆっくり聞く体勢ですね!落ち着ける気がしない!
いやでもうっかりバレたら大変なんだから!しっかり深呼吸して!
「1つ聞いておくが、嬢ちゃんは奴隷じゃねぇんだよな?」
「ちょっとディノ、直球過ぎじゃない?」
「どれい?」
いやいや突然物騒なワード出てきたね!?突然すぎてオウムだよ!奴隷ってあの奴隷かな!?人なのに人権無視されて所有物扱いされるラノベにありがちな奴!
ふー、ふー。お、落ち着けー……ふるふる首を振って否定する。生まれが特殊なのは否定しないけど、誰かの所有物になった覚えはないよ!
「ただの、人ぞくです」
「そっか。じゃあ、誰かに無理矢理連れてこられたわけじゃないんだね?」
「うん」
「人族なのか。幼い割に賢いから、エルフの血を引いてるのかと思った」
「ちょっとごめんね」
セラスさんに両腕を取られて、まじまじと見られる。うん?私のぷにっと腕に何か変なのついてる?
てかここまで近いとセラスさんの綺麗なお顔が目の前に!まつ毛ばっさばさなんですが!あ、黄色の目だ。鼻ちっちゃい。唇ふっくらしてる。鉄臭さの中からふわりと花の匂いがする。やばい、美人度がやばい。とにかくやばい。同性だけどドキドキしちゃう。あ、目が合った。お、おう、怯むほど美人!
少ししてセラスさんが手を離した。ついでに頭を撫でられる。ふおおおう!私にテクトみたいな尻尾があったら全力で振り回したいくらい気持ちいい!!
「大丈夫よ、
「しるし?」
「……ルイは知らなくていいのよ」
<奴隷になると、制約の印を腕か首につけられるみたいだね。所有者に逆らおうとすると苦痛をもたらすっていう。魔力で刻まれるから、奴隷という立場から解放されない限り洗っても削いでも落ちないんだって>
セラスさんが子どもに聞かせるものじゃないって黙ってても、テクトが教えてくれる。ナイスアシスト!物騒な知識が増えたね!どうあがいても奴隷生活から逃げられない感がやばいよ制約の印!苦痛与えるとか止めようよ……!
っていうか何で突然奴隷の話?突然だったよね、何で?テクトわかる?
<……うん。ちょうど考えてくれたよ。最近、ダンジョンの攻略に奴隷を安い装備で大量投入するアホがいるって噂があったんだって。だからルイがそうじゃないかって思ったみたい。印がなかったから違うって判断できたけどね>
うおおおおい何それ怖いね!?人権ないから危険なダンジョンに放り込んで大丈夫とか思ってんのかなその
ナヘルザーク自体は平和な国だけど、そこに住んでる人が皆いい人とは限らないんだよね。わかる。日本も他国から平和って言われてるけど、殺人がないわけじゃなかった。どんなに治安がいい土地でも、人は理不尽な理由で殺されてしまう。ナヘルザークが日本と同じくらいの治安だと考えても、そういう怖い奴が世間に紛れ込んでてもおかしくないよね。
めっちゃ怖いけど!
<まあ、そんな思考の奴が本当にいるとして、僕が見つけるからルイが関わる事はないよ>
うん!そうだねありがとうテクト!出会わないのが一番だよね!
「大人はいないのだろうか」
「1人と1匹だけってわけじゃないよね?ここに迷い込むなんて事はないだろうし」
「出入り口の受付に引っ掛かるだろ。見張りは常時いるし、ダンジョンに入った人数は基本把握するもんじゃん」
「つか、年端もいかねぇ子ども連れて入るような馬鹿は受付で止められるだろうよ」
「しっ!私達が話してたらルイが喋れないわ。待ちましょう」
私が黙っていたら、ルウェンさんを皮切りに男性陣が話しだし、セラスさんに制されてた。うん、ごめんなさい話すのが遅くて。色々考えてると落ち着ける気がするから、ほんともうちょっと待って。気にしなくていいよ、あなたのペースでいいのよって感じで微笑んでくれて、肩から力が抜けてくけど。
この人達は、私がどこぞの大人の陰謀でこんな危険な場所にいるんじゃないかって考えてるんだね。何かすみません。その考え、見当違いなんだよ……
んむむ……どう説明するかなぁ。今皆さんは私の事をどう思ってるの?テクト教えてくれる?
<いいよ……そうだね、うん。妙に賢いけど、親が手を引く年頃の子どもが何でダンジョンにいるのか。連れ込まれたわけじゃないなら他に何の理由があるのか。ちゃんと話してくれるかわからないけど、断片でもいいから知りたい、って感じだよ。心配、あるいはルイの近親者に対する怒り、少しの警戒、保護したい気持ち、かな。皆そんな感じだね>
あー……心配されてるのかぁ。まあそうだよね。5歳児は普通、ダンジョンにいるわけないもんね。後、いない人に怒られてもどうしょうもないですすみません。ダンジョンに生まれてすみません。警戒って何に?私は幼女だし、テクトだって無害な聖獣だし……あ、この場にいない大人?大人が突然現れてさっきの値段の倍を要求してくるかも!とか?何それ怖い。どんな詐欺?それと保護者はテクトで間に合ってます。って思った瞬間に、テクトが照れたように咳払いした。可愛いなしかし愛でてる時間がない……!
しかし皆さん、心配してくれてるのかぁ。私、突然現れて怪しかっただろうに。こんなダンジョンの深い層で平然としてて、ごく普通の一般人には見えないだろうになあ……怪しい奴!ていっ!って切り捨てられなくてよかったよね。
よし。うん、あれだ。迂闊だったけどここまでの会話で、私が大人の難しい会話を理解できるってバレてるんだから、変に取り繕うのは止めよう。私らしく、舌足らずなまま、きちんと話をしよう。隠さなきゃいけないとこだけ隠して話そう、今日までの事。それがこんな怪しい私にも真摯に話し掛けてくれる人達への礼儀だよね……都合が悪い質問されたら全力で媚びた幼女パワーで誤魔化す事にしよ。
「えっと、起きたら、ここにテクトといて」
「あ゛ぁ゛ん?」
「ひぇっ」
「ディノ抑えろー」
一瞬にして怖い顔になったディノさんがやばい。マジで怖い。待って。ちょっとだけ包み隠しつつ私の事話そうとして、まだ1歩目なんだけど。
エイベルさんがぐいーっとディノさんの頬を引っ張ったけど、まだ怖い顔だぁ!熊が混ざってるからかな!?ディノさん自身の目つきがあれなのか!?かなり怖いよ!!
「ルイに怒っているわけじゃないから、気にしなくていい。あいつは見た目の割に子ども好きだから、君が不当な目に遭ってると思って不機嫌になっただけだ。続けてくれ。ルイはテクトと2人だけだったのか?大人はいなかったのか?」
ルウェンさんが視線を真っ直ぐ逸らさず向けてきて、続きを促してきた。え、いいの?あの怖い顔放置していいの?話しちゃうよ?てか子ども好きだったの?だったらもっと優しく撫でた方がいいよセラスさんみたいに。じゃないと首が捻挫する。
「ずっといっしょにいるの、テクトだけ。どうやってここに来たかはわからない、です。でも、外は危ないって教えてもらったから、ここに住んでいます」
「住んでるって……この安全地帯で寝て過ごしているって事?」
「うん」
本当は箱庭で暮らしてるんだけどね。そこは神様が関わってくるから黙っておこう。
「外は危ないって、何のことを言ってるの?」
「せんそー、してるって」
「ああー……まあ確かに、してるな。大規模に」
「誰に、外で戦争してるって教えてもらったんだ?」
「テクトが教えてくれたの」
「テクトが?意思疎通ができるの?」
<ルイ、それだと僕がテレパスで会話してるって思われない理由が必要だよ>
ふっふっふ、お任せあれ!いい証拠があるのを、今、思い出したんだよ!!
さっきから喋ってないけど言葉を話せないタイプの妖精じゃないの?ってオリバーさんに言われて、リュックからざらざら紙を取り出した。
前に、この紙でしわしわの絵にならないか描いてみなよー!!ってやけになって押し付けた結果、まんま人参の模写が返ってきたんだよね……テクト上手すぎない?画力高すぎない?私のぐにゃぐにゃ文字がさらに情けなくなったよね。
「なに考えてるかは、なんとなく。しゃべれないけど、テクト、絵がじょーずなんです。絵で、危ないって教えてもらったの。その紙は失くしちゃったけど、これ代わりです」
「あら。これテクトが描いたの?とても上手だわ」
「人参の特徴をよくとらえてるね。色が塗られていないのによくわかるよ」
「これだけうめぇなら納得だが……そのちっこい手で随分と器用な事すんだな」
「テクト、すごいから!」
こればっかりは事実ですね!胸張って自慢するよ!
<まったく、ルイはこういう時だけ自信たっぷりになるんだから>と肩を落とすテクトだけど、テクトさんや。尻尾振り回してたらかっこつけてる意味ないよ?可愛いよ?
「テクトは一部の国が戦争中だって知ってんだなー」
<まあ、聖獣だしねぇ>
こくんと頷いて見せたテクト。ちょっと照れが隠せてない所がまた可愛い。
リュックからついでに緑と白の宝玉を取り出して見せる。ここで流れるように探索方法の提示ですよ。
「おいおい、宝玉まで持ってんのか嬢ちゃん」
目を見開いて驚いてる皆さん。
え?これそんな顔されるほど珍しいもの?嫌になるくらい出てくるのに?
「これつかえば、モンスターに見つからないから、いつも宝箱、見て回ってます」
「宝箱の中身を誰かに渡すと食料が貰えるとか?だから集めてるのかな?」
「?ここで会った人、皆さんが初めてです」
「……大人が、ルイの様子見に来たりとか……」
「え、ないです」
ダァヴ姉さんは時々様子見に来るって言ってたけど、聖獣だし。人は皆さんが初めてだもんなぁ。
「……時々、安全地帯の中に食べ物が置いてあったりとか」
「ないですね」
あれ?何か、皆さんすごい顔色青くなってる?何で?
「……ダンジョンの宝箱に食料は入ってないはずだけど。ルイ、あなたちゃんとご飯食べてるの?」
「……あ……」
し、しまったぁああああ!!ダンジョンに住むのは宝玉で誤魔化せるけど、じゃあ何でダンジョン内で換金できないアイテムを集めてるんだって話じゃん!!物があっても食べていけるわけじゃない!!食べ物探してるとか言った方がよかったけど、宝箱に食べ物入ってないっていうのが常識っぽいしぃいいいんんんどうしよぉおおおお!!
んんーーーー!よし!!女は度胸!腹くくれ私!!
「あ、あのね、その!な、ないしょなの!」
「え?」
「テクトといっしょだと、ないしょのお店出てきて!おいしいのが、いっぱいあるの!ダンジョンのアイテムと、交換して、おいしいの!でも、お店の人はないしょだって言われて!他の人にはないしょだって!!だから、あの、ないしょにして!!」
カタログブックの事だけど!実際買ってるとこ見なきゃわからないよね!!
「内緒なのか?」
「ないしょ!ぜったい!」
「そっか。じゃあ、ルイはそのお店のお蔭で、毎日ご飯食べて、しっかり寝てるのね?」
「うん!テントと寝ぶくろ、あるよ!」
「そのお店は私達冒険者には使えないの?」
「おとなには、ないしょのおみせだから!しーって言われたの!」
「なるほどねぇ。遭遇した事がねぇ店の事言われてどういうこったと思ったが、売買対象限定の店か。そらこんな子どもがダンジョンに入るわけねぇから、誰の情報にも出ねぇわな」
「そんな店、ふつーあるか?」
「でもどこだったか、ダンジョンの中で妖精が出張雑貨店を営んでるって聞いた事あるよ」
「けどよ、子ども限定って……どこに需要があるんだよ。儲からねー事をわざわざする商人っているか?」
「ルイにあるでしょ、今。っていうか店主の事情なんて知らないわよ」
「あの、あの、他の人にないしょに、してくれ……ます?」
こわごわ伺うと、それぞれ視線を合わせて頷いてくれた。よし!全力幼女パワーが押し通った!!
<……ルイの前でしか出てこないなら、他の冒険者に話しても意味ないし。むしろ話が広まる事で恩人の大事な生命線が途絶えたら大変だ。誰にも言うつもりはないけど会ってはみたい。って感じだね。この人達なら秘密を守るでしょ>
テクトの安心テレパス結果も知れたし、オッケーオッケー!カタログブックは確かに私にしか使えないから、嘘をついてる訳じゃないんだよね!うん!ちょっと騙したみたいで申し訳ないけど!
そこで、何事かを考えていたようなルウェンさんが顔を上げた。薄ら微笑みさえ浮かべて。
「そうか。じゃあ金や金品でポーションの代価を渡しても、ルイにとって意味の無い事ではないんだな。その金でむしろ生活が助かるなら、俺達にとっては都合がいい」
上級ポーションの事流されてくれなかったぁああああああああああああ!!私の話でお流れにはならないのね、ルウェンさんってすごい頑固!!
ま、負けないぞ!ちょっとむっとして見せる!
「ポーションのお金は、いいの!いらない!拾ったもの、あげただけなんだもん!」
「嬢ちゃんの気持ちはありがてぇんだ。だがなぁ、それで困るのは俺達なんだよ」
「え?」
んんん?大金が消えて困るはずなのに、渡さない方が困るの?どゆこと?
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