○ 巻き貝

 神社の模型のようなかわいらしいヤドが今にも出来上がろうという時、ヤドカリの体にちょうどよさそうな巻き貝が落ちてきた。

 大工とヤドカリはちゃぶ台を使って作業に没頭している。

 蓮太郎は巻き貝を見なかったことにした。

 ところが、「おい、貝が落ちてきたぞ」と鬼が言った。

 蓮太郎はじろりと鬼を睨んだ。

「何の文句がある。ヤドカリは水辺の生き物だ。いくら見た目が良かろうと、木で出来たヤドじゃすぐに腐っちまう」

「そいつの言う通りだ」と言って、大工が川から巻き貝を拾い上げた。「ヤドカリのヤドは、やっぱ貝でなくちゃな」

「いえ、私、こちらのおうちの方が……」

「気を遣わねぇでくれ」と、大工は巻き貝をヤドカリの背に乗せた。「ぴったりじゃねぇか。よかったよかった」

「すみません。せっかく作っていただいたのに……」

「いいってことよ。なぁ鬼さん、あんたも教えてくれてありがとうな」

 鬼は返事をしなかった。

 ヤドカリは何度も礼を言いながら去っていった。

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