六郎くんの家庭事情 その2

世界にその名を知らない者はいないと言われる大企業“神壁コーポレーション”。

そのトップに君臨する神壁獅子雄は、類い希なる経営手腕と数千年に一人といわれる程のカリスマ性を持ち、一代で富と名声を手に入れ、神壁コーポレーションを世界屈指の大企業へと成長させた。

そして、神壁獅子雄の後継者となる神壁家の四男“神壁六郎”の存在は、内外から注目を浴びている。

全てにおいて完璧を求められ、その完璧に完璧で応える男。

神壁六郎も、この春からピカピカの高校生一年生。

そんな、神壁六郎には二人の姉と3人の兄、さらに妹が一人いるのだが、神壁家の人間は独特な環境と教育を受けているせいか、個性的な人間ばかり・・・



もうすぐ高校生になる六郎を心配してか、父獅子雄が朝食の後、自室に戻る六郎を呼び止めた、ある朝の光景。


無駄に広く、豪勢な飾りが朝陽に反射しまぶしく光るダイニングルーム。

ここでは、毎朝必ず家族全員が揃ってから朝食をとることがルールとなっている。

今日も、朝食を済ませた家族は、各々が自室に戻り外出の身支度や自己の用事を行う。

そんな、ごく普通の日常に向かう六郎を、獅子雄が呼び止めた。


「六郎。

おまえももうすぐ高校生だ。

準備は済んでいるか?」


獅子雄は、何気なく六郎に問いかけた。

しかし、異常なまでに完璧をモットーとする六郎からの返答は


「あぁ。あと少しだ。」


と、以外な答えだった。

ところが、答えを返していた六郎は、自信に満ちあふれた満足そうな表情をしている。

質問をした獅子雄の方が、六郎の口から出た“あと少し”という表現に疑問を感じていた。

六郎を不思議そうな顔で見ていた獅子雄に、六郎は続けて


「あと少しで、高校1年間分の予習が終わるところだ。」


「そうか・・・

む、無理はするなよ。」


いつも豪快な獅子雄だったが、返ってきた答えにどう返答すれば良いのか考えてしまった。

自身は気付いていなかったが、獅子雄は少しひきつった笑顔で六郎を見ていた。

六郎も獅子雄の異変に、なんとなく気付いていたが、あまり気にしなかった。

それもそのはず。

六郎としては、今行っている事に満足しているからだ。


ダイニングを出ようとする六郎の背中に、獅子雄が本来の要件を伝えた。


「今晩は、一美と次郎も帰ってくるそうだから、晩ご飯は久しぶりに全員揃うぞ。

今日は寧々に腕を振るうように言ってある。

期待して良いぞ。

がはははは・・・」


バタン。

獅子雄の言葉が六郎に届いていたはずだが、そのまま重く大きなダイニングのドアは閉じられた。

(聞こえていたよな・・・

パパは・・・パパは!!)

一人ダイニングにとり残された獅子雄は、どこか切ない背中をしている。


いつも豪快な獅子雄の引きつった顔が気にはなったが、六郎は基本的に細かいことは気にしない。

しかし、ドアが閉まる直前に背中で聞いた獅子雄の言葉に、

(久しぶりに一美姉さんが帰ってくるのか・・・

また、子供の面倒を押しつけられそうだ。)

と、少し面倒臭そうな顔をして、六郎は自室に戻った。


六郎には、2人の姉と3人の兄、あと妹がいる。


神壁家最年長の長女、斉高一美。

一美は神壁グループの弁護士事務所で働き、現場での活躍はもちろん社長を兼任している。

結婚しスペインに住んでいるが、仕事での要件はちろん、時々意味もなく日本に帰ってくる。

突然一美が帰国する理由の一つとして、時々寧々の作る料理が恋しくなるようだ。

もちろん自分でも料理はするが、いつも料理あとの掃除が面倒だといっている。

一美が料理をした後の台所は、派手な泥棒が家中を荒らし回った後のように激しい事になる。

かわいそうに、夫はその後片付けが日課となってしまっている。

今回の帰国は、六郎の進学祝いというよりも、現在2人目を身ごもっている為の里帰り出産が主な理由だ。

里帰りの方法を、当初は一般旅客機の帰省を考えていたが、獅子雄が用意した神壁グループが持つジャンボジェットを今回の為の貸しきりで飛ばすことになった。

そして、5才になる娘と一緒に帰ってくる予定になっている。

一美の娘の名は、斉高美麗。

美和子の血を受け継ぎ、ミスユニバースも驚きの美しさを持つ一美に似た可愛らしい女の子。

ただ、幼い少女は血気盛んな年頃故、様々な物に興味を持つ。

そんな美麗は、いつも六郎の後をついて回り、六郎のそばから離れようとしない。

あまりに六郎のそばから離れないので、毎回七々子と2人で六郎を取り合い、結果血を血で洗う激闘が繰り広げられる。

幼い幼女に対し、本気の喧嘩をふっかける七々子も負けじと六郎を連れ回し、最終的には3人で六郎のベッドで眠るという不思議な光景が当たり前となっている。

今回も、七々子がどんな手で美麗を出し抜くか、想像するだけで恐ろしい・・・


神壁家の長男、神壁二郎。

神壁総合病院で医師として働く二郎は、まだ27才という若さではあるが、主任の地位を任されている。

早すぎる出世により、当初は親の七光りと言われ、周りから冷たい態度をとられる事もあったが、元来努力家だった二郎は、独自に編み出した医術で他の医師達を圧倒し、今では有名な学会で講演したり、論文の功績が認められ海外に行くことも多く多忙な毎日を送っている。

さらに、来年は結婚を控えている。

しかし、日々の忙しさで家を留守にする事も多い。

そんな二郎と結婚する相手も、一筋縄ではいかないくせ者である。

婚約者は弁護士を生業とし、若くして多くの実績を積み、なんと唯一神壁美和子に泥を付けた逸材である。

美和子がその実力を認める相手だからこそ、二郎の婚約者としても申し分ないと言える。

もし、二郎が浮気でもしようモノなら、タダでは済まされない事は明白だ。

実母と妻からどんな鉄槌が下されるのか。

法の裁きで裁いて、三枚おろしにされた挙げ句に、干物となって人生を終えることだろう。

そんな、恐妻のような雰囲気を持ちつつも、二人の中は暑苦しいという言葉がお似合いの夫婦生活をしている。

心も体も浮気する余裕が全くない。

二郎は、ある意味幸せな家庭を築けるだろう。


神壁家次女、神壁三和。

三和は、春から大学4年になり、すでに就職も決まっている。

ちなみに、周りの目を異常に気にする三和の性格上、就職先は神壁グループとは一切関係ない会社である。

順調な学生生活を終える最後の1年を迎えるはずの三和だが、最近とてつもなく暗い。

この世の終わりを体現したような雰囲気は、パーティーの三角帽子ですら悪い魔女の被る帽子に見えてしまう程、現在進行形で闇のオーラに包まれている。

執事の吉村情報によると、最近彼氏に浮気されたあげく、けっこう酷いフラれ方をしたらしい。

ショックのあまり、かなりの鬱症状が見られるが、吉村情報によると元彼に関しては触れない方が良いらしい。

夜な夜な自室から怪しく引きつった笑い声が家中に響いているが、そこも含めて触れない方が良いらしい。

何故なら、真剣な表情で寧々に黒魔術について教えを受けていたからだ。

寧々が黒魔術に精通している事も含め、触れない方が良いだろう。

そのうち、突然明るい表情に変わって新しい恋をその辺で見繕ってくることはわかっている。

三和は、惚れっぽい性格をしているせいで、新しい恋を見つける天才なのだから。

しかし、付き合った彼氏からすれば、人災に巻き込まれたも同然の扱いを受ける事になるが、未来の彼氏にそれを言うことは出来ない。

我が身可愛さとは、こういうときに使う言葉である。


神壁家次男、神壁四郎。

四郎は、この春から大学1年生。

そんな浮かれ気分の四郎は、毎晩のように遊び回っている。

しかし、12時を回るとシンデレラのように帰ってくる。

と言うよりも、執事の吉村の手によって、力尽くで強制送還されてしまうのだ。

四郎は、獅子雄譲りで類い希なるカリスマ性を持っている。

しかも、自身もその能力を自覚している。

そのせいもあり、カリスマという能力の使い方を180度間違った方向に全力で使っており、いつか悪い意味で新聞に載るのではないかと言われている。

だからこそ、獅子雄の目の届かない場所は特に執事の吉村が目を光らせているのだ。

吉村の手にかかれば、さすがの四郎もタダの一般人扱いをされてしまう。

本物のカリスマを知り、その能力を熟知している吉村には効果がないらしい。

そんな執事吉村の情報によると、四郎に最近彼女が出来たらしい。

四郎のビジュアルは申し分ないイケメンで、加えて類い希なるカリスマ性を持っているのだから、そりゃモテて当たり前である。

しかし、四郎は女癖が悪く、基本的に長続きしない。

さらに吉村情報によれば、その相手は年上で、31才。

今年で32才になる女性ということは、長女一美よりも一つ年上になる。

そんな女性と付き合っているらしいが、どの程度長続きするのか想像も付かない。

前の彼女は4つしたの中学生、その前が同級生、確かその前は未亡人だったような・・・

四郎の女性の幅が広すぎて、女性の趣味はよくわからない。

いつになったら落ち着くのかわからないが、吉村の目の黒いうちは勝手な事をして問題になることはないだろう。

もっか、吉村として心配は、四郎がいつか人妻に手を出すのではないかという事である。


神壁家三男 神壁五郎。

六郎の二つ上で、春から高校3年生。

学校内では成績優秀で、さらに文武両道の天才である。

しかし、神壁を継ぐと言われる六郎に、未だ1度も勝ったことがない。

大学受験用の問題集や全国模試など、勉強に関しては100点満点を連発する五郎だったが、特別点という追加点をたたき出してしまう六郎の頭脳には勝てないのである。

五郎は、もちろんすごい。

しかし、六郎が更に上を行き過ぎているのだ。

六郎の引き立て役でしかない五郎は、六郎をいつもライバルではなく敵視しており、何度も勝負を挑んでくる。

しかし、毎回全ての事柄において、見事なまでに惨敗を記するのである。

それは勉強に限らず、スポーツでももちろん結果は変わらない。

高校生になる六郎を敵視し、今日も必死に勉強をしているが、その努力が実る日はいつのなのだろうか。

付け加えて言うならば、妹の七々子にすら兄扱いされず、いつも見下されてしまう、残念な天才である。


最後に、神壁家三女、神壁七々子。

七々子は、言ってしまえば筋金入りのブラコンだ。

愛する六郎をいつも眺め、普段から持ち歩く一眼レフで隠し撮りし、さらにはスパイでもしているかのような特殊カメラでこっそりツーショットなども撮っている。

そんな隠し撮り写真で、部屋中埋め尽くされているのだがから、六郎を絶対に自室に入れるわけにはいかない。

さらには、寧々に頼んでオリジナル等身大抱き枕を作ってもらったのだ。

そのバリエーションは10種類以上あり、今後もまだまだ増設されて行く予定だ。

本人曰く、その日の気分によって、抱き枕を変えるらしい。

自室には、抱き枕を寝かせておく為のベッドまで用意されている。

前に一度、美麗に自室を覗かれ、一番のお気に入りだった六郎抱き枕と六郎人形、あと六郎シャープペンを持って行かれてしまい、そこから七々子VS美麗の戦争は始まったらしい。

増え続ける六郎グッズがどれだけあるのかは、本人すら数えたことがない。


そんな、個性豊かな家族に囲まれた六郎には、愛犬がいる。

名前を零式。

ふさふさの毛を持つ大型犬で、子犬の時に六郎が拾ってきた。

まだ9才の幼い六郎が、道で捨てられている零式を連れて家に帰ると、最初は両親になだめられ、自宅で飼うことを拒否されてしまった。

しかし、若干9才の六郎ではあったが、零式を家で飼う事について見事なプレゼンを披露し、両親を論破したのだ。

その後、家族の一員となった零式は普段から六郎と一緒に行動を共にする忠犬となった。

ちなみに、何故か五郎だけには絶対に懐かない。

よく五郎を追いかけ回す零式を見かけるが、六郎はただじゃれているだけだと言って止めようとしない。

今でも、零式は五郎を見かけると、全力で追いかけて噛みつこうとする。

そして、直前で執事吉村が五郎を確保し、零式をなだめて六郎の元に返される。

どこまでも残念な五郎である。


ところで、ここまでの家族構成を紹介したところで、察しの良い人はお気づきだろう。

獅子雄と美和子には、決定的な欠点がある。

それは、ネーミングセンスがない。

そう、二人の考える名前には、全くもってセンスがない。

順に並べると、一美・二郎・三和・四郎・五郎・六郎・七々子。

長男で次郎というところも気になるが、姉や妹に至っては一人ずつ母の名前を付けているだけである。

どこまでも単純で、名前に無頓着すぎる。

ちなみに、零式という名前は、六郎が名付けたのである。

天才的な頭脳を持ってしても、このセンス。

六郎はどこまで両親の能力を受け継いだのだろうか。


そんな神壁家を支える執事やメイドも、極上な逸材ばかり。

使用人のトップである田村政宗をはじめとする、執事の木村昌幸と吉村官兵衛。

メイドは山崎寧々と戸崎珠子。

この5人の隠れざる能力と関係については別の話としておきましょう。


では六郎から、一言。


「今日も、俺は、完璧だ!」


鏡の前で上半身裸になるのはやめてください・・・

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