#8

 「たのしいものづくり」というお話。


 アメリカビーバーとオグロプレーリードッグは、湖畔に暮らしている仲良しのフレンズだ。ビーバーの家作りを、プレーリーが手伝った事から二人は仲良くなり、その家で一緒に暮らすようになった。それから二人は、毎日のように森から材料を運んでは、何かを一緒に作る日々を過ごしていた。



 ある日の事だ。家の中に家具や道具を増やそうと、いつものように近くの森の木を切り倒して材木を運んで来た二人は、ひとまず休憩をする事にした。


「ビーバー殿、少しお話ししたいことがあるのでありますが」


プレーリーが、ビーバーに声をかけた。でも、いつもとは違う様子だ。なんだか浮かない顔をしている。


「なんっすか?」

「ビーバー殿と一緒に物を作るのは実に楽しいのでありますが、この大量の材料を近くの森から毎回手で運んで来る作業は、すごく疲れると思うのであります」


物を一つ作るのに必要な材料の量は、その時に作る物によって違う。でも、心配性のビーバーは、いつも多めに材料を用意して、余った分は家の前に蓄えておくようにしていた。


「おれっちはそんなに気にならないっすけど……」


元々、ビーバーは自分で木の小枝を運んで、自分の住処にダムを作る動物だ。だから、フレンズになってからも、ビーバーにとっては用意した材木を運ぶのは当たり前のことで、むしろ日課のようなものだった。

でも、プレーリーはそうではなかった。


「ですがこれでは時間がかかってしょうがないのであります。ビーバー殿は慣れているかもしれませんが、私はそうではないのでありますよ。だから、この材料を運ぶのに、何かもっと良い方法はないかと思うのでありますが」


ビーバーは大事な友達だが、材木を運ぶと言う慣れない作業に毎日付き合うのは、プレーリーにとっては、文字通りの重荷だった。プレーリーは、その事をビーバーにわかって欲しくて、思い切って打ち明けた。

でも、ビーバーは、プレーリーの言葉がショックだった。彼女が言いたい事はわかるが、自分の為にずっと彼女に我慢をさせて来たと言うことを、ビーバーはこれまで思ってもいなかった。その事が重くのしかかり、彼女は思わず泣き出してしまった。


「プレーリーさんはおれっちと一緒に材料運びをするのが嫌っすか?」


泣きながらそう言うビーバーを見て、プレーリーは慌てた。


「え!?いや、そう言うわけではないのであります!ビーバー殿と物作りをするなら、材料運びだってビーバー殿と一緒にやりたいであります!材料運びにかける時間と体力を今より減らせば、もっと色々できるのではと!」


そう言いながらプレーリーは、なんとかビーバーをなだめようと、自分の分のジャパリまんを半分彼女にあげたり、肩を揉んだり、湖の向こうに見えるダムの出来を褒めたりした。

しばらくしてようやく落ち着いたビーバーは、まだ少し目と顔を赤くしながらも、プレーリーに話しかけた。


「つまり、『物を運ぶための物』を作りたいってわけっすね」

「その通りであります。さすがビーバー殿、理解が早いでありますな」

「でも、何かアテはあるっすか?まさかバスを作ろうなんて言わないっすよね?」

「アレは私どもの理解を超えた特別なものなので、ちょっと修理することはできても、イチから作ろうなんてちっとも考えてないであります。でも、バス以外の『物を運ぶ物』を作るアテは、ちゃんとあるでありますよ。ビーバー殿も覚えてるはずであります。ジャガー殿と、コツメ殿の話を」


二人は、前にかばんを巨大なセルリアンから助けた後、それぞれの家に帰る途中で、ジャガーとコツメカワウソと一緒に、かばんのことで話をしたことがあった。

カワウソは、かばんが河に橋を渡したことと、それより前にはジャガーがフレンズ達をいかだに乗せて橋渡しをしてくれていた事、そして、自分が今でもジャガーのいかだに乗るのが大好きで、毎日色々なところへ一緒に出掛けているということを、二人に話した。


「ジャガー殿のいかだは、フレンズを乗せて運ぶ事ができるのであります。つまり、似たようなものを作れば、私どもの材料運びにも使えるのではないかと」

「なるほど。それなら早速、見に行くっすよ」



 ジャングルちほーに辿り着いた二人は、早速、ジャガーに会いに行った。


「ビーバーにプレーリーじゃないか。どうしたの?」

「ジャガーさん、急な話なんすけど、ジャガーさんが持ってるいかだ、ちょっと見せてもらってもいいっすか?」

「いかだを?いいよ、丁度カワウソと出かける所だったし、何なら二人も一緒に乗ってく?」

「おお!いいのでありますか!」


ビーバーとプレーリーは、ジャガーの後をついて河の側まで歩いて行った。河の側では、カワウソが待っていた。今日はビーバーとプレーリーも一緒にいかだに乗ると聞いて、カワウソは大喜びだ。

ジャガーは、近くの木の裏に立て掛けてあったいかだを持ち上げた。古くてあちこち傷んではいるが、太くて頑丈そうな木で作られている。そのいかだを、ジャガーは河に下ろして浮かせた。


「よし。さぁ、乗って」


ジャガーがそう言うと、カワウソは嬉しそうに飛び乗った。彼女がいかだの上に着地した衝撃で、いかだが少し音を立てて揺れた。


「二人とも早くー!」


カワウソが、いかだの上からビーバーとプレーリーに向かって手を振っている。二人は、少し心配だった。


「ジャガーさん、おれっち達も乗っちゃって本当に大丈夫っすか?重さで沈んだりしないっすか?」


プレーリーは、ビーバーと違って泳ぐのが得意ではない。でも、目の前の河はそれなりに深そうだ。万が一いかだが沈んだら、彼女は溺れてしまうのではないかと、ビーバーは心配していた。


「大丈夫だよ。それこそあの時は、カワウソだけじゃなくて、かばんとサーバルも乗せたんだから」


ジャガーは笑いながらそう言ったが、ビーバーはまだ疑わしげな様子だった。だが、プレーリーはそれなら安心だと言って、カワウソのように勢いよくいかだに飛び乗った。さっきよりも大きく軋む音が鳴っていかだが揺れたが、特に、沈む様子はなかった。その様子を見てようやく、ビーバーもいかだに乗った。

ジャガーのいかだに乗りながら、ビーバーとプレーリーは、何故ジャガーのいかだに乗りに来たかを彼女に話し、色々なことを彼女に尋ねた。


「三人乗せてコレを引っ張りながら泳ぐのって、大変じゃないっすか?」

「うーん、まあ初めはちょっと重たいって感じるかな。でも、ちょっと泳げばあとは河の流れに乗っていけるから、意外と楽だよ。帰りは河の流れに逆らわなきゃいけないから、大変だけどね」

「ジャガー殿はこのいかだを自分で作ったのでありますか?」

「まさか。私にそんな器用なことできるわけないよ。ただ、橋が壊れて、河を渡れなくて困ってる子達がいて何とかできないかなって思ってた時に、たまたまコレを見つけて、使えそうだなって思って使ってただけ。だからまぁ、なくなったらそれきりなんだけどね」

「なるほど、大事に使ってきたわけでありますな」

「まぁ、今はかばんが橋を作ってくれたおかげで、私がこれを使って橋渡しをする必要もなくなったけど……、カワウソみたいに好きで乗りたい子の為にこうして今も取っておいてるんだ」



 その後、二人はジャガーとカワウソに、沢山の果物がなっている木がある場所に連れて行ってもらい、みんなで楽しいピクニックをした。それから、ビーバーとプレーリーはジャガーとカワウソにお礼を言って、湖畔の家へ帰った。

早速、二人はジャガーのいかだに乗せて貰ったことで得た情報をまとめて、作業を始めようとした。ところが、急に天気が崩れ、空を厚い雲が覆い始めた。それから、雷が鳴ったかと思うと、バケツをひっくり返したように強い雨が降り始めた。おまけに、とてつもなく強い風が吹き始め、雨が横殴りになり始めた。危険を感じた二人は作業を中断して、家の中に逃げ込んだ。その間、二人は今後の計画について話し合った。


「ジャガーさんのいかだは、水の上で使う事が前提の作りっすね」

「湖の上を通って、向こう岸の森で集めた材料を運ぶのにはいいでありますな」

「でも、集めた材料を、湖の上に置いたいかだの上まで森から運んでくるのは、プレーリーさんにとっては大変っすよね」

「それでも家の前まで手で運んでくるよりは随分楽でありますよ」

「うーん、どうせやるならもっとやりやすくしたいんっすよね……材料を集めたその場から、こう、直接運べるように……」

「さすがビーバー殿、拘るところは拘るでありますな」


そうして話し合いを続けた二人は、天気が良くなったらひとまず、基本になるいかだを作る作業に取り掛かろうと予定を立てていたが、嵐は数日間続いた。


 

 その後、ようやく太陽が顔を出したので、二人は作業に取り掛かることにした。その時だった。聞き慣れない声が、二人の背後からした。


「ビーバー……プレーリー……」


二人が振り返ると、そこにはカワウソがいた。でも、二人が知っているカワウソとは、まるで別人のようだ。いつもの元気と笑顔が、どこかへ消えてしまっている。


「コツメ殿、どうしたでありますか?」

「ジャガーのいかだが……私の大好きなジャガーのいかだが……」


カワウソは、目に涙を浮かべながら、そっと、手に握っていた物を二人に見せた。彼女の手の上には、木の破片があった。


「この色と、この匂いはジャガーさんのいかだの物に間違いないっすね……」

「まさか、この前の嵐で壊れてしまったのでありますか!?」


カワウソは、顔を赤くして、小さく震えながら頷いた。


「私がちょっと面白そうだなと思って、流れが速くなった河に入って遊んでたら、どんどん流れが速くなって、流されて……それを見つけたジャガーが、いかだを私の所に投げてくれて……それで私は助かったんだけど……いかだはそのまま流されて、岩にぶつかって……バラバラに……私のせいで……」


彼女は、そう言うとその場にへたり込んで、大声で泣き出してしまった。


「私、ジャガーにすっごく悪いことしちゃったよー!!どうしよう!もう絶対一緒に遊んでもらえないし!いかだがないからどこにも連れて行ってもらえないよー!!わーん!!」


泣き叫ぶカワウソの姿を見て、ビーバーとプレーリーはとても気の毒に思った。こんなカワウソを見るのは初めてだ。いつもの底抜けに明るく元気なカワウソに、どうにかして戻してやりたいと思った。


「プレーリーさん」


ビーバーが、プレーリーに声をかけた。


「なんでありますか?」

「その、ちょっと計画変えても、いいっすか」

「なんのことでありますか?」

「え?」


驚くビーバーをよそに、プレーリーは、言わなくなてもわかると言う様子で答えると、カワウソに歩み寄った。


「心配ご無用でありますよ、コツメ殿。私どもが、今までよりももっとカッコよくて丈夫な、新しいいかだを作ってあげるのであります!」

「え……?」


カワウソは、驚いた様子で、顔を上げた。プレーリーは、ビーバーの方を向いて、ウィンクをした。ビーバーは、それに答えるように頷いた。


 ビーバーとプレーリーは、材料を集めるために森へ向かった。カワウソも、ジャガーの為にいかだを作るのを手伝いたいと言って、二人についていくことにした。


「それにしてもよくわかったっすね、プレーリーさん」


ビーバーは、自分がいずれジャガーに新しいいかだを作ろうと考えていたのを、プレーリーが読んでいたことが不思議だった。


「ビーバー殿の様子を見てればわかるでありますよ。コツメ殿がいかだに飛び乗った時、あのいかだが壊れてしまうかもしれないと心配していたでしょう」

「え?そうなの?」

「まあ……傷んでいたのは見てすぐわかったし、乗っただけで軋む音がしたっすから。丈夫な木で出来ていたのは間違いないっすけど、古いから、やっぱそのぶん弱くなってたんすよ」

「知ってたならどうして教えてくれなかったのさー」

「それはその……急に押しかけて、乗せてもらってる身で、そんなことを言うのは悪い気がしたから……、だから、こっそり新しいのを準備しておいて後で渡そうかと……」

「ビーバー殿は相変わらず心配性でありますなぁ。そういう大事なことは言わないとダメであります。でもコツメ殿、悪く思わないでほしいのであります。ビーバー殿なりに考えた結果でありますから」

「うん、まぁそう言うことならしょうがないね。それに、言っても言わなくても、あの後に急に嵐が来て、それまで壊れなかったいかだが急に壊れるなんて、誰も思わないもんね」

「そう!だから別に、いかだが壊れたのはコツメ殿だけのせいではないのであります!悪い偶然が重なっただけでありますよ!」


プレーリーのその言葉を聞いて、カワウソは元気になった。


「よーし、じゃあ嵐に負けない強いいかだを作るぞ!」

「その意気でありますよコツメ殿!ビーバー殿がきっと良い材料を見つけてくれるであります!」

「それならもう、見つかってるっすよ」


ビーバーは、目の前の木を指さした。幾つかは、既に二人によって切り倒され、切り株になっている。


「おれっち達の家を建てる時に使った木っす。おれっち達の家は、ここ何日かの嵐の中で、全然ビクともしなかった。この木ならきっと、丈夫で立派ないかだが作れるはずっすよ」


二人は早速、木を数本切り倒して、丸太を作った。あっという間に、太くて丈夫な丸太が揃い、あとはこれを家の前まで運ぶだけになった。


「プレーリーさん、こうして運ぶ作業をするのはこれが最後だと思って頑張るっすよ」

「勿論であります!ジャガー殿とコツメ殿の為でありますから!」


ビーバーとプレーリーは、二人がかりで、太くて大きな丸太を一本持ち上げた。


「え?それ、そうやって持っていくの?」


カワウソが、重たそうに大きな丸太を持ち上げる二人を見て、目を丸くして言った。


「そうっすよ、いつもこうしてるっす」

「大変そう。だから『物を運ぶための物』を作ろうとしてたんだ?」

「そうなのであります。コツメ殿も手を貸してくださると助かるのでありますが」

「勿論いいけど、私、面白くていい方法思いついたよ」


そう言うとカワウソは、二人に丸太を一旦地面に置くように言った。それから、丸太の表面をしばらく触って、二人に言った。


「ね、この丸太の表面、もっとツルツルにしてさ、綺麗にまん丸な感じにできる?」

「できるっすけど、それやって一体何をするんすか?」

「まあ、いいからいいから」


二人はカワウソに言われるまま、丸太の表面を削った。すぐに丸太からは、ゴツゴツとした皮や枝の根元が剥がされ、真っ白で平らな表面になった。


「よーし、じゃあ見ててよ」


カワウソは丸太を押しながら地面を蹴って、丸太の上に飛び乗った。そして、丸太の上で足踏みをするように足を動かし始めた。すると、丸太が、カワウソの身体の一部であるかのように、地面を転がり始めた。ビーバーとプレーリーは、その様子に感心しながら、転がる丸太とその上に乗るカワウソについて歩き、その前に立った。


「コツメ殿!凄いでありますな!丸太に乗って転がすなんて事、考えつかなかったであります!」

「ホントっすね!やり方教えて欲しいっす!」


ビーバーとプレーリーは、自分達の方へ器用に丸太を転がしてくるカワウソに向かって叫んだ。

ところが、トラブルが待ち受けていた。カワウソが丸太を転がし始めた先は、長い下り坂になっていた。

でも、ビーバーとプレーリーはカワウソが丸太を器用に転がす姿に見とれてしまい、カワウソはカワウソで、丸太を転がす事に夢中で、そんな事には気付かずに、下り坂に入ってしまった。丸太の転がるスピードは、少しずつ速くなっていく。


「おー、勢いがついてきたね。いい感じ!」


カワウソは気分が乗ってきたが、ビーバーとプレーリーは気が気じゃない。


「コツメ殿!スピードを落とすであります!」

「危ないっすよ!」

「大丈夫大丈夫!ちょっとこの辺下り坂になってて勢いがついただけだから……あれ?あれれれれれれ?」


カワウソは段々、丸太の転がるスピードについていけなくなり、いつの間にか、カワウソの足が丸太に動かされている状態になってしまった。やがて丸太は、カワウソを上に乗せたまま、土埃を上げて坂道を暴走し始めた。

ビーバーとプレーリーは、全速力で走って逃げ始めた。


「ビーバー殿!早く早く!」


プレーリーが、ビーバーを急かした。地面に穴を掘ったり、横に飛びのいたりしてしまえば、丸太を避けることはできる。でも、それではカワウソを見捨てる事になってしまう。なんとか走って湖畔まで逃げ切り、湖に落ちたところをすぐに助け出さなくてはならない。


「わーい!止まんないぞー!」


危険な状況であることはわかっていたが、カワウソは何だか滑り台を滑るようで楽しい気分だった。

やがて、長い下り坂を抜けて、目の前には見慣れた湖が広がった。ビーバーとプレーリーはすぐに両脇へ逃げて、轟音を立てて目の前を通り過ぎる丸太とカワウソを見送り、凄まじい水しぶきを上げて湖に突っ込むのを見た。


「カワウソさん!大丈夫っすか!」


ビーバーは急いで湖に飛び込み、水中に潜った。丸太の下にしがみつきながら、ビーバーに手を振っているカワウソが、そこにいた。



 ビーバーとカワウソは、二人で湖から丸太を陸に引き上げた。


「いやー!びっくりした!まさかあんなにスピードが出るなんて思わなかったよ!」


カワウソは、ケラケラと笑っている。


「でも、持ち上げて運ぶよりは、いい方法だと思わない?」


ビーバーとプレーリーは確かにそうかもしれないとは思ったが、もう懲り懲りだと思った。でも、この事で、二人はあることを思いついた。


「プレーリーさん」

「ビーバー殿」

「もしかして同じこと考えてるっすか?」

「かもしれないでありますな」

「バスは作れなくても、バスの作りを活かすことはできるっすよね」

「そうであります。で、それをジャガー殿のいかだと組み合わせたら……」

「プレーリーさん!いけるっすよ!」

「コツメ殿!感謝であります!おかげで閃いたであります!」

「え?」



 三人は、まずカワウソが転がしてきた丸太を、家の前まで運んだ。それから、家の前に蓄えてあった材料で、ジャガーのいかだのような形の台を作った。

そして、カワウソが転がしてきた丸太を二枚の板状に切って、左右に取り付けた。するとどうだろう。木でできた大きな荷車が出来上がったではないか。

三人は、荷車を引いて再び、材料を集めに行った。木を倒し、丸太を作り、荷車に乗せる。やがて荷車は丸太でいっぱいになった。それから、ビーバーとプレーリーは力一杯、荷車を引いた。カワウソが後ろから荷車を押して手伝う。大量の丸太を積んだ荷車は、とても重たい。でも、何度も手で運んで往復するよりもずっと楽で、丸太の上に乗って転がすよりもずっと安全だ。

そうして家の前まで来ると、いつの間にか、辺りは暗くなって夜になっていた。でも、ここまで来たら、勢いが残っているうちに、やることを済ませてしまいたいと、三人は思った。それから、夜を徹して、三人はジャガーの新しいいかだを作る作業に取り組んだ。



 気がつくと、三人は荷車の上で眠っていた。すると、聞き覚えのある声が、微かに聞こえてきた。


「カワウソー!どこだー!」


その声にカワウソは、飛び起きた。


「ジャガー!」


駆け寄って来るカワウソを見て、ジャガーも、彼女に駆け寄った。そして、少し怒ったように声をかけた。


「カワウソ!こんな所にいたのか!随分探したんだぞ!あの後また河に流されたのかと思って心配してたんだから!」


カワウソは、ジャガーに何も言わずに湖畔まで来ていたのだった。


「うぅ……ごめんねジャガー。その、あのね、ジャガーのいかだ、壊れちゃったでしょ?」

「何さ、それを気にしてたってわけ?別にいいんだよ。かばんの作った橋は無事だったんだから。河を渡りたい子は、橋がある限り困らないだろ」


カワウソとジャガーの話す声を聞いて、ビーバーとプレーリーも目を覚ました。


「あぁ、どうもっすジャガーさん。この前はありがとうございました」

「おかげでとても良いものが作れたでありますよ」


二人は、眠い目をこすり大きなあくびをしながら、ジャガーに言った。


「で、コレ、そのお礼に受け取って欲しいっす」


ビーバーは荷車の横に置かれている真新しいいかだを指して言った。前のものよりずっと綺麗で、頑丈そうだ。


「これを、私に……?」

「コツメ殿から聞いたのであります。ジャガー殿のいかだが壊れてしまったので、新しいものを作って欲しいと」

「それで、三人で徹夜して作ってたっす」


ジャガーは、カワウソを見た。ジャガーに心配をかけたことを申し訳なさそうに、けれども、やりきったというように、笑っている。


「ジャガーの大事ないかだ、なくなっちゃうのは嫌だし。それに、ジャガーのいかだに乗せてもらって、一緒に出かけるの、大好きだから」


そう言うカワウソを見て、ジャガーはやれやれと言う様子で彼女の頭を撫でた。それから、小さく、ありがとうと言った。


 

 それから、ジャガーとカワウソは、荷車に新しいいかだを乗せて、ジャングルちほーへ帰ることにした。


「いいの?この荷車も貰っちゃって」

「いいっすよ」

「作り方は憶えてるであります!自分たちでまた作るであります!」

「もしまたいかだが壊れたりしたら、その荷車を使っておれっち達の所まで持って来てくれれば直すっすよ」

「そっか。じゃあ、その時はよろしくね」


ジャングルちほーへ向かって帰って行く二人を見送ると、ビーバーとプレーリーは早速、自分達が使うための荷車を作り始めた。ビーバーが蓄えていた材料は十分に残っていて、尚且つ作り方も二人とも完璧に憶えていたので、あっという間に、新しい荷車が完成した。

それから、二人は早速その荷車を使って新しい材料を取りに出かけた。材料をたくさん積んだ荷車はとても重たいけれど、でも、二人とも、前よりもずっと、材料を運ぶのが楽しくなった。



 日が沈む頃、二人は運んで来た材料で作ったばかりのコップを持って、湖の水を汲んだ。


「ビーバー殿、私のわがままを聞いていただいたこと、本当に感謝であります」

「いえ、おれっちも今回のことで、色々と勉強させて貰ったっすから」

「ビーバー殿と一緒にいるのは本当に楽しいであります」

「おれっちも楽しいっすよ、プレーリーさん」


二人はそう言って笑い合うと、沈む夕日を背に、乾杯をした。

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