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―昔々、今よりちょっぴり昔のお話。家の近くの公園で毎日のように遊ぶ女の子がいました。

その子はいつも一人で遊んでいましたが、ある日友達が出来ました。


歳は自分と同じくらい、髪は短くボーイッシュ、足が速くて、いろんなことを知っている女の子。

二人はすぐに仲良くなって、その日から一緒に遊ぶようになりました。


ある時、また二人で公園にいると近くの植え込みから猫の鳴き声がします。近付いて覗いてみると、段ボールがありました。


中にいたのは、毛布にくるまれたまだ小さな子猫が一匹。こちらを見上げておりました。

尻尾と前足の先だけ白い毛に覆われていて、他は綺麗なグレーの毛並み。


かわいい

小さいね

なんだか靴下はいてるみたい

そうだね

これ、なんだろう?


子猫の傍に何か置いてあります。手に取ってみるとそれは手紙でした。開けてみましたが漢字がたくさんあって上手く読むことが出来ません。

困っていたら、隣で一緒に手紙を見ていたその子が声に出して読みはじめました。


“身勝手で我が儘なお願いだと思っています。

それでも、これを読んでくれたあなたにお願いがあります。

この子たちは、先週生まれた子猫です。

どうしても、我が家で面倒を見ることが出来なくなってしまいました。

どうか、優しい人の所に。

どうか、大切に可愛がってくれる人の所にもらわれて行けるよう願っております。”


猫ちゃん、捨てられちゃったの?

うん、たぶんね


この子だけ飼い主さん見つかってないのかな

そうみたい


…どうしようか

…どうしようね


本当はすぐにでも連れて帰りたかったのですが、お家では飼うことが出来ません。

でも、見付けてしまったからには放っておくことも出来ません。


ねぇ

なぁに?


ここで飼っちゃおうか

わたしたちで?

二人だけの秘密だよ


しーっと、人差し指を立てていたずらっ子のように笑うその子に大きく頷き返し、二人でこっそりお世話をする事にしました。


名前をつけようよ

そうだね、何にしようか

いっぱい考えて、いちばん可愛いのにするの

じゃあ、例えばこういうのはどうかな “――”


その日から二人で一緒に、毎日子猫のお世話をしに公園へ通いました。

最初のうちは弱々しかった子猫も、日に日に元気になっていき、時々甘えてくるようにもなりました。


――そんなある日。


朝から続いた晴天が嘘のように、お昼すぎから急に雨が降ってきました。


すぐに思い浮かんだのは子猫のこと。

あの場所にはまともに屋根になるようなものがありません。居ても立ってもいられず、傘を持って家を飛び出しました。


猫ちゃん、待ってて

もうすぐ着くから!


公園に着くと、いつもの場所へ駆け寄ります。


…あれ、いない?


そこには猫も、段ボールも、跡形もなく消えていました。


どこに行ったんだろう

どこかで雨宿りでもしてるのかな


近くを探してみましたが、どこにも見当たりません。


こんなに探しても見付からないってことは、

もしかしたら誰かに拾ってもらえたのかもしれない


そう思ったら、不安だった気持ちも和らいでいきました。

いつの間にか雨も上がり、あの子が来るかもとブランコに座って待つことにしました。

でも今日はいつまでたっても現れません。



その日から、子猫もあの子も、まるで幻だったかのように消えてしまったのでした。


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