○ ヤドカリ

「ヤドカリなのですが」と、ヤドカリが名乗った。

 言ってくれなければわからなかった。何故ならヤドを背負っていないからである。

「ヤドを探しているのですが」

「ちょっと待ってね」と言って蓮太郎はあたりを見回したが、貝の類は見当たらなかった。所持品の中にも使えそうなものはない。

「うーん、申し訳ないけど、お役に立てそうにないな……」

「左様ですか……」と、ヤドカリはしょんぼりした。

「よぅよぅ、お二人さん」と、大工が言った。「住む家のことでお困りかい? ここに大工がいるじゃねぇか」

「ヤドカリのヤドも作れるの?」

「多分な!」と、大工は親指を立てた。

 建造中の家は既に立派な柱が立ち、壁ができ始めている。

「あっちの家は一時中断するぜ」

「うん。それは構わないよ」

 ヤドカリが「そこまでしていただかなくても……。何のお礼もできませんし……」と言った。

「遠慮すんなって。ちょっくらごめんよ」と言って、大工はヤドカリの採寸を始めた。

「優しいのね」と、歴史研究家が言った。

 大工は真っ赤になって「そんなんじゃねぇやい。おいらは仕事がしてぇだけさ」と言った。

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