24.続々・カタログブック



「よし!おひるでーきた!」


作業台に乗せた昼ご飯に、ふんす、と鼻息を吹き出す。自分で洗浄した場所で!自分が作ったご飯を食べる!これ大事だね、明日からもやっていこう。ちゃんと使わなきゃ、熟練度は上がらないもんね。


「かんたんなものしか、つくれなかったけど。つくった!ってきもちを、だいじにしていこー」

<そうだね。大人と同じ事を、無理にやろうとしなくていいんだから>


何でもいいから作らないと調子が狂うんだよね。昔から毎日してた事だから、幼女になって急に止める!なんて出来ないのが習慣の悲しいところだねぇ。

今日の昼ご飯はサラダと食パンとスープ!朝ご飯の時に残ったタマゴサラダをハムに乗せてくるっと巻いたら、ハムが重なるところをつまようじで刺す。大皿に千切ったレタスを敷いて、千切りキャベツを盛り付ける。プチトマトと一緒にハムタマゴを添えて、ちょっとお洒落なサラダの出来上がりだ。切ってあるって楽だねー!

メインの食パンは、あえて焼かないでジャムを塗る事にした。ちょっとホットサンド続きすぎたからね。趣向を変えてみるのもいいかなーって。それにジャムはヨーグルトに入れてもいいし、ソースにも使えるからいいよねぇ。アイテム袋があれば腐らないし、奮発して大きな瓶のやつ買っちゃった。うっへっへ。これでしばらく楽しめるね。

ドレッシングもジャムも、「テクトどれがいい?」って聞いたら<どっちも初めてだし、ルイと同じのでいいよ。好きにして>って言うから……迷わずゴマドレとリンゴジャムを買った私を責めないでいただきたい。だってどっちも好きだもん。

焼かないならふんわりしっとりタイプの食パンにしよう!というわけて買ってみた、パン耳までふんわり柔らかと銘打つ食パンを作業台に置くと、今までのとはガラッと様相を変えたそれを興味深げにテクトが見てる。今までのは焼いて美味しい食パンだったからねぇ。今回は色が薄いし、触り心地も大分変わってると思うよ。

恐る恐る、といった感じでつんつん突いた彼は、一瞬にして目をキラキラさせて尻尾も耳もぴんっと立てた。めっちゃお気に召しとるぞこれは。


<すごい!!今までの食パンの中で、一番柔らかい!!っていうか頼りない?こんなにふわっと、どこまでも沈んでく感じで大丈夫!?これ大丈夫なの!?>

「なににむけての、だいじょうぶなの?」


っていうか頼りないって……いや、うん、すぐ潰れちゃうけどさ。ちゃんとビニール袋に整頓して入れないと、他の商品に押されて跡めっちゃ残るタイプだし。


<え、何だろ……柔らかすぎて不安になる>

「ふあんになるしょくぱん」


とんでもないワードが出てきたぞぉ。あれかな?食べたら精神異常が起こるのかな?うん、怖いね?

大丈夫、食べれる。食べて美味しいしっとり食パンだからね。一口頬張ればわかるよテクト。そ、そうなの?と小首を傾げるテクトご馳走さまです。

パンとサラダだけじゃ寂しいから、コーンスープもつけてみた。鶏汁が入ってた鍋は朝のうちに綺麗に洗浄したから、そこにバターを入れる。バターは少な目に、ちょっと風味を付ける程度でスプーン一杯。火をかけてゆっくり溶かしてから、コーンクリーム缶を全部入れる。木べらで焦げないように、塊がなくなってよく混ざったら、コーンクリームが入ってた空き缶に牛乳を一杯注いで鍋に入れる。計量カップ節約だねぇ。ゆっくり混ぜながら注ぐと伸ばしやすいから、テクトに木べらを任せてちょこちょこ牛乳を入れてった。テクト、ゆっくり優しくでいいからね。勢いよく木べら滑らせるとスープが跳ねるからね。洗浄魔法の出番だけどね!ふへへ綺麗にしてやるぜー!

全部混ざったら、椀に盛って乾燥パセリを散らす。クルトンは止めといた。食パン食べるし。

クルトンって言えば、シーザーサラダとか食べる時も是非添えたいよね!あのサクサク感、ドレッシングが染みた絶妙な柔らかさ、たまらないんだよなぁ!

内心涎を垂らしてたら、テクトに袖を引かれた。んん?なんか睨まれてる?


<そこまで想像されたら、クルトンって言うの気になるよ>


あ、そうだった。テレパスで心読まれてるんだった。てへぺろ。

何かいつも通りって感じになって、忘れちゃうんだよね。読まれてるの。読心されるのは慣れたからいいんだけど、代わりに食欲がそのままダイレクトにテクトに伝わってるのは申し訳ないなぁ。きっとまたやるけど。私の食い意地根深いし。

まあ、今度作るって事で、許してちょーだい。


「まだコーンスープのこってるし、よるのむときに、入れよっか」

<しょうがないなぁ。許してあげよう>

「ゆるされたー」


ふふ。んじゃ、手を合わせてー。


「いただきます」<いただきます>


テクトほまず、食パンを食べるようだ。恐る恐る皿から持ち上げて、ジャムを塗ろうとしてる。あー、テクト。その大量に取ったジャムを塗るつもりかな?なるべく優しくやらないと、食パン抉れるよ。


<抉れるの!?パンなのに!?>

「えぐれるし、つぶれるよ。やわらかすぎてねー。ジャムはすくなめにとって、うっすらぬるといいよ。しょくパンじたい、あまめだしね」

<うん>


ジャムを戻して落とし、ふるふるしながら塗るテクトの可愛いこと可愛いこと。さて、私はサラダを食べよっかな。

大皿に直接、ゴマドレッシングをかける。とろとろなドレッシングがサラダにかかっていくのを見ると、気分が上がりますなぁ。

ゴマドレッシング、って言っても色んな種類があるけど、私はこってり濃厚な白ゴマドレッシングが好きなんだよね。白ゴマの風味がいいし、クリーミーで野菜によくからむから、うっかりかけすぎてしょっぱい思いをしなくていいんだよね。それに、サラダうどんにする時は濃厚なゴマドレのが合うし。醤油ベースのさっぱりドレッシングも勿論好きだけど、私は白ごまの甘めなドレッシングの方が好きなんだよねぇ。

かかったドレッシングを混ぜるようにキャベツをほぐして、一口。んんんー!おいしーい!!


<ルイ!綺麗に塗れた!>

「おお!ほんとだ!テクトすごい!」


テクトが満足げに食パンを見せてくる。リンゴジャムの艶々した色合いが、食パンの表に全面的に塗られてる。それも均等に。初めてでそれはすごいよテクト!力加減できてるじゃん!


「じゃあそのまま、いつもどおり、ぱくっと!」

<う、うん。あー……んん!やわっらか……!!>


想像以上の柔らかさだったからか、テクトは大きな一口を含んだまま、固まってしまった。テクトー?テクトさーん?

しばらくしてもぐもぐ噛み始めたテクトが、はーっと肩を落として私を見てきた。え、何よ?私なんかした?


<日本の食パンが僕を翻弄しようとしてる……感動で胸がいっぱいになっちゃった>

「え、わたしまだ、しょうかいしてないしょくパン、たくさんあるよ。しょくパンいがいにも、しゅしょくのパンって、いろいろあるし。これでむねいっぱいになったら、つぎどうなるの?」

<これでまだ序章だったか……!!>


何故かテクトが悔しげに俯いた。だから何で!?











食器を片づけて、ほーっと一息ついたのでカタログブックを出して開いた。

疑問な所を解消したい!じゃないと気になって気になって、昼寝が出来なさそうだもん。

私の健やかな昼寝の為に!ナービー。聞きたい事があるよー!


―――はい、マスター。


「カタログブックのとりあつかいしょうひんについて、ききたいんだけど。かったおぼえがないしょうひんが、あったのはなんで?」


主に幼女の下着やスパッツのサイズ展開について……!特に、詳しく教えてください……!!

私変態じゃないよ?幼女用の下着やスパッツを買える程記憶に留めてた生粋の変態、とかじゃないよ!?見たとしても親戚の子が大きくなったらこういうの着るんだろうなーって自分の服を買うついでにチラ見したくらいで!!私は変態じゃないはずだぁあああ!!

テクトが呆れ顔でこっち見てるけど精神的に死活問題だから!!ナビ、私がごくふっつーの一般的な人間だって納得出来る説明をプリーズ!!


―――マスターが経験した事も記憶にあります。購入の覚えのないもの、物覚えのない頃の商品が取り揃えてあるのは経験に基づく記憶によるものです。


マジか!?えっとつまり、つまりだよ?

私が小さい頃に買ってもらって着ていた下着やスパッツだから、サイズも一通り揃ってるんだね!?経験した事だもんね!!どれを買おうかなって相談したのも経験だから色んな柄も揃ってるんだね!!だってこっちかな?あっちかな?って悩んだもんね!!実際に私が買ったわけじゃなくてもアリなんだね!?記憶ってすげーーー!!

ああでもそっか!小学生向け裁縫道具セットが男女関係なく揃えてあったのは、学校からのパンフレットにあったからだ!買った事がある記憶だけに拘るなら子どものあの時選んだ一つだけ取り扱うはずだけど、経験も記憶に含まれてるから、パンフレットにあった全部がカタログブックに載ってた!ずらっと!そういう事か!!

っていうかよくよく考えてみたら記憶ってそういうもんじゃん!!経験だって同じ事じゃん!!何で買ったものだけ縛りで考えてたの私!!不可解すぎて考え方が一直線だったのかな!?

でもこれで、私が変態ってわけじゃないって確定した!!ふううううううよかったああああああ!!


<大げさだなぁ>

「でもわたしのメンタルはすくわれたよ!!」


私は変態じゃなーい!!

ふー。これで安心して昼寝が出来るね!でも、どうせカタログブックを開いたんだからもう少しナビに聞いてみようかな。他に聞く事なかったっけ?朝書いた紙で確認しよう。ダンジョン内薄暗いけど文字くらい読めるよね。

紙を広げて見たけれど、うーん。何とか読める程度だねぇ。真っ暗よりはいいけど。


<そういえばナビってカタログブックの説明以外にも、他に出来る事がなかった?>

「あー。そういえばそうだった!かんてーしが、どーのこーの……かきわすれてたなぁ」


突然の事だったから、忘れてたのかな。寝起きだったし。

今聞いて書こ!


「ねえナビ。ナビってカタログブックのせつめいいがいに、ほかになにができるの?」


―――品物の正しい値段を査定する鑑定士を務める事が出来ます。


「おおー、かんてーし。どうやって、かんていするの?」


―――カタログブックを開き、「鑑定」とおっしゃっていただくと“売買モード”から“鑑定士モード”に変更いたします。カタログブックに品物を置きますと、数秒で鑑定いたします。


「え、すごい!」


そんな簡単に品物の値段を鑑定しちゃうの!?数秒で?わあお。

鑑定番組見たけど、そんな短時間でわかるもんじゃないよね?カタログブック半端ないわぁ。


<これは確かに、いい機能だ。僕はアイテムの詳細は目でわかるけど、値段はまったくわからないからね。冒険者と物々交換をする時に使えるんじゃない?>

「なるほど!」


宝玉がどのくらいの価値があるかわからないけど、安くはないよね。だって冒険者からしたらめっちゃ便利だもん。安い品物で誤魔化されないように、カタログブックで鑑定してから交換したらいい!まあそんなズルい事をする冒険者は、こんな深い所まで来ないと思うけど念のためね。

それにカタログブックを見られても、鑑定する魔導具だって誤魔化せそうだし。買い物出来るってバレなきゃいいんだもん!これは素敵機能だ!!

うん、早速メモメモ!!


「ナビ、ほかにすてきなきのうは、ないの?」


―――カタログブック自体に、手元から離れた場合の自動転送機能、預金の受入れと払出しを管理をする銀行機能がございます。預金の出し入れは暗証ワードを入力する事で可能です。


だから製作者さんすごく頑張りすぎじゃないたった一つの魔導具に機能過多だよ!?後世の勇者を甘やかしすぎじゃない!?

めっっっっっっっっちゃ助かるけどぁあああああああああああああ!!




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