25.冒険者求む、切実に



まずは銀行を知らないテクトに、身振り手振りで説明した。れっつぼでぃらんげーじ!

いや、私もそんな詳しく知らないからあんまり言えないけど。てか身振り手振りいらなかった。銀行って為替とか融資とか、できるんだっけ?融資はローンとかの事だろうと思うけど、為替って何だろ……わかんないなぁ。

まあ、ナビから聞いたカタログブックの機能を考えれば、わかりやすい名前が銀行だったってだけで、そういう難しいことは出来ないんだろうと思う。

お金を預ける、必要な時に引き出す。これだけわかればいいんだよ。たぶん。


<つまり、銀行って金銭を扱う専門の店なんだね>

「そうそう」

<持ち歩けないほどの金を持つ、だから預ける、か……僕には想像つかないや>

「まあ、テクトのいままでのせいかつを、かんがえたら、なっとくだけどね」


聖獣は買い物しないだろうしなぁ。私に会うまで食事に興味なかったって言ってたテクトが、数少ない機会の中食べたのって国賓の宴だったわけだし。ようは奢りだ。うん、金とは縁遠いわ。

しっかし。んー、銀行に、自動転送かぁ。

これってアイテム袋が手に入らなかった勇者向けの機能だよね?私は運良くアイテム袋が手に入ったからすっごく必要って感じがしないけど、そうじゃなかったら安心して大金持ち歩けないもんね。常にジャラジャラ音立てながら持ち歩くとか……怖いわぁ。紙幣は無いみたいだから、どうしても重たくなってしまう。

チャージしとけばいいじゃんって思うけど、チャージはチャージ。そこから現金を引き落とす事は出来ない。実際のお店で買い物する時に現金がないなんて死活問題だ。どこで買ってんだって怪しまれそうだし。そうならないために銀行機能があるんだろうね。

そして預けた大金がなくなったら困るし、カタログブックの悪用を避けるためにも、自動転送機能がある、と。

至れり尽くせりぃ……!!


<しかも鑑定機能があるって事は、聖獣付きにならない、勇者じゃない異世界転生者にも対応してるよ。聖獣がいれば、本来ならいらない機能だ>

「そっか。ねだんがわかるほうに、めがいったけど……かんていってそもそも、アイテムのせつめいだもんね」


私は特殊転生だったから聖獣テクトが助けに来てくれたけど、普通、邪法に巻き込まれた人達は聖獣が寄り添うことはない。きちんとこの世界のご両親から生まれて、一般的に生活できるからだ。神様同士の約束ごとだったっけ?最低限安全な生活を送らせるように、って喚ばれた当時の争いや天災を避けて後の世に生まれるようにするっていう……その中でも日本の記憶が残ってる人のためでもあったんだね、カタログブック。

制作者さんの心遣いが身に染みるなぁ。後世の色んな人の為にって、すごい頑張りすぎだと思う。


<でも、普段通りにアイテムを置けば勝手に売れてチャージされちゃうんでしょ?僕ら、現金を預ける機会ある?必要な時があるかもしれないのに>


あー。冒険者に、物々交換じゃなくてお金が欲しいと言われたら、うん。困るね!


「きいてみる。ナビ、カタログブックでうったアイテム、げんきんにしたいときは、どうしたらいいの?」


―――“鑑定士モード”状態で売却された場合、自動的に銀行へ振り込まれます。銀行からの引き落としで現金を入手できます。


ほほう。えーっと。

“売買モード”で売却すると、チャージする。現金が欲しい時は“鑑定士モード”にしてから売る。銀行機能から引き落とす、と。ネットオークションで売ったのが、登録した通帳に振り込まれるようなものかな。

モードによって分けられてるから、わかりやすいね。今度、鑑定してから現金にするようにしてみようか。チャージは必要分だけすればいいんだしね。まだ売れるようなアイテム手に入ってないけど!!くううう!!

あれ、そういえば。その売った時のお金はどこから来てるんだろ……って、駄目だ。考えるのは止めとこう。うん、気にしだしたら止まらないやつだこれ。深みにずぶずぶするやつだ。

私はきちんと生活できればいいんだもん!細かい事は気にしない!!たぶん魔法の不思議だよそうに違いない!ファンタジー万歳!!


<偽金ではないと思うけどね。そうなら数百年ごとに騒ぎになってるはずだもの>

「だ、だよねー。わたしは、せいさくしゃさんを、しんじるぞー」


カタログブックで買い物してるだけで犯罪者になったりしませんよーに!!












「たーだいまー!!」


今日は太陽が夕日になる前に帰ってこれたー!!ちょうど3時!おやつの時間!!

結局昼寝は1時間くらいで済んだ。済んだって言うか、テクトに起こしてもらったんだけど。すっきり気分で起きれたからちょうどいいんだろうね。たぶん。明日も同じ感じでやってみて、様子見してこう。


「せいじゅさーん!!ほうぎょくしか、てにはいらなかったよー!!」


優しくさわさわ揺れる聖樹さんに抱き着く。ああー、このごつごつした樹皮と、木のいい匂いがたまりませんなぁ。テクトのもふもふとはまた違う癒しだよね。葉っぱの擦れる音と一緒に味わうと幸せですわ。疲れが抜けてくぅ。主にメンタルの疲れが。

結構奥まで探索したんだけど、あの道、探索しきれなかったんだよね。上層に行くのか、下層に行くのか、行き止まりか。辿り着けなかったなぁ。明日もまた異臭地帯を通るか、それとも未開の道へ行くか悩ましいね。

ゲームしてた時からそうなんだけど、マップを綺麗に埋めないと気が済まない性根がふつふつと湧いてくるんだよね。私の悪い癖だと思う。オークの所とか絶対臭い正直行きたくないと思ってるのに、その先がわからないから行きたいなーとも思ってるんだもん。

はー、困ったね自分。精神的に大打撃喰らうとわかって行くとか……ど、どえむじゃないよ?気が済まないってだけだからね?


<わかったわかった。性分はなかなか変えられないから大変だね>

「まったくそのとーり!」


この階層ってメインの廊下に小部屋がくっついてる感じなのが多くて、入り組んでないから迷う事はないんだけど。罠だってテクトが見破って避けれるし!そっちのストレスはないんだけど!

モンスターと宝箱の中身がなぁ……!!胸にダイレクトに突き刺さるなぁ……!!


「なんで、こんなに、ほうぎょくばっか……」

<宝玉ってむしろ希少な方だと思うんだけどね。運がいいのか悪いのか……>

「せめてさー!げんきんとか!!たからばこって、おかねも入ってたりするもんでしょ!」

<入ってると思うよ。ダンジョン的には、冒険者を誘い込むトラップが多ければ多いほど栄えるわけだしね>


魔力吸収云々のあれだね!冒険者が誘惑されるのは、高価なアイテム、強い武器防具、希少な魔導具!そしてお金!!

つまりあれか!私の物欲センサーが働きすぎて宝玉しか出てこないのか!!くううううう!!ここに来てまで私を苦しめるのか物欲センサーぁあああ!!そういうのはゲームの中だけにしてくださぁい!!


<ルイも難儀だねぇ。僕のスキル幸運が加護に加味されれば、マシになるのかな?>

「かなぁ……じっさい、どこまでテクトのかごをもらってるか、わからないんだよねぇ」

<むしろ今幸運を加味していてこその宝玉なのか>

「それはかんがえたくなかった……!!」


だとしたらこれから先も宝玉地獄が待っている可能性が……!!良心的な冒険者さん早く来てぇ!って事になる!!

でもさー。


「ほうぎょく、すっごいべんりだったねぇ」

<一瞬だったね>


1時間をめいっぱい探索し終わった後、さあ帰ろう保護の宝玉を試してみよう!って使ったんだけど。さすがダンジョン専用アイテム。ほんと一瞬だった。

私が両手で持った緑の宝玉。これにテクトが触れて、準備万端。私が魔力流れろーって想像してから『保護』って言ったら、ぱっと景色が流れたと思った瞬間に安全地帯だった。ほんと、瞬きする間って感じ。思わず振り返って真正面見てもう1回振り返ったからね!!思わず二度見した!!

これは冒険者皆欲しがるわ。ピンチの時絶対使えるもん。魔力を込めるのはキーワードを言う人だけで、他の仲間は触ってるだけでいい。こんな簡単に使える転移装置、欲しいに決まってる。

決まってる、んだけど。


「……はぁ……」


聖樹さんの幹に背中を預けて、ずるずる滑る。うううー。2日前はむしろ冒険者来ないでー、って思ってたのに。困ったねぇ。アイテム袋の中にごろごろ転がってるだろう宝玉達を思うと、ため息出ちゃうよ。

さわさわさわ、聖樹さんが慰めるように枝を揺らした。




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