#6

 「さわがしいにひき」というお話。



 サンドスターは、フレンズたちの他にももう一つ、別のものを生み出す。それが、セルリアンという、謎の生き物だ。

セルリアンは、フレンズ達を食べようとする、危険な生き物だ。セルリアンに食べられると、フレンズはフレンズとしての姿や記憶を失い、元の動物の姿に戻ると、言われている。だから、フレンズ達は彼等に出くわすと、逃げるか、戦うかして、自分達の身を守りながら、暮らしている。


 アライグマとフェネックは、とっても仲良しな、二人組のフレンズだ。出かける時も、食事の時もいつも、一緒にいる。そんな二人が、一日で一番楽しみにしている事は、尻尾を洗う事だ。アライグマはフェネックの尻尾を洗うのが、大好きだ。彼女の尻尾はとても柔らかく、暖かい。そして、砂漠の砂のように、きめ細やかで、美しい。そんな彼女の尻尾を綺麗に保つ事に、アライグマはやりがいを感じていたし、フェネックもまた、アライグマに尻尾を洗ってもらう事が、大好きだった。

ある日のことだ。アライグマはいつものように、川の近くにフェネックと二人で来て、彼女の尻尾を洗おうとしていた。


「あっ!しまったのだ!」


河原に着いたところで、アライグマが突然声を上げた。


「どーしたの?」

「この前博士に貰った『とりーとめんと』ってやつ、使ってみようと思ったのに、うちから持ってくるの忘れたのだ!」


アライグマは、この前博士から文字を教わり、なんとか試験をパスした記念として、博士からフレンズ用のシャンプーを貰っていた。これを使って洗うと、今までよりももっと尻尾の毛が綺麗になると聞いていたので、使うのを楽しみにしていた。


「どーする?取りに一回戻る?」


フェネックが、アライグマに訊いた。


「勿論なのだ!絶対にアレを使って洗うって決めたのだ!」

「そっか。じゃあそーしよー」

「フェネックはここで待ってて大丈夫なのだ。すぐに戻るのだ!」


アライグマはそう言うと、家に向かって走っていった。フェネックはアライグマが心配だったが、彼女の家からこの河原まではあまり離れていなかったので、大人しく待つ事にした。

フェネックは大きく、伸びをした。雲一つない青空から、暖かい太陽の光がさんさんと、降り注いでいる。その光が、川の水に当たりキラキラと、輝いている。そして、川の水の音が合わさり、心地の良い眠気を誘う。やがてフェネックは、その心地良さに、つい、居眠りを始めた。



 それからしばらくして、アライグマがシャンプーを持って、河原に戻って来た。


「待たせたのだ!フェネック!早速洗ってみるのだ!」


ところが、川のそばにあった倒木に座っていたはずのフェネックの姿が見えない。アライグマは、彼女を探した。


「フェネック?どこ行ったのだ?」


すると、木陰から、見慣れた大きな耳が覗いているのが見えた。


「フェネック!なんでそんなところにいるのだ?急にいなくなったと思ってびっくりしたのだ」


フェネックは、木陰からアライグマの方を覗き見るようにして振り返った。


「あー、アライさん。まあその、ちょっとびっくりさせようかなーって思ったのさ。それより、意外と時間かかったね」

「うちの中のどこに置いたか、なかなか思い出せなくて時間かかったのだ。でもちゃんと見つけて持って来たのだ!」

「あー、アライさんの家、散らかってるもんねぇ。でさー、うん、その、実はさ、悪いんだけど、今日は洗ってもらわなくてもいいかなー、って」

「え?」


アライグマは、戸惑った。なんだかフェネックの様子がおかしく見えたからだ。


「どうしたのだ?もしかしてアライさんが早く戻って来なかったから怒ってるのか?」

「ううん、そうじゃないんだけど、その、ちょっと、気分的にというか」

「もしかして気分が悪いのか!?病気なのか!?」

「いや、そうじゃなくて、その」


フェネックが何かを言う前に、アライグマは彼女の元に駆け寄った。すると同時に、フェネックは後ろで手を組み、木にピッタリと背中を張り付けた。


「フェネック、どうしたのだ?なんか困ってるなら遠慮しないでアライさんに言って欲しいのだ」


アライグマは真剣だった。


「いやー、ちょっと日差しが強いから木陰にいようかなーって」

「フェネックは暑いの平気なはずなのだ。なんで嘘つくのだ?」


普段は間が抜けているアライグマでも、親友の事となると、鋭い。


「背中に何を隠してるのだ?」


アライグマは、フェネックが何かを隠しているような様子である事にも気付いた。とうとう、フェネックは観念して、ゆっくりと、アライグマに背を向けた。


「な、なにぃーっ!?」


アライグマはびっくりして、思わず大声で叫んだ。そして、そのままひっくり返りそうになった。

なんと、フェネックの尻尾は、さっきまでの艶と、膨らみが消え、すっかりと痩せ細ってしまっていた。カワウソやツチノコの尻尾のように、細長くなってしまっている。


「い、一体どうしたのだ!?フェネックの尻尾はどこ行ったのだ!?」

「今はこんなんだけど紛れもなくこれは私の尻尾だよアライさん」

「い、一体何がどうしてこんな事に……」


フェネックは、事の次第を説明した。

彼女がアライグマを待つ間に居眠りをしていると、突然、尻尾に何かがくっついているような感覚がした。起きてみると、なんと、小型のセルリアンが一匹、彼女の尻尾に食いついていた。フェネックは尻尾を振り回して追い払おうとしたが、セルリアンはなかなか離れようとしない。そこで今度は、川の水に向かって、尻尾ごとセルリアンを叩きつけた。すると、セルリアンは水を嫌がったのか、ようやく尻尾から離れ、逃げていった。ところが、それと同時に、フェネックの尻尾は痩せ細ってしまった。

これを聞いて、アライグマはカンカンに怒った。セルリアンが、大事な親友の尻尾を食べてしまったからだ。


「ぐぬぬ〜!セルリアンめ、許せないのだ!」


とはいえ、尻尾そのものがなくなったわけではなかったので、フェネックはそれほど、気にしてはいなかった。それよりも、この話を聞いたアライグマが、いつものように明後日の方向に走って行かないかが心配だった。


「まあ、そのうち元に戻るから、心配しなくても大丈夫だよ」

「それでも許せないのだ!アライさんの楽しみを奪ったセルリアンの罪は重いのだ!石をぶっ叩いてパッカーンしてやらなきゃ気が済まないのだ!」


アライグマはそう言うと、案の定、フェネックの心配通りに、そして、フェネックが止める間もなく、全速力で走って行ってしまった。



 残されたフェネックはひとまず、かばんのいる、日の出港の近くにある小屋へ行く事にした。かばんとサーバルは変わり果てた彼女の尻尾を見て驚き、彼女から事の次第を聞いた。


「それは大変でしたね……」


かばんが、フェネックの尻尾を見ながら、気の毒そうに言った。


「特に怪我をしたと言うわけではなさそうですね、痛いとかもないですか?」

「うん、平気だよ。ちょっとお尻が軽くて変な感じするけどねえ。それよりもアライさんの方が心配だよ、私の話聞くなり、怒ってそのセルリアン探しにどっか行っちゃったからさ」


フェネックが、窓の外を見て言った。


「でも、私のこと心配してくれてのことだからなぁ。私の尻尾が元に戻ればアライさんも大人しくなると思うんだけど、かばんさん、何かそういうお薬持ってたりしない?」

「うーん、そういうものはあいにく……」


その時、誰かがドアをノックする音が、小屋の中に響いた。サーバルがドアを開けると、そこにはセルリアンハンターのヒグマがいた。キンシコウとリカオンも一緒だ。


「ヒグマ?珍しいね、どうしたの?」


サーバルが、首を傾げながらヒグマに訊いた。


「アライグマの奴が、セルリアンを捕まえてやるとかどうとか大声で叫びながら走り回ってるのを見てな。呼び止めて事情を聞いたらフェネックの尻尾がどうとか言ってな」

「もっと詳しく聞こうとしたんですけど、そんな暇はないとか言って走って行っちゃって」

「とりあえずアライさんの怒り方が尋常じゃなかった上に、いつも一緒にいるフェネックさんが見当たらなかったので、フェネックさんの身の安否を確かめたくて探していたんですけど、ここには来て……」


キンシコウは、小屋の中を見回しながら話していたが、やがて、フェネックがかばんのすぐ横にいる事に気づいた。


「よかった、ご無事でしたか」

「まぁ、一応は無事かな」

「お前を襲ったセルリアン、アライグマがあれだけ怒るってことは何か相当な事をやらかしたと思っていたんだが……」

「そんじゃまあ、今から話すよ」


フェネックは、痩せ細った尻尾をヒグマ達に見せて、事の次第を話した。ヒグマ達は、フェネックの話を参考に、そのセルリアンを倒して、それからアライグマを保護するために探すと言うと、小屋から出て行った。


「あーあ、なんだか疲れちゃったなあ」


フェネックはそう言うと、ソファーに寝転がった。彼女は、怒りに任せてセルリアンを追いかけて何処かへ行ってしまった親友の事が、ずっと気になっていた。でも、ひとまずヒグマ達に探して貰える事になり、安心した途端、一気に疲れが押し寄せた。


「ヒグマ達に任せておけば大丈夫だよ」


サーバルは、フェネックを励ました。


「少し寝たら?そこ、私のお気に入りの寝床なんだ。だからきっとよく寝れるよ」

「そーなの?じゃあお言葉に甘えて、そうさせてもらおうかなあ」


フェネックはそう言うと、深呼吸して目を閉じた。ところが、また、誰かがドアをノックした。サーバルがドアを開けると、今度はアミメキリンがいた。


「事件の話は聞かせてもらったわ!この名探偵であるアミメキリンに事情聴取をさせてちょうだい!」


彼女はいつものように、探偵ごっこをしているようだ。でも、彼女は至って真面目だ。


「事件って何?何かあったの?」

「アライグマに聞いたのよ!名付けて、フェネック尻尾強盗事件ね!」


サーバルが訊くと、キリンは自慢気に言った。

キリンもまた、ヒグマ達と同じようにアライグマに会い、フェネックがセルリアンに襲われた話を聞いていたのだった。


「それで、その被害者であるフェネックを探してるんだけど、あなた達、見なかった?」


サーバルは、かばんの方を見た。キリンのいる玄関から見ると、丁度ソファーの背中に隠れる形で、フェネックの姿が見えなかった。フェネックは、今はサーバルに言われた通りに静かに休みたかったので、かばんに目配せをした。かばんはすぐに、それを察した。


「ここには来てませんよ」

「あら……そうなの。じゃあ、見つけたらすぐに私に教えてちょうだい」


キリンはそう言うと、すぐにまた何処かへ歩いて行った。


「……もう行った?」

「大丈夫です」

「ありがと」


フェネックはそう言うと、再び寝ようとした。でも、眠りに落ちそうになると必ず、ドアがノックされ、目が覚める。サーバルがドアを開けると、必ず誰かしら、フレンズがいる。そしてみんな、アライグマから、フェネックがセルリアンに襲われて尻尾が痩せ細ってしまったと言う話を聞き、フェネックが心配で、彼女に会うために探しに来たと言う。その度に、かばんはフェネックを休ませてやる為に、彼女が自分の元には来ていないと嘘をついて追い払ったが、これが何度も続いたので、かばんも段々、疲れてきた。

可哀想に、フェネックは、そのせいでちっとも、休む事ができない。それどころか、初めはそれほど気にしていなかった尻尾の事が、アライグマが行く先々で他のフレンズ達に言いふらしているおかげで、段々、恥ずかしくなってきた。


「アライさんを探しに行く」


とうとう、フェネックは我慢できなくなり、ソファーから勢いよく起き上がると外へと飛び出して行った。かばんとサーバルも、心配になって後を追うことにした。



  その頃、アライグマはと言うと、何処かの洞穴の中にいた。だが、彼女はいつ、どうやってここに来たのかがハッキリしない。


「あ、気がつきました?」


聞き覚えのある声が、後ろから聞こえた。振り返ると、そこにはスナネコがいた。彼女は、片方の手でジャパリまんを頬張りながら、もう片方の手に持っていたジャパリまんを、アライグマに差し出した。


「ここはどこなのだ?」

「僕のうちです。さっき外に面白いものが見えたので、なんだろうと思って追っかけてたら見失って。帰る途中で、干からびそうになって倒れていたのを見つけたので、運んできたのです」


アライグマは、夢中になってセルリアンを探し回っているうちに、砂漠まで来ていたのだった。


「そうだったのか、助かったのだ。ありがとうなのだ」

「砂漠まで来て何をしていたんですか?」


アライグマは、事の次第をスナネコに話した。


「へー、フェネックがそんなことに。それは大変ですね」

「そうなのだ!一刻も早く捕獲して退治しないと!」

「でも、アライさんはそのセルリアンを直接見ていないんですよね?」


スナネコのその言葉に、アライグマは固まった。そして、急に夢から覚めたように、頭を抱えて地面をのたうち回った。


「しまったのだああああ!!」

「うるせーぞこの野郎!!寝られねえじゃねえか!!」


奥の方から、一際大きな叫び声がした。ツチノコが、顔を真っ赤にして怒っている。


「あ、ツチノコ。おはようございます」

「おはようじゃねえ!寝ようとしてたところに面倒な奴連れて来やがって!」

「なんでスナネコのうちにツチノコがいるのだ?」

「落ち着くんだよ!!」


ツチノコはそう言うとアライグマとスナネコの前に座り、懐から水筒を取り出すと、一気に飲み干した。それから、一つ大きく息を吐くと、二人を交互に見た。


「で、アライグマ。お前はフェネックの尻尾を食ったセルリアンを探してここまで来たんだな」

「そうなのだ、何か知ってるのか?」

「まだわかんねえよ、黙ってろ。おいスナネコ、お前さっき面白いものを追っかけてたとかどうとか言ってたな、どんなのだ?」

「えっと、何か丸っこくて、ピョンピョン飛び跳ねるみたいに動いてて、あ、そうだ。尻尾が生えてました」


それを聞いて、ツチノコは目を閉じて頷いた。


「なるほどな」

「やっぱりなんか知ってるのか!?」

「まあ、もしかしたら、と思ったんでな。でも今は下手に動かねえように、日が暮れるまで大人しく待ってるんだな。この炎天下の中、こんなに広い砂漠を探すのはお前には無理だ」


アライグマは、ツチノコが何に気づいたのか理解できなかったが、彼女が真剣であることだけは、わかった。そして、彼女の言葉に従い、スナネコの家で、夜まで休む事にした。


 

 やがて日が暮れると、アライグマはツチノコとスナネコに起こされた。そして、昼間とは打って変わって肌寒い砂漠の中を、歩き始めた。

ツチノコには、ピット器官という、自分以外の生き物の居場所を知ることが出来る力があった。それを使って、セルリアンを探し出そうと言うのだ。だが、アライグマは怪しいものだと思った。


「本当にわかるのか?」

「俺があのセルリアンだらけの遺跡でどうして今まで生きて来られたと思ってんだ?奴らが何処にいるか、見ないでもわかるからだよ」

「ツチノコ、逃げるのは得意ですからね」

「逃げてんじゃねえ、避けてんだよ!……おっと」


不意に、ツチノコが足を止めた。


「どうしたのだ?」

「静かにしてろ。近くに何かいるぞ」

「え?」


アライグマは辺りを見回した。だが、暗くて何も見えない。


「近づいて来る」

「な、何なのだ?セルリアンなのか?」

「あれ、もしかして……」


突然、スナネコが何かに気付いたかと思うと、真っ暗闇の砂漠の中を走り出したので、ツチノコとアライグマはびっくりした。


「お、おいスナネコ!何してんだ!戻って来い!」

「セルリアンかもしれないのだ!食べられちゃうのだ!」


でも、その心配は、いらなかった。


「やっぱり。見覚えがある形だと思ってました」


スナネコが走って行った先には、かばん達がいた。ヒグマ達も一緒だ。


「かばんさん!?どうしてここにいるのだ!?」

「まあ、その、色々あって」

「アライさーん、こんなところまで来てたんだね」

「フェネック!当然なのだ。アライさんはフェネックの仇を取るために頑張ってるのだ。その為なら何処だって行くのだ!」

「そっかー、でもさ、アライさん……」


フェネックがアライグマに何かを言おうとした、その時だった。突然、近くの砂丘から、砂埃が舞い上がった。


「なんだ!?」


ヒグマが構えた。リカオンとキンシコウも、それに続いた。


「気を付けろ!すげぇ速さで向かって来るぞ!」


ツチノコが身構えたその瞬間、突然、地面の砂の中から何かが勢い良く飛び出して来た。


「セルリアンだ!」


サーバルが叫んだ。そのセルリアンはそれほど大きくはないが、彼女がこれまで見てきたセルリアンとは明らかに違うところがあった。

セルリアンの身体には、毛並みがよく艶のある尻尾が、そのままセルリアンの身体にくっ付いているように生えていた。アライグマは、その尻尾が何なのか、すぐにわかった。


「アレはフェネックの尻尾なのだ!」


アライグマはそう叫ぶと、セルリアンに向けて突進して行った。だが、セルリアンはアライグマの両脚の間をすり抜け、全速力で飛び跳ねながら移動した。キンシコウとリカオンと、そしてサーバルもセルリアンを捕まえようとしたが、直ぐに穴を掘って隠れられ、時には頭の上を飛び越えられたりして、かわされてしまう。そうしてフレンズ達の追跡をうまくすり抜けて行くセルリアンの向かう先には、フェネックがいる。


「何故かわからんが、奴の狙いはやっぱお前らしいな」


ヒグマが武器を構えてフェネックに言った。一目散に向かってくるセルリアンに向けて、ヒグマは武器を振り下ろしたが、それもまた、避けられてしまった。セルリアンは勢い良く空中へ飛び上がり、そのまま、フェネックの方へと突っ込んで行く。

だが、フェネックは動こうとしない。セルリアンは、しめたと言わんばかりに、フェネックの頭に飛びついた。そして、フェネックはその場にしゃがみ込む。


「はいよ、誰か石を叩いてもらってもいいかな?」


フェネックがそう言うと、スナネコが駆け寄ってきた。そして、残念そうに、セルリアンの背中の石を叩いた。


「面白いものだと思って追っかけてたのがセルリアンだったなんて、僕、残念です」


スナネコのその言葉と共に、セルリアンは砕け散った。すると、その光る破片のようなものが、フェネックの尻尾に向かって集まっていった。

やがて、その光は次第にフェネックの尻尾の形になり、消えた。するとどうだろう。先ほどまですっかりやせ細っていたフェネックの尻尾が、綺麗に元通りになっているではないか。


「すっごーい!フェネックの尻尾が元に戻った!」


駆け寄ってきたサーバルが、驚きの声を上げた。


「やったのだ!フェネックの尻尾を取り返したのだ!」


サーバルの後に続いて、アライグマが、嬉しそうに飛び跳ねながら、フェネックに向かって駆け寄ってきた。


「フェネック!コレでもう安心なのだ!」

「うん、そうだねぇアライさん。でもさぁ」


フェネックは、アライグマの方を向いたかと思うと、突然、両手でアライグマの顔を思い切りつねり始めた。


「いひゃっ!?ひゃ、ひゃひふふほはへへっく!?ひゃへふほは!?」

「アライさーん、あんまり私の尻尾の事で騒ぎすぎないで欲しかったなぁ。結構恥ずかしかったんだからね?」


フェネックは、いつものようにアライグマを諭すようにそう言ったが、その場にいたほかのフレンズには、どこか、怒っているように聞こえた。


「ま、でもアライさんはアライさんで、一生懸命セルリアン探ししてくれてた訳だし、許してやるかー」


ひとしきりアライグマの顔をつねった後、フェネックは手を放して、アライグマに背を向けて、尻尾を見せた。アライグマは、フェネックにつねられて真っ赤になった頬を押さえながら、すっかり元通りになった親友の尻尾を見て、嬉しそうに笑った。フェネックも、そんな親友の笑顔を見て、微笑んだ。



 その後、みんなはスナネコの家に集まって、今日の出来事について話した。

ヒグマたちセルリアンハンターは、セルリアンの中には、フレンズを食べることで、そのフレンズに成り代わる事が出来るものもいるという事を知っていた。そして、フェネックの尻尾を奪ったセルリアンは、元々砂漠で暮らす動物であるフェネックの本能から、さばくちほーの方へ向かったと思い、出発しようとしていたところで、アライグマを探すフェネックたちと合流をしたのだった。


「じゃあ、フレンズ型のセルリアンって言うのも、似たようなものなんでしょうか」


かばんは、前にタイリクオオカミがしていた怖い話の事を思い出していた。


「まぁ、それに近いだろうな」


ヒグマはそう言うと、ツチノコの方を見た。


「ツチノコも、そういうセルリアンがいるってことは知ってたんだな」

「まぁな。パークを調査してりゃ、嫌でもセルリアンの事は、知る羽目になる。で、アライグマがセルリアンを追っかけてここまで来たって事と、スナネコが尻尾の生えた変なヤツを追い回してたって話を聞いて、そうじゃねえかと思ったってわけだ」


そう言うとツチノコは、水筒の中の飲み物を一口、口に含んだ。


「やっぱりツチノコ、あの時はまだ寝てなかったんですね」


スナネコの指摘に、ツチノコは思わず飲み物を吹き出した。


「な、何だコノヤロォ!」


ツチノコは顔を真っ赤にすると、スナネコを睨んで叫んだ。


「しーっ、静かに」

「ちゃんと寝かせてあげてくださいよ」


キンシコウとリカオンが、ツチノコを止めた。彼女の傍には、アライグマとフェネックが、二人で寄り添って眠っている。


「二人とも、今日は色々あって疲れたんでしょうね」

「でも二人とも気持ちよさそうだよ」


かばんとサーバルが、二人の方を見て言った。



 それから、アライグマとフェネックは、またいつもの川の近くに来ていた。


「今日はちゃんと忘れないで持ってきたのだ!」


アライグマは、誇らしげにシャンプーを抱えてフェネックに言った。


「アライさんがこれを忘れずに持って来れば、フェネックの尻尾がセルリアンに取られることももうないのだ!」

「そうだねぇ。じゃあ、今度こそその『とりーとめんと』ってやつ、使って洗って貰っていいかな」

「任せるのだ!」


アライグマはウキウキしながら、シャンプーを数滴、フェネックの尻尾にかけた。そして、川の水を両手ですくって洗い始めた。


「おー、いいねぇ。何だかスーッとして気持ちがいいよ」


フェネックが、満足気に言った。


「お前たち、ここにいたのですか」


聞き覚えのある声がした。二人がその方を向くと、博士と助手が、何だか慌てた様子で、空から降りてきていた。


「どうしたのだ?」


アライグマは、手を動かしながら博士たちに訊いた。


「アライグマ、この前お前にやった『とりーとめんと』ですが、すぐに返してもらいたいのです」

「え?どうしてなのだ?」

「とにかく返すのです。……あ」


博士たちは、アライグマの傍にボトルが置かれているのを見て、その場に固まった。


「ん?」


アライグマは、手元を見た。すると、なんと、フェネックの尻尾の毛が、ごっそりと抜けて手に絡み付いているではないか。


「な、なにぃーっ!?」

「手遅れでしたね、博士」

「これはどういうことなのだ!?」


アライグマが、フェネックの尻尾の毛を握りしめて博士たちに詰め寄った。


「『とりーとめんと』と間違えて『だつもうざい』を渡してしまっていたのですよ」

「入れ物が良く似ていたので、つい気が付かなかったのです」

「なんで早くに言わないのだ!?」

「この前言おうと思っていたのです。でもお前たちが見当たらなかったのです」

「そしてやっと見つけたと思ったら手遅れだったと、そういうことです」

「へぇー、賢い博士たちでも、間違う事ってあるんだねぇ」


岩に腰掛けていたフェネックが、立ち上がって言った。いつもと変わらない、のんびりとした声の調子だ。だが、その彼女の顔を見て、三人は凍りついた。

それから、四人は丸一日、追いかけっこをする羽目になったのだった。








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