カカシと動物立ちのほのぼの日常物語

タイヨー

カカシと畑

来る日も来る日も案山子は同じ景色を見ていた。それが仕事だったからだ。ただなんの仕事か案山子にわからない。「ただ突っ立っていろ」とだけしか言われなかったからだ。ご主人は自分を作るとすぐ畑に突き刺した。ガッチリと固められて案山子は動けない。足が自由にならず窮屈だと当時は思ったものだが今はもう慣れてしまった。自分を作っている際、ご主人が楽しそうに自分の顔を描いていたことは今でもよく覚えている。

畑に刺さったばかりのころは何の変化もない畑を毎日見つめるばっかりで退屈だったがご主人が畑をせっせと弄る姿は面白かった。ときどき姿が見えない日もあるが何のこともない、その日は自分の後ろの畑を弄っているのだろう。

適度に畑をいじったあとご主人はどこかへ行ってしまう。ご主人がいなくなると案山子は畑にいた子虫の数を数えて遊んでいた。どこまで数えたのかわからなくなるとまた一から数えなおす。日が昇るとまたご主人を見つめていた。

この時期、ご主人は畑の手入れをいくらかやって昼ごろには帰ってしまう。夕暮れ前まで畑にいる日もあるのによくわからないお方だ。

今日もご主人は早くに帰ってしまいは虫を数えていると先日越してきた犬が話しかけてきた。大方、村の探検がてら寄ったのだろう。

「お前は昨日もそこに同じ格好でそこいたな。いったい何をしているんだ」と聞いたが案山子は「わからぬ。しかしご主人はこれが仕事だと言っていたので窮屈であるがこうしている。」と答えた。

すると犬は感心したように「そうか、お前の主人の命令か、ならば仕方ないな。とはいえお前はずっとそうなのか?退屈でないのか?」

「初めの頃は身動きもとれずただただ同じ景色を見ているだけだと思ったがご主人が畑を耕し少しずつここが変化していく様を見つめることが存外楽しくなってきたよ。それに俺はこれでもご主人の役に立っているそうだ。そう考えると少し嬉しくもある。」

「そうか、それは立派なことだ。しかし俺ならいくらご主人の命令だとしても出来ないだろうな。退屈で仕方なさそうだ。」そういって犬は去っていった。

確かに慣れないうちはそう思うのかも知れないな。

猫が歩いてきた。奴はいつもこの時間にこの路を通る。一度、畑のタマネギを食ったが不味いといって以来、畑に入ってこない。犬と会話してなんだか気分の乗った案山子は思い切ってこの猫に話しかけてみた。

「にゃあ」

にゃっ!とびっくりしたように猫は案山子の方を見た。今まで案山子から話しかけてきたことがなかったのでびっくりしたのだ。

「どうしました突然、珍しいじゃないですか。」

「何、たまにはお前と話をしようと思ったんだ」

「それは珍しい、それでなんですか。面白い話でもあるのですか」猫は案山子の事を見聞の狭い、つまらない奴だと思っていたので案山子がどんな話をするのか少し興味があった。

「先ほど、近所に越してきた犬と話をしていたのだ。」猫は少し驚いたそぶりを見せながらそれは珍しいと相槌を打った。

「なんでも犬が言うには俺のようにここで立っているのは退屈で出来ないというのだ。お前もそう思うのか?」

「それはそうでしょう。私は案山子さんや犬さんと違ってご主人なんていませんが一日中、頼まれたってぼーっと突っ立って居るだけの仕事なんてとても出来ません。」期待していただけに、ガッカリしたように猫は返事をした。

「だってつまらないでしょう。それじゃ私は公園で集会があるのでこれで失礼しますよ。」言い終えると猫は去ってしまった。

なんと不愉快なことが。あの生意気な猫は自分の仕事はつまらないと一言で斬り捨ててしまったのだ。案山子はなんだか不愉快な気持ちになってしまった。

とはいえ怒ったところで仕方がないので案山子はいつものように虫を数えることにした。

案山子の猫との会話を聞いて、普段は空の上を通り過ぎていくだけのカラスが案山子に話しかけてきた。

「なぁ、案山子さんよ。お前はいつもここにいるが立っているだけなのか?なぜ何もしないんだ?」

案山子は当然のことだというように

「足はしっかり固定されて動かないし、ご主人がこうして立っているのが俺の仕事だというので立っているのだ。」

するとカラスは嬉しそうに「そうかそうか、そうだったのか。」と笑いながら去っていった。

おかしな奴だ。だがカラスが余りにも嬉しそうに笑っているので案山子もなんだか楽しい気持ちになった。


しばらくするとカラスは仲間をたくさん連れてきてこう叫んだ。

「そら見ろ、コイツは突っ立って居るだけで何も出来ねぇ飾りだったのさ。ここの餌は食い放題だ」

そういうと仲間たちが一斉に畑を荒らし始めた。

そして案山子は初めて自分の仕事を理解した。案山子は己の仕事を全うするために「ただ突っ立っている」べきだったのだ。



——それに気づいたときにはすでに遅く案山子が守るべき畑は無残な姿になっていた。

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カカシと動物立ちのほのぼの日常物語 タイヨー @noboru1988

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