14

「お待たせ。たぶんこの中のどれかには写ってると思うわ」


少しして戻ってきたその腕には、数冊の本のようなものが抱えられていた。

一冊、差し出されるままに受け取ると、少し厚みがあってずしりと重い。これは…


「アルバム?」

「ええ。わりとまめな所があったから、何かあると写真に残していたみたい。だからさっき言っていた魚もいるはずよ」

「私たちが見てもいいんですか?」

「どうぞ。何の事はない写真ばかりだけどね」


お礼を言ってから、隣の賢琉くんにも見えるようにページを捲る。

初めはどこかの風景や星空の写真から始まり、野良猫や長閑な田園風景、熱気が伝わってくるお祭りの様子を切り取ったものが続き、そのうちにどこか見覚えのある男の子が出てきた。


「これは、加濃くん?」

「ああこれは永斗が幼稚園の時のね。懐かしいわ。初めて自転車の練習したその日に電柱に勢いよくぶつかって、カゴが曲がったーって泣いて帰ってきたの」

「それは…痛そうです」

「あんまり泣くもんだから心配したんだけど、カゴが曲がっただけで本人はどこも怪我してなかったのよ」


ふふっと笑うその表情は優しい。

更にページを捲り、巻末の方まで来た時にそれは見付かった。


「あった!これです!この端の方の水槽に写っているのがそうです」

「この魚、ベタって種類だったのね」


部屋の様子を撮った中に、ベタの水槽が写っているものがあった。

加濃くんの伯父さんが飼っていたのは、やはりベタだったようだ。


「あの、お話されていたベタの貰い手というのはどんな方なんですか?」

「それがね、言っても私が知らない人だからって、ちゃんと教えてくれないのよ。高校に入ってから知り合った人みたいだけど」


賢琉くんは、増えたベタはここで飼われていたものだと考えているんだろう。

それは私も同感だ。そこまではわかる。でも―


「どうして好きだった伯父さんの残したベタを手放そうなんて思ったんでしょう…」

「え?」


問い掛けられてはっとする。思わず口に出してしまったらしい。


「すみません!少し気になってしまったもので。その魚、一度はこちらで飼われていたんですよね。伯父さんの形見とも言えるものを、どうして手放そうと考えたんでしょう。熱帯魚の寿命って、長くても三~四年くらいだと思うのですが、それでも最後までお世話するのは大変だと思ったんでしょうか」


勢いのまま一気に話してしまった後、加濃くん母を見ると、少しだけ困ったように微笑んでいた。


「最初はね、うちでずっとお世話しようと思っていたのよ―」



* * *



「今日も美味しかったです。ご馳走さまでした」

「私も、プリンご馳走さま。それにあなたたちが来てくれたおかげでご飯も楽しかったわ。やっぱり誰かと一緒に食べた方が美味しいものね」

「そんな風に言って頂けると嬉しいです。加濃くんにもよろしくお伝えください」


外はもう暗くなっていた。今日もまたたっぷりと長居した加濃家を後にする。

月明かりが仄かに照らす道を並んで歩いていると、不意に賢琉くんがこちらを向いた。

その表情かおは、どことなく楽しんでいるようだ。


真実マコト

「はい」

「揃ったぞ」

「…!じゃあ」

「明日、関係者を集めての謎解きといこうか」



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