12.探索開始!



ホットサンドを食べて満足した後は、お昼を準備する。今日こそ探索をするつもりなので、今のうちに作っちゃうのだ。そうすればお昼の事を考えないでいいし、片付けもこれ一回で済むし、アイテム袋に入れておけば時間も湿気も心配しなくていいもんね。アイテム袋さまさまです。

お昼何にしようかなって思ってたら、テクトがいたくホットサンドを気に入ったみたいで、はむちーずまた食べたい!と言うので同じのにしてみた。明日の朝もホットサンドにするよ?と確認したけど、むしろ美味しいの何回も食べれて嬉しいんだって。幼女の手でも作れる、超お手軽サンドだよ?いいのかなぁ……深く頷かれた。ふへへ。そうかそうかぁ。いいのかぁ。

全ステータスアップされようが幼女のちっちゃい手じゃナイフさえまともに操れなくて、ちゃんとした調理はこれからも期待できない。前の私だったらもっと色んな料理を作ってあげられたのに。って思ってたけど、自分が作ったものを誰かに美味しいって食べてもらうの、やっぱり嬉しいよねぇ。昔を思い出しちゃった。お昼のホットサンドはさっき入れ忘れた胡椒をまぶして、少しスパイシーにしてみた。どんな反応してくれるかな。

追加で買ったクッキングシートに包んで、アイテム袋に入れる。お昼の準備完了だ。それからピッチャーも買う。ここに湧水を入れておけば洞窟の中でも水分補給簡単だよね。

さっき朝ご飯を食べる時に喉が渇く!って慌ててコップ買ったんだ。で、湧水を掬って飲んでみたらすっごい美味しくて!!柔らかくて、するっと喉を通るのに、後で爽やかな甘みみたいなのが来るんだよね。あれだよ、山の中に水が出てる所あるじゃない。地元住民が水汲みに行くような綺麗な湧水。そんな感じ。水道水とは比べられないくらい美味しいんだよねぇ……久々に飲んだなぁ、こんなに美味しい水。

そうなの?って首を傾げたテクト。そうなんです。私がいた世界は水道技術が進んでたけど、飲み水ばっかりは湧水が最高に美味しかったんだよ。

で、探索中も飲みたいなって欲張った結果が2リットルのピッチャー。水入れて持ち上げたらかなり重くてよろけたけど、だ、大丈夫……コップに注げられなかったらテクトに助けてもらおう。遠慮しないようにって言われたもんね、うん。

何だかピクニックみたいになっちゃったね。冒険者さんのお金も結構使っちゃったし……この探索でいいもの拾えたらいいんだけど。財布代わりの袋が軽く持ち上がるのを感じて、肩を落とす。うん、衝動買いした事は認める。でも必要経費と思いたいです。

私が金貨だけ入れた小袋を聖樹さんの根元に置くのを見たテクトに、それも買い物に使えばいいじゃないって言われたけど!いやわかるよ。100万使えば今すぐ探検に行かなくても生活できる。でもさ、もしかしたらなんやかやあって、ダンジョンに行けなくなる日が来るかもしれないでしょ?なんやかやって?……まあ、なんやかやですよ。悪い人達がずっとダンジョン占拠したりとか。例えばだけど。それがずーっとずーっと続いて一年以上ってなったら、貯蓄がないと困るんだよ?金貨一枚100万はパートさんの年間稼ぎと同じくらいだから、それだけあれば二年……ライフラインの出費はないから、三年は箱庭に引きこもれるよ!何が起こるかわからないファンタジー世界だからこそ!貯蓄大事!と力説したら納得してくれた。引きぎみだったのは見なかったことにしておこう。

洗浄魔法の泡がフライパンと皿を綺麗にしていくのを確認して、聖樹さんを見上げる。青々と茂った木々が風に揺れてた。

リュックのアイテム袋に出してた荷物を全部入れて背負う。肩にテクトが乗って来たので一撫でして、もう一度、聖樹さんを見た。


「いってきます!!」


夕方になったら、帰ってくるからね!

風がなくても揺れる枝に笑って、私は箱庭から出た。










ダンジョンの安全地帯に戻った後、早速テクトに隠蔽魔法をかけてもらった。

最初は結界を広げて進むのもいいんじゃないかと思ったけど、結局見つかれば安全地帯までモンスターついてきちゃうんだよね。それなら元々見つからない方が私の精神衛生上いいから、やっぱり隠蔽魔法は大事だよ。

テクトの結界が自由に広げられるなら色んな使い道があるだろうけど、ダンジョン探索は隠蔽魔法に頼る事になりそうだね。


<じゃあ、隠蔽魔法かけるね>

「うん」


直後、テクトの目の前にキラキラした光りが舞って、それが私に移った。これで隠蔽されたらしいんだけど、私が自分を見下ろす分には何ら変化はない。キラキラが周りを漂ってる以外は。このキラキラが空間ずらしてるってやつなのかな?

これで見つからないの?実感が湧かないけど、神様とテクトを信じて行ってみよう。何かあっても逃げる心構えはしておく。ダンジョンで逃げる事は恥ではありませんのよ。と、ダァヴ姉さんも言ってたし。


「よーし!きょうこそ、おかねになるものみつけるぞー!」

<おー!>


私のテンションに合わせて両手を上げるテクトかわいすぎだよ……!ありがとう癒されたわ。

ショルダーストラップをぎゅっと握って、安全地帯から一歩踏み出した。昨日出た方と同じ場所。ここから見る限り、廊下にはモンスターの姿はない。ふっと息を吐き出して、歩き出した。


<今は息を潜めてるみたいだね。近くにはいないな>

「ひょっ……そ、そっかぁ」


定位置になりつつある肩の上で、テクトが気配を探ってくれてる。

私は生前ゲーム好きでよくやってたから、モンスターの見た目には多少慣れてる。とはいえ、命が狙われると思うと恐怖が頭を占めちゃうんだよね……それで昨日はわき目もふらず逃げなきゃ逃げなきゃって、それしか考えられなかったわけだけど。テクトの結界があるってわかってて、守られてるのを実際見てても、自分の命を奪おうとする奴が傍にいると落ちついてなんていられない。それが今の私だ。

モンスターに出くわしちゃった時に、叫び声を上げないかどうか。心配だよ。


<大丈夫、この隠蔽魔法は五感を騙すって言ったでしょ?声も息遣いも隠してくれるよ>

「さすがかみさまじこみ、じげんがちがう」


この隠蔽魔法、一度かけたらテクトが解除しない限りかかりっぱなしらしい。時間制限ないとか、私が呼吸止めないとダメとかって制限もない。普通強力な魔法ってそれ相応の代償とか制限があったりするはずなんだけど、聖獣だから何でもありなんだろうなぁ。ありがたやぁ。

廊下を進んで行くと、T字路に出た。ふう、結構長い廊下だったから、息が上がるね。グランミノタウロスの部屋はここから左の方。右の道はまだ行ってない。っていうか行ってる暇がなかった。


<右側の廊下にモンスターがいるね。ずっと先だけど、行ってみる?>

「そ、そうだね……」


グランミノタウロスを今見るのは正直つらいっていうのが私の本音だ。あの凶悪な姿は、しばらくデフォルメされた牛さえ見るのつらくなるくらいには、衝撃的だったなぁ。カタログブックのお肉コーナーを見た瞬間、勢いよく閉めてしまった事は申し訳ないと思ってる。ごめんナビ。


<じゃあ行ってみようか>

「う、うん!」


よーし!行くぞぉー!女は度胸ぉおおお!

どんどん歩いて行ってみると、薄暗い廊下の先にピンク色の巨体が見えた。


「あれ、は……」


100メートルくらい先に、二足歩行の豚がいた。

まだこっちを向いてないから全体は見えないけど、横顔からでも目つきがひどく鋭くて、鼻息が荒いのはわかる。頑丈そうな金属の装備を付けてて、でっぷりした身体でも貫禄があって、大きな棍棒を杖の様に立ててる。あれ振り回すのかな……

ゲームでよくオークとか呼ばれてる感じの奴だ。グランミノタウロスよりは小さい気がするけど、この階層って基本的に廊下も小部屋も高さがあるから、そこに存在するモンスターの大きさはお察しである。成人男性の二倍はありますぜテクト。重量級が二種族目だよ。やばいねこの階層。


<オークジェネラルだね。オークの中でもかなりの上位種だ。一匹でいるのは珍しいな……>

「そんなめずらしいの?」

<地位は将軍だよ?あいつ自身強いけど、下位のオークを従えて指揮系統を取る方が得意なんだ。軍師ほど頭が切れるわけじゃないけれど、前線での陣頭指揮は戦略に長けた人にも負けてないね>


そして統制のとれた動きで進入してくる冒険者達を翻弄するんですね。数の暴力ってやつだぁ……こわい。

オークジェネラルを遠目で観察していると、不意に奴のひくひくしてた鼻が止まった。そして大きく吸い込む動作をした後、突然こちらに振り返った。

こっちを、見てる。


「ねえテクト。あのオーク、わたしたちのこと、見てるよね?」

<オークジェネラルね……こっち見てるね>

「……っていうか、こっちくるね?」

<来てるね……あ>


オークジェネラルは巨体をどしんどしん揺らしながらこっちに近づいてくる。グランミノタウロスよりは早くないけど、振動がこっちまで伝わってくるこの重量感。

やばい。やばい!こっちをしっかり見てる!濁った目で!


「てててててててくとあいつこっちにきづいてるよ!?何で!?」

<僕に隠蔽魔法掛けるの忘れてた。何であいつ浮いてるかわからんけど美味しそうって思われてるなあ。そっか、僕自身にも掛けなきゃなんだね>

「てくとさぁああああああああああああん!!」


悠長に構えてないで何とかしてぇえええええええええええええええええ!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る