○ 参勤交代

「下ァにー、下ァにー」と、伸びやかな声が聞こえてきた。

 鎧武者、槍持ちを先頭に、侍たちがどぼんどぼんと落ちてきた。

 百名に届こうかという大行列であった。

「殿、お迎えにあがりました」と、差配役と思しき侍がロバに言った。

「んひんひんひ」とロバが鳴いた。

「殿! お気を確かに!」

 ロバはぶるっと身を震わせ、「おお、おぬしか」と言った。

「身も心もロバに成り切っておられたのですね」

「うむ」

「跡目争いは解決しました。もう危険はありません」

「大儀であった。しからば、戻るとしようかの」

「はっ!」

 ロバは蓮太郎たちの方を向いて言った。「世話になったな」

「いえ、僕たちは何も」

「あんた殿様だったのか」と大工が言った。

「いかにも」とロバは頷いた。

「アブ役の人よりお上手ね」と歴史研究家が言った。

「芝居小屋には何度も通ったのでな」とロバが言った。

 駕篭の入り口が開かれた。ロバの体はどう頑張っても入らなかったので、歩くことになったようだ。駕篭を担ぐ人足たちはかすかに安堵の色を浮かべた。

 もしかしたらもう人間に戻れないのだろうか。少し気になったが、家臣たちに恵まれているようだからきっと大丈夫だろう。

 去っていく行列に、蓮太郎は「お元気で」と言った。

 ロバは尻尾を振って応えた――右に曲がった尻尾を。

 尻尾が曲がっているということを、今の今まで忘れていた。つまりその程度のことだったのだと、蓮太郎は思った。

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