28.冒険者と会話する



私としては、頑張って手に入れた上級ポーションですよ!というほんの少し自慢のつもりで胸を張ったんだけれども。

冒険者の方々からしたら、それどころの話ではなかったらしい。


「上級ポーションって言えば、今や製造技術が途絶えてダンジョンでしか手に入らない希少な薬だよ!?そんな薬をぽんっと渡してくれるって、すごく助かったけど豪気だね!?」

「てかどこで拾ったんだ嬢ちゃん!この階か!?それともさらに下か!?」

「やべーちゃんと見とけばよかった……いや入れ物だけでも十分珍しいんだけど……マジかー」


ひょろりと毛もじゃと長い髪の人が迫ってきたけど、さりげなく下がっとく。男3人に寄られたら圧迫感がさすがにやばい。1人妙にでかいし。縦にも横にも。


「止めなさいよあなた達。寄ってたかって可愛らしい女の子に、大の大人が恥ずかしいわよ」


そんな私を庇うように、緑の髪の女性が声をかけてくれた。横たわる女性の傍を離れない男性の肩に、包帯を回している片手間だったけど。治りが悪いなら、下級ポーション追加します?在庫あるよ?


「その落ち着き様、知ってたなセラス!あのポーションの事!」

「昔、見た事あったからね。シアニスを助ける唯一の方法だって、持つ手が震えたわ」

「ああ、そうだ。お礼を言わないとな」


包帯を巻き終わった男性が、思い立ったように私に向き直る。んん?何?

男性は座ったまま、私ときっちり目を合わせて迷いなく頭を下げた。うえええええい!?何突然!!


「俺の仲間を助けてくれて、ありがとう。君が上級ポーションを持っていた事、この広いダンジョンの中出会えた事、希少なポーションを出してくれた優しさ、すべてが重なった奇跡にいくら感謝してもし足りない。本当に、ありがとう」

「あ、あたま、上げてください!困ってる人が、いたら、助けるの、当たり前!」


死にそうな人がいて、自分が助けられる手段を持ってるなら使うでしょ!?使わないの!?あ、今大規模な戦争してたね、だからかな!?戦争中って人に優しくなれないって言うもんね!!世間的に優しい人少なくなってたのかな!?

えっと、だから、そんな改めてお礼言われるとどんな反応したら良いかわからなくなるんですが!!


「……くっ、こんな良い子がいるなんてなぁ!世の中捨てたもんじゃねぇ!」

「ディノ、暑苦しいからそっち向いて泣いてくれる?」

「セラス容赦ねーな!否定はしねーけど!」

「エイベルも十分ひどいよ」

「で、セラス。俺達はいくら払ったら彼女に相応の対価を返せる?」


頭を上げた男性が放った一言で、男3人衆の空気が凍った。おおう。一瞬にしてこの場は冷凍庫に変わったんだろうか。え?そんな空気にさせるようなポーションだったっけ?確かに0は多かったけど、いくらだったか覚えてないなぁ。でもそっか。希少だって言ってたもんね。

緑の髪の女性が、何事もないように続けた。


「私の覚えが正しければ、上級ポーションの最低価格は1000万。ダンジョン内で希少ながら確実に取れるようになったからこの価格に落ち着いたと聞いたわ。他にも下級ポーションが5つ。ナヘルザークでの販売金額は1つ2万ダルだから、ダンジョン内で使ってもらった事を含め少なく見積もっても1100万ダルね。命が助かったんだから、安い買い物よ」

「……は」


いっせ、は……はあああああああ!?

え!?待って!上級ポーションってそんな高かったっけ!?いっせんまん!?ポーション1つで!?私そんな高いもの押し付けちゃったの!?下級ポーションも1万じゃないの!?何で2万なの運送代人件費!?増えた90万はどこから来たの!?ダンジョン価格!?何かいきなり桁外れに増えた!!余計に負債かけちゃった!?いや人助けだけど!!助けるためだったけど!!重症をぱーっと治しちゃったから納得だけど!!皆さんの怪我も目に毒だったし!!痛そうだったし!!でもなんか、善良な人を騙した気分になってきた!!

はははー……と乾いた笑いを溢してた毛もじゃが、ひょろりと長髪の背中をバンッと叩いた。


「お前ら今すぐ手持ち出せ!かき集めるぞ!!」

「「おおー!!」」


大変仲がよろしそうでいいけど、雄叫び上げられたって困るんだよ!

確かにお金は欲しいよ!でも法外な金額が欲しいんじゃなくて、私は宝玉を売りたいの!!ポーションに関しては全部譲った気でいたから予想外だよ!!


「いい!いらない!!お金のためにあげたんじゃない!!」

「あ、飯の方がいいか?そうだよな、ダンジョンの中じゃ良い飯食べれねぇもんな」

「んんー!そうじゃなくてぇー!」


伝わらないもどかしさ!ぐううううううー!!

見返り求めてたわけじゃないんだよ!だってこの人達、皆装備がボロボロなんだもん!これから装備一新してアイテム補充してダンジョン入るまで、どれだけ時間とお金が必要かわからないけど!すごくかかるでしょ!そんな人達から1100万なんて貰えない!!

考えてみたら、あの宝箱で上級ポーションが見つかってよかったんだよ!そうじゃなかったら、あのタイミングで早めに切り上げて帰ろうなんて思わなかったし、いつも通りの1時間探索しきってたら、シアニスさん?は回復が間に合わず死んでしまったかもしれない。この人達に渡すために、あそこにポーションがあったとしか思えない!

この縁を大事にしたいな、と思ったんだ。ロマンチックに言うならば、運命を感じたってやつだね。記念すべき初めて会った冒険者だし!これからもこのダンジョンに何度も潜ってもらって、私と交流してもらいたいんだ!

だから!!お金よりも、友好的な関係が欲しい!!それが伝わってないのが悔しくてふんぬー!!語彙力なくなる!!


「ちがうー!!仲良くなりたいのー!!」

「だが、このまま何も返さないのは俺達も困る」

「いーらーなーいー!」

「まあまあ、あなた達落ち着きなさい」


これ延々と終わらないやつー!と思ってたら、緑の髪の女性が間に入ってくれた。お、おうぅ。そ、そうだねちょっとパニックしてた。パニック幼女だった。


<僕の声もまともに聞こえないほど興奮してたよね>


テクトにぺちぺち頬を叩かれる。

え。マジか。今うっかり声に出そうだったけど、慌てて呑み込む。落ち着けー。すー……ふー……


<この人達の心をある程度読んでみたけど、感謝と困惑と、冒険者の誇りが大部分を占めてたね。まあ、良い人達なんじゃない?仲良くなりたいルイの気持ちに、僕が反対する要素はないよ>

「ほ、」


本当!?と叫びそうになったよもー!テクトがさっきから黙ってたのは、この人達にテレパスで読心してたからだったんだね。さすが私の保護者だね、ありがとう!テクトの後押しがあるなら、全力で仲良くしにいこう!

私が口を押さえてテクトと見合ってたら、緑の髪の女性にふんわり優しい笑顔を向けられた。毛もじゃに厳しい事言ってた時とは違う柔らかい笑顔だ。私に喋らせてちょうだいね、ってことかな?はい黙ります。


「冒険者として代価を渡したい私達の気持ちも、あなたの気持ちも大事だけど、どちらも意見をぶつけるだけじゃ話は終わらないわ。ゆっくりできる時間はあるんだし、後で話し合うことにしましょう。それにまず、自己紹介するのが先でしょ?」

「しかしよぉ……」

「じこしょーかい……」


うん、大分落ち着けた気がする。興奮したままじゃちゃんと話し合えないもんね。名前がわからないままじゃ話しづらいし!緑の髪の女性に賛成だ!

それに、仲良くなりたいのに名前知らなかったら駄目だよね。うっかりだった。よーし!ここはちゃんと、幼女らしく手を上げて話そう!

そして出来るなら上級ポーションの件は流してしまいたい!!


「はい!私はルイ、です!こっちはテクト!」


私に合わせてテクトも手を上げる。ぐーって全身で伸びて上げてる!うおおおお可愛い!!

一瞬にしてほんわかした雰囲気になった。さすが幼女と聖獣のコンボだなぁ。うち幼女は自分(中身20歳)だってことは、深く考えないでおこう。


「恩人に名乗らないのは失礼だったな。俺はルウェン。冒険者だ」

「ルウェンさん」

「ああ」


こくり、と頷いたのは頭を下げてきた人。真面目な感じ。パッと見、短髪で溌剌とした顔だから奔放そうな印象なのに、口調が砕けてないからそんな風に感じたのかな。誠実なのはすごく伝わる!腰にある剣が細すぎずでかすぎずだ。左腕にごつい籠手付けてるから、これで防ぎつつ攻撃するのかな?

私の視線を受けてか、ルウェンさんが剣を軽く持ち上げて、「俺の武器は片手剣だ」と補足してくれた。私の想像で合ってるっぽいね。


「俺はディノーグス。盾役だ。斧でなぎ倒したりするぞ」

「でー、でいー……」

「言いづらいなら好きに呼びな」

「俺達は長いからディノって呼んでるよ」

「デノさん?」

「おうよ!」


ルウェンさんはまだ呼べたのに。私の舌はまだまだ動きが悪いらしい。くっ、悔しい!

ディノさんが懐広い人でよかったよ!ついでに気になる事聞いちゃえ!


「毛むくじゃらなのは、なんで?」

「はっはっはっ!確かに俺ぁ毛深いがな!これは種族特有のもんなんだよ。獣人族の熊人ウルスは、熊の分厚い毛皮を常にまとってんのさ」


確かに言われてみると、大柄な男性が熊の毛皮を被ってるみたいな風貌だなぁ。パワータイプって言うのも納得の筋肉もりもり感。すごいワイルド!

あ!ぼさぼさな髪の毛だと思ってたけど、ぴょこっと熊の耳が見える!なるほど納得、獣人だぁ!

すごい!ファンタジーのお約束、獣人に会えた!!


「これ、種族も言った方がいい流れか?俺はエイベル。ルウェンと同じふっつーの人族の、槍使いだ。中距離からこつこつ削るのが俺の役目なんだぜ」

「エイベルさん」

「はいよー」


長い髪の毛を一括りにしているエイベルさん。ちょっと間延びした口調の人だ。そこの床に落ちてる槍で戦うんだよね。さっき色々ぶちまけた時に持ってたのを放り投げてたから、そうなんだろう。

結構ガッチリした体つきだから、もっとごつくて長い槍振り回すと思った。柄は太いし頑丈そうだけど、案外質素な刃の部分と同じでそれほど長くない。何でなんだろ、後で聞いてみよ。


「俺、オリバーね。斥候と遊撃担当の、獣人族の狐人ルナールだよ。武器は短剣だよ」

「オリバーさん」

「うん」


オリバーさんは狐だけど、細目じゃなくて丸い目で愛嬌がある感じ。口調も柔らかいし、可愛らしい男の人だね。ルウェンさんやエイベルさんより質量感増した髪の毛から、ぴょんっと狐耳が飛び出してる。毛先が黒い薄茶の尻尾がゆらゆら揺れて、とても目が……釘付けです……もふりたい。

ひょろりとしてる印象なのは、偵察に行く人だからかな?気配が薄いって言うか、何て言うか……ディノさんは存在感バーン!!だけど、オリバーさんはひゅんって感じ。うん、自分で言ってて意味わかんない。


「寝ている子はシアニス。人族で、回復と補助魔法を使うわ。彼女がいないと猪突猛進な男達が自滅の一途を辿るから、困ったものよね」

「おおおいセラス!聞き捨てならねぇなぁ!お前だってキレれば手がつけられねぇだろうがよ!」

「うるさい上に暑苦しいわよ」

「シアニスさん」


軽口叩き合ってるセラスさんとディノさんは放っておいて。

シアニスさんは小柄で、可愛らしい人だ。血がこびりついたままだけど、その寝顔は幼い少女のようなあどけなさ。

光属性を持ってないと回復魔法が使えないからか、ゲームでよくある光属性っぽい白いローブを着てる。ほとんど血まみれだけど……毛布で隠れてるところは裂けてるんだよね?替えの服ある?冒険者だから持ってるよね?なかったらあげよう。まだピンクの服残ってるし。


「私はセラス。弓と魔法を使う遠距離タイプね」

「セラスさん」

「ええ。私はエルフよ」


ファンタジーのお約束その2!エルフだー!緑の髪、って思ってたけどよくよく見たら、薄緑っぽい。松明の火で濃淡は見づらいねぇ。サラサラストレートの髪がキラキラしてるのはよくわかるけどね!セラスさんが髪をかき上げると、尖った耳が見えた。おおー、エルフ感!そして何より美人だね!綺麗系美人!


「エルフ知ってる!よーせーだから、テクトと同じ!」


テクトの設定を思い出した私、ファインプレイだと思うの。妖精族の中の、動物的妖精さん。テクトの愛らしさならイケる誤魔化せる!と思うけど。ど、どうだろう。

ディノさんがまじまじとテクトを見る。


「ほぉ。見た事ねぇ生き物だと思ったら、妖精だったか」

「妖精族は未だすべての種族が把握されていないからな。見た事がない妖精だが……ルイは、テクトがどういう妖精か知っているのか?」

「ずっといっしょに、いるけど、わからないです!でも、テクテク歩くから、テクトって呼んでる!」

「んんー!そっかー!やっぱ妖精族は奥が深けーわ。ウサギなのかリスなのか、わかんねーもんな」

「セラスは同族だろ?知らない?」

「ええ、初めて見る子だわ。一般的な妖精って、動植物が長年を経て魔力を高めた結果、知性を有した生命体だから。近年でも新しい種族が生まれたりするもの」

「妖精族何でもありかよ」

「失礼ね、可能性を多く秘めた種族と言ってちょうだい」


そうだね!神様がうっかり魂混ぜちゃって生まれたマウドックも、不思議妖精族の仲間だもんね!可能性は無限大だと思います!!


「さて、自己紹介が終わったわね。ルイ、色々話し合っていきたい所だけれど、その前に聞きたい事があるの」

「なぁに?」

「あなたみたいな子どもがどうしてダンジョンの中にいるのか。あなたがわかる範囲で教えてくれる?」

「…………」


……ぁぁああああああ!そこを説明する予定はなかったぁあああああああ!!一番大事な所ぉおおおおお!!



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