イシトイシ

楽獅寺 伽音

第1話 島田鉱石店

石岡カガミは17歳。普通の高校生である。

今日もいつもと変わらぬ日を過ごしていた。

今日も今日とて周りから忘れ去られていたというのに、何故か雑用だけは見事に押し付けられる。

結局は“都合の良い人”なのだ。


「はぁー……」


雑用が全て終わった時点で結構遅い時間。

カガミの家は学校から少し遠い所にある。

しかも今は冬、おかげで今、とても暗い。

ただ、空の星はとてもキレイであった。


きっと、今まで同様、これからも、

ずっと地味に、いつもと変わらず平穏に、生きていくんだと思っていた。


——いままでの日常が平穏というのかはわからないが……


でも、今日は違うことが起こった。


まるでアニメのような感じで、

猫を追いかけている男の人に遭遇したのだ。


「待って下さいよ〜!」


猫に敬語か。

……それにしても少し待て、

この人、全く前を見ていない気がする。

猫しか見えていないだろう……?


避けたくてもあっちこっち動き回る男の人と猫。動きが全く読めない。


「うわっ!!」

「っっ!!」


やはりというか、ぶつかった。


「す、すまない!」

「え、あ、すみませ……」


こちらが最後まで言い終わる前に男の人は猫を追いかけて暗闇の中に消えて行った。


猫には敬語なのに、俺にはタメ語。

猫教にでも入信しているのか——?

そんな考えが、頭をよぎるカガミであった。


「まぁいいや、帰ろう」


カツン……


一歩踏み出した際、何かを蹴飛ばしたようだ。

こんな暗い夜道では、なにかわからないし、気にすることはない——とほ思ったのだが、

一応地面を見てみると、真っ暗な中、黒色をしていると分かるのに、キラキラと輝いて見えるものがある。


「ネックレス……?」


それは真っ黒な石のようなモノに紐を通してあった。

さっきぶつかった人のものだろうか?

今から交番に届けようにも交番はもっと学校よりの場所にある。


「明日でいいか」


風に飛ばされて見つからなくなったら持ち主であろうあの人はきっともっと困る。

なら、例え、明日でも交番に届ける方がよっぽど親切だろう。

そう考え、カガミは再び帰路へついた。


翌日


今日もいつもと同じ、と思っていたのだが、


「まだ明るい……」


雑用はやるにはやっていたものの、

全てがスムーズに進み、いつもより早く帰れていた。

こんなことって初めてだ。

なんて、

ぼーっと歩いていたら、ふと、ポケットの中の存在に気がついた。


「いっけね」


昨日拾ったネックレス。何の石だろうか?

じっとその石のネックレスをみつめていると、唐突に影がかかった。


「あぁ、キミが持っていたのか」

「え?」


びっくりして振り返ると、多分昨日ぶつかってきただろう人がいた。


「こんにちは」

「え、あ、こんにちは」


昨日は暗くてよく見えてなかったが、その男の人はキレイな赤髪を後ろで結っていて、瞳は深海のような蒼をしていた。


「立ち話もなんだから、お茶でもどうだい?」

「知らない人についていくように見えます?」

「知らない仲じゃないだろう?」

「?」

「昨日ぶつかった」

「……」


不審者。


「大丈夫、ウチ、店だから」


ほら、すぐそこ、と、男が指差した先には


“島田鉱石店”という店がひっそりと建っていた。

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