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「何勝手に注文してるんですか!私は違うメニューにするって言いましたよね。それにこんなの二人掛かりでも食べ切れませんよ!」

「お、手伝ってくれる気はあるんだな」

「だって賢琉くん、一度言い出したら聞かないじゃないですか…。しかも取り皿までお願いしてますし。そうしたらもう私が折れるしかないですけど、ないですけど!これはさすがに厳しいと思いますよ」

「大丈夫だ。僕は甘い物もわりといける」

「そういう事ではなくてですね」


私たちが攻防を繰り広げている途中で、他のお客さんから呼ばれた声に、千紗希ちゃんは「それじゃあごゆっくりー」と言い残して行ってしまった。




「おー、健闘してるねー!」


お皿の底よりも先にお腹の限界が見えてきた頃、私たちのテーブルへ学校の制服に着替えた千紗希ちゃんがやって来た。


名前にエベレストと入っているだけあって、クリームだけではなく、パンケーキまで山のように積まれ、心做しかメニューの写真よりもボリュームがあるように見える。

目の前に置かれた時の迫力たるや、軽い恐怖心さえ憶えた程だ。


フォークが進まなくなってきている私の向かいの席では、賢琉くんがペースを落とさず、顔色も変える事なく食べ進めている。

山は半分切り崩した所だろうか。

麓まではまだまだ遠い。


「真実、大丈夫?選手交替するよー!」


空いている席に腰を下ろした千紗希ちゃんが、ナイフ片手に残りの山を一刀両断。

周りに散っていたフルーツと一緒に、持ってきたお皿へめいっぱい盛り付ける。


「千紗希ちゃん、お仕事終わりなんですか?」

「んーん、休憩もらって来た。それにしても今日のはすごいねー。“パティシエの気まぐれ”ってのは、上に掛かる生クリームとパンケーキの量の事なんだけど、今回は大サービスだね。それ頼む人滅多にいないのと、私の知り合いって事で張り切っちゃったみたい」


それは…。気持ちはありがたいが、思うだけに留めて欲しかった。


「水瀬、僕たちに何か用事があるんだろう?食べながらでいいなら聞くぞ」


綺麗に切り分けたパンケーキを口に運びながら、賢琉くんが千紗希ちゃんを見た。

手元のお皿の上には、新たに切り分けたらしい山の一部が乗せられている。…どれだけ食べる気なんだろう。


「あー、やっぱわかっちゃうよね」


千紗希ちゃんはちょっと困ったように笑った後、フォークの先でイチゴを転がして、少し迷う素振りを見せる。しかしそれも数秒の事で、先程のイチゴをパンケーキと一緒に刺して飲み込んでから、私たちを交互に見て、意を決したように口を開いた。


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