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「何故あの水槽を選んだのか…恐らくだが、混泳させてはいけない事を知らなかったのと、ここにある中では一番大きかったからだろう」

「……っ、どうして、僕がそんな事しなきゃならないんだ」


加濃くんが今までになく大きな声を出して賢琉くんを睨み付ける。

こんな時だけれど、あんなに大きな声も出せるのかと、変なところで感心してしまった。


「そこだ。いくつか考えてみたんだか、どれもいまいちしっくりこなくてね」

「じゃあ僕がやったとは限らないじゃないか!それに僕は君たちと会ったあの日に初めてここへ来たんだ。鍵の場所も知っているはずがないだろ」

「本当に?」


賢琉くんがすっと目を細める。


「あの日、初めて入ったにしては中の様子を見た事があるような口振りだったように思えたが?鍵の場所も、同じクラスの淡野くんに以前からベタ部に誘われていたのなら、何かの切っ掛けで知る事もあったんじゃないか?」

「……」

「無言は肯定と受け取るぞ」

「あの」


ただ見ている事が出来なくなって、思わず口を挟んでしまった。


「何だ?真実」

「ちょっと考えていたんです。いわゆる“動機”について」


賢琉くんと同じく、考えてもしっくりこなかった動機が、ここへ来て、そして昨日の話を思い出したらふっと浮かんできたのだ。


「加濃くんは、伯父さんの事が本当に好きだったんですね」

「え…」


先程の賢琉くんではないが、こちらも一見何の脈絡もない取っ掛かりになってしまった。


「実は、お話と一緒にアルバムも見せて頂きました。伯父さんの趣味のものから旅行先での様子など、そのなかにベタの水槽も写っていました。でも一番多かったのは加濃くんの写真です」

「僕の…?」

「はい。ほとんどどれも加濃くんが笑っているものばかりでした。見ているだけで幸せな気持ちが伝わってくるような写真でした。

ここにいるベタは、伯父さんが大切に育てていたものなのでしょう。だから初めは自分でお世話をしようと思った。だけど、見る度に伯父さんの事を思い出してしまうから、…辛くなってしまうから、ちゃんとお世話をしてくれそうな人にお願いをしようとしたのではないですか?」


加濃くんの周りの人から話を聞いて、伯父さんの事も知って、そして何より本人を見て、淡野くんの言うように悪戯にこんな事をする人物には思えなかった。


もしも悪戯でないとしたら―、そう考えた時、いつかの雨の日の公園に捨てられていた子猫を思い出していた。


―“身勝手で我が儘なお願いだと思っています”

―“どうか、大切に可愛がってくれる人の所に”


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