○ 刑事

「逮捕する」と言って、刑事は鬼に手錠をかけた。

 鬼はまるで抵抗しようとしなかった。案の定、直接戦闘は苦手らしい。

「ちょっと待ってくれ。そいつが何をしたっていうんだ」と、大工が憤った。

「だって鬼だし」と刑事が言った。顔つきも言葉遣いも全体的に幼かった。

「何も悪さはしてねぇじゃねぇか」

「げっへっへ、これからするのさ」と、鬼が言った。「桃太郎の桃を食っちまうつもりだと言っただろう。俺様は札付きのワルなのさ」

「本人がそう言ってるんで」と、刑事は鬼を連れていこうとした。

「待て!」と、大工が立ちはだかった。「ヤドカリはそいつのおかげでいいヤドを手に入れたんだ」

「勘違いするな。俺様はお前の仕事を台無しにしてやりたかっただけだ」

「だとしても、あんたの言うことは正しかった」

「まぁとにかく、殺人の予告しちゃってるんで。鬼だし」と、刑事が言った。

 大工が刑事の胸ぐらを掴んで言った。「鬼だしってのを取り消せ」

「やめてください。公務執行妨害で逮捕しますよ」

「やれるもんならやってみろよ」

「やれますよ。面倒臭いなあ」と、刑事は手錠を取り出した。

 鬼が言った。「よせ。その男は関係ない。さっさと連れてけ」

「はいはい」と、刑事は手錠をしまった。

 歴史研究家が刑事に「何故かしら。あなたのルーツには全然興味が沸かないわ」と言った。

「ちょっと言ってる意味がわからないですね。あ、そうだ。これなんですけど」と、刑事は手配書を取り出した。「ご協力よろしくどうぞ」

 その写真は長髪の美男子であった。キド・タカシ。国家反逆罪。と書かれていた。

 誰も手配書を受け取ろうとしないので、刑事はちゃぶ台の上にそれを置き、鬼を連れて去っていった。

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