14.加減がわからない
周囲に舞ってたキラキラが消えた。
瞬間、宝箱の蓋にかけてた指先に重みがかかる。次元のずれがなくなったから、触れるんだ。よーし!
ぐっと力を入れて持ち上げる。いや持ち上げたつもりだった。
「ふた……おっもい……!!」
あれ!?宝箱ってこんなに重たいの!?ちょっとしか開かないんだけど!!
でも指が入るくらい開いたって事は、単に私の力が足りないって事だよね?私が幼女だから開かないのか!か弱い幼女だから悪いのか!幼女の力舐めんなよ一応加護で2倍ブーストかかってるんだよ!!
でも開かない!!
<手伝うね>
「ふおっう!?」
突然蓋が持ち上がるもんだから、力の慣性で私の身体もつられて上へ跳んだ。思いっきり変な声出た。
咄嗟に蓋の端を掴んで、宝箱の裏に着地する。ジャンプ程度で済んでよかった。掴んでなかったら天井に向かってたよ。反射神経もステータスアップに含まれてるのかな。
ほっと胸を撫で下ろしてさっきの位置に戻ると、テクトが宝箱に手をかけた状態で目を見開いてこっちを見てた。ささっと手伝うつもりが、まさか私がこんな跳ぶとは思ってませんでしたって感じだ。
<……びっくりした>
「まあわたし、かるいからね。かんたんにとぶかなぁ」
突然重りがなくなると吹っ飛ぶ梃子の原理で、全力を掛けてた私は踏ん張りがきかないから跳んじゃったわけだ。大丈夫だよテクト。モンスターに比べたら全然怖くなかったし、私ジェットコースター好きだからあのふわっと感平気なんだ。
でもテクトは俯いて自分の手を見てる。すごく気にしてるね?テクトは私の事となると妙に気にするなぁ。保護者だからかな。自分に無頓着すぎない?
<ちょっと力を込めただけなのに……>
「タイミングがわるかっただけなんだから、そんなにきにしなくていいんだよ」
ダァヴ姉さんだって、人の子どもの事を学ぶいい機会だって言ってたじゃない。これから気を付ければいいんだよ。
私に触る時の力加減は優しいからだいじょーぶだいじょーぶ。
<そう?ルイがそう言うならいいけど……今度から僕が宝箱開けるね>
「それはたすかるなぁ」
宝箱の蓋はまだ、私には重たいみたい。こういう時、そういえば幼女だったわ……って思い出すんだよね。ピッチャー持ち上げた時もそうだった。
んー、ステータス2倍されてても力はそんなに恩恵受けた感じがないから、私の基礎ステータスが低いのかな。パン切る時も手こずったし、かなりか弱そう。裁縫の器用さは前のままだったし、素早さはモンスターに先回りされないくらい、顕著に影響出てるのにね。ステータス確認できたらいいんだけど。
と、考えてる場合じゃない。今は宝箱の中身を取って、隠蔽魔法掛けなきゃ。いつダンゴムシがこっちを向くかわからないし。
ちらっと食事に夢中なギガントポリールバグを見て、宝箱に向き直る。
「さぁてなかみは……たま?」
占い師が持ってる水晶みたいな、赤い玉が入ってた。何だろこれ。
<脱出の宝玉だね。一定量の魔力を注ぎ込んで『脱出』って言うと、一瞬でダンジョンの出入り口にテレポートできるんだ。ダンジョンでしか手に入らない魔導具だね。体の一部が触れていれば大人数でも有効だから、どの冒険者でも垂涎物だけど……>
「……わたしはつかわないからなぁ。でもたかねでうれるかもしれないし、とっとこう」
リュックを下して、宝玉を取る。見た目ただの水晶なのに、テレポートの力を持ってるとか。すごいなダンジョンのお宝。
隠蔽魔法をかけながら、テクトが教えてくれる。
<水晶の中に数字があるでしょ?>
「うすぼんやりだけど、5ってかいてあるね」
<じゃあその魔導具は5回しかテレポート出来ないんだ。脱出の宝玉には使用制限があって、拾ったダンジョンでしか使えないのと、使い切ると冒険者の手元から消えてダンジョンに返るんだよ。そして得た魔力をダンジョンの糧にするんだ>
「そんなシステムがダンジョンにあるの?」
死体吸収するだけじゃないんだ……
<詳しくは知らないけど……そういうアイテムや魔導具が豊富だったり、冒険者が頻繁に出入りするダンジョンはなかなか廃れないね。壊れた床も次の日には直るって言ったでしょ?そういう魔力を使って直してるんだよ。人やモンスターから、あの手この手で魔力を吸ってるんじゃない?>
「ふしぎだなぁ、ダンジョン……」
今こうして立ってる間、魔力を吸われてる感ないんだけど……私が鈍いからなの?魔力の扱いに慣れてないからなの?わからないなぁ。まあ理由不明の脱力感とかないから大丈夫なのかな。
宝玉をアイテム袋に入れて、背負った。さて、もっと探索してみますか!
初めてのお宝が魔導具で幸先がいいけど、できれば売る以外にも活用法があるのが欲しいな。今度は私が使えそうな、見た目も面白そうなアイテムとか!後、次の宝箱も安全に開けられるといいな!
テクトが肩に乗る。ダンゴムシの隙間を抜けて、廊下に出た。
<あ、待ってルイ!>
「え?~~~~~~~~~っ!?」
壁の石レンガが消えて、ピンクの何かが視界を掠める。
オークジェネラルが、ぬうっと顔を出してこちらを見た。眼前に、いる。
違う、私じゃなくて部屋を覗き込んでる。濁った目がポリールバグを一匹一匹確認した。
思わず呼吸を止めてしまった。
<ルイ、大丈夫だよ。隠蔽魔法はちゃんとかかってる>
テクトが私の頬をぺちぺち叩く。
あ、うん。そうだった。隠蔽魔法は、呼吸しても大丈夫。
「そ、そうだね……ちゃんと、キラキラしてる……」
<どうやら隠蔽が解除された時間の僅かな匂いを嗅ぎ取って、確認に来たみたいだ。宝箱を開ける時は、こいつが傍にいないか確認してから開けないとね>
うっそ。一分もかからないくらいの時間だったのに。小部屋から匂いが流れてきたのを嗅ぎ取ったの?私、オークジェネラルの所からかなり歩いたよ?
匂いのもとが見つけられなかったオークジェネラルが、廊下へ戻っていく。ずしずしと重たい足取りで、さっきの位置に。
あれ。結構離れてたつもりだったけど、オークの足幅じゃ遠く感じない。
そっか。私は幼女だ。この足じゃ、あいつの一歩が私の数歩。距離なんて稼げてない。鼻がすこぶるいいそうだから、こいつはすぐにやってくる。
「うん……わたしも、すばやくアイテムぶくろに入れられるように、するよ……」
隠蔽魔法解除して、テクトに開けてもらって、お宝取って、隠蔽魔法かける。この流れを手早くしないと、本当に今度こそオークジェネラルに襲われる。そうじゃなくても宝箱がある部屋にモンスターがいたら、そもそも開けられない。
背筋がぞわわっと逆立った。
その後、廊下を進んだけど宝箱がある部屋は見つからなかった。
小部屋は何個かあったけど、モンスターしかいないか、何もないか、あるいはどっちもいるかだった。
一番怖かったのは、宝箱しかないように見える部屋にモンスターが潜んでると言われた時だ。ヒラメ的な薄っぺらいモンスターが床に擬態して見えないように隠れてるんだって。ちゃんと気配を探れば冒険者ならわかるそうだけど、宝箱に目が行って油断する人も多いんだとか。そういう人が部屋に入って来た所を捕食するわけですね注意される前の私かよ怖い。モンスターもなるべくして進化してるって感じだ。本当にただの床に見えたもん。怖いわ。
その宝箱はさすがに無理だねー、って事で諦めたわけだけど。それからずっとはずれ続きで疲れた。ちょっと元気なくなるよね。歩き詰めで足も痛いし、お昼休憩しようって事になった。時計確認したら12時過ぎた頃だった。時間もちょうどいいね。
モンスターが傍にいない小部屋を見つけて、そこに敷布を広げる。靴を脱いで寝転がると、表面の柔らかな布が素肌に触れた。あああああーこの敷布が疲れた心身を癒してくれるぅうう……幼女の足で長時間歩くのって疲れるんだよね。大人の体で慣れてる分、歩く感覚が時々狂ってしまう。
<お疲れ様、ルイ>
「テクトもおつかれさま~」
気配を探ってたテクトが敷布の上に飛び乗ってくる。この周辺のどこにもモンスターはいなかったみたい。
テクトの気配察知は、集中してやれば広範囲を探れるけど、違う所に意識が行ってると近い範囲しかわからないんだって。だからさっきオークジェネラルが小部屋に近づいてきたのも、気付いたのはギリギリだったんだねぇ。待ってって声かけてもらわなかったら接触してたかも。危ない危ない。
お昼休憩中は部屋全体に隠蔽魔法をかけてもらって、匂いを嗅ぎ取られないようにしてみた。これで安心してご飯が食べられるはず。テクトの魔力が桁違いにあるから出来る方法だよね。
アイテム袋からコップとピッチャーを出す。やっぱり一人で注ぐのは難しくて、テクトにピッチャーの底を持ち上げてもらった。いやあ、軽い軽い。宝箱の件で慎重になったテクトが、大丈夫?もっと上げる?って何度も確認してくるのがとても可愛かった。ああたまらん。
あんまりにやにやしてるとむくれちゃうので、アイテム袋からホットサンドをさっと出して渡した。途端にぱっと表情が明るくなるんだから、ほんとこの子かわい……おっとっと。
ホットサンドは熱々のまま、テクトの大きな口に入っていった。私も食べよー。
<朝のと違う!ちょっとぴりってする!>
「こしょうを入れてみたんだよ。からくない?」
<ぴりっとするのが辛いって事?なら美味しい!>
辛いにも種類があるんだけどね。それはまた今度違うご飯で教えるね。
んー。チーズのまろやかさと胡椒のスパイシーな刺激がベストマッチして美味しい、んだけど。食べ進めていくと辛味が舌に痛いなぁ。これくらいが程よいはずなんだけど……幼女だからかなぁ。精神引っ張られてるってテクトも言ってたし、たぶん舌も子ども舌に戻ったんだろうな。
辛いの、成長するまで満足に食べられないのかぁ。残念。
ごくごく水飲んでると水っ腹になりそうだし、残りはテクトにあげよう。
<この後どうする?>
私が譲ったのを一口で食べきって、テクトが首を傾げる。くう、可愛い。
「ちょっときゅうけいして、それからこのちかくだけたんさくして、はやめにあんぜんちたいにもどろうか」
安全地帯は3~5階間隔に1つしかないって言ってたから、このまま上の階層の安全地帯を目指すのはこの足じゃ難しいよね。この階層の全貌だってわかってないのに……てか階段もわからないし。今この小部屋だって、明日にはモンスターが湧いてるかもしれない。箱庭から出てすぐモンスターとおはようございます、は出来れば避けたいよ。
そうなると、私が転生した安全地帯に戻るしかないんだよね。
でも、足の痛みが治まるまでは歩きたくない。
<ちょっと寝転んだら?人は横になるだけで体力が回復するって聞いたよ>
「そうだねぇ。じゃあちょっとだけ……」
リュックを枕に、敷布の上に横たわる。そんな私の足を、テクトが柔らかな手つきで撫でてくれる。
んー。気持ちいいなぁ……ふああ……
<あ、ルイ寝るの?>
「ねない、よぉ……あふ……」
温かい気配に突然襲い掛かってきた眠気。私はそれに抗う事が出来ず。
二度目の寝落ちをテクトに晒したのである。
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