遺痕

白峰きわ子

 残り香


貴方が居ない朝に、シーツに置かれていたコルチカムを食べる。


淡い苦味は冷え込んだ朝の酸素を多く含んで


項垂れる私は泡を吐き出す金魚だとおもった。



青い鉢の縁を覗いて、天使が滑っていくのを見る。


この恋の賞味期限は去年の8月


それを貪って家計の足しにしたところで


触れたくて、滑りやすい縁に足をかけて両手を何度も伸ばしたけれど

指先を掠める感触が虚しく響いた。


女心は総じて黄金を軽んじぬものだ。と、


灰色の紳士がよく言っていたけれど


違うのだ。結局のところは



コルチカムの花は透き通るような水面に似ていて


貴方の居ない朝の静けさが、ただ噎せ返るようだった。


指先から垂れる雫は天使の白い羽を赤く染めていたけれど


私はあの人の香りを探していただけだった。









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遺痕 白峰きわ子 @KiwacoShiramine

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