6.モンスターも怖い



カタログブックのお蔭で一定基準の生活は保たれる事になった。ひゃっふー!

ご飯大事だよね。服も大事。毎日なんて贅沢言わないけど、なるべく綺麗な服を着ていたい。現代人の性だなあ。

問題は買い物するのにお金が必要って事。お金じゃなくてアイテム売却でもいいみたいだけど、安全地帯に住み着いてるだけじゃお金もアイテムも手に入らない。それじゃいつか冒険者さんの遺産が尽きてしまうわけで。

幸いここはダンジョンだから、安全地帯の外をちょっと歩けば色んなアイテムや、もしかしたら宝箱も手に入るかも!っていう期待がある。宝箱の中身は強い武器装備や、お金の時もあるとか。アイテムは高く売れるだろうし、お金は言わずもがな。幼女には難しいけど、モンスター倒せばその体も素材として売れるみたい。ダンジョンのモンスターは無限に湧くから、その素材や肉を目当てに毎日潜る冒険者もいるんだね。私には無理だろうけど。

モンスターは無理でも宝の方は拾うだけだからね。そうなれば私の生活は安泰なわけですが、幼女が無事にダンジョン内を歩けるかどうか、まあ無理だけど……一応、どれだけの危険度なのか調べる必要がある。さっきから無理ばっかだな。けど小さい手を見下ろしてため息を吐く。うん、無理。

というわけで、安全地帯の外がどうなっているのか、テクトの力頼みで探索してみた。グランミノタウロスってどんな奴なんだろ?高さはどんくらい?マッチョ?巨大ハンマー持ってる?散歩気分ではまったくなかったけど、モンスターには興味があった。だから油断してたわけじゃないんだけど、私はどうやらゲーム感覚が抜けきれてなくて、無意識に楽観視していたらしい。

結局、グランミノタウロスは見れたけど、数十秒も経たないうちに安全地帯に戻るハメになった。

幼女の体で全力疾走はきつい!てか普通に追いつかれる!私を見つけるたびに害意のこもった手を伸ばしてくるモンスター達を、ぴしっぺしっと結界が弾いてたけど!テクトの結界ってすごい!安全地帯に近寄れないのか、そいつらは廊下の先からこっちを恨めしそうに見てる。安全地帯ありがとう!安心安全のフリースペース!素敵!!

グランミノタウロスは見れた!思いっきり牛の顔だった!鼻輪もつけてた!想像通りの顔だった!でも部屋を覗き込んだ瞬間に私に気づいて、すぐさま腕をこっちに伸ばしてきて、図体の割に素早くてやばい!私を楽々掴めるくらい大きな手をしてたけど、握りしめようとした手のひら全体を結界が弾いて無事だった!接触だけじゃなくて捕まえようとするのも対処してくれるとか効果範囲広いっすわ!ありがとうテクト本当にありがとう!

もう自分の周りに感謝しかないわ!!私弱すぎ!!


<やっぱり防ぐだけじゃ、探索もまともにできないね>

「いや、そもそもふせぐことさえできなかったら、わたしもうしんでるからね?」


私を捕まえられない苛立ちをぶつけるように、自分の胴体ほどある超巨大ハンマーを力強く振り下ろしたグランミノタウロスの攻撃は、ダンジョンの床を尽く隆起させた。破片が飛んできて弾かれたのも背後から感じたので、本当に結界なかったら死んでる。

その騒ぎのせいで集まったモンスター達に私は狙われ、グランミノタウロスの興味はそっちのモンスター達に移ったわけで。すべて悪い方向にいったわけじゃないけど。名も姿も知らないモンスターの断末魔は聞かなかった事にしたい。

行きは何もいなくて静かで、これなら何とか探索できそうとか思った数分前の私のバカ!


「はー……こわかったぁ……」


グランミノタウロスは、たぶん、身長二階くらいあった。その筋骨粒々な巨躯で巨大ハンマー振りかぶっても天井には届かなかったんだから、このダンジョンの一層分の高さは三階以上になる。とんでもなく深いって聞いてるけど、こんな高さが延々と続くの?やばくない?地層深すぎて崩れたりしない?何があってもダンジョンだから、で済まされそうな気もするけどさ。不思議な何かが関わってるんだろうな。死体吸収されるっていうし。

モンスターの足元を素早く駆け抜けていたテクトは平気そうだったけど、モンスター怖くないの?


<モンスターごときで僕を害する事はできないからね。恐怖を感じる意味がない。だいたい考えてる事は「腹減った」とか「あいつ美味そう」とかだよ?知能が足らないよ。後れを取る要素はないね>

「さすがせいじゅう……かっこよすぎる」

<僕は平気だけど、ルイは駄目みたいだね>

「わたしのもとのせかいには、もんすたーなんてくうそうじょうのいきものだったからね……おもらししなかっただけほめて」


偉い偉い、と踞る私の頭を撫でてくれるテクト。うう……優しさが身に染みるぅ。

ゲームで慣れてると思ったけど、モンスター実際目の当りにしたら怖かったわ……幼女だからすっごいでかく見えるし。てか幼女じゃどうしょうもない。倒す手段皆無だわ。危険度はマックス。


<どうにかして出歩ける方法が必要か……ちょっと待ってて>

「え、テクトどこいくの?」

<ちょっと神様の所にね。不手際を隠してた追及だってあるし……ほんの数分だけ行って来るよ>

「あ、はい」

<いい子で待ってるんだよ>


と言った瞬間、電気がスイッチ一つで消えるようにいなくなったテクト。テレポートかな?神様の所にパパッとひとっ飛びとか、チートだなぁ……

ていうか追及とか言ってたけど神様問い詰めるの?私の事に関して?神様からしたらたかが人間一人の話だよ?いいのかなぁ……聖獣と神様の関係って本当によくわかんない。確かな好意と主従感はあるのに、ずけずけ物言ってるし。気安い雰囲気に戸惑いを禁じ得ないよ?それとも異世界だとそういう風に接しちゃうのが普通なの?

いやそんなわけないよね、昔の人は神様に好かれようと様々な貢物をテクトに押し付けていたんだし。聖獣だけだよね、あの友達対応。


「グルルルルルァアアアアア!!」

「…………」


廊下の先にいるモンスターが甲高く唸る。安全地帯に入ってこれないからイライラしてるんだろうなぁ……モンスターだけに発動する見えない壁をガリガリ掻いてる音が聞こえた。

冒険者なら、ああいうのは一掃してから安全地帯に入るんだろう。普段の安全地帯なら、モンスターは近寄りもしないそうだ。私は見つかったままここに逃げ込んだから、彼らは私がいると。だから離れがたいんだろう。ううう……安全ってわかってても怖い。何か気を紛らわせるもの……そうだ!カタログブックを見てよう!集中すればきっと唸り声も気にならないはず!

カタログブックの知られざる機能があるかもしれないし、じっくり見て待ってるかな!








そしてじっくり調べた結果。

カタログブックはこの世界の商品も幅広く取り扱ってる事がわかった。

「ポーション」って言ったら下級から上級、解毒薬とか状態異常回復薬、魔法使い必須の魔力ポーション、さらには最上級とかいう超高額商品まで画面にずらっと並んで、思わず悲鳴が出たよ。最上級ポーションの値段にね。

下級は冒険者さんの袋にも入ってたし、値段は銀貨一枚でちょっと高め。多少の怪我や体力の回復なら下級ポーション頼りみたいだ。冒険者の必須アイテムだね。即時効果があるから高いのかもしれないけど、回復役が欲しい所だね。

やばいのは最上級。これは0がたくさんあった。冒険者さんの遺産じゃ払えない金額だったよ……欠損さえ治します!瀕死の人も一発で復活!とか売り文句出てたからそら高いでしょうけど。欠損ってあれでしょ。腕とか足がなくなったとかでしょ?その状態を治しちゃうって事は、生やしちゃうんでしょ?ぼーんっと。規格外だわ、うわぁ……こんなの普通に売ってるの?この世界半端ない。現代医療も真っ青ですわ。

あと、届いた商品を入れてる段ボールとか、ケーキの空箱とか、いらないものをカタログブックが回収してくれる事もわかった。これでダンジョン内にゴミをまとめて置いたり、アイテム袋に入れておかなくて済むね。カタログブックに聞いたら丁寧に答えてくれたので、ナビゲーションは優秀だなぁと思わず呟いた。


―――恐縮です。


「うわ!へんじした!すごい!」


ますますAIっぽい……!これを作った勇者は機械的なものを求めてたのかな?この世界、なさそうだもんね。

しっかしテクト、遅いなぁ。もう30分くらいしたよ?体感だけど。うーん、次に集中できるのは……うん、裁縫しよう。

カタログブックで使い勝手の良さそうな裁縫セットを買う。小学生の頃家庭科で買ったような、手提げタイプのカバンに必要なものが全部詰め込まれたようなやつだ。誰かに見せるつもりもないからポリエステル仕様で汚れに強い。カバンはピンクの花柄にしたけど、私の趣味じゃない。自分は幼女であるっていう事を見るたび自覚させるためなのと、ただ単純に裁ち鋏が入ってるセットで一番安かったからだ。裁ち鋏がないと布は切れないし、子ども用の裁ち鋏なら私の手に合うだろうしね。いいとこどりしたら小学生向け裁縫セットになった。裁縫道具はこれから長く使うつもりだけど、私の現状だとお金は有限。なるべく安く済ませたかった。まあ小学生向けって言っても、そのまま長い間使えるくらい性能はいい。さすが日本製っていう所かな。

これで冒険者さんの着替えを、私サイズにカスタマイズするんだ!!これで服を節約できる!あとアイテム袋を背負いやすくリュックに加工したい!!モンスターから逃げる時、引きずりながら走ったから足元に絡まって危ない時あったし。冒険するなら背負えるようにした方がいいんだよね。両手が空くスタイル!

一緒に買ったリュックを広げる。さすがにキャラものは冒険者と出会った時に困るから止めた。安くて誤魔化しやすい合皮のリュックだ。今の私が背負ったら小さめのランドセルくらいの大きさだ。大人なら小さいリュックサイズなんだけどね。

内側の薄い布の背中側だけ縫い目をほどく。できた隙間にアイテム袋をねじ込んで、仮留めしてから、外側内側をよく観察する。おかしいところがないか確認。

カモフラージュしたいんだよね。外装と内袋の間にアイテム袋を差し込んで、ボタンで留めて隠す。中身をぱっと見されても、内袋の中しか見えないようにしたいんだけど……妙に膨らむからなぁ。まあ、ダンジョンで生活する子どもだし、一つや二つの秘密くらいあります!って言い張ろう。それがアイテム袋だってバレない事が第一だからね。

問題無さそうなのでリュックにアイテム袋を縫い付けた。水洗いしても多少加工しても大丈夫って言ってたから、一応洗って除菌芳香剤吹き掛けといたけど……アイテム袋の汚れ、ちょっと残ってるんだよね。なるべく小まめに洗おう、リュック。

ちくちく、小さい手で地道に縫い続け。アイテム袋のスペースを閉じる釦をしっかり付けて、完成!いやぁ!いい仕事しましたね!!集中したね!!1時間くらいしたかな!!

テクトまだ帰ってこないけど!!廊下の先のモンスターがまだこっち見てるよ怖い!!諦め悪いなモンスター!!さっさとどっか行けばいいのに!!

私泣くよ!?幼女泣くよ!?幼女泣かせて楽しいか変態めぇえええ!!!



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