11.朝ご飯を食べる



ダァヴ姉さんが帰った後、待ってましたとばかりにお腹が鳴った。

頭使った後はお腹空くよね。朝起きてからほとんど食べてなかったし。ダァヴ姉さんのなるほど異世界講座の間、ちょくちょく貰ったクッキー食べてたけどね。この世界のクッキー、保存食も兼ねてるみたいでカンパンみたいに固くてパサパサした。ほんのり甘かったけど、パサパサはつらいね。すかさず差し出された紅茶が美味しかったなぁ……その水分でお腹は膨れたわけだけど。それも今は消費しちゃったんだけども。

そういえばダァヴ姉さんには異空間直通のスキルがあるんだよね。アイテム袋のスキル版。俗に言うチートスキルだ。羽の下からぬるっとクッキーの入った袋と淹れたての紅茶が出てきた時は、軽く五度見したよね。次に懐中時計が出てきた時は二度見に済ました私の順応性すごいと思う。ファンタジー万歳。

同じ聖獣のテクトにはないの?


<あれは情報担当とか四足歩行の聖獣に授けられるスキルなんだ。荷物が運べないと何かと不便だからね。僕は両手が使えるから貰わない組>

「なるほどねー。テクト、力持ちだもんね」


昨日、アイテム袋の中身を整理してた時素早く運んでくれたんだよね。私の力じゃ難しい武器防具とか、重いものとか。これくらい簡単だよーって自分の何倍もある分厚いテントを片手で運び出した時は、ああ見た目可愛くても聖獣なんだなって深く納得したなぁ。ギャップ半端なかったけど。だってパッと見、潰されるちゃう!?って感じだもの。テクト曰く、こんなの攻撃が得意な聖獣なら指一本で済むよ!らしい。いや私、テクトとダァヴ姉さんしか知らないし。テクトって、そういう引き合いを出すよね。聖獣のすごさをそんなアピールしなくても……

と思ったら、テクトが私の背中をよじ登って肩に乗った。身軽だなぁ。リスみたいな体してるから、小さなスペースでも器用にバランスとって、こっちを覗き込んでくる。目が合うと肩を揺らして笑って、顔をすりつけてきた。もふっとしてさらっとしてる。うへへ。大変、かわいいです。

てか、さっきも思ったけど、すごく軽いな。テクトって太めのウサギくらいの大きさなのに、肩に乗られてもゴールデンハムスターくらいしか重みを感じない。毛がふわふわしてるから大きく見えるだけ?私よりテクトが食べた方が……あ、聖獣は食べ物を生命力に丸々変換するから太らないんだった。


<人はお腹から音が鳴ると、ご飯を食べないといけないんだってね。ご飯どうする?>


お、早速ダァヴ姉さんの教えが光りますなぁ。


「んー、いまなんじだろ」


懐中時計を見たら9時だった。遅めの朝ご飯になるけど、作ってみますか。簡単なの。


<作れるの?>

「前はじすいしてたんだよ。まあ、5さいのてで、どこまでできるかわからないけど」


懐中時計は常に身に付けておくように、と口酸っぱく言われてるのでチェーンに頭をくぐらせる。このチェーンも特別製なのか、触ってても冷たくないんだよね。首がひえええってならなくてよかった。邪魔になると悪いので服の中に入れておく。

リュックを下して作業台とコンロっぽいのを出す。これって魔導具なのかな?見た目ガス缶入れるスペースがほとんどないカセットコンロだけど……この世界ってガス缶あるの?


<ルイが言うガスって生活に使うもの?そういうのは無いと思うよ。この世界でガスって言ったら火山付近で出てくる毒ガスくらいだし>

「わあお、ぶっそう」

<そのコンロは魔導具だね。魔力を流すと火がついて、そのツマミを捻ると火力を調節できるみたい>


魔導構成とやらを見通してわかったことかな?つまりこれは、見た目も性能もまんまカセットコンロって事か!名前もコンロで合ってるし、たぶんこれも過去の勇者が作って今に伝わったんだろうな。現代のカセットコンロにすっごく似てる。鍋を置く五徳と、その隙間から火の向きを調節するバーナーがあって、横にツマミがある。試しに捻ってみたけど、ちゃんと青い火が出た。馴染み深すぎてここが異世界だって一瞬忘れるほどだった。

現代風に言うと、魔導構成は電子基盤で、そこにガスや電気代わりの魔力を流し込む事で火が付く。火を消すまでは周囲に散ってる魔力を燃料に燃えて、ツマミをいじれば火力が変わるような仕組みに元々なってるから、魔導構成の中身を理解しなくても使えるんだね。

魔導具って本当便利だ。魔力を持ってれば使えるって事は、この世界の人は皆使えるんだもの。ダンジョンの財宝に含まれてるから、私ももしかしたら手に入れる事があるかもしれない。他にどんな魔導具があるんだろう。わくわくするね!

出来ればコンロが見つかると嬉しいなって思ったりする。今カタログで確認したら20万ダルだって。たっか。家用3口コンロだって高くて4万くらいなのに。早々買えないわ。

いやしかし半金貨2枚か……いやいや、冒険者さんの金貨はいざという時の貯金だから。コンロもう1口欲しいとか思っちゃうけどダメダメ。ちゃんと探索できるようになってからだよ。

欲望を振り切って、カタログブックに食品コーナーを出してもらう。食パンとハムとスライスチーズとバター、私は薄すぎないのが好きなので食パンは6枚切り。さらに胡椒とマヨネーズを買う。それから一番大切なフライパンと大きめの皿2枚。

アイテム袋にあった調味料は塩だけだった。後は数種のハーブくらい。フライパンもまな板も包丁も無くて、調理用らしいナイフと鍋があるくらい。後はお玉と木べらとトング。鍋に直接切った食材落としてたのかな?あんまり食文化が進んでないのか、冒険者にとっては持てる最大の荷物なのか、なんとも乏しい面子である。

この世界の食事事情が気になる所だけど、まずは朝ご飯食べなきゃね。


<これ何?>


テクトが食パンが包まれた袋を持ち上げる。


「しょくパンだよ。テクトがしってるパンってどんなのがあるの?」

<パンなんだこれ……そうだなぁ。僕が最後に見たのは、300年くらい前の宴会で出た、丸くて茶色いパンだね。かなり固かった気がする>

「フランスパンみたいなやつかな。これはやわらかいパンでね、こっちからみると白いでしょ?」

<ほんとだ白い>


目をパチパチして、興味津々に眺めているのでついつい指を一本立てて、テクトの頬を押してみる。ふにっ。柔らかいなぁ。


「こんなかんじで、ちょっとおしてみて」

<うん>


そっと小さな指を食パンの白い方へ伸ばす。袋越しに、テクトの指が食パンに埋まる。

直後、テクトが耳と尻尾を立ててこっちを見た。ぴーんっ!ですよ。なにこの可愛い子……


<!!ルイ!やわらかい!>

「ふっふっふー。こうぼではっこうさせると、こんなやわらかいパンになるんだよ」


ハードタイプのパンも好きだけど、食パンのふかふか感は別だよねぇ。焼いて外をサクッ中はふわっ、の素晴らしさ。パン耳嫌いって人いるけど、あの香ばしさがいいのに。食感の違いを楽しむのもいいよね。袋に入ってる四角の食パンは蓋をして焼く角型だからどこを食べても均一な食感でいいけど、パン屋さんやホームベーカリーの上側が膨らんでる山型も好き。上側は柔らかめだけど香り高く、下側はしっかり焼かれて固めの歯ごたえを楽しめる。そして食パン自体素朴な味だから、そのままでも、ジャムも、サンドイッチも、何でも相性がいい。たった1枚でたくさんの楽しみがある、それが食パンの一番の魅力だと思うんだよね。

おっと。今は食パンについて思い馳せてる場合じゃなかった。口に溜まった涎を飲み込む。

そしてなんと、テクトも同じタイミングでごくんと飲み込んでた。そういえば私の思考が筒抜けだったわ……それはそれで大変だね、テクト。ごめんね食い意地張ってて。

朝ご飯、作ろうか。









<美味しい!これ美味しいね!>

「よろこんでもらえてよかったよ」


嬉しそうにホットサンドをもぐもぐするテクト。ほんと可愛い見た目で男前に食べるな……二枚重ねの食パンの3分の1を大きな一口で食べちゃったよ。

見てるだけじゃお腹は膨れないので、私もあったかいホットサンドを一口食べてみる。う~ん、さくっとした食感にバターの香りが鼻に抜けて、たまりませんなぁ。ハムとチーズの相性も抜群。マヨが程よく溶けていい味出してるし、ほんっとたまらん。おっと、チーズがとろっと零れそうになって、慌ててパンを皿の上に置く。

これはフライパンで簡単に作れるホットサンドだ。手軽に満足感を得られるレシピで、よく食べてたんだよね。中身をハムチーズじゃなくて、ツナとか、ポテトサラダとか、タマゴとか、前日の残りとかでアレンジできるのも魅力的。

4枚の食パンにバターを塗って、熱しておいたフライパンに塗った面を下に2枚並べる。その上にチーズ、ハムをそれぞれ乗せて、マヨを一面にかける。そしてバターを塗った面を上にした残りの食パンを重ねて、焦げ目が付いたらひっくり返す。両面焼けたらホットサンドの完成だ。ほんとこれだけ。洗いものも少ないから楽なんだよねぇ。

そのホットサンドを調理用ナイフで切ろうかと思ったけど、皮膚が薄いからかすっごく熱く感じるし、うまく力が入らないし、パン切り包丁じゃないから潰れてしまった。2個目は切るのを止めて、そのまま皿に乗せてテクトに渡した。最初は遠慮してたけど、私幼女だし口が小さいから、潰れててちょうどよかったのもあるから気にしなくていいのにね。まあそれも食べ始めたら吹っ飛んだんだけども。


<これホットサンドって言うの?美味しいねぇ>

「きにいったんなら、あしたもおなじのつくってあげるね。ちがうなかみで」

<ほんと!?>


口元にパンくず付けてやったー!と跳ねるテクトは、大変愛らしかったです、まる。



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