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「これを描いたのは?」
賢琉くんが、広げて置いてあったスケッチブックの一枚の絵を指し示す。
それは、学校の中庭の風景を鉛筆で描いた絵だった。ラフなスケッチのようで、まだ色も付いておらず、描き込み具合も少ないながら、充分に迫力が感じられるものだった。
「それは壱波先輩の絵だよ」
「壱波先輩って、さっきの人ですよね。さすがコンクールで受賞するだけありますね」
「壱波先輩の上手さはずば抜けてるから。他に上手いと言ったら部長の
「藍田さんというのは確か、隣のクラスの方ですよね」
「そ、私たち一年の期待のエース」
「確かにこの三人なら二週間であのクオリティの模写を仕上げてもおかしくはないな」
絵を見て納得するように頷く賢琉くんに、千紗希ちゃんがまた別の絵を差し出した。
「ねえ澄岸くん、ちなみにこの絵はどうかな」
「どうって…。それは、水瀬の絵じゃないのか」
「ピンポン大正解!よくわかったね」
「美術の授業で既に絵を見た事があるからな。と言うかわかってるのか?今は容疑者に当たりを付けているんだぞ」
「わかってるよ。でもそれってイコール絵が上手い人探しって事じゃん」
何かが吹っ切れたのか、千紗希ちゃんはいつもの調子が戻ってきたようだ。
「まあそういう事になるな。大丈夫だ、水瀬は最初から疑っていない」
「ありがとう。ってあれ?何だかちょっと複雑なんだけど…」
「まぁまぁ、疑われないのは良い事じゃないですか。それにしても賢琉くん、その言い方だと千紗希ちゃんに失礼ですよ!例え本当に思っている事でも、もっとオブラートに包んだ言い方というものをですね」
「真実のそれもなかなかに失礼だと思うぞ。それに僕が違うと思ったのは技術云々じゃない。水瀬はこういう緻密な絵よりも、ダイナミックなものの方が得意だろうと思ったからだ」
確かに。私も千紗希ちゃんの絵を見た事があるけれど、本人の印象をそのまま出したような、力強さを感じられるインパクトのある画風だった。今回の絵とはタッチが違う気がする。
私たちが話していると、部室の扉が開いた。
「こんにちは!ってあれ、水瀬ちゃんと…、そちらはお客さん?」
「桜先輩」
桜先輩と呼ばれたその人は、明るい色のボブカットに丸眼鏡の可愛らしい雰囲気をした女子生徒だった。
「真実、急いで絵を隠せ」
賢琉くんが私にだけ聞こえる声で囁く。
「どうしてです?」
「今それを見られると、ややこしい事になる。忘れたか?この”桜先輩“というのも容疑者の一人だ」
そうだった。本物はまだ行方不明のままなのだ。もしこの先輩が犯人じゃなかったとしても、安易に絵を見せては後々本物が見付かった時の説明が面倒になるだろう。
私たちの動きを見て察してくれたらしい千紗希ちゃんも、さりげなく私を隠す位置に立ってくれる。その間に私は開いたままだった箱にしっかりと蓋をし、壁際に置かれたキャンバスの間に紛れさせた。
「こんにちは。僕たちは文化研究部の澄岸賢琉と清川真実と言います。水瀬と同じクラスの縁で、消えた絵を探す手伝いに来ました」
「あー!知ってるその部活!お悩みを解決してくれるっていう人たちだよね。水瀬ちゃんのクラスの子たちだったんだ。私は部長の因幡桜です。会っていきなりでごめんだけど、絵の捜索、私からもお願いします」
「もちろんです。その為にこちらへ来たので。早速ではありますが、因幡先輩からも詳しい
「うん、じゃあ立ち話も何だしみんなそこら辺にある椅子に適当に座って」
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