15
* * *
放課後を告げるチャイムが鳴り、校舎全体が賑やかな声に包まれる。
つい先程まで同じ空間で同じ授業を受けていた集団が、今度は皆一斉にバラバラの場所へと向かうこの光景は、もう何度となく見ているというのに、時々とても不思議な感覚がする。
「ばいばーい、また明日ね」
「今日の部活、体育館だっけ?」
「あー、今からバイトだ」
だんだんとざわめきが消えていく教室で、黒板のチェックと窓の戸締まりを済ませて振り返ると、机で日誌を書いていた賢琉くんと目が合った。
「終わりましたか?」
「あぁ、ちょうどな」
「皆さんの事、お待たせしてしまっているかもしれませんね…」
「仕方ないだろう。日直の仕事を疎かにする訳にもいかないからな。それに、“放課後”としか時間を伝えていないから、このくらいは許容範囲なんじゃないか」
今朝、淡野くんを通じて放課後に集まってもらえるよう伝えてもらったのはいいが、自分たちが日直と言うことを失念していた。
時間を確認してから、机に置いていたカバンを手に取る。
最後に教室の電気を消して、すっかり静かになった廊下へと足を向けた。
「それでは行きましょう、ベタ部へ」
* * *
ベタ部部室のドアを開けると、今回の依頼人である部長の張永さんと、淡野くん、加濃くんの三人が既に揃っていた。
「こちらからお呼び立てしたのに、お待たせしてしまってすみません」
「僕たちもさっき来たばかりだから大丈夫だよ。他の部員にはオフにするって言って帰したけど、何かわかったの?」
「はい。今日はその説明の為に、皆さんにお集まりいただきました」
「それじゃあもしかして…」
話の続きを、賢琉くんが引き取る。
「詳しくは僕から説明しましょう。どうぞ椅子にお掛けになって楽に聞いてください」
まるで自分の部屋かのように椅子を勧めた後、件のベタの水槽を一度見遣ってから口を開いた。
「増えたベタたちの様子はどうですか?」
聞く体勢に入っていた張永さんは、急に話を振られて一瞬面喰らったようだったが、賢琉くんと同じようにベタの方を見てから説明してくれた。
「この前来てもらった時に、ヒレとかが少し傷付いていた子もいるって言ったけど、今は前より元気になったと思うよ」
「そうですか。それは良かったです。ね、加濃くん」
「えっ…、うん、そうだね」
「そういえば、どうしてベタ部員でもない彼をここに呼んだんだい?」
「ああそれは」
その言葉に、加濃くんが身構える素振りを見せたが、それを横目に賢琉くんは続ける。
「彼の伯父さんが、ベタを飼っていた事があるそうなので」
「へえ、そうなんだ!それってどんな種類?もし写真とかあれば見てみたいな」
「え、あの、写真は特に…」
「別に写真を探すまでもないですよ。実物がここにいるんですから」
時間が止まった、ように見えた。
皆の視線が自分に集まっているというのに、賢琉くん本人はどこ吹く風だ。張り詰めた空気の中、最初に口を開いたのは張永さんだった。
「あの、それってどういう事…?」
「どうもこうも、そこにいるベタがそうだと言ったんです」
その言葉に、今度は一斉に水槽の方へ振り返る。件のベタたちは変わらず水中をたゆたっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます