13
ピンポーン。
賢琉くんがインターホンを押すと少しして、昨日と同じく加濃くんの母親が応対に出た。
「こんばんは。澄岸賢琉と清川真実です。昨日はありがとうございました。続けてお伺いするのはご迷惑かと思ったのですが、食事のお礼がしたくてまた来てしまいました」
「あら、昨日の?いらっしゃい。わざわざありがとう。今開けるからちょっと待っててね」
連日、しかもご飯時に二人で押し掛けてしまったと言うのに、嫌な顔一つせず笑顔で迎えてくれる。
そして現在。
私たちは今日もまた夕食の席に着いていた。
「旦那は出張で永斗は塾。一人でご飯を食べるつもりだったけど、二人が来てくれたおかげで賑やかになったわ」
「そう言って頂けると…」
昨日の残り物をアレンジしたという今夜は、カレーを材料に利用したコロッケと、ちょっと変わった紅生姜の天ぷらなどの揚げ物中心のメニューだった。
なんだかんだで今日も話が弾み、更にお土産として差し出したぷるりんプリンは、賢琉くんの予想的中。
加濃くん母の好物だったらしく、喜んで受け取ってくれて、今はそのぷるりんプリンで食後のデザートタイム中だ。
(甘っ…。甘いプリンに更に甘そうなモノを掛け合わせると想像以上に甘くなりますね…)
先程ショートケーキを食べなかった心残りと好奇心が勝り、期間限定ショートケーキ味という冒険的な味に手を伸ばしてしまったが、これならスタンダードなプレーン味にすれば良かったかもしれない。
スプーンを動かす速度が遅くなる私の隣、“期間限定”の文字にも揺らぐ事なくプレーン味のプリンを手に取って食べる賢琉くんが口を開いた。
「改めて、今日伺ったのは、昨日の食事のお礼をしたかったからなんですが…。またご馳走になってしまいましたね」
「あらいいのに、そんな事。私の方こそありがとう。実はこのぷるりんプリン、昔から好きなの」
カップに紅茶のおかわりを注ぎながら、加濃くん母が答えた。
賢琉くんの言葉に心の中でツッコミを入れつつ、今回は聞き役に徹する。
「喜んで頂けたなら何よりです。そう言えば、加濃くんと仲の良い淡野くんから聞いたんですが、昨日少しお話されていた加濃くんの伯父さん、ベタにも詳しかったそうですね」
「ベタ?」
「はい。闘魚とも呼ばれる熱帯魚で、綺麗な姿から人気がある魚です。 加濃くんの伯父さんも実際に飼っていた事があるかと思うのですが、何か聞いた事はありませんか?」
「確かに、興味を持ったものにはすぐに手を出す人だったけど…」
加濃くん母は、少し考える素振りをした後、すぐに何か思い当たったように顔を上げた。
「弟が亡くなった後、家に荷物の整理に行ったんだけどね、その“ベタ”って魚かはわからないけど、魚の水槽があったわ」
「その魚は今どちらに?」
「生き物だから放っておく訳にもいかなくて、暫くうちで預かっていたんだけど、最近飼ってくれる人が見付かったって言って永斗が届けに行ったの」
(それって…!)
思わず賢琉くんを見ると、こちらを一瞬見て小さく頷いてくれた。
「その魚の写真はないんですか?」
「残念ながら撮ってないのよ。あ、でももしかしたらどこかに写ってるのがあるかもしれないわ。少し待っていてくれる?」
そう言い残すと、加濃くん母はリビングを出ていった。
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